第5話 同じ宿屋同士、仲良くしようぜ!と言いたいが、宿屋にその結び付きを作るほどの力はない
「おはようございます、ルデアさん」
「ん……?この宿屋は、モーニングコールのサービス付きなのか……?」
寝ぼけまなこで、ルデアは覗き込んできているドールの顔を見つける。
「いえ、本来はそのようなサービスはありませんが、今日は事情がありまして……。ご準備が出来ましたら、降りてきていただけますか?」
「わかった、すぐに行くよ」
「ありがとうございます」
ドールは、小さくお辞儀をすると、部屋を出ていった。
「あ、俺、二度寝しちゃったのか……」
1度目に起きた時には確か、リリスが隣にいて、ドールに、腹を枕にされていた。というぼんやりとした記憶がある。
「あれ、姉ちゃんは……?」
ベットから降りて、部屋の中を探してみるが、リリスの姿は見当たらない。
もしかしたら、先に起きて、もう1階に降りているのかもしれない。
そう思い、ルデアは支度を急いだ。
ルデアが着替えて1階に降りると、案の定、既にリリスは朝食を食べていた。
「あ、ルデア、おはよう。朝ご飯、先に食べちゃった」
「おはよう。別にいいけど……姉ちゃん?」
「ん?どうしたの?」
「その人、誰?」
ルデアは、リリスの向かいの席で朝食を食べている人物を指差す。
紫色の長い髪をまとめる、うさ耳のようなリボンが印象的だ。
「あ、この人は……」
「もしかして……ルデアさん……?」
リリスが説明するより早く、その人物はルデアの名前を呼んだ。
「あ、そうだけど……君は?」
「私、ルデアさんの戦う姿を見て、ファンになっちゃったんです!ぜひ、もう一度見てみたいなって!」
「あ、ありがとう。それで、君の名前は?」
「これ!つまらないものですが、ぜひ受け取ってください!」
そう言うと、女性は、ルデアに紙袋を渡した。
「あ、ありがとう」
中身を見てみると、中には綺麗な布のようなものが入っている。
「これは……?」
「私のパンツです」
「こんなもん、受け取れるか!!!」
ルデアはその紙袋を床に叩きつけた。
「で、でも!まだ一回しか履いてないですよ?」
「そういう問題じゃねぇ……」
「使い古した方がお好みでしたか?」
「俺にそんな趣味はない!てか、ファンになった相手にパンツ渡すとか、常人のすることじゃねぇよ」
「私、常人じゃないですからね〜、あはは♪」
「認めんなよ……」
何だか、めんどくさい人が現れたものである。
「で?そろそろ、名前を教えてもらおうか」
「名前を聞いてどうするんですか?悪用するんですか?」
「いや、拘留所に突き出す。こんな変態、世に出しては行けないからな」
「ひ、酷い……」
「ひどいのはお前の方だ。いきなりパンツ押し付けてきやがって……」
ルデアが苛立ちを見せると、女性は目に涙を貯めて、ルデアの前に膝をついた。
「もうしませんから……許して……」
ルデアは実のところ、涙に弱い。
おまけに、中々の美人だ。
歳は、おそらくリリスと変わらないくらい。
そんな涙を見たら、つい、心を緩めてしまうのは当然ではないか。
「わかった、許すから」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
彼女はそう言うと、ルデアに飛びついた。
「ぐふっ?!ちょっと、やめろって!」
抱きしめられて、顔に柔らかいものを押し付けられて、苦しいやら幸せやら、頭が混乱する。
ルデアは、なんとか彼女を引き離し、ドールに問掛ける。
「もしかして、起こしに来た理由って、この人の事か?」
「はい♪」
「笑顔で答えるなよ……、俺はこいつの相手をするために起こされたのかよ」
「その方が、どうしても会いたいと
ため息をつきながら彼女の方を振り返る。
「私、ユンア=シヴァっていいます!よろしくお願いします!」
ルデアは、丁寧にお辞儀するユンアを見て呟く。
「ユンアか、そうしてれば普通にかわい……っ!」
ルデアは背中に殺意を感じ、言葉を止める。
振り返ると、リリスがものすごい形相で睨んでいた。
「ね、姉ちゃん……。ど、どうしてそんな目を……?」
「ルデア、お姉ちゃんはね、なにもルデアの人間関係を邪魔したいわけじゃないの。でもね……」
リリスは、ルデアにジリジリと近づいて、彼を壁に追い詰める。
「でも、ルデアがね、私に言わない言葉をほかの女の子に言うのだけは許せないの!」
「は、はいっ!」
「ユンアちゃんにかわいいって言うのに、なんで私には言わないの?」
「それは、姉ちゃんだから……」
「お姉ちゃんだって、言われたいもん!なでなでされたいもん!」
リリスは、さっきまで怒り顔だったのに、今度は子供のように目をうるうるさせ始めた。
「わ、わかったよ……」
(ユンアには、なでなでなんてしてねぇよ)
そう思いながら、ルデアはリリスの頭を撫でた。
「姉ちゃんはかわいいよ」
それだけでリリスは、超笑顔になった。
「えへへ〜♪ルデアになでなでされちゃった///」
「満足いただけたようで、よろしゅうございました……と」
なんとか姉の暴走を収めたルデアは胸を撫で下ろす。
「ルデアさん、では、また会いに来ますね!」
ユンアはそう言って、宿屋を出ていった。
「あいつは結局なんだったんだよ、って……」
ルデアは足元に落ちている紙袋を拾い上げて言った。
「パンツ置いていくなよ!!!!」
朝から騒がしかったため、ルデアは椅子に座ってひと休みする。
「結局、ユンアは今日来るはずの客ではなかったんだな」
「ええ、もうすぐ来られるはずなんですが」
そこで、ナイスタイミングと言わんばかりに、宿屋の扉が開かれる。
「いらっしゃいませ!宿屋 ドールにお越しいただき、ありがとうございます!」
ルデア達が来た時と同様、元気な挨拶で出迎えるドール。
その向こう側に見えるのは、長くて綺麗な青い髪。
「予約していた、セイラ=アリーナです」
丁寧なお辞儀をしたセイラは、ドールに案内されて階段を上っていった。
「初めての新しい客だな」
「そうだね!怖い人じゃないといいけど……」
「
ルデアはそう言って、苦笑いを浮かべた。
「ところで、ルデアさん達は今日、出ていかれる予定ですか?」
ドールにそう聞かれて、ルデアは唸る。
「いや、まだ使える武器の調達が出来てないからな、1日延長させてもらうよ。姉ちゃんがいるから、武器が必要なのかわからないけどな」
ルデアは若干自虐したように、苦笑いをする。
「わかりました、延長しておきますね」
ドールは紙に何かを書き込むと、ルデアの方を見て小さく笑った。
「どうかしたか?」
「いえ、ルデアさん、昨日は敬語だったのに、今日は普通に話してくれて、なんだか嬉しいなって」
「普段敬語を使わない分、疲れちゃってな。年上相手に失礼だと思うか?」
「いえ、親しみを感じるので嬉しいです!」
「なら、よかった」
ドールに釣られてルデアも微笑んだ。
「姉ちゃん、ちょっと出かけてくる」
「どこ行くの?」
「武器を買いに行ってくるんだよ。鉄の剣よりもっといいのがあるはずだ」
「私も行く!」
「姉ちゃんは行かなくていいから!」
これ以上、強くなられても困る。
そう思ってなんとかリリスを留守番させることに成功した。
工業区に来たルデアは、その巨大さに驚いた。
工業区は、ひとつの街と言っていいほどの大きさがあり、その中でも、作られる武器の種類によって、場所が区分されていた。
ルデアが欲しいのは片手剣であるから、片手剣を製造している区域に向かう。
商業区なら、製造済みの剣が置いてあるはずだが、それらはきっと、強いとは言い難い武器だろう。
それに、リリスのように、人混みに押しつぶされるのはゴメンだ。
片手剣の製造専門の建物に到着したルデアは、中から女性の声が聞こえてくるのに気づいた。
「だから、これより強い武器を作って欲しいって言ってるのよ!」
「だから、こんな剣より強いのなんて、なかなか出来るもんじゃないんだって……」
もうひとつの声は、年配のおじいさんの声だろうか。
覗いてみると、見覚えのある青髪が目に映った。
「あれ、セイラさん?」
「ん?あなたは?」
そこに居たのはセイラ=アリーナだった。
「俺は、同じ宿屋に泊まっているルデアって言います」
セイラは少し考える素振りを見せると、思い出したように頷いた。
「そういえば、椅子に座っていたわね」
「覚えていてくれたんですね、よかった」
「もしかして、ルデアくんも武器の製造を頼みに来たの?」
「えっと、そのつもりなんですけど……、何かあったみたいですね?」
「ええ、この人に私の武器より強いのを作って欲しいとお願いしたのだけれど、断られちゃって……」
セイラは目の前の男性をチラ見して、ため息をついた。
「その武器はだな、誰が作ったかは知らないが、最高クラスの武器だ!それ以上と言われても、俺に出来る仕事じゃねぇんだ!」
服装から見て、この人は工場で働いているらしい。
言動からも、武器職人なのは間違いないだろう。
「じゃあ、改良というのは出来るかしら?」
「具体的に依頼してもらわないと。こっちもその通りにやるだけだからな」
「なら、もう少し軽くしてもらえるかしら?」
「それくらいならできるぜ!」
「じゃあ、頼むわね」
武器職人は、まかせとけぇ!と言ってセイラの武器を受け取る。
「俺の新しい武器も頼んでいいか?」
「おう、兄ちゃん!どんなのがお望みだい?」
「俺も、軽くて切れ味のいい武器がいいな」
「まかせとけ!」
そう言うと、彼は工場の奥に走っていった。
「あの武器、重くて使い勝手が悪いのよね」
武器職人がみえなくなると、セイラはそう呟いた。
「セイラさんって……」
「ルデアくん、ひとついいかしら?」
セイラはルデアの言葉を遮る。
「なんですか?」
「それ、その敬語、やめてもらえるかしら?取って付けた感が滲み出ていて嫌いなのよ」
「ご、ごめん……?」
「よろしい。遮って悪かったわね、つづけて」
セイラは手で、どうぞというジェスチャーをする。
「えっと、セイラは強い方なの?」
「いいえ、さっきの武器は、偶然モンスターがドロップしたものなの。低確率だけど、モンスターは倒された後、武器を残すこともあるのよ。モンスターの消化しきれなかったものが体内で集められて、素材や武器になったりするらしいわよ」
「そうなんですか」
つまり、セイラは運が良かったということだろう。
「軽く使ってみて、威力には文句はなかったのだけれど、重さに問題があったから、ここに来て、あの武器と引き換えに新しいものを作ってもらおうと思ったのよ。でも、あれ以上のものは無理だったみたいね」
「軽くすれば、それなりに威力は下がるんだろ?いいのか?」
「いいのよ、私、スピードには自信があるから。軽くなった分、威力はそこで補うわよ」
数十分して、武器職人がセイラの武器を持ってきた。
セイラは数回武器を振ると、満足そうに微笑んだ。
「うん、文句はないわ。いい仕事するじゃない」
ルデアも受け取った武器を確認するが、不満はない。
「兄ちゃんの武器の方にはな、そっちの姉ちゃんの武器を削って出来た削りクズを練り込んでおいた。いい武器の素材が少し交じってるだけで、かなりパワーアップするからな!」
「リサイクル精神ですね、尊敬しますよ」
2人は武器の代わりに代金を支払った。
「また頼みたい時はいつでも来てくれ!」
武器職人のおっちゃんはそう言い残して、どこかへ行った。
2人は工業区を出て、街の広場に向かっていた。
「ルデアくん、新しい武器を試したいって顔してるわね」
「分かるか?」
「ええ、顔に書いてあるもの」
セイラはルデアの顔を覗き込むようにして微笑む。
「なら、ちょうどいい機会があるのだけれど、やってみる?」
そう言って、セイラはスカートのポケットから、一枚の紙を取り出した。
「ん?
「ええ、そうよ」
セイラはふふっと笑うと、若干胸を張って言った。
「私はこの大会のためにこの街に来たの。ここで優勝して、有名になるために!」
セイラはみたところ、かなり腕に自信があるようだ。
先程の強いのかに対する返答の『いいえ』は、おそらく謙遜だろう。
それにしても、宿屋で見たあの丁寧さはどこへ行ったのやら。
「あなたもこれに参加しなさい」
「強制的だな……」
「あなたにも断る理由はないはずよ?」
ルデアは、確かにそうだ、と渋々うなづいた。
「ここが会場か」
大会は街の広場で行われるらしく、広場にはたくさんの人が集まっていた。
だが、そのほとんどが参加者ではなく、観戦者である。
「出場申請はここかしら」
受付で参加申請を行い、参加者控え室として用意された簡易テントに入る。
かなり広いテントで、中には自分たちを合わせて25人いたが、それでもまだ余裕なくらいだ。
「みんな、強者揃いね」
「そうだな」
ムキムキの男や、身体能力の高そうな人など、いろんな人がいるが、誰を見ても、弱そうに見える人はいない。
「なかなか、厳しい大会になりそうだ」
「まあ、ルデアくんは武器を試すために参加したのだから、気軽に行けばいいと思うわよ?勝ち上がったら勝ち上がったで、私に倒されるだけなんだもの」
そう言ったセイラの目が、怪しく光った。
それを見たルデアは笑う。
「そいつは楽しみだ、やってやるよ」
「あら、そんな目も出来るのね。嫌いじゃないわよ」
そうして、大会が始まった。
参加者は最終的に26人、2グループに別れて同時に行われることになった。
「私はAの2番よ」
「俺はBの13番、シードだな」
2グループ、それぞれ13人ずつになったことによって両グループに1人ずつ、1回戦を免除される、シード権を持った人が生まれることになった。
そのうちの一人がルデアだったのだ。
「運がいいのね。でも、2回戦でいきなりボコられないように、私の戦い方でも見て、イメトレしとくことね」
そう言うと、Aグループ1戦目の選手であるセイラは、バトルフィールドに入っていった。
フィールドと言っても、円形に柵で囲われただけの簡易なものだが。
それと同時に、AとBの2つのフィールドの間にある、舞台の上に現れた中年の男が、大会に関するルール説明を始めた。
「司会をさせていただきます!では、ルール説明をはじめます。この大会ではバトル開始前に飴玉を食べていただきます」
司会者は1粒の飴玉を取り出し、全体に見えるように掲げる。
「この飴玉には、10分間、体にダメージが入らなくなる『不可視防衣』魔法の効果が練り込まれています。つまり、無敵状態になるということです」
司会者は飴玉を自らの口に放り込むと、素早く噛み砕いて飲み込む。
すると、彼の体の周りにオーラのようなものが現れた。
「このような状態のとき、飴玉の効果がきちんと発動しているということです。これは、選手が深刻なけがを負わないためのルールです。試合時間は10分間、この飴玉の効果が切れると同時に終了です」
そこで、観客の男が叫んだ。
「なら、どうやって勝敗を決めるんだよ!」
その声を聞いた司会の男はうんうんと頷いて笑った。
「いい質問ですね。そこでこの『ダメージメーター』を、胸元に付けてもらうのです」
司会者は四角く、薄い機械を掲げた。
「これは、つけている本人が攻撃を受けた時、瞬時にそのダメージを数値化する機械です。相手の擬似HPを先にゼロにした方、もしくは、相手よりHPの多く残した方が勝ちというルールです」
観客達は、「面白そうだな!」や、「楽しませてくれ!」という声を上げている。
「では、1回戦の選手は飴玉を食べてください」
司会者がそう言うと同時に、セイラと他3人も飴玉を食べる。
全員がオーラをまとったのを確認したのと同時に司会者の声が言った。
「では、スタート!!!」
響いた声が消えるが早いか、けたたましい金属音が広場に響いた。
セイラの方を見てみると、彼女は、2倍ほどの身長の大男を押し返していた。
「デカい体して、あなた、まだまだね!」
セイラはそう言うと、男の剣を弾き、その隙を狙って縦に、横に、斜めに、剣を振りおろし、振り上げた。
「本気を出すまでもないわね」
彼女がそう言うと同時に、相手の男の胸元に付けられた機械から、負けを知らせる音が鳴り響いた。
「1回戦、お疲れ様」
「疲れるまでもなかったわね」
ルデアは、フィールドから出てきたセイラに声をかけたが、彼女は汗すらかいていなかった。
「やっぱり、強いんじゃねぇか」
「ちがうわよ、相手が弱いだけ」
それを真顔でいえる彼女を、少しかっこいいと思ってしまったルデアだった。
「1回戦だけでA、B、それぞれ残り5試合。ルデアくんもシードだし、しばらく暇になるわね」
「じゃあ、どこかで休憩しようか」
「そうね、どこがいいかしら」
「じゃあ、さっき見かけた、カフェにしようか」
「ルデアくんがそれがいいと言うなら、それでいいわよ」
この上から目線で、そんなに悪い気がしないのは、何故だろう。
ルデアはそんな疑問を
カフェにたどり着き、席を確保した2人は、店員からメニューを受け取る。
「じゃあ、俺はコーヒーにしようかな」
「じゃあ、私もそれで」
店員は「かしこまりました」と言うと、店の奥に入って行った。
数分して、テーブルに2つのコーヒーが運ばれてきた。
ルデアはそれを一口。
「この苦さが、たまらないんだよなぁ」
そんな感傷に浸っていると、コーヒーの入ったカップを持ちながら、固まっているセイラが視界に映る。
「どうしたんだ?」
「い、いえ!なんでもないわ」
セイラは、ルデアの声で我に返ると、コーヒーを一口。
「ん……っ……はぁはぁ……」
変った飲み方である。
「セイラって、もしかして、ブラックじゃ飲めないタイプか?」
ルデアがそう言うと、セイラは口の中に残っていたコーヒーを吹き出す。
「うわ、汚いな……」
「そ、そんなわけないでしょ?!私がコーヒーをブラックで飲めないなんて、そんなこと……」
「別に、ブラックで飲むのがいいとか、飲めないのが悪いとか、そういうの、気にしなくていいと思うぞ?」
「え?」
セイラはキョトンとした目でルデアを見る。
「確かにセイラは大人っぽくて、ブラックで飲めそうに見える。でも、実際は飲めない。俺が飲んでたから、そのままじゃないといけないって、プレッシャーかけちゃったのかもな」
「いや、そういう事じゃ……」
ルデアは机に置いてあったおしぼりを手に取り、セイラの、コーヒーのシミのついた服を拭いてやりながら言う。
「飲めるからかっこいい、飲めないからダサい、なんてこと、そんなことを考えている方が、よっぽどダサいと思うぞ?」
ルデアがそう言うと、セイラはほんのり顔を赤くして、机の左側に置いてあったミルクを2つ取って、コーヒーに入れた。
そしてそれを一口。
「おいしい……」
ルデアには、その笑顔がとても印象的だった。
2人が広場に戻った時、ちょうど1回戦が終わっていた。
「それでは、2回戦の抽選を行います!」
司会者のその声を聞いて、2人はクジを引きに行った。
「私はBの7番、今度は私がシードね」
「俺はBの1番、2回戦の1戦目か」
「では、2回戦1戦目の選手は準備してください」
司会者のその声を聞き、フィールドに向かおうとした時、腕を掴まれた。
「セイラ、どうした?」
セイラは小さな声で、でも、はっきりとした声で言った。
「がんばって、きなさいよ?」
ルデアは力強く頷いて、フィールドに入った。
ルデアの相手は、ルデアとそう変わらない歳に見える男だった。
「僕はグレア、よろしくね」
「ルデアだ、よろしく」
閉じているのか、開いているのかわからないような目からは、何も感じられない。
(俺の力を見せつけてやれ!)
心の中でそう呟いて、ルデアは飴玉を飲み込んだ。
スタートの合図と同時に、グレアがルデアに向かって武器を振り下ろした。
さっきまで見えなかったが、彼はハンマー使いのようだ。
ハンマーはスピードこそ落ちるものの、当たれば大ダメージは間違いない武器だ。
(それにしても、よくあんな細い腕でハンマーを扱えるな)
ハンマーの一番の難点は、重さである。
それを、細い腕で振り回している彼は、
ハンマーは隙の大きな武器だ。
上手くやれば、一方的な試合にすることも出来るはずだ。
そう思い、ルデアは、グレアの攻撃を避けると同時に距離をとる。
「おりゃっ!」
2発目のグレアの攻撃を避けたルデアは、反動で生まれるはずの一瞬の隙を目掛けて剣を振り上げる。
「ルデアくん、甘いよ」
だが、グレアはハンマーを地面に叩きつけると同時に、体のバネを使って、2連撃目を横向きに放った。
その攻撃は、攻撃モーションに入っていたルデアに命中し、吹き飛ばされてしまう。
「ぐはっ……」
フィールドの端まで飛ばされたルデアの残りHPは半分を切っていた。
「お前、連撃出来るのかよ……」
「振り下ろすだけがハンマーの力じゃないからね。振り下ろした時の、地面とハンマーとの間に発生する
ハンマーを肩にかけたグレアが、ジリジリとルデアに近づいていく。
「これで僕の勝ちだね」
そう言って、グレアはハンマーを振り下ろした。
つづく
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