第4話 俺TUEEEEライフの夢は、崩れ落ちたかもしれない

「はあ〜、眠い」

「どうしたのさ、ルデア!寝不足かい?」

「ああ、昨日は全然眠れなかった。てか、姉ちゃんこそどうした?キャラは守ってくれ」

「HAHAHA☆いくら年頃だと言っても、夜くらいは眠らないとね!」

「話ちゃんと聞けよ……。てか、誰のせいで寝不足だと思ってんだ」

「んー、風が騒がしかったのかな?」

「精神病院紹介したろか」

「ちょ、ちょっと、ルデア!?ガチの目しないで!?お姉ちゃん、ちょーっとふざけただけだから!」

「姉ちゃんのちょっとは度が過ぎるんだよ」


そんな会話(?)をしながら2人は、ソドリアムスの街の区間から、少し外に出たところにある『キリジアの巣』と呼ばれるエリアに来ていた。

そこは、森のような静けさのある場所で、見渡してみても、モンスターの姿は見えない。

こんな場所に来るんだから、と、来る途中に買った鉄の剣は、きちんとルデアの背部に挿さっている。

ちなみにリリスはなぜか短剣を選んだ。


2人が『キリジアの巣』に来た理由、それは、昨日、ルデアがドールとした約束を果たすためだ。

要するに、ドールが面倒臭いと言っていた『依頼』を行うために来たのだ。

その内容が、『キリジアというモンスターを20体倒し、その中から出てくる赤色の石を集めて欲しい』というものだ。

モンスターを倒したことの無い2人には、どのように赤色の石が出てくるのかは分からないが、ルデアは想像とは違っていることを何度も願った。

「この紙、依頼内容と場所は書いてるのに、キリジアがどんなのなのかは一切書いてないんだよな」

「でも、キリジアの巣って呼ばれてるくらいだし、沢山いるんじゃない?」

「まあ、多分そうだろうな。見つけたモンスターを片っ端から倒して行くか」

「うん!赤い石が出てきたら、それが多分、キリジアだね!」

そういう訳で、2人のキリジア探しが始まった。


「おい、いくらなんでもおかしくないか?」

「うん、さっきからかなり探してるけど、キリジアどころか、モンスターさえ見つからないよ……」

「まさか、依頼の内容が嘘だった、なんてこと……」

「それはないと思うけど……、ドールさんが言ってたから……。この依頼は正式にクエスト協会を通してる公式の依頼だから、難易度もちょうどいいくらいになってるはずだって」

「公式の依頼なら、対象のモンスターが指定の場所にいないなんてこと、あるわけないもんな」

2人はもう一度、あたりを見回してみるが、やはりモンスターの姿は見当たらなかった。

「初めてのクエストで失敗なんて、嫌なんだけどな……」

「私も同じだよ。今、お母さんのおつかいで買うはずだったお肉が、売り切れだった時と同じ気持ちだもん」

「なんかその例え、好きになれないな」


2人が、諦めて帰ろうかとあるき出した時、リリスが突然、動きを止めた。

「ん?姉ちゃん、どうした?」

「なにか、聞こえるの」

「何かって何がだ?」

注意深く耳をすましてみるが、ルデアには何も聞こえない。

「確かに聞こえるの、小さな声だけど……」

「なんて言ってるんだ?」

ルデアは、リリスに半信半疑で聞いてみた。

すると、リリスはこう言った……。


『アシモト、アブナイ』と。


それとほぼ同時に、2人の足元の地面が揺れる。

「地震?!」

「ちがう!土の下から何かが来るんだ!」

地面は大きくひび割れ、破裂するように土を巻き上げると、同時に何かが大量に飛び出してきた。

ギリギリのところでルデアはリリスの腕をつかみ、その大軍をかわす。

「大丈夫か?」

「私は大丈夫……。けど、あれは……?」

転んでしまったリリスが立ち上がるのを助けたルデアは、目の前に広がった光景に目を見開いた。

そこにいたのは、背中の薄い羽根を高速で羽ばたかせて浮き、体の側面についた八本の針をギラつかせるモンスターの大軍。

「こいつらがキリジアか?」

「多分、そうだね……。依頼内容には20体でいいって書いてあったけど、それだけじゃ到底足りないね……」

ルデアがリリスの方に目をやると、リリスはルデアが見た事もないような顔をしていた。

危機感というものを覚えた顔だ。

「足りないどころじゃない。こいつら、おそらく、全滅するまで襲ってくる。自分たちのエリアに入られたことに相当ご立腹なようだしな」

「なら、逃げる?」

「いや、相手は飛んでいる敵だ。俺たちの足で逃げ切れるとは思えない」

「ならどうするの?」

ルデアは、背中から剣を引き抜く。

「なんのために買った剣だと思ってるんだ?」

「全滅させるしかないのね」

リリスは真剣な表情で、腰にたずさえてあった短剣を手にする。

「ふっ、この絶体絶命的状況を、自分の力でくつがえすために俺は旅に出たんだからな!」

ルデアはそう言って、キリジアの大軍に飛び込んだ。

「くらえっ!おりゃ!とりゃぁ!!」

ルデアの剣の攻撃をまともに受けたキリジア達は、力なく倒れ、元々そこにいなかったかのように、あとかたもなく消えていった。

攻撃1発で倒れるキリジア自体は、そこまで強くないはずだ。

だが、問題はそこではなかった。

「おい!どうなってるんだ!?全く減ってるように見えないんだが?!」

「ルデアぁ〜!キリジアたちは地面の中からどんどん出てきてるみたい!」

「地面の中から?キリジアの巣ってのは地面の中にあったのか?だから、探しても見つからなかったってわけか……って、危な!」

考え事に気をとられているうちに、気がつくと、キリジアの放ったと思われる針が目の前まで飛んできていた。

間一髪の所で避けた針は、そのままルデアの後ろにあった大樹に、綺麗な風穴を開けた。

「ま、マジかよ……」

こんなものにまともに当たれば、人間なんて一溜ひとたまりもないだろう。

「倒しても倒しても減らないな……。これじゃきりがないぞ」

ルデアがそう言った瞬間、キリジア達は一斉に動きを止める。

「な、なんだ?」

ルデアが戸惑う様子を見せた瞬間、キリジアたちは、口から白い霧を吐き出した。

「くっ、見えない……。これじゃ、倒すどころか、攻撃を避けることさえ……」

「ルデアが『きりがない』って言ったから、『きり』に反応して霧を出したのね」

リリスが超真面目な顔で解説するものだから、ルデアの心は五里霧中。

「え?俺のせい……?」

キリジアたちはどうやら、ダジャレが好きなようだ。

「そんなこと言ってる場合じゃない。この霧を何とかしないと……!」

1本の針が、ルデアの頬を掠めて飛んで行った。

ルデアの頬からは血が流れたが、それを気にしている場合ではないことに気づいた。

針が飛んで行った方向には、確か、リリスがいたはずだ。

「姉ちゃん!!!」


グチュッ。

そんな音が聞こえた。

ルデアは霧の向こうで起きているであろう、残酷なシーンに目を向けられず、目を閉じた。

キリジア達の羽の音が、より一層強くなった気がした。

「姉ちゃん……」

「ルデア!大丈夫!?」

「え……?」

目を開くと、目の前にはリリスがいた。

腹部に大きな風穴を開けて。

「キリジアたち、見境なく攻撃するのね。私だって、今はモンスターなのに……」

「あー、そうだったわ……。心配して損した」

そう言えばリリスはスライムだった。

スライムなら、針に貫かれても自己再生できる。

実際に目の前のリリスの腹部の風穴は、既にあとかたもなく消えている。

そのことに気づいたルデアは、本気で悲しんだ自分の姿を想像して赤面するのと同時に、それ以上に安心しているのを感じた。

「お気に入りの服だったのに、さっきの攻撃のせいでへそ出しコーデみたいになっちゃった……」

リリスの腹部の穴は完全に消えたものの、服は普通のものであるため、それには円形に穴が空いており、リリスの綺麗なへそが顔を出していた。

「でもね、私、いいこと思いついちゃったの!」

「いいこと?」

「うん!私だけの戦い方!」

「ほ、ほお……」

何を言っているのかよくわからなかったが、リリスに後ろに下がっててと言われたため、ルデアは大人しく、木の陰に隠れる。


「よし、キリジアたち、覚悟しなさい!」

リリスはそう言うと、腰の短剣を自分の胸に突き刺した。

「は?」

ルデアは、姉が何をしているのかわからなかったが、今は口を出してはいけない気がして、何も言わなかった。

リリスの体に、完全に短剣が沈み込むと、短剣は消化されたように消えた。

「よし!じゃあ……発射!」

リリスがそう言って、1匹のキリジアに向かっててのひらを向けると、キリジアは奇妙な声を発しながら、地面に倒れ、消えていった。

「もう1発、発射!発射!発射!」

リリスに掌を向けられたキリジア達は、次々と倒れていく。

「あ、あれは……、姉ちゃんの手から短剣が発射されてる……?」

よく見てみると、リリスの掌から飛び出た青色の短剣が、キリジアの体を貫通しているのが分かった。

つまり、リリスがわざと短剣を体に入れることで、その情報を読み込み、同じものを自分の体の成分を使って作ることができるようになった、という事だろう。

それを高速で発射することで、視認することも難しいほどのスピードでキリジア達を倒しているのだ。


キリジア達は抵抗する余裕もなく、一匹残らずリリスによって倒された。

「何とかなったわね!」

「強すぎだよ、姉ちゃん……」

満面の笑みを見せるリリスを見て、ルデアは自分の存在価値を見失いかけていた。

この旅で、姉より弱い自分に、一体何ができるのだろうか、と。


2人は依頼内容にあった20体分よりも、遥かに多い赤い石を持って街に帰った。

『キリジアの巣』が『何もいないっ』に改名されたことは、言うまでもない。



「2人とも、かなり頑張ってくれましたね!これだけあれば、依頼主も報酬を弾んでくれるはずです!」

ドールは、とても嬉しそうにお礼を言って、赤い石を依頼主に届けるために、店を出ていった。

それを見届けて、ルデアは1階に置いてある椅子に腰掛けた。

「姉ちゃん、ちょっといいか」

「ルデア、なあに?」

リリスを呼び、向かいの椅子に座ってもらう。

「姉ちゃん、すっごい言い難いことなんだけどさ……」

「ん?まさか、好きな人が出来たとか?結婚しちゃうの?それで子供も産んで、幸せな家庭を作って……もぉ♡」

「あのぉ……、勝手に人の将来を妄想して暴走しないでください」

「あ、ごめんごめん!つい、盛り上がっちゃって」

「まあ、いいけど。それでさ、姉ちゃん」

「そんなに深刻な話?」

ルデアが険しい顔をしていたからか、リリスはそんなことを聞いた。

「ああ、俺にとっては深刻な話だ」

ルデアは一呼吸置いて、言った。

「姉ちゃんが強すぎて、俺の出る幕がなさそうなんだけど?!」

「え?そんなこと?」

「そんなこととはなんだよ!結構大事なことだろ?てか、一番大事なことだよ!出る幕ありまくりな俺TUEEEEライフを送るために旅に出たんだからさ!」

「でも、さっきの状況は、お姉ちゃんが頑張るしか無かったでしょ?」

「まあ、それはそうだけどさ……。でも、何も全部倒しちゃうことないだろ?」

「じゃあ、最後の1匹はルデアに任せればよかったね」

「それはそれで悲しいからやめて……」

「なら、お姉ちゃんはどうすればいいの?」

リリスは、ルデアの顔をのぞき込むように見る。

「どうって、まあ、今日みたいな状況は仕方ないけどさ、ほかの場面では、姉ちゃんだけが目立つなんてこと、内容にしてくれ」

「よくわかんないけど……わかった!」

「本当かよ……」

先の度が思いやられるルデアだった。


ドールさんが帰ってくると、今回の報酬をくれた。

予定の20体分よりも遥かに多かったのは、依頼主にとってもありがたかったようで、石の数に見あった報酬をくれたらしい。

ちなみに、ルデアとリリスに4割、ドールに6割である。

ルデアは、何もして居ないはずのドールが半分以上持って行っていることに不満がない訳では無かったが、ここは何も言わない方がいいだろう、と大人な対応をしてやることにした。


その日は、色々と疲れが溜まっていたので、夜ご飯を食べて、直ぐに寝ることにしたのだが、寝る前に水を飲もうと、1階に降りた時、ドールが、予約らしき電話を受けているのを見かけた。


朝、目覚めると同じベットに、姉と美少女(?)が寝ていたことは、言うまでもない。

ルデアはおはようより早く、この言葉を発した。

「ドールさん、俺の腹を枕にしないでくれ」


つづく

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