第2話 人は見た目じゃないって言うけど、見た目が怪しいとやっぱり怪しいよね

「ソドリアムスって街はあれか?」

「そうみたいね、ひとまずあの街で宿を探そうか」

スライムの森を抜けた2人は、ソドリアムスという街までの一本道を歩いていた。

ソドリアムスという街は、武器の製造が盛んで、旅に出たばかりの人は1番初めに寄るべきだと言われている街だ。

目的のガーングリ王国まではまだ遠い。

この先も、いろんな国や街の宿屋を転々とすることになるだろうし、武器の調達のついでに、宿屋の利用方法などもこの街で学んでおいた方がいいだろう。

「でも……、それにしても遠いな」

遠くに街は見えているのに、一向に近づいている感じがしない。

まるで、街が自分達と同じ速さで逃げているようだ。

「ルデアぁ、まって〜」

「姉ちゃん、もう疲れたのかよ」

「仕方ないじゃない、お姉ちゃん、体力には自信が無いほうなのよ〜」

「スライムになってもそれは変わらないんだな……」

「そこのお二人さん!」

少し休もうと近くに座れそうな場所を探そうとしたところ、誰かに声をかけられた。

「ん?俺たちのことか?」

「そうそう!そこの若いお二人さんのことだよ!」

声の聞こえた方向に振り返ると、さっきまでは気づかなかったが、そこには屋台のような小さな店と中年の男がいた。

「なにか売ってるのか?」

「なにかもなにも、わたくし、一部の地域では何でも屋としてそこそこ有名な、移動屋台店のデーブでございますよ」

「姉ちゃん、聞いたことあるか?」

「ううん、ないと思う」

「だよな」

「なんか怪しいよね」

「うん、特に顔がな」

「お客さん、そ、それはちょっと失礼じゃないですかね?」

「いや、すまんな。思ったことがつい口から出てしまったんだ」

しかし、そもそも、こんな開けた土地にある屋台に、気づかないものなのだろうか。

そんなことはありえないはずだ。

その時点で、どこか怪しげなおじさんである。

「まあ、顔は怪しくても売っているものは正規品!宿屋だから、少々お値段は張りますが、都合の良い場所で見つけられたなら、それはそれでお釣りが出るってもんです!」

「ま、見るだけ見てみるか」

「そうね!お姉ちゃんにも使えそうなものはあるかしら?」

「これなんていかがかな?」

そう言ってデーブが差し出したのは、柄の同じな2つのリングのようなもの。

「見たところ、お二人は姉弟と見た!そこでこの『仲間腕輪』!これを付けておくと、双方の居場所が分かるようになるってわけ!」

デーブは自信満々のドヤ顔で説明をするが、ルデアとリリスはイマイチという表情をする。

「確かに、これがあれば迷子にはならないけど……」

「そもそも迷子になるのかも分からないし、そもそも……」

2人は顔を見合わせて、ため息を吐くように言った。

「「柄が、ね……」」

デーブの差し出す腕輪、柄がなぜかモンスターで言うところのビパンサー(いわゆるヒョウ柄)なのだ。

これをペアでつけるのを想像すると、なんとも言えない感情が湧いてくる。

「そ、そうでございますか……。なら、こちらは?」

デーブは1度肩を落とし、腕輪を片付けるが、またすぐに次の商品を差し出した。

今度は大きな黒い玉と、それから垂れている鎖と輪っかだった。

「こちらは『強化の足枷あしかせ』です」

「重そうだな……」

「付けてみます?お試し、ということで」

「まあ、やってみるか」

強化というのだから、何かいい効果があるのだろう。

そう思い、足枷をめる。

「では、それで歩いてみてください」

「歩くって、こんな重いものつけてたら歩けねぇよ」

「だからいいんです、思い足枷をつけて歩くことで筋力増加で下半身の強化に……」

「物理的な強化かよ!」

つい先入観で、つけるだけでステータスアップ的なやつかと思ってたよ、とルデアは呟く。

「現実はそんなに甘くないですよ」

「ごもっともです」

だがまあ、たしかに筋力はモンスターとの戦闘では重要だ。

その点では、理にかなった商品ということだろう。

「ねえ、ルデア」

「ん?姉ちゃん、何か欲しいものでもあったのか?」

「うん!」

「なんだ?」

「その足枷!」

「なんでだよ!?」

「私の中の細胞達がそれを買えと言っているの!」

「スライムって単細胞じゃないのか?」

「あ……、私の心が言ってるの!」

「言い直してもだめだ!所持金だって限りあるんだし、無駄なものは買えないからな」

「うぅ…、けち……」

「なんとでも言いなさい、俺は気にしないからな」

『姉ちゃんの方が大事だ』

「!?」

『姉ちゃんの方が大事だ』

「これでも気にしない?」(ニヤッ)

リリスは録音機を取り出し、その中の一言を連続して再生していた。

「き、気にしないぞ?べ、別に……そんなことくらいで……」

「へぇ〜、気にしないんだぁ〜?」

『姉ちゃんの方が大事だ』

「ぐっ…、き、気にするもんか!」

「ふふっ、無理しちゃって」

『姉ちゃんの方が大事だ』

「って、いい加減にしろっ!」

ルデアはリリスの持つ録音機をサッと取り上げる。

「ふぇぇ、返してよぉ〜」

「だめだ!反省するまで返さないからな!」

「もぉ…、けち……」

「無限ループかよ」

「お客さん、2人だけの世界に入らないでください!」

「あ、忘れてた……」

デーブに声をかけられて、また商品に目を向ける。

「忘れるなんてひどいですね……、まあ、これを見れば、もう二度と忘れないでしょう!」

そう言ってデーブが見せたのは、小瓶。

中には液体が入っているようだ。

「これは……?」

「これは、『瞬足の水』です!単純に、移動速度が早まる道具です!足にかけると効果が出ます!」

「ほお、これは使えそうだな」

「モンスターとのバトルでも、移動速度の上昇の効果は出るので、使い所によってはとても良い道具だと思いますよ?」

「よし、ひとつ貰おうか」

「30レイムですね、毎度あり!」

ルデアは代金を払い、小瓶を受け取る。

「これであの街まですぐに行けるな」

「うぅ…、あしかせ……」

「まだ言ってるのかよ、ほら、もう行くぞ。デーブだっけ?ありがとな!」

「またのご来店、お待ちしております」

デーブは二人に向かって、深くお辞儀をする。

ルデアはそれに背を向けて、小瓶の中身を自分の足にかける。

「おっ、冷たいな。姉ちゃんも、ほら」

「ひゃうっ!?」

リリスの足にも同じようにかけてやると、リリスは変な声を出して少し跳ねた。

「つ、つべたぃ……」

「ご、ごめん、やっぱり冷たすぎたか」

「でも、足は早くなった気がする!」

「俺もだ。じゃあ、街までひとっ走りだ!」

そう言って、ルデアはリリスより先に走り出してしまう。

「ま、待ってよぉ!」

「リリスさん、と言いましたかね?」

追いかけようとするリリスをデーブが呼び止める。

「んぇ?そうですけど、なんで知ってるんですか?まさか、私のファン?」

「ち、違いますよ……。お二人の会話を聞いていたら自然とわかりますよ」

「えへへ、冗談ですよ〜。で、何か用ですか?」

リリスが首を傾げると、デーブは先程の足枷とウエストポーチを差し出した。

「これは『圧縮ポーチ』です。普通のポーチに見えて、入れたものを次元の力を使って圧縮して、よりたくさんのものを入れることができるようになったポーチです。それとこの足枷、ほしかったんですよね?初回購入特典として差し上げます!」

「で、でも……さすがにそれは……」

「これからもご贔屓ひいきに、ということで!」

デーブは営業スマイルと言うやつを全面に出した笑顔を見せる。

「ありがとうございます!」

リリスはお礼を言いながら、そのふたつを受取って、ポーチを身につけ、その中に足枷を入れる。

大きさに見合わず、すんなりと入ってしまった。

「では、またのご来店、お待ちしております」

そう言ったデーブにもう一度頭を下げて、リリスはルデアのあとを追った。


『瞬足の水』を使う前とは明らかにスピードが違っていた。

その効果は想像よりも遥かに高く、ほんの数分で街の入口にたどり着いてしまった。

「姉ちゃん、遅いぞ?何やってたんだ?」

「ちょ、ちょっとね……。あ!これ貰ったよ!いっぱいものが入るポーチだって!」

リリスはダメと言われた足枷を持っていることを悟られないように、何とか話をそらす。

「へぇ〜、これからもあの店を利用しろってことか……」

「そうみたいだね!」

サービスはいいが、やっぱりどこか怪しいと思ってしまうのがなんとも言えない。

まあ、見かけた時は、覗くくらいはしてやろうと、ルデアは思った。

「しかしまあ、入口に来てみると、でかい街ってのが際立つな」

「ほんと……、私たちの国がどれだけ小さいのかが分かるわね……」

2人はソドリアムスの街の入口付近を見渡して、つい感心してしまう。

小さな国の出である2人からすれば、これだけ大きな街はいわゆる『まじでかい』というやつなのだ。

「じゃあ、宿屋探しを始めるか!」

「うん!そうだね!」


「そう言って、新たな街に踏み込んでいくふたつの影。さて、2人は上手く宿屋を見つけられるのか、武器は手に入るのか、それは次のお話でわかるだろう。次回、『ルデア死す(嘘)』、お楽しみに!」

「姉ちゃん、誰に向かって話してるんだ?」

「いや、よくあるでしょ?次回予告の……」

「いや、それはわかるんだけどさ、それ、現実でやるやつじゃないからさ。てか……」

ルデアは新たな街の人々に聞こえ渡るような大きな声で叫んだ。

「勝手に俺を殺すんじゃねぇよ!!!」


つづく

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