第5話魂の告白

  それから、放課後まで倉間は終始ソワソワした様子だった。


  ホームルームが終わると誰よりも早く動いたかと思えば気持ちの悪いくらいの笑顔を向けながらこちらに歩いてくる。

  「それじゃあ符灯、俺を詩種さんのところまで連れて行ってくれ!」

  返事するのも面倒だったので何も言わずに立ち上がり歩き出す。

  倉間はその後ろを黙って着いてきた。


  ーーーー秘織がどんな反応するのか検討もつかない、あいつもあいつであんなんだからな。


  想像出来なすぎて頭の中が語彙力皆無だった。


  倉間は何やらこちらに話しかけているが面倒なので引き続き無視しておく。


  まあなるようになるか・・・・・・。上手くいけば秘織の下敷きになってるイケメンが増えるだけだし。

  結局考えてもどうしようもないので流れに身を任せることにした。


  まだ肌寒い廊下を誰ともすれ違わずに歩いていくと、昨日初めて入った教室の扉が見えてきた。

  「とりあえず秘織に話を通してくるから少し待ってろ」

  扉の前で立ち止まって気持ちの悪い倉間には目を向けずに告げる。

  「わ、わかっちゃ」

  倉間は少し緊張しているのか動きだけでなく声と言葉も気持ち悪くなっていた。


  ため息を吐いてから扉をノックして教室に入る。

  秘織は昨日とは違って普通の格好をしており、感覚的には別の場所に来た気分だった。

  「来たわね凪。ーーーー何だか疲れてる?」

  「ああちょっとな。それより秘織、お前に話があるって奴が来てるんだがいいか?」

  秘織は誰かしら? と不思議そうだったがまあいいかと頷いた。


  頑張れ秘織、お前ならきっと大丈夫だ。


  心の中でだけ応援してから外にいる倉間に声をかける。

  それから五秒ほど経過してから扉が静かに開かれた。

  「こんにちは、俺は倉間陽太です。初めまして詩種さん」


  なんだこの爽やかイケメンは、さっきまでの気持ち悪い倉間はどこに行った。


  予想以上の好スタートを切った倉間に驚く。

  今の彼は誰の目から見てもイケメンの好青年にしか見えないはずだ。


  そう思い秘織の方に顔を向けるとーーーー。


  「・・・・・・えっ」


  誰の目から見ても美少女の秘織の顔が見るも耐えないくらいに歪んでいた。

  むしろ変顔してるのでは? と思わせるくらいにはそれはそれは歪んでいた。

 

  わけも分からずに唖然としていると、俺が見ていたことに気づいたのか変顔? を止めて秘織が手招きしてきた。

  「ちょっと、なんなのよこいつ」

  突然顔を寄せてきて耳元で小声で文句を言われた。

  いい匂いと耳をくすぐる吐息の感触ですぐに顔が赤くなったがバレないように平静を装う。

  「俺のクラスの倉間だ。秘織に頼みがあるって言うから連れてきた」

  その言葉を聞いて秘織はあからさまに面倒くさそうなため息を吐いた。

  「イケメンってだけで既に頭悪そうだし。名指しで頼みってもう嫌な予感しかしないわ」


  美少女のお前が言うか! まあ確かにどっちも頭悪いな、何も言えねぇわ。


  見てくれはいい秘織はこういったことはよくあるのだろう。

  高校生は人生で一番恋愛に敏感になる年齢だと個人的には思っている俺は、そんな秘織に哀れみの視線を向ける。


  だが良かったな秘織、今回はお前の思っているような事じゃないぞ。もっと酷いことだからな。


  そんなことは口に出さずに、とりあえず秘織に話だけでも聞いてもらうように促す。

  「まあ倉間は悪い奴じゃないから。内容がどうであれとりあえず聞いてみたらどうだ? もしかしたら全然別のことかもしれないぞ」


  そうねと諦めたように呟いて秘織は倉間の方を向いた。

  「私は詩種秘織よ。それで、倉間君の話って何かしら?」

  秘織は簡潔に自己紹介を済ませると早速本題に入る。


  緊張が教室を包む中、倉間は一度咳払いをしてから今日一瞳を輝かせて口を開いた。

  「これは秘織さん、君にしか頼めないことなんだ」

  内容を知らなければ聞こえのいい台詞から始まった。

  「俺は初めて詩種さんを見かけた時、衝撃を覚えた。この人しかいない、この人じゃなきゃダメなんだって」


  うん、完全に告白する流れだわこれ。何も知らなければ俺も雰囲気でドキドキしてたかもなー。


  秘織も半ば諦めた様子でその言葉を聞いていた、ように見えたがあんまり聞いていなそうだった。

 

  「だから詩種さん。俺を詩種さんのーーーー」


  ここに来て秘織が少し首を傾げた。

  それもそうだろう、告白するなら普通は詩種さん俺ととゆう流れになるはずだ。


  まあ中には彼氏にしてくださいとゆう告白もあるのかもしれないが、告白され慣れてるだろう秘織が首を傾げるのも納得だな。


  まあそんな告白もあるのだろうと秘織は結論づけたようですぐにいつもの様子に戻った。


  そしてついにその言葉が告げられる。


  「詩種さんだけの・・・・・・。椅子にしてください」


  「・・・・・・・・・・・・はっ?」


  うん、まあその反応だわな。


  小学校なら花丸がついてるくらいの模範的反応をした秘織はとても混乱した様子だった。

  それを他所に倉間は真剣な表情で秘織の返事を黙って待っていた。


  倉間よ、お前はなんでそんなに凛々しい顔が出来るんだ。

 

  イケメンが更にイケメンになっていたがどこまで行っても変態は変態だった。

  秘織は混乱しすぎて何か言い返さねばとおろおろしている。


  「ご、ごめんなさい。ちょっと理解が出来ないわ」


  その返事を聞いて、倉間はまあそうだよねと苦笑してから置いていた鞄を持ち上げた。

  「今はまだ混乱してるだろうから明日また返事を聞きに来るよ。符灯、今日は助かったよ」

  爽やかにお礼を行ってイケメン(変態)は教室から出ていった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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