第4話椅子になりたい!
次の日。
いつもの様にキラと昼食を食べようと弁当を机の上に出しているとクラスメイトの女子の一人に声をかけられた。
「符灯君お客さんが来てるよー」
尋ねてくる奴の心当たりが全く無くドアの方に目を向けると、廊下から秘織が顔を覗かせていた。
食べ始めるのを後回しにしてそちらに向かうと、秘織は少し安心したような表情を見せてドアの前に立った。
「どうした秘織、教室まで来て」
「大した用じゃないんだけど。今日も来るのかなと思って。一応・・・・・・」
なんだそんな事のために来たのかとも思ったが、意外と心配性なのかもしれないと思うと少し微笑ましかった。
「行くさ。昨日の宣言通りたっぷり分からせてやるからな」
俺のその言葉に安心したのか、小さくだが嬉しそうに秘織は笑う。
「なら良かったわ。凪にも頑張ってもらわないといけないからよろしく頼むわよ」
そう言って秘織は自分の教室に戻って行った。
意外と可愛いところもあるんだな。
そんなことを思って自分の席に戻ろうとすると、教室内から何やら意味ありげな視線を感じる。
疑問に思いながらも無視して自分の席に戻るとキラが興奮した様子で詰め寄ってくる。
「凪、お前いつの間にかあんな可愛い彼女が出来てたんだな」
「は? 俺に彼女? そんな馬鹿な」
キラの言葉にクラス中がざわめく。
男子は恨めしそうな顔で女子は黄色い声を上げて凪を見ていた。
「隠すなって。今来てた女の子、凪の彼女だろ? お互い名前で呼びあってたし」
「ああ、あいつは彼女なんかじゃないよ。名前で呼んでんのもそうしろって言われたからだし」
確かに顔は可愛いが、あんな頭悪くて口も悪い奴が彼女? ないない、俺はもっと頭の良さそうな子が好みなんだ。
否定してもまだ隠していると思われてるらしく、キラは色々と質問してくる。
「いつ知り合ったんだ? もうどこまですすーーーー」
「符灯、ちょっといいか」
キラの質問攻めに突然割って入ってきたのは、クラスのイケメン
倉間とはそんなに喋ったことはないが、特に仲が悪いとかは無く日常で普通に話したりすることはあった。
「どうした倉間、まさかお前まで質問攻めしてくる気か?」
「いや、そうじゃない。・・・・・・ここじゃ話しにくいからちょっと来てくれるか」
俺は倉間の頼みに応じて廊下に出る。
そこで話すかと思いきや、更に歩いて人気の少ない四回の備品展示室の前辺りまでやって来た。
「わざわざこんな所まで来るなんて、そんなに人に聞かれるとまずいことなのか?」
「・・・・・・・・・・・・まあそんな感じだ」
そう言ったっきり倉間は中々口を開こうとしない。
こんな所で男二人が見つめあってる絵面とか誰が喜ぶんだよ・・・・・・。
俺がだんだんイライラして来ているのを感じたのか、倉間は意を決したように口を開いた。
「符灯は・・・・・・う、詩種とその、付き合って無いんだよな?」
恐る恐る口に出した言葉はもう数度質問された事だった。
散々待たせた挙句先ほど否定した事を掘り返され俺は更にイラッとする。
「さっきもキラに言ったが別に秘織とは付き合ってねぇ。特に何か思ったりとかもない。」
そうか、と倉間は安堵した表情を見せる。
今の時点でこの後の大体の流れが予想出来た俺はもう戻りたいという気持ちでいっぱいだった。
「俺さ、詩種さんの・・・・・・・・・・・・」
うん、予想どおり。
「椅子になりたいんだ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんて?
てっきりお近づきになりたいだの恋人になりたいだの言われると思ってた俺は混乱する。
「なに? お前は秘織の事が好きで、俺に手助けをして欲しいとかそんな感じじゃないの?」
「何を言う! 顔がいいだけで運動も勉強も底辺の俺が詩種さんの恋人だなんておこがましい!」
大丈夫だ倉間、あいつも運動は知らんが頭は一流のアホだから。
と言ってしまっても良かったのだが、二人の仲を取り持つとか正直面倒くさいので黙っておく。
「お前は秘織の事を前から知ってたのか?」
「ああ、去年の夏に人目見た時から俺の頭にはあの人しかいなかった」
そんな聞いてもいない出会いと思いを語りだした倉間をシカトして少し考える。
にしても椅子になりたいってなんだ? 椅子・・・・・・、椅子・・・・・・・・・。
そこでついに答えが出た。
「なるほど! お前は秘織にセクハラがしたいわけだ」
そうとしか考えられないと倉間に言ったがーーーー。
「お前は馬鹿なのか? もし俺が詩種さんにセクハラをしようものなら、俺は俺をナイフで刺して殺す」
「じゃあなんで椅子なんだよ!?」
「それはなーーーー」
何故か一息置いたと思うと妙に純粋な目になっていた。
「パシリだと俺は足が遅いから使えない。茶も入れられないし金もない。そんな俺が出来ることといったら動く椅子になることくらいだろ!」
力強く覚悟を持って倉間は言い放った。
その姿は見るもの全てを魅了し圧倒する迫力だったが、内容が心底残念過ぎた。
堂々と言ったがこいつ顔以外のスペック低すぎだろ! 椅子にすらなれるか怪しいわ!
もう既に面倒くささが頂点に達していた俺は、もうどうにでもなれと倉間の肩を叩いた。
「はぁ、じゃあ放課後に俺と一緒に秘織のとこに行くぞ。会ってからは知らんから頑張れ」
「符灯・・・・・・・・・・・・」
倉間は感動で抱きついてこようとしたがキモいので回し蹴りを入れておく。
はぁ、結局昼飯食べる時間なくなったじゃねーか。
蹲る倉間に目も向けずに俺は教室に向かって歩き出した。
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