4.フライフェイス
クインとジンはシャドウを箱に詰めてブライトエリア周辺に配った疑いのあるエルヴィン家を調べるため、日が差すエリアを絶賛爆走中であった。クインのドゥーグも浮かんで付いてくる。ジンは走りながら、気になることをクインに聞く。
「なぁ、シャドウってのは制御不能の化け物じゃなかったのか? なんでそんなもんが箱詰めされてたんだ?」
「いや、シャドウだって人が作ったもんだ。完全に制御できないわけじゃない」
クインはジンの言葉を否定する。そもそも彼の考える前提が違った。よく考えればシャドウ自体アークウイングの地球移民、つまりはエルヴィン家及びジン達の先祖が地球から持ち込んだ兵器だ。だとしたらその制御方法が受け継がれていても不思議ではない。
「ただ完全にコントロール出来ないだけでな、アークウイングの連中はある程度制御する術を持ってんだよ。あたしらノアは殲滅の方法しか持ってないけどな」
「完全にコントロール出来ない? どういう状態だそりゃ?」
「核爆弾って兵器がいい例だな。起爆自体はコントロールできるがその直後にばら撒く放射線って毒はコントロール出来ないんだ。それと同じ様に起動とかまでならコントロールできるが一度起動しちまえば倒されるまで止めることが出来ない。しかも繁殖するしな」
「あーなるほど、完全に理解したわ」
ジンはクインの言うことの半分も理解していなかった。ともかくオンしかコントロール出来ないということである。あの箱がいい具合にばら撒かれたらシャドウを起こしてパニックにするつもりだったのだろう。
「しっかしなんでそんなことを?」
「それを今から調べにいくんだろ」
しかし動機が不明である。そこを調べに行くところなのだが、二人は走っても走ってもエルヴィン家に辿り着かない。ブライトエリアは結構広いのだ。
「なぁ、その辺の車調達して足にしねぇか?」
「バカ言え、こんなところで余計な騒ぎを起こすな!」
ジンは車泥棒を提案するも、クインに却下されてしまう。ただでさえ慎重に行動せねばならないところに、余計な騒動は抱えたくない。仕方ないので二人はとにかく走った。道は知っているので迷う事無く、エルヴィン家へたどり着くことが出来た。
「でっか! なんかこの家だけでっか!」
門の奥は広い庭になっている豪邸へ二人は辿り着く。ジンはその邸宅の大きさに驚く。ブライトエリアでこれほどの土地を持つことが出来るとは、よほどの名家に違いない。この家が一連の騒動を巻き起こした元凶なのだろうか。幸い、邸宅の周囲は生垣で囲ってあるだけなので、そこを乗り越えて入れそうだ。格子状になっている門から覗く庭には噴水、テニスコート、プールなどもあって絵に描いた様な豪邸であった。
「金目のものあるかな……」
ジンは職業病なのか、そんなことを考える。しかし今回の目的はここの捜査だ。シャドウをやり取りしている動かぬ証拠を見つけ出し、それをシーカーの支部に持ち帰ること。幸い、ここでシーカー支部の人間と落ち合う約束なので、そのまま脱出の手はずも整っている。
「よし、行くぞ」
「おいおい、行くって……。これからどうするんだ?」
しかしクインは何の策も無く突撃する予定だった。捜査なのだから何か策を練らないといけないのだが、彼女はそこを失念していた。このネクノミコはアークウイングの移民が優勢で、ノアのシーカーであるクインの権限がどこまで通用するのか分からない。
「そっか、他の惑星だとシーカーはシャドウ関係の任務なら結構権限あるんだけどここじゃそうもいかないのか……それに何をもってシャドウを箱に入れた証拠とするか……それも問題だな」
「だよなぁ……直に聞くか?」
「だな。ぼやかされるかもしれんが」
相談してもいいアイディアが浮かばないので、堂々と押し入って聞くことにした。幸い、一連の騒ぎをクインのドゥーグが収めていた。この映像が決め手になればいいのだが。堂々と入ると決めたのであれば、ここは呼び鈴を鳴らして訪問するべきだろう。
「すみませーん。こちらエルヴィンさんのお宅で合っていますか?」
『はい、こちらはエルヴィン家の邸宅でございます』
門のところに設置してあるチャイムを鳴らし、インターフォンでクインは中にいる人へ声を掛ける。インターフォンには女性が応対した。この家のメイドなのだろうか。クインは自分の身分を明かし、担当直入に用件を伝える。
「ノアのシーカー、クイン・カプリチオという者です。お尋ねしたいことがあって来たのですが……」
「ノアのシーカー……申し訳ありません。お通しすることは出来ません」
途端にメイドの態度が変わり、インターフォンを切られてしまう。これはますます怪しい気配だ。こうなったら、もう突入するしかない。クインはジンに指示し、門を開けさせようとする。
「おい、ジン。この門鍵開けられるか?」
「よしんば出来たとしても一発で警報鳴るだろうな」
だが、彼は出来ないと予想した。生垣の周辺には検問がセキュリティを担ってくれているのか、特に監視カメラやセンサーなどは見当たらない。それを確認したジンは、生垣をかき分けて中へ入っていく。
「こっからなら行けそうだ」
「なるほど……」
そこからはジンの泥棒スキルが光った。耳をそばだて、庭に人がいないことを確認すると植え込みに姿を隠しながら邸宅へ接近する。邸宅の壁まで二人は辿り着き、窓から漏れる音をしっかり聞く。この家は最低限しかメイドがいないらしく、ここまで誰とも出くわさなかった。
「よし、ここまで来たな……」
「慎重に行くぞ。要は証拠抑えてトンズラすればいいんだ……」
ジンが慎重に行くと言った傍から、クインは玄関に向かって猛ダッシュを開始した。そしてちょうど玄関にいた金髪青目のお坊ちゃまらしき人に向かって銃を突き付ける。ジン達より年上に見えるが整った身なりからこの家の関係者なのは少なくとも間違いない。この光景を見たジンは肝が冷えた。
「バカぁー! 慎重に行くって言っただろうが!」
「動くな! ノアのシーカーだ! お前達にシャドウ利用の疑いが掛かっている! 大人しく話を聞かせてもらう!」
クインは堂々と名乗り、お坊ちゃまを脅す。遅れてやってきた銀髪のメイドは帯刀しており、一触即発の雰囲気だ。ジンは急いでクインを拾いにいく。
「若様、お下がりください。先ほど訪ねてきた者かと」
銀髪を伸ばしたメイドは顔の左半分に大きな火傷の痕があり、目は殺気に満ちていた。刀に手を添え、鯉口を切ろうとしている。
「すみませんうちのバカが! どうしても入るって聞かなくて!」
「いえ、いいんですよ。父はどうも来客をもてなすのが嫌いでして」
ジンがお詫びして逃げ出そうとしていたが、お坊ちゃまは二人のことを歓迎していた。彼は二人に対し、まずは丁寧に名乗った。
「フラニー、この人達は僕のお客さんだよ。僕はアルマ・エルヴィン。こちらは僕の専属メイドのフランチェスカ・アイダホだ」
「どうも、フランチェスカです」
メイドはフランチェスカ、愛称をフラニーというらしい。彼女はアルマに言われ、殺気を収めた。クイン達もそれに倣って挨拶することにした。
「ノアのシーカー、クイン・カプリチオだ。こっちのコソ泥は現地で雇ったガイドのジン……お前苗字は?」
「ねーよ。生まれた時からジンだ」
苗字に関するやり取りをしていると、フラニーが凄まじい殺気を再び発揮し始める。
「コソ泥……?」
「つーか誰がコソ泥やねん」
「事実だろーが」
二人が軽く口喧嘩していると、どうも本気にしたらしいアルマが間に入って止める。あまりこういう軽口の叩き合いをしないタイプなのだろうか。流石はお上品なお坊ちゃまなだけはある。
「まぁまぁ、ここで話すのもなんだから中に入ってお茶でもどうかな?」
「お茶?」
お茶の意味をよく知らないジンを連れ、クインは豪邸の中に案内される。中は綺麗に掃除されており、カーペットが敷かれ豪華な調度品が並ぶ。靴を脱がずに上がるスタイルの邸宅である。それなのに床の埃が目立たないのはさすが名家のお屋敷なだけある。
エントランスは吹き抜けになっており、二階も一部見える。二階の床を支える柱に施された彫刻も丁寧で見とれるほどの美しさだ。
「こちらへどうぞ」
「いいのかな? 勝手に入っておいてこんな持てなされちゃって」
クインはそこが気になった。言うなればクインとジンは不法侵入者。それを手厚くもてなすとはどういうつもりなのか。
「ノアのシーカーって他の惑星も見ているのでしょう? その話をぜひ聞かせていただきたいと思いまして」
アルマは単にシーカーの仕事に興味があったらしい。
通された部屋も家具が輝いているほど磨かれており、とても居心地が良さそうだ。ソファに座ると、以前盗んだ車より座り心地がいいことにジンは驚く。
「おお、このソファめっちゃフカフカだ!」
「フラニー、お茶とお菓子を。それで、さきほどから申していたお話というのは……?」
フラニーにお茶の準備をさせる間、アルマはクインから要件を聞くことにした。彼女はドゥーグを掴んで引き寄せ、話を始める。全ての騒動がこのマシンに収められている。
「あたしは宇宙船が墜落してここに来たんです」
「それは大変でしたね」
「それでこのジンと出会ったわけなんですが、まぁこいつはとんでもないコソ泥でして。車は盗むわ万引きはするわ、食い逃げはするわ、挙句空き巣だわしょーもない男でして……」
「フラニーには聞かせられない内容だね……」
アルマはメイドであるフラニーについて話す。それがどうかしたのだろうか、とクインも一瞬思ったが、ジンをコソ泥と聞いた時のあの殺気を思い出して話を続ける。
「よほど泥棒が嫌いなんですね。まぁ人として当然のことだろうけど」
「おいおい、俺にだって言い分はある。俺も生きる為に仕方なく泥棒というリスクを背負っているんだぞ」
ジンは一応そこも説明しておく。彼だってできれば泥棒などという警察に捕まるリスクは冒したくないのだ。
「こいつこの通りコソ泥なんで真面目な仕事に就けようと思いましてね」
クインはそれを無視してバシバシとジンを叩いて事情を話す。
「エルヴィン家からの仕事と聞いてある荷物の運搬に彼は携わりました。中身が支援物資と聞き、ジンは鍵が掛かっているので善意で鍵をこじ開けました。するとシャドウが飛び出したのです。これは一体どういうことですか? 一応、映像ならこのドゥーグの中に入っています」
あくまで丁寧だが、追い詰める様な口調だった。その時、フラニーがお茶をトレーに乗せて持ってきた。
「ありがとう。なるほど……多分父上の仕事関係だろうね」
案外すんなり、アルマは容疑を認めた。フラニーは並べたカップにお茶を入れていた。客人であるクイン、ジンの分から順に。お茶受けは高そうなクッキーである。ジンが早速そのクッキーに手を伸ばす。あまりに夢中なのか、フラニーの殺気に気づいていない。
「うまい! このクッキーうまい!」
「おい、ボロボロ零すな!」
ジンの口の下に手を持ってきて、零れるクッキーの欠片を受け止めるクイン。アルマはお茶を啜りながら、しばらく考える。そして、あることを呟く。
「そうだね、父上ならやりかねないね。仕事のことはよくわからないのだけど」
「ということは認めるんだな……?」
クインはこの事実を認めたかどうかをまずは確認する。そうすれば今浮かんでいるドゥーグにも映像として記録されるはずだ。強要されていない自白は何よりの証拠に成りうる。クインとアルマの間に緊張が走る。その時、一人の男性が部屋に入ってきた。老齢で、室内であるためかガウンを着ている。キチンとした服装のアルマとは正反対に見えた。
「フラン! フランチェスカはどこだ?」
「はい、ご主人様、ここに」
「父上、彼らはあなたの計画を知っている様子です。いかがなさいますか?」
彼はフラニーを呼びつけた。この男性はアルマの父親らしく、アルマは話の内容を大まかに伝える。そして、要件を言う。
「話は聞かせてもらった。このガキ共は知り過ぎた。この場で消せ」
「はっ」
男性の命令を聞き、フラニーは刀を抜く。目に迷いが無い。この場でジンとクインを殺すつもりだ。あまりの殺気にジンは怖気づく。刀は照明を反射して眩い。あれで斬られたのなら、痛みを感じる前に命を落としそうだ。
「迷い無しか! 人の命をなんだと思ってやがる!」
「泥棒が言うかそれ……? 人の財産をなんだと思って……」
クインはソファから立ちあがり、迎撃の為にハンドガンをホルスターから抜いた。こちらは銃、あちらは刀。圧倒的に有利な様に、ジンは見ていた。だが、クインはそうではない。引き金を引き、彼女はフラニーの眉間に一発銃弾を撃ち込んだ。
「甘い!」
が、フラニーは刀でそれを切り落とす。鉄が響き合う甲高い音が室内に響いた。この光景に唖然としていたのはジンだけで、他は結果を予想していた。
「やはりな」
それは銃を撃ったクインですら例外ではない。初めからこうなることを予想して撃っていたのだ。
「フラニー、頼んだよ。もっと他の惑星の話を聞きたかったが、残念だ」
「あ、待て!」
アルマとその父は部屋から離れる。巻き込まれないため、人質になってフラニーの足を引っ張らないためだろう。彼女は真っ先に、ジンへ向かって突きを放つ。
「うわぁ!」
クインに首根っこを引っ張られ、ギリギリで回避するジン。刀はソファのクッションを切り裂き、綿を零れさせる。武器を持たない人間への攻撃に、クインも流石に憤った。
「おい! こいつはコソ泥だが武装してない! 狙うんならあたしを狙え!」
しかし憤りは向こうも同じだった。フラニーは火傷の痕を手で覆い、歯を食いしばって、ジンを睨む。
「私は……盗人という人種が一番許せない! お前の様な、人の幸せを奪うミッドナイトエリアのゴミ虫が!」
ジンは言い返せないので、クインに話をなすりつける。泥棒が悪いことの自覚はあったが、生きるためには仕方なかった側面もあったりする。
「うわー、酷い言われようだぞお前」
「いやどう聞いたってお前のことやんけ」
冗談を言い合っていると、フラニーが天井付近まで飛び上がって刀を振り下ろしてくる。クインはジンを蹴り飛ばし、二手に分かれて回避する。
「危ねぇ!」
「ぐほっ!」
何とかこの攻撃は回避したが、今度はソファが完全に真っ二つとなっていた。蹴り飛ばされたジンは受け身も取れず、床でのたうち回っていた。どこか打ったのだろう。
「頭打った……」
「バカ! 来るぞ!」
フラニーの標的はジンだった。床に転がるジンへ向かって、容赦なく刀を振り下ろす。彼は何とか寸前で転がって避け、ふらりと立ち上がってエントランスまで必死に避難する。その後をフラニーが刀を持って追いかける。クインも後を追った。
「ぎゃー! 来るなぁああ!」
必死のジンは柱をカサカサとよじ登って二階へ行く。手すりも軽々乗り越え、追い詰められた人間の恐ろしさをこれでもかと発揮する。
「逃がすか!」
しかしフラニーは階段を使うなどという律儀な真似はしなかった。跳躍でエントランスの二階まで飛び上がったのである。しかし、その隙をクインは逃がさなかった。空中では無防備。その状況を活かして銃を放つ。
「させるか!」
が、僅かな気配に気づいたフラニーは体をよじってクインの方を向き、放たれた弾丸を刀で弾く。ジンに背中を向ける形になった。それが大きな間違いであった。
「く、る、なあああ!」
空中にいる間に、ジンがフラニーの背中を押したのである。体勢を崩し、着地の姿勢が乱れる。
「きゃ……とっ……」
そこをすかさず、クインが銃撃する。何とか刀でそれも弾くも、体勢が崩れていたところに違う力が掛かり尻もちをついてしまう。刀も手からすっぽ抜けて床に落ちる。完全に獲物だと思っていたジンの、僅かな一撃が響いた形になった。
「いやぁっ!」
「勝負あったな」
クインはフラニーの額に銃口を押し当てる。ジンという存在が勝負を分けたのだ。決着である。ジンはへなへなとその場に崩れ落ちた。
「ふへー……久々に命の危機だった……」
まだ腰が抜けているのか、近くの扉を掴んでジンは立ち上がる。その時、その扉が勢いよく開かれ、彼は壁と扉の間に挟まれてしまう。
「うげぇっー!」
「フラニー! 大丈夫か!」
扉を開いたのはアルマだった。フラニーの悲鳴が聞こえてきたので慌てて駆け付けたのだろう。階段から一階に降りて、倒れているフラニーと銃を突き付けるクインの間に割って入る。
「やめてくれ! 君達は見逃す、だからフラニーを殺すのは……」
「こっちも最初からそうしてくれりゃそれで充分だよ」
クインはその話を聞き、銃を収める。そしてシーカーとしての立場から伝えるべきことを伝える。
「あたしらシーカーに逮捕権は無い。だからシャドウをあんたらがどうこうしていてもなんとも出来ない。後はその星の警察に頼むだけだが、生憎ここの警察は使え無さそうなんでな。これは警告だ。大事なもんあるんならシャドウなんかに手を出すな。今度やったらあたしなんかより強いのが大群で来るぞ。行くぞ、ジン」
「あ、ああ……」
クインはジンを連れて、屋敷を去る。シーカーである彼女はシャドウの流通を止めるのも仕事である。今回は彼女も遭難中の身でたまたま見つけた事件であるため、警告だけで去ることになった。だがこの屋敷の人間がシャドウを今後も使おうというのなら即座に殲滅できる情報も今回は得た。
「ん?」
その時、クインのスマホが鳴った。確かこの星では使えないはずだったのではないか。ジンも復活して鼻をさすりながら一階に降りてくる。クインはスマホで電話に出る。
「もしもし。あー、そうか、基地局入ってたっけ。よし、じゃあここで合流な」
「なんだ?」
ジンは電話のことを聞いた。どうやらここに迎えが来るらしいことは理解できたが、なぜ急にスマホが使える様になったのだろうか。
「迎えが来るって」
「よかったな。で、報酬は?」
クインは無事、この惑星を脱出できる手はずとなった。しかしジンは報酬を貰っていない。今回、クインと行動を共にしたのは報酬のためである。これでは車を破壊され損のくたびれ儲けである。
「そうだな、じゃあまず盗品ここに置いて」
「おう」
クインの指示に従い、ジンは盗んだ品々をリュックから床に置く。ルーターにタブレット、宝石類に現金などだ。
「そんでついてこい」
「おう」
ジンはクインの後に付いて、屋敷を出る。するともう、昨日見かけた宇宙船と同じものが健全な状態で庭に着陸していた。コンテナに付いている扉が開き、クインを中へ誘う。そして、彼女は驚くべき指示を出す。
「乗れ」
「おう」
しかしジンは何の疑いも無くそれに乗った。中は広く、ソファまである。操縦席には梯子で繋がっており、パイロットの姿は見えない。一体ここでどんなお礼をしてくれるのか、楽しみにジンはソファへ座って待つ。エルヴィン邸にあったものと比べると座り心地は流石にそこまで良くないが、それでも十分にふかふかだ。クインも遅れて宇宙船に乗り込む。
壁に取り付けられた窓からは夕暮れが見える。差し込む夕焼けで、室内は橙色に染め上げられる。
「そうか、もうこんな時間かぁ……」
基本的に常夜の下で育ったジンは、夕日を見るのも初めてだ。思わずソファから立ちあがって窓際へ行く。すると宇宙船が揺れ、徐々に地上が離れていく。
「あれ?」
困惑するジンを他所に、地上はどんどん遠くなる。あれだけ大きかったエルヴィン邸もまるでお菓子の家の様に小さくなってしまった。この状況にジンはパニックを起こす。
「おいどうなってんだ? 何が起きてる?」
「何ってお前をこの星から連れてくんだよ。ほっといたら絶対泥棒に逆戻りだろうしな。安心しろ。仕事の面倒は見てやるよ」
「なにぃぃい!」
報酬というのは、外の星での就職だった。確かに帰るところも無い、家族もいないジンにとっては願ったり叶ったりな条件だったが、急に言われても覚悟が出来ていない。
「待て! 心の準備が……」
「惑星間航行システム起動。マナエンジン正常に作動、ワープドライヴします」
「嘘だぁああ!」
ジンの絶叫を置いて、パイロットの作業的な声と共に宇宙船は空高く舞い上がった。その様子を、地上からアルマとフラニーは見ていた。ここに奇妙な因縁が結ばれたことも知らず、ジンとクインに会うのはこれが最後だろうと思って。
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