3.日の差すエリア
ジンの白い車に乗って、二人はブライトエリアブロックCを目指す。その間にも、クインは仕入れた情報を整理することにした。助手席のクインが運転しているジンにこの惑星、ネクノミコのことを教える。
「アークウイングとノアの移民が地球から来たのは話したよな?」
「ああ、時期が違うんだっけ?」
アークウイングからの地球移民が二百年前、それから遅れること百年前にノアがやってきた。これが地球移民の実態である。クインはそのノアの地球探査員、シーカーである。事故で不時着したポイントから他の支部メンバーと合流する為にブライトエリアを目指している。
「そんでこのネクノミコはアークウイングが実権を握っている惑星だ。先住民がいなくて、人が住める環境の惑星だったんだ。そんで元々はこんな夜の惑星じゃなかったんだ」
「マジで?」
クインが言うには、ネクノミコも始めはこんな常夜の星ではなかったらしい。ジンが生まれた頃にはこの有様だったのでそんなこと知る由もなかった。
「アークウイングの持ち込んだ発電所が原因だ。暗室効果ガスを排出する発電所をぶっ建てて二百年、こんな状況になっちまったってわけさ」
「はーん、じゃあ俺も地球移民の子孫なのか」
「そうなるな」
ジンはここで初めて自分のルーツに触れた。先住民がいない星に生きているということは地球移民の子孫ということになる。しかし何故わざわざ地球から来ておいて新しい惑星まで二百年ぽっちで汚染してしまうのだろうか。
「しっかしひどい奴らだな。移り住んでおいて惑星一つダメにしてんだからな」
「そこなんだよな。アークウイングの連中は先住民にも高圧的だったし、最初はノアも溶け込むのが大変だったみたいだぜ、そのせいで」
「まるでノアが違うみたいな言い方だな」
ジンはそこが気になった。ノアはアークウイングとは違うのだろうか。地球からやってきて調査員などを派遣している辺りは同じ様なものだと彼は思っていた。クインは否定する。
「アークウイングと一緒にされたら困るな。ノアは先住民の文化を尊重し、シーカーの派遣も危険地域の調査や危険生物、シャドウの排除が仕事になっているんだ」
「ん? シャドウって他の星にもいるのか?」
ジンはシャドウの存在に触れる。この化け物はネクノミコ特有の存在だとばかり思っていたが、他の惑星にも存在しているというのか。
「シャドウは地球の第三次世界大戦で使われた、錬金術と化学を組み合わせた自律型生物兵器だ。際限無く繁殖するもんだから地球も人が住みにくくなってな。それを何考えてんのかアークウイングの連中がこのリュウオウ太陽系にも持ち込みやがった」
「それってヤバくね?」
アークウイングはとことん以前の失敗を顧みない移民船の様であった。環境汚染に生物兵器。これではノアの関係者であるクインが嫌うのも理解できるというものだ。
「まぁヤバいな。今のところシャドウに関しては先住民と協力して駆逐しているが」
車は段々とゴミの散らばる汚いエリアに突入していった。壁などには落書きがあり、建築物もガラスが割れているなどボロボロだ。道路こそ片道二車線の大きいものだが、小汚い人々が物珍しそうな顔で白い車を見つめていた。この光景にクインは異様さを覚えていた。
「なぁ、あたしら金持ちの住むブライトエリアを目指してんだよな?」
「そうだが?」
「なんでこうボロッちい場所に足を踏み入れることになってんだ? 近道か?」
「あー」
ここでジンはクインとの常識の違いにまた気づいた。金持ちのいるエリアに近づけば土地としても裕福になっていくのが他の惑星の常識らしい。だが、ネクノミコは事情が僅かに違った。
「この星はな、太陽が差すのがブライトエリアだけなんだよ。だから太陽を浴びたい奴がこの辺りに集まってきている。金は無いけどな。ブライトエリアって基本的に塀で囲まれてて、その僅かな日が出る場所を求めて貧乏人が集結してんのさ」
ブライトエリアとそれ以外が明白に分かれているからこそ、集まってくる日光難民が多いというわけだ。それだけ治安も悪くなるので、定住できるがブライトエリアには住めないレベルの市民は逆にブライトエリアから遠ざかるのだ。
「はーん、高級そうな住宅が並んでんのは最初に高級住宅街として売り出すつもりだったってわけか。それが失礼な言い方かもしれないがこんな小汚い連中が寄って来て頓挫したと……」
「全くだ。日光を求めるゾンビ共め」
ジンはここに群がる連中を唾棄すべき存在として見ていたので、クインの小汚いという発言には全面的に賛同した。彼は自分で未来を切り開くことをよしとして窃盗を繰り返している。ゴミや与えられる救援物資といったものに縋るだけの存在は見下しているというのが現状だ。
「おい、危ないぞ!」
その時、クインが叫ぶ。道路に誰かが飛び出してきたのだ。しかしジンは一切スピードを緩めることなく、その人物を跳ねてスピードを上げる。鈍い音が車内に響いた。だがジンは全く動じることなく運転する。
「おい!」
クインが止めようとするも、ジンはサラッとさっきの出来事を流した。
「ありゃ当たり屋だ。下手にブレーキ踏んだり止まるだけ損だ」
「そんなのもいるのか……何もないところで飛び出したと思ったら……」
こういうことがあるのでこのエリアは全く油断出来ない。一体どんな方法でこちらから金を集るか、しか考えていないのだ、この付近の住人は。
「全く集り屋共め……恥を知れ!」
「泥棒は恥じゃねーのか」
クインからすれば泥棒のジンも同じ穴の貉に見えた。しかし彼としては厳密にここの住民達とは違うという意識で生きてきているのだ。
ブライトエリアが近づくと辺りが少し明るくなる。また、遠くに壁らしきものも見えてきた。この辺りは暗室効果ガスが薄いのだろうか。しかし、街に落ちているゴミと集まる人の量は以前に増して増えていく。
「本当に酷いな……。道が道じゃないみたいだ」
車道にも人が溢れ、白い車の動きは鈍っていた。ジンが必死にクラクションを鳴らしてアクセルを吹かすも、人の方が多く足を止められている状態だ。のろのろと進み、なんとかブライトエリアの入り口を目指す。
「車置いてくか?」
「バカ言え! 確実に持ってかれるわ!」
「泥棒が言うかぁ?」
クインは車を追いていくことを提案したが、ジンが反対する。確かに、こんな場所に置いていったら、誰かに持っていかれそうだ。元々車が盗品だったのは言わないお約束。しかし、次第にそうも言っていられない事態に二人は陥っていく。
「おい! 乗るな!」
「何だこいつら!」
周りの人々が暴徒と化して、ジンの車を襲い始めたのだ。ボンネットや屋根に乗り、車を叩いて二人を引きずり降ろそうとする。フロントガラスは蹴り破られ、運転席の窓もバールやトンカチなどで粉砕される。ボンネットなどはひしゃげて中のエンジンルームにダメージが入り、車内いっぱいに異音が鳴る。
「こいつら……俺らがガキだと思って舐めてやがる!」
原因はジンとクインの年齢だった。子供なら容易に勝てると踏んで、集団で暴力を振るい金目の物を手に入れようとしているのだ。だが、こちらには警察官をあっさり殺したシャドウさえ軽く屠るクインがいるのだ。彼女は割れた窓から銃口を覗かせ、一発雑にハンドガンを放つ。
「ぎゃああ!」
乾いた音と男の悲鳴が一面にこだまする。敢えて殺さずに、苦痛を与えて悲鳴を上げさせたのだ。悲鳴と銃声に恐れ慄き、先ほどまで優勢に立っていた集団は一気に引いていく。相手が武器を持っていて人殺しも躊躇わないと分かったのなら、当然逃げ出すだろう。
「よし、行くぞ」
「行くったって……もう車動かねえよ」
クインがジンに進むよう指示するが、車は壊れて動けない状態になってしまう。仕方ないので二人は降りて先を急ぐことにした。車から離れると、クインはエンジンルームに一発弾丸をお見舞いし車を爆破させる。爆発した車体は軽々宙を舞い、轟音と共にアスファルトへ落ちた。白い車がすっかり真っ黒である。
「おおおおい! 俺の車! 弁償しろよ? 弁償しろよなあ?」
家兼移動手段が無残にも吹き飛ばされ、ジンはクインに食ってかかる。だが、彼女はなんとも思っていない様だ。
「元々盗品じゃねーか。それに壊れてたし」
「追加で壊す必要なくね?」
ジンはそこを心配した。元々壊れていたものを更に壊す意味は一体なんだったのだろうか。
「これは警告だよ。あたしらに手ェ出すとこうなるぞってな」
「その為に俺の車壊したんか……」
「だから盗品だろうが」
わいわい騒ぎながら二人はブライトエリアの入り口を目指す。さっきの騒ぎでクインの危険性が伝わったのか、以降絡んで来る者はいなかった。それどころか住民達が道を開けるので車よりスムーズに進むことが出来た。
ブライトエリア、ブロックCの入り口は厳重な検問が出来ており、すんなりとは入れそうに無かった。壁の周辺にも人が集まっており、僅かに漏れる日光を享受していた。クインがまずは検問の警備員に声を掛け、突破を試みる。
「すみませーん。ノアのシーカー、クイン・カプリチオですが、通してもらうことはできますか?」
「通行料をお支払いください」
しかし警備員は紋切り型の返答をする。合流地点になっているということはここにシーカー支部の人間が来ている筈なのだが。
「シーカー支部から誰か来てませんか? 宇宙船が墜落しちゃって……」
「今調べますのでお待ちください」
警備員は調べるため、検問にある建物へ入っていく。そんなわけで入れるかどうかはしばらくしないと分からないらしい。お役所仕事がどうのとか文句も言いたい二人であった。
「かぁーっ、こりゃ時間掛かりそうだぜ」
「俺の報酬が遠のいていく……」
その間どうしようかという話になり、クインが検問に張られているポスターを発見する。それは仕事の募集だった。簡単な荷物の運送でお金が貰えるらしい。詳しくは検問の警備員にと書いてあったので、クインは警備員に再び声を掛ける。
「すみませーん。この仕事なんですが……」
「お前これやんのか?」
「お前がやるんだよ」
クインから出たのは衝撃の一言。勝手に仕事を決められたジンは即座に反論する。こんな妙な仕事など出来るものか。
「おいおい! 勝手に決めんなよ!」
「お前もまともな仕事しろ。これはその第一歩だ」
クインはジンに真っ当な仕事をさせたかったらしい。確かに案内人が自分の去った後も泥棒すると考えたら心配になるのも当然である。彼女はこの案内の報酬を真っ当な仕事に就けることにしようと思っていたのだ。
「ち……まぁいいか、そこそこお給料出るし……」
ジンは渋々了承した。彼も生きる為に盗みをしているだけで、真面目に働くのが嫌いというわけではない。むしろ真面目に働く手段が無いから盗みで生計を立てていたに過ぎないのだ。
警備員が仕事の説明をするために一旦建物から戻ってくる。ついでにローラー付きの台車でプラスチックの箱をいくつも持ってくる。どれも両腕で抱えないと持てないほど大きな箱だ。だが、蓋は南京錠と鎖で厳重に塞がれている。
「運がよかったなお前達。この仕事は募集が始まったばかりで働いている奴も少ないんだ」
警備員が言うにはちょうどいいタイミングでジンとクインはやってきたらしい。確かにポスターも真新しく、似たような仕事をしている人間をここまで見なかった。
「これを指定の場所まで運んでくれ。置いておくだけでいいからな」
「変わった仕事だな。誰の依頼だ?」
少し奇妙な仕事内容にクインは食い付いた。シーカーとしての勘が働いたのだろう。人が乗っている車を襲って金品を強奪しようという人々がいる様な治安の悪い町で、荷物をただ置くだけなど持って行ってくださいと言っているようにしか見えない。警備員はこの仕事を依頼した人物について語る。
「ブロックCの名士、エルヴィン様からの依頼だ。信用できるお方の仕事だ。安心しろ。なんでも最悪盗まれたら盗まれたでいいらしい。何を考えているのかはわからないが、社会的信用があることだけは確かだ」
「エルヴィン……か」
クインはしっかりと名前を覚えた。しかしこの荷物を盗まれてもいいとは一体何を考えているのか。警察は信用できなかったが、現地の警備員が信用できると言っているので今回は大丈夫だろう。
「じゃあ、あたしここで待ってるからお前やってこいよ」
「へーい」
ジンは台車と設置場所の地図を警備員から受け取ると、それを転がして仕事を開始した。荷物が思ったより重く、でこぼこに傷付いたアスファルトの上を転がすのは至難の業だった。
「よいしょ……思ったより大変だな……」
黒いパーカーの少年とツナギの少女はヤバいという噂が広まっているのか、台車を押すのに手間取っているジンから荷物を奪う者は誰もいなかった。そもそも中身が何なのかジンは気になって仕方なかった。
最初のポイントは廃墟になったビルの入り口。ずっしりと重い箱を適当に並べると、彼は台車を転がしてその場を離れる。そして、建物の影から様子を伺った。案の定というべきか、ジンがいなくなった傍からこの重そうな荷物を次々に浮浪者達が持ち出したではないか。
「おいおい……これまともに仕事務まるのか?」
彼は一回帰ることにした。次の荷物を受け取らなければならない。
「戻ったぞー」
「ご苦労さん、次の荷物だ」
警備員は既に次の荷物を用意して待っていた。この検問の警備員は複数いるのか、さっきとは違う人だ。おそらくさっきの人はクインに頼まれてシーカー支部の人が来ていないか調べている最中だろう。クインも検問の前で待っていた。
「全く重てぇなぁ。何が入ってんだ?」
台車に荷物を乗せるとその重さについ愚痴りたくもなってしまう。筋トレなどしている余裕の無いジンは、足こそ速いものの筋力はそれほどない。
「つべこべ言わずに詰め込め。金貰えねーぞ」
「へーい」
クインにケツを叩かれてジンは次の仕事に取り掛かる。しかしそこで気になったことが一つあった。彼がいなくなった直後に持っていかれた荷物のことだ。
「なぁ、俺がいなくなった瞬間荷物パクられたんだけど、これってポイントにいくつか詰まないとクリアにならない系か?」
「いや。とにかくたくさんのポイントに置いてくれとしか言われていない。後のことは不明だ」
警備員によると本当に盗まれても大丈夫で、指定のポイントにいくつ詰めというノルマさえないらしい。クインもこれには訝しむ様な表情を見せる。しかしジンはそうとわかって気にしないことにした。
「よーし、じゃあどんどんやってこう。これ歩合制? だったら俺が運んだ荷物数えといて!」
「ああ、そうだったな。数えとくよ」
「よっしゃ!」
警備員に言われ、意気揚々とジンは台車を押し始める。働いたら働いた分だけお金が貰えるのなら俄然やる気が出て来た。泥棒はリスクに見合わないことも多い。やはり正規の労働は最高である、とジンは感じていた。
「こういう仕事で食ってけたらなあ」
だが現実は非情である。この仕事は日雇いのもの。定住に至れるほど稼げて毎月の給料が決まった仕事に就くためには、学校に行くことはもちろん住所という保証が必要になってくる。定住したいから働きたいのに、である。貧困というのは抜け出すことが容易ではない。
などと感傷に浸っていたら次のポイントに辿り着いた。やはり人がいそうな廃墟の前だ。その次のポイントも、またその次のポイントも、人の多い廃墟前が選ばれていた。
「ちょっと疲れてきたな……」
往復を繰り返し、ジンは検問の前で少し休憩することにした。クインは警備員と何かを話している。
「あの箱の中身、確認とれたか?」
「ああ、なんでも救援物資らしい」
「ふむ……」
彼女は警備員に箱の中身を確認してもらっていたらしい。ここに集まる人々への救援物資ならば確かに持ち去られても問題ない。むしろ持ち去られた方が、都合がいい。なにせ渡すことが目的なのだから。だがクインは少し考え込む。
「そうか。ならシーカーとして、ここの住民を代表して直接礼を言いたい。エルヴィン家の場所を教えてくれないか?」
クインの行動はさておき、ジンはいいことを聞いたとばかりに、荷物を台車に乗せて駆け出した。これはもう指定の場所に置くより、持って行ってもらった方が早い。早く荷物が掃ければそれだけ貰えるお金も増えるというもの。
ジンも普段からブライトエリアに近づかないので金持ちがどういうつもりでそんな救援物資など他人に寄越したのか分からなかったが、金を貰うことで彼の頭はいっぱいだった。
「みなさーん、エルヴィン家ってことから救援物資ですよー! さぁ持ってった持ってった!」
周りの人に呼びかけ、荷物を持って行ってもらう。こうすれば運ぶ手間は省けるというものだ。しかし、ここで一つ問題が起きた。
「なぁ、これ鍵掛かってんだけど……」
「鍵? あ、ほんとだ……」
箱には鍵が掛かっていたのである。支援物資だというのに妙な話である。さては開けられない支援物資を渡して、それを開けんと右往左往する貧民が見たかったのだろうか。ジンはエルヴィン家の目的が分かった様な気がしていた。クインが引っ掛かっていたのもこれだろうと決めてかかる。
「まったく金持ちは意地悪だねえ……。貸してみな。開けてやるよ」
ジンはそんな金持ちの悔しがる顔が見たくて、鍵を開けてやることにした。幸い、南京錠は非常に簡単な代物であり、ジンにとっては片手間でも開けられる様なものであった。
「ほい、開いたぞ」
彼は次々に南京錠を開いていく。鍵を開けてくれると聞いたのか、さっきから荷物を持っていった人々も荷物を手に集まり、鍵を開けてもらっていた。
「ぐぎゃああッ!」
その時、何かが吹き出す音と共に悲鳴が聞こえた。ジンが音のする方を振り向くと、箱からなんと兵士型のシャドウが姿を現し、箱を開けた人物を刃の腕で貫いているではないか。血が吹き出し、アスファルトを赤黒く染める。突然の出来事に辺りはパニックに陥る。ジンが鍵を開けた箱から、次々に蓋を跳ね飛ばして兵士型のシャドウが出てくる。
「な、なんだよこれ……!」
中身は支援物資だったはずではないのか。ジンも混乱し、その場から逃げ出した。今はクインにこのことを伝えねばならない。彼は急いで検問まで戻った。後ろで悲鳴が聞こえる中、それを聞こえぬ振りして逃げる。シャドウに遭遇しては隣の者を囮に逃げて来た彼には、罪悪感などなかった。
「クイン! 大変だ! あの箱の中、シャドウだったぞ!」
「開けたのか? いや、それよりシャドウだって?」
クインもこの展開は予想していなかったのか、驚いた表情を見せる。シャドウと聞き、警備員達もマシンガンなどを手に駆け出していった。
「シャドウだ! 総員、戦闘準備!」
「ブライトエリアの中には入れるな!」
ジンが来た道を振り返ると、彼を追ってきたのか数体のシャドウがいた。クインはジンの手を引き、誰もいなくなった検問を潜り抜けてブライトエリアに突入する。周辺エリアと異なり綺麗に清掃され、舗装も真新しい。歩道には石畳が敷かれ、眩しく太陽を反射する。車道と歩道の間には植え込みもあり、緑が保たれていた。
周辺の住宅はジンが盗みを働いていた様な家と変わりなく、それだけブライトエリアに住めること自体がどれほど勝ち組なのかを語っていた。
「おいおい……ブライトエリア入っちまったよ!」
ジンは引かれていない方の腕で顔を覆う。さすがに常夜の空間から日光が当たる場所に入ると多少は眩しい。それでも暗い場所は暗い場所で街灯やネオンが煌めいていたおかげか、暗闇から引きずり出されるよりはマシな感じではあった。
「まさか中身がシャドウだったとはな……」
「倒さないのか?」
ジンはシーカーでありシャドウ討伐の任務を負っているクインが真っ先に逃げ出したことに疑問があった。だが、彼女にも事情はあった。
「そうしたいのは山々だがな……。こっちも残りの弾が少ないし、なによりエルヴィン家がシャドウを所有していたことが問題だ。あの荷物はエルヴィン家からなんだろ?」
「確かにそうだけど……」
「だからあたしはまずエルヴィン家を捜査する。そんで主犯をとっ捕まえる! シャドウの殲滅はその後、支部の人間と共同で行う!」
クインはあくまで冷静であった。確かに今の彼女は遭難中で装備も少ない。なので主犯確保に主軸を置くことにしたのだ。支援物資なのに鍵が掛かっていることに疑問を持ち、どんなことがあっても動ける様にクインは警備員からエルヴィン家の場所を聞いていたのだ。直接礼がしたいなど、場所を知るための方便でしかない。
クインはもう手を離していたが、ジンは彼女の後について走っていた。完全に今回は巻き込まれた形になる。
「お前も来い! 少なくともシャドウがいるとこよりは安全だ!」
クインはジンをシャドウから守るために、ここまで引っ張ってきたのだ。だが、ジンにはありがた迷惑でしかなかった。
「ふざけんな! ブライトエリア入れたのは嬉しいけど、そんなヤバげな話に関われるか!」
「お前、行くとこあんのか?」
「ねーよ! 誰が俺の足兼宿をぶっ壊したと思ってんだ!」
しかしここで反目してもジンには帰る家が無い。仕方ないのでついていくしかなかった。
「だったら全部終わったらうちで面倒見てやる! お前みたいなコソ泥、放っておけるか!」
「だーれがコソ泥じゃい!」
こうして喧々諤々と二人はエルヴィン家を目指してブライトエリアと突き進む。果たして、ジンの運命やいかに?
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