第8話 すきっていいたい!

 あさのどうろは、しょうがくせいたちが、いっぱいとおります。


 みんな、がっこうというところに、いくのです。


 そのひは、ランドセルをせおったおとこのこが、なんにんかの、おんなのこにとりまかれて、とうこうしていました。


「ユウミってかわいいよねー」

「うん、ユウミってやさしいしー」

「ユウミって、だんしにもてるんだってー」


 いっけん、なんてことのない、うわさばなし……にきこえますが、おとこのこはふきげんそう。


 ちゃいろのろうけんに、またがったコロンが、ふとみると、ちょうどそのおとこのこが、みんなのわのなかから、とびだしてくるところでした。


「ばっかやろー。オレはうわさばなしなんか、ききたくないんだよー」

 

 かおをまっかにして、そうさけぶと、がっこうまで、まっしぐら。


 どうしたのでしょう。


 コロンがついていくと、げたばこがあるしょうこうぐちに、たどりつきました。


 おとこのこは、いきをきらせています。


 そこへ、またべつのおんなのこが、くつをげたばこにしまいながら、いいました。


「おはよう、トオヤ、おうちをなんじにでてきたの? だいぶ、はやいね」


 おとこのこは、こころなしかぎくしゃくとして、もごもごくちごもりました。

 

 おんなのこはしかたなく、クラスへむかいました。


「きょうも、はなせなかった……」


 つぶやくトオヤのうしろから、またおんなのこたちが、あつまってきました。


「トオヤくん、またミアキのことかまってんの?」

「……お、おう」

「あんなの、かおだけじゃん」

「そんなこと……」

「それより、あたしらとメールしない? たのしいよ」

「オレ、スマホもってないから」

「えー、トオヤくんちってびんぼうなのー?」

「うるさいな」


 トオヤは、こころをとざしてしまいました。


 そこへ、ロンロンがやってきて、コロンのほうをみました。


「こんかいは、たすけてあげなくて、いいのか?」


 コロンは、いいました。


『ちょっとトオヤのきもちが、かたくななかんじでしゅ。すこしようすをみるでしゅ』


 ロンロンは、トオヤのきょうしつのまどのしたに、ぺたりとはらをつけました。


 すると……。


「トオヤくん、あのね……」


 きんきんした、おんなのこのこえが、きこえます。


「つきあってくれない? でかけるとか、ようじとかじゃなくて」


 トオヤの、かおをみたくて、ロンロンは、まどにまえあしをのせました。


 コロンも、きょうみはあるみたいです。


「おまえ、だれだっけ?」

「ユウミ」

「ユウミ? ああ、おなじクラスの! でもなんで」

「すきだから」


 そのときトオヤのまぶたのうらに、ミアキのかおが、まざまざとうかびました。


「ごめん、オレ、ミアキのことがすきなんだ」

「ミアキよりわたしのほうが、トオヤをすきだとおもうんだ」

「オレにとって、たいせつなのは、おまえのきもちじゃなくて、オレのきもち。わるいけど、つきあえない」

「ばかにしないでよ!」

「わるい!」


 トオヤは、きょうしつをでていきました。


『いいきなもんでしゅ。トオヤには、はらがたつでしゅ』


 ほっぺたを、プクリとふくらませるコロンに、ロンロンはいいました。


「トオヤはどうするんだろう」


 つぎのひ、トオヤは、ミアキのつくえに、てがみをいれておきました。


『ほうかご、だれもいないときに、きょうしつにきてください』


 そんな、ないようでした。


 てがみをみた、ミアキはほうかご、おそくまでのこって、トオヤをまちました。


「どうなるのかのう」

『し! ロンロンだまって』


 ミアキは、トオヤのきもちをきかされて、おどろきました。


「だって、トオヤっていつも、おんなのこたちにかこまれて、よりどりみどりでしょ? みんなトオヤのこと、すきだっておもっている」

「オレにだって、じぶんのきもちはうらぎれない。オレだってすきなこに、すきっていいたいんだ!」


 トオヤがいいきると、ミアキはうつむいて、はずかしそうにいいました。


「そう、だね。わたしも、トオヤのこと、しりたい。おともだちからはじめましょ?」


 トオヤのかおが、かがやきました。


 コロンには、でばんがありませんでしたが、愛のありかは、こころにチャージされました。


 よかったですね。



 ところが、つぎのにちようび。


 トオヤとミアキは、こっそりふたりででかけたところを、クラスメイトのじょしに、みつかってしまいました。


 じょしのなかには、ユウミもいます。


「なにあれ。トオヤはユウミのきもちを、しってるんだよね?」

「そうよそうよ、あたしたち、あんなにユウミのことおうえんしてたのに」

「トオヤって、しんじらんなーい」


 じょしたちは、くちぐちにいいます。


 ユウミはせをむけて、なにもいいませんでした。


『さあて、どうするでしゅかトオヤ』


「どうれ、ちょっといじわるでもしてみるかな」


 ロンロンはふたりに、おもしろはんぶんに、ほえかかりました。


「うわ、よせよ」

 

 トオヤは、いぬがきらいでした。


 かんぜんにこしがひけて、まえをむくことができません。


「こら! いたずらするなよー!」


 かぼそく、ひめいのようなこえに、クラスメイトのじょしたちが、あざわらいました。


 トオヤはきずついたかお。


 どうしよう、ユウミはおもいましたが、そのときです。


「やめなさい! いやがってるじゃないの」


 ちぢみあがっているトオヤを、ミアキがかばって、いいました。

 

 じぶんだって、こわくてかたをいからせるのが、せいいっぱいのはずなのに。


 ロンロンがうう、とうなります。


「あっちへいきなさい!」


 ミアキは、なきそうになりながらも、ひっしでロンロンを、おいはらおうとします。


「かなわないな。トオヤのことがだいすきっていってるめだ」

『そうとなったら、そく、たいさんでしゅ』


 ミアキが、トオヤをつよくはげまし、たちあがらせました。


 コロンたちはさっていき、まがりかどでふりかえります。


 クラスメイトたちは、いじわるく、にやにやとしていました。


 ユウミは、こうどなりました。


「トオヤくん、かっこわるい……!」


 クラスメイトたちは、わらってさっていきました。


「愛はときにかなしいのう」

『きずつくこともあるのでしゅ。でもロンロン、きょうはいけないこでしゅたね』

「なあに、いまごろトオヤとミアキちゃんは、なかよくやってるさ」

『もう』


 コロンはがんばったミアキに、愛のじゅもんをかけました。


 それは恋のエールです。

 


 そのころ、トオヤとミアキは……。


「だいじょうぶ? トオヤ」

「ああ……」


 こうえんのすいどうでぬらした、ハンカチをミアキがさしだしました。


「だいじょうぶじゃないよね。ごめんね、わたしがあのみちをいかなければ、あんなことにならなかったのに」

「いや……ううん、ぜんぜん、そうじゃないんだ。オレ、かっこわるくてごめん。ミアキのこと、だいすきなのに、よわくて、まもれなくて」

「そんなこと、いわないで」

「……こないだ、オレはユウミに、こくはくされたんだ。そのとき、すきなやつのこと、すきっていうのはたいへんなんだ、っておもいしらされてさ」

「それで、わたしにこくはくしてくれたの?」

「うん。オレ、まえからミアキのこといいなっておもってて」

「トオヤはかっこわるくなんてないよ。わたしのすきなトオヤだもん。かっこいいよ!」

「ミアキ! オレ……オレ……」

「だれにだって、にがてはあるもんね」

「ミアキ……すきだ! まえより、ずっとずっと……だいすきだ!」


 そうして、ふたりはベンチにすわって、ゆうひをみました。


 いつまでも……。


 それをみていたコロンが、トコトコとやってきて、ぺこりとあたまをさげました。


『ロンロンが、ふたりにかわいそうなことをしましゅた。ごめんなさい』


 おわびのことばを、のこして、またトコトコとさります……。


 そうして、コロンたちふたりは、そのまちをとおりすぎたのです。


『みなしゃん、たとえカッコわるいところをみても、なかよくね』


「だれにだって、ふとくいはあるんだからのう」


 

 つぎのひにはみんな、なにごともなかったかのように、とうこうしていましたが、トオヤとミアキのきずなは、ずっとふかくなっていました。


 コロンのエールが、きいたのでしょうか?


『そうだとうれしいでしゅ!』

「ん? コロン、ひとりごとか?」

『なんでもないのでしゅ』

「ときには、よりみちもたのしいのお」


 みんなニコニコ、げんきなこ!


 ふたりのどうちゅうは、つづきます。

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