第7話 きょうだい

「ばっかやろう! じぶんのしんろくらい、じぶんできめろ!」

「だって、アニキ」

「オレはもう、おまえのアニキじゃあないんだ。そういったろ」


 そのわかものは、コロンのゆくてに、とつぜん、とびだしてきました。


 そのひょうじょうは、とてもかなしそうで、くやしそうでもあります。


『あい! どうしたでしゅか?』


 コロンのよびかけに、わかものはおどろいたように、あたりをきょろきょろしました。


「な、なんだ。いまのこえ!」

『ここでしゅ』


 コロンは、ロンロンのせなかから、りょうてをふって、まっしろなシッポをぶんぶんふって、いいました。


「なんなんだ、おまえ」

『コロンは愛のようせい。はくりゅうのさとからきましゅた! こっちはロンロン。なにか、おなやみでしゅか?』


 わかものは、じぶんのしょうきをうたがいましたが、ちからなく、そばのかいだんにこしかけ、ひとりごとのように、はなしはじめました。


 ふたつとしのはなれた、ユウトとミナトは、なかよしのしんゆうでした。

 

 どちらも、かたおやがなく、きがあいました。


 ところが、あるときユウトのちちおやと、ミナトのははおやがけっこんし、ふたりは、ぎりのきょうだいになりました。


「うーん? それで?」


 ロンロンがこくびをかしげて、きいています。


「ボクはユウトのきょうだいになれてうれしかったんだ。だけど、そのあとおとうさんとおかあさんは、わかれることになって……」


 ふりまわされた、ユウトとミナトは、きずつきました。

 

 そして、そのひからユウトは、ミナトにつめたくなったようなのです。


「もうきょうだいなんかじゃないんだからって、くちもなかなかきいてくれなくなった。それでもユウトはボクのこころのよりどころだった……」


 もういちど、しんゆうだったころに、もどりたいとまではおもわないけれど、ミナトはユウトと、きょうだいでいたかったのでした。


「ようし! ワシとコロンで、ユウトのほんしんを、ききだしてあげるぞい」

『それにミナトからは愛のはどうをかんじるでしゅ。コロンは、きっとうまくいくようにと、ねがっているでしゅ』


 あおいげっこうが、ふりそそぐよるでした。


 にかいだてのいえの、ユウトのへやのまどから、コロンはユウトのようすをみていました。


 ユウトは、おおきなりょこうトランクに、にもつをつめこんで、ひとりベッドのうえで、ためいきしていました。


『ロンロン、こうしていてもしかたがないでしゅ。ほんにんにちょくせつ、ぶつかってみるでしゅ』

「よしきた、きをつけるんだぞい」


 コロンは、ひとりでまどから、ユウトのとなりへ、かけていきました。


『ユウト、どこかとおくへいくでしゅか』


 へんじは、ありませんでした。


『ミナトは、ユウトのきもちを、ききたがっているでしゅ』


 ふっとユウトは、コロンのそんざいに、きづきました。


「なんだおまえは」

『コロンは愛のようせい。はくりゅうのさとからきましゅた! ミナトからのでんごんを、もってきたのでしゅ』

「おまえが?」


 ユウトは、コロンのほうをじろじろみましたが、そうわるいふんいきでもありませんでした。


「そうか……」

『でんごんを、きくでしゅか?』


 ユウトは、しばらくかんがえたのち、くびをたてに、それからよこにふりました。


『じゃあ、はんぶんだけつたえるでしゅ』


 ユウトは、まじまじとコロンをみました。


『ともだちは、はなればなれになったら、もうあうことはなかなかないけれど、きょうだいなら、ずっといっしょにいられる。ボクはユウトときょうだいでいたい』


 は、とユウトはためいきをつきました。


「オレは、アメリカのマサチューセッツこうかだいがくへいくんだ。そして、うちゅうかいはつのしごとにつく。にほんへはかえらないだろう。でも……」


 ユウトは、いったんことばを、きりました。


「でも、ミナトがこうこうをそつぎょうしても、おなじきもちなら……」

 

 コロンはにっこりとして、うなずきました。


「コロン、おはなしはうまくいったのかね?」

『あい。ユウトは、ミナトがおもうよりずっと、ミナトのことをおもっていたでしゅ』


 ユウトののった、ひこうきを、みつめながらなみだするミナトに、ロンロンがちかづきました。


「でんごんだよ」

「でんごん? ユウトから?」

『あい! こうこうをそつぎょうして、まだきもちがかわらないなら、アメリカへこい、といっていたでしゅ』


 あぜんとしていた、ミナトのかおが、ほころんでいきます。


「ユウト! ボクもマサチューセッツにいくよ!」

 

 こころからの、さけびでした。


「コロン、まさちゅーせっつでは、なにをするんだ?」

『さあ。うちゅうがどうとか。でも、もくひょうをもつのは、いいことでしゅ』

「ほんもののきょうだいよりも、きょうだいらしいふたりだったな」

『愛のなせるわざでしゅ』


 コロンは、しろいシッポをふりふり、じょうきげんで、ロンロンのせなかにのりました。


 さわやかなくうきが、ふたりのせなかを、おしてゆきます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る