第6話 マリー

 とある、ちゅうがっこうでの、おはなしです。

 

 マナミとカヨコは、しょうがくせいのときから、なかよしでした。

 

 ところが、マナミがびしょうじょコンテストで、グランプリをとったことから、ふたりのなかは、ぎくしゃくしはじめました。


「カヨコ、いっしょにかえろうよ」


 ほうかご、マナミがいくらさそっても、カヨコはおうじなくなりました。


『なによ、マナミがびしょうじょグランプリ? わたしのたちばは、どうなるの』


 カヨコはマナミに、しっとしていました。

 

 それになにより、マナミよりじぶんのほうがかわいく、うつくしいとおもいこんでいたのです。


 それが、マナミがグランプリにえらばれたとたん、カヨコのプライドはズタズタになりました。

 

 どこへいっても、カヨコにはマナミばかり、ちゅうもくされているように、かんじます。


 カヨコはともだちのしるしに、マナミとおくりあった、おたがいのなまえがはいったハンカチを、ひきさき、へやのすみにすててしまいました。



 それから、カヨコはマナミをしつようにいじめはじめました。


 まわりのともだちたちも、きがつよいカヨコにさからえません。


 いっしょになって、マナミをおとしいれるけいかくを、たてていました。

 

 マナミは、いつかみんながわかってくれるとしんじて、がまんしていました。

  

 ところが、カヨコのいじめはクラスぐるみで、ひろまっていきます。


「しんさいんに、とりいって……」

「イロメつかったんだよ。おとこのしんさいんに」

「それより、いろじかけでしょ」

 

 ことばのいみもわからず、みんなくちぎたなくかげぐちをたたきました。

 

 マナミはおぼえもないことと、むししていました。


 それが、ますますいけなかったのです。

 

 うわさはひとりあるきしはじめ、ついにマナミはおいつめられてしまいました。



 ゆうがた、ボロボロのいぬにのって、たびをするコロンが、ふみきりにとびこもうとするマナミを、みつけました。


『どうしたでしゅか? 愛がないてるでしゅ』


 マナミはそんなコロンに、おどろきましたが、いきとうごうすると、すっかりわけをはなしてくれました。


「ありがとう。きもちがらくになったわ」

『愛のためには、まわりみちもひつようでしゅ』

「うん……」


 しかし、ことはかいけつには、むかいませんでした。


「キタナイおんな」

「ひきょうで、ズルいおんな」

「おんなをぶきにする、しょうわるおんな」


 めのまえでうわさをするものがいれば、マナミはきっとにらみつけ、むごんでうったえかけました。


 すると、まわりはそれをますますわるくとって、かのじょを、ふりょうとよぶようになったのです。

 

 マナミのせいかくは、カヨコがいちばんよくしっています。


 すべてカヨコが、しくんだことでした。


「マナミはふりょうだ。たにんのこいびともとっちゃう、ずるいこだ」


 と、ねもはもないうわさを、ばらまいたのです。


 そんなことがつづいたひ、マナミはにかいのわたりろうかで、まっしろなこねこをみつけました。


「わあ、かわいいな。どこからきたの?」


 こねこは、マナミのあしもとで、のどをならして、くびをこすりつけました。


「もう、くすぐったい」


 マナミは、こねこをだきあげると、おひさまにむかって、おおきくたかいたかいをしました。


 そのこねこは「マリー」となまえのはいった、くびわをつけていました。


「マリー、よろしくね」

「みゃあお」


 マリーは、のどをゴロゴロさせて、めをほそめました。



 つぎのひ、がっこうのもんの、よこのかだんに、もりつちがしてあり、そこにはまっかなもじで「マリーのおはか」とかかれたいたきれが、たっていました。


 マナミがきょうしつにはいると、ふくすうのじょしが、いやなめをむけてきます。


 カヨコのたんまつきに、マナミの、わたりろうかでこねこをたかく、もちあげているがぞうがうつっており、みんなそれをかこんでいます。


 マナミがだまってつくえにむかっていると、きこえよがしなわるくちがきこえてきました。


「こんなちいさなこねこを、たかいところからおとすなんて、しんじられない」

「なにあれ、へいきなかおしてるよ。はんせいしてないんじゃない?」

「あーあー、カヨコのマリーは、マナミにころされたんだ。ざんこく」


 おぼえのないマナミは、だまっていました。


 すると、ますますわるくちは、エスカレートしていきました。


「しゃかいのゴミ」

「ねえねえ、みんなしってる? しょうどうぶつをころすひとって、しょうらい、さつじんはんになるんだよ」

「きょうあくはんざいしゃだろ」

 

 マナミはじゅぎょうちゅう、ついにつくえにふしてないてしまいました。

 

 せんせいが、どうしたのかとしんぱいします。



「それは、つらかったわね」

 スクールカウンセラーがいいました。

「おやごさんにいちど、そうだんするか、クリニックをしょうかいすることも、できますからね」

 

 しょせん、たにんごと、ときこえましたが、マナミはぐっとたえしのびます。

 

 マナミはマリーがしんだのは、じぶんのせいだとおもいこんでしまいました。

 

 じぶんが、マリーにあまえてしまった。


 やすらぎがほしいと、おもってしまった。


「わたしが、かかわりあいさえしなければ……」


 そんなふうに、かんがえました。


 そんなとき、みすぼらしいいぬと、ふわふわのシッポをもった、おにんぎょうみたいにちいさな、おんなのこのすがたを、みかけました。


 おどろいたマナミは、くちもきけません。


『まだ、なのってなかったでしゅね。コロンは愛のようせいでしゅ。はくりゅうのさとからきましゅた! こっちはロンロン』

「ゆめ……?」

「おじょうさん、ゆめではないですぞ。しかしおはなしをきいていると、ちょっとようすがおかしいな。しがいのにおいなんて、しないんだが」

『いちど、おはかをたしかめてみるでしゅ』

「ええっ、でも……どうやっておはかを?」

『ロンロンのしょうげんがただしいか、ろうけんのはながにぶいだけなのか、たしかめるんでしゅ。なんにも、わるいことはありまちぇん!』


 マナミは、コロンのいうとおりにしました。


 マリーのはかをほりかえして、しがいをたしかめたのです。



「ああ! マナミがマリーのはかをあらしてる!」

「なんてことをするの。しんじられない」

 

 ですが、しんじられないのは、マナミのほうでした。


 マリーは、はかにうまっては、いませんでした。


 そのかわり、ボロボロにやぶけた、なまえいりのハンカチがありました。


 マナミ、とよめます。


「あんた、どうかしてるんじゃない? あたまがおかしいわよ」


 クラスのひとびとは、マナミをとりかこんで、せめました。

 そこへ、まっしろなこねこがわりこんでき、マナミのあしもとに、まとわりつきました。


「ま、マリー!」


 カヨコがあせって、いいました。


「ついてきちゃだめって、いったのに!」

 

 やはり、マリーはいきていたのです。


「そういえば、マナミがこねこをなげたところなんて、だれもみてないんだ」


 マナミはマリーをだきあげると、いつかのようにほおずりをして、いいました。


「しんでなんかいなかったのね。いきていてくれた……よかった」


 マナミのなみだが、みんなのいしきをかえました。


「いじめてごめんね」

「カヨコはひどいよ。どうかしている」

「いままで、ほんとうにわるかった」


 マナミはただ、マリーをだいて、なみだしていました。


『マナミの愛はうけとったでしゅ。ひとつねがいを、かなえるでしゅよ』

「また、あのやさしかったカヨコと、またなかよしになりたい」

『カヨコに、げいのうじむしょを、しょうかいすればいいでしゅ。くろうをしれば、カヨコもしょうきになるでしゅよ』



『こんかいは、にどおいしかったでしゅ』


 ロンロンのかたわらで、コロンがうれしそうにいいました。


『愛はすべてを、かえるんでしゅ』


 にしびをあびながら、ロンロンはめをまたたかせて、あくびをしました。


 きょうはどこで、みをやすめるのでしょうね。

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