第4話 リュウノスケのうそ

『ロンロン、近くに愛のはどうを、かんじるでしゅ』

 

 コロンが、いいました。


 コロンは、ちいさな愛のようせい。


 ロンロンは、コロンによって、いのちをすくわれた、ぼろぼろのいぬです。


 ふたりは、コロンのこきょうである、はくりゅうのさとへむかうとちゅう。


 みちのりは、はるかとおくまでつづいています。


 そのたびじで、コロンは愛をさがしていました。


 かのじょは、うまれるときに、たいせつな愛をあたえられなかったために、かよわくて、ちからがたりません。


 コロンが、いちにんまえの愛のようせいになるには、たくさんの愛をみつけなければならないのです。



 そのまちでは、おおきなほんやさんが、ありました。


 ロンロンがコロンのいうとおり、ちかくをさがしていると、ほんやさんのじどうドアから、しょうねんがでてきました。


 すると、うしろからエプロンをつけた、ほんやさんがでてきて、しょうねんのうでをとりました。


 しょうねんは、かみぶくろをじてんしゃのにだいにのせると、いってしまおうとします。


 が、ほんやさんは、じてんしゃのにだいをつかみ、ひきもどしました。


 しょうねんは、じてんしゃごところんで、みせのおくまで、つれていかれました。


「キミのしていることは、はんざいなんだよ」


 はいいろのつくえに、ならべられたさんこうしょ。


 しょうねんが、おかねをはらわずに、みせからもちだしたものでした。


「こんどが、はじめてなの? おやにれんらくするよ」


 すると、しょうねんはわっとないて、


「おやは……いません」

「じゃあ、がっこうはどこ? せんせいにきてもらいます」


 しょうねんは、だまりこんで、こたえません。


「どうなの? へんじしだいで、けいさつよぶよ」

「……がっこうは、いってません」


 ほんやさんは、ぬすまれたほんたちをみて、いいました。


「けどこれ、ぜんぶこうこうのものでしょ?」

「おかねならはらいますから、みのがしてください! にどと、しません」


 しょうねんは、ぼろぼろとなきました。



 みせのうらぐちからでてきたしょうねんは、とぼとぼとじてんしゃをおして、どこへともなくさっていきます。


 ロンロンがいいました。


「いぬにルールがあるように、にんげんたちにもルールがあるようだなぁ」


 コロンは、ロンロンにしがみついて、しょうねんのあとをおいました。


『愛のかけらが、きらきらしてるでしゅ』

「へえ」


 ロンロンにはわかりませんでしたが、ほかならぬコロンのいうことですから、だまってついてゆきました。


 ついたのはボロボロのやねと、かべにひびがはいった、ふるいおうちでした。


「えんがわが、ある」


 ロンロンは、かきねからのぞきこみました。


 そのとき、コロンが、せのひくいきのかきねの、すきまをぬって、なかへはいっていってしまいました。


「もう、しかたがないな。コロンのすることだ」


 しかしロンロンにはすこしせまく、とおれませんでした。


 そこで、なかをのぞいていると……。



「おばあちゃん、きょうはがっこうで、すうがくのテストがあったんだ。らくしょうだったよ」


 よくみれば、えんがわにこしかけた、あのしょうねんが、なかへむかって、はなしかけています。


「そうかい」


 おばあさんがでてきて、ゆげのたつゆのみと、おかしをさしだしました。


「あれ? おやつなんてどうしたの?」

「すこし、ひるまにでかけてきたんだよ。きょうはあたたかいから、きんじょのスーパーまでいってね」


 おばあさんはピンクいろのほほをして、ほっこりわらいました。


 すると、しょうねんはにこにこして、おやつをたべおわると、せけんばなしをはじめました。


「きょうは、とうこうちゅうにじょしにあって、こくはくされそうになった。はしってにげたけど、あせったなあ」

「あれまあ。モテモテなんだねえ」

「そんなことないよ。それよりも、このあいだのたいりょくそくていで、きろくがのびちゃって、サッカーぶややきゅうぶ、そのほかにもたくさんのうんどうぶに、さそわれちゃってさ」

「リュウノスケちゃんは、ほんとうにすごいねえ。わたしのむすこはどこでどうしているのかねえ」


 リュウノスケちゃんとよばれたしょうねんは、いっしゅんだけくちをつぐむと、げんきにいいました。


「きっと、いまごろけっこんもして、こどももいて、いつかおばあちゃんをむかえにくるよ。そのためのじゅんびちゅうなんだよ」

「そうかねえ。このごろでは、もうかえってはこないきも、しているんだがねえ」

「そんなことないよ! きっと、しゃかいでバリバリはたらいて、いそがしいんで、おそくなってるだけさ。たよりのないのは、いいたより!」

「そうかねえ。でも、むすこがしあわせにいきていてくれれば、それだけでわたしはいいんだよ」

 

 しょうねんは、おちゃをのみほすと、あかるくほほえんでいいました。


「じゃあ、おばあちゃんまたくるね。おやつとおちゃを、ごちそうさまでした!」

「はい。いつも、にわしごとをてつだってくれて、ありがとうね。リュウノスケちゃん」



 がさがさっと、おとをたてて、コロンがでてきました。


 しょうねんは、おてらにはいっていきます。


「リュウノスケくん、きょうもおまいりかい」


 おてらのひとが、いいました。


 リュウノスケはだまってれいをして、とおりすぎると、おおきなきのねもとにひざをつきました。


 あたりは、きれいにととのえられています。


 リュウノスケがざっそうをとって、ちいさなはなのたねをうえたところに、しかくいプレートがみえました。


『さわづ じゅんいちろうのはか』


 ロンロンが、すぐさましょうねんのところへかけつけると、コロンがさきにしょうねんに、はなしかけていました。


 しょうねんは、おどろいたかおで、コロンをうえからしたまで、じっくりみました。


「かいきげんしょう……」

『コロンは愛のようせいでしゅ。愛をさがしに、はくりゅうのさとから、やってきたでしゅ』

「愛のようせい……? 愛なんて、いきるのにやくにたたないじゃないか」

『そんなことはないでしゅ。リュウノスケのいきるきぼうに、なっているにちがいないでしゅ』

「なんだか、ずっと、みられていたみたいだな」

 

 リュウノスケは、はずかしそうに、うつむきました。


『あい! みてましゅた!』


 コロンはにこにこして、はなしをうながしました。


「しまづのおばあちゃんのむすこさんは、がくせいのころ、じこでなくなっているんだ」


 ロンロンは、きょとんとしてしまいます。


「だけど、おばあちゃんはむすこさんのしを、うけいれられなかったみたいで……」

『だから、しらないふりをして、おはなしをあわせてるんでしゅね』

「ひとりぼっちで、おちこぼれのボクが、こうこうへいきたいといったとき、おばあちゃんがいちばんにおうえんしてくれて、うれしかった。だから、こうこうへいっているふりを、したんだ」

『そうだったでしゅか』


 コロンは、しんみょうにうなづきました。


「ボクはおやもいない。もう、こころのよりどころは、おばあちゃんだけなんだよ」

『リュウノスケの愛をうけとったでしゅ。だからねがいをひとつかなえてあげるでしゅ』


 リュウノスケは、きょとんとしています。


『リュウノスケの、ねがいはなんでしゅか?』

「だいがくへいくことかなあ。あとおばあちゃんと、いつまでもいっしょにいたい」

『それなら、やかんがっこうや、つうしんきょういくかていがあるでしゅよ。がくひローンも、じゅうじつしてるでしゅ』


 リュノスケは、くびをひねっていましたが、やがてあかるいえがおをみせました。


「やってみるか!」

『リュウノスケが、ねがいをかなえれば、おばあさんもまえへすすめるでしゅ! きっと……だから、愛のしゅくふくをあげるでしゅ』

「……うん。まずはせいかつひをかせがなきゃ! でもやとってくれるところなんて、あるかなあ」

『リュウノスケしだいで、みらいはいくらでもかわるでしゅ。コロンの、しゅくふくつきでしゅよ』

「ありがとうコロン。ボク、がんばってみる……」



 きれいなほしぞらのもと、ロンロンのせなかで、コロンはうとうとしながら、いいました。


『ロンロン、うそはいけないとおもいましゅか?』

「さあね。はんざいはいけないけれどね。それにうそは、いつかわかってしまうものだし」

『それでも……リュウノスケがおばあちゃんのためについたうそは、きっとふかいふかい、おもいやりだったでしゅよ』

「コロンがそういうなら……そうだな……」


 コロンはむねがいっぱいになって、おおきくいきをつきました。


『やさしい愛を、みつけたでしゅ』


 ふたりはかわいいシッポをふりふり、なかよくたびを、さいかいしたのでした……。

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