第3話 愛はどこでしゅか!?

 はくいきがしろくなる、まだはるになりたてのころのことでした。


 ロンロンは、せなかに愛のようせいコロンをのせて、アスファルトでできたどうろを、あしばやにかけぬけていました。


 このあたりは、じゅうたくがい。


 とても、しずかです。


 ところが……どうやら、おとこのこのどなりごえがします。


「もっと、かねもってこいっていってんだよ!」

「ムリだよ……。おとうさんも、おかあさんも、でかけてて、あしたまでかえってこない」

「かねをおいてあるばしょくらい、わかるだろう! とってこい」

「そ……」


 ていこうしようとすると、そのこはおなかをグーでなぐられて、たおれてしまいました。


「いいか、おまえんちはしっているんだからな。かどのところのマンションだろ。みはってるからな。すぐこいよ」


 なぐられたおとこのこは、おいおいないて、よろめきながらたちあがると、あるきはじめました。


『みはっているからな』


 そのことばは、ほんとうでした。


 らんぼうをはたらいたおとこのこは、くろいキャップぼうしをふかくかぶり、どうろのむかいから、さんかいのベランダを、みつめています。


「もう、だめだ……」



『愛は、愛はどこでしゅか!? ロンロン』

「愛はときに、かなしいなみだのにおいがする。こっちだ!」


 さきほど、どうろでみかけた、おとこのこが、ちのなみだをながして、ベランダのさくのうえにたっています。


 ゆらゆらっと、そのあしがゆれました。


 くろいキャップぼうしのおとこのこは、あせったように、にげていきました。


「あぶない! どうしよう、コロン!」


 ぽうん! とコロンのシッポが、おおきくふくらみ、かんいっぱつ、まにあいました。


 おとこのこは、コロンのまっしろなシッポにくるまれ、ぶじでした。


 おとこのこは、ぼんやりとするいしきのしたで、いいました。


「ボクは、しんだの……?」


 コロンは、あえてそうだとも、ちがうとも、いいませんでした。


『さいごの、ねがいをいうでしゅ』

「キミは、だれ?」

『コロンは愛のようせい。愛をさがしに、はくりゅうのさとから、きたでしゅ』

「ボクはケイスケ。けっこんきねんびの、おかあさんと、おとうさんに、あんしんして、おでかけにいってほしかった……」

『ケイスケの愛、うけとったでしゅ。だからねがいをひとつ、かなえるでしゅ』


 ケイスケは、なみだでほほをぬらしながら、ぽつりぽつりとはなしはじめました。


「ボクのこと、しょうがくせいのときから、いじめてくるヤツがいて……ちかごろは、おもちゃやまんがじゃなく、おかねとかを、とっていくんだ。もう、おかあさんたちに、だまってるなんて、できない」

『いいのこすことは、それだけでしゅか?』


 コロンのことばは、やわらかく、けれどそっけなくひびきます。


『ケイスケは、これからおおきくなって、あたらしいしごとや、かていをもって、おおくのかぞくに、かこまれてすごす、みらいがまっていたでしゅ』

「はは、そうなんだ。しんじられないけど、いきていたらよかったなあ」

『ケイスケのおかあさんも、おとうさんも、きっとうちあけてほしかったと、おもうでしゅ』


 じぶんが、しんでしまったとおもいこんだ、ケイスケはむねがいたくなるほど、なきました。


「ごめん、なさい。いじめられたくらいで、しんだりして。ごめんなさい、おかあさん……!」


 すると、コロンのまっしろなシッポのけだまが、ふんわりほどけて、はるのそらがみえました。


「きれいなそら」

『そうでしゅね』

「ボク、ひょっとして、いきてる……?」

『そうでしゅね』


 ショックでうごけないケイスケをおいて、コロンはふわりとさくをとびこえ、ロンロンのまつどうろへと、まいおりました。


『ロンロン……ふくしゅうはいけないことだと、おもうでしゅか?』

「おもわんよ。コロンがしたいなら、すればいい」

『ケイスケのいのちをおびやかし、愛をうばおうとしたつみ……コロンはとってもゆるせないでしゅ!』


 コロンのめは、まっかにもえていました。



 ロンロンがかぎつけたこうえんのさきに、くろいキャップぼうしのおとこのこが、いました。


 なんだか、おおきなおとこのこに、かこまれています。


「ほんとうだよ! あいつ、マンションのベランダから、こう、のりだして!」

「うそつくんじゃねえ、あいつがそんなどきょう、あるはずねえだろう。かねがないなら、おまえんちのおやから、とってこい」

「そ、そんなあ!」


 そのとき、コロンのめが、もとのあおいろにもどりました。


「なかまだと、おもっていたのに……」


 くろいキャップぼうしのおとこのこは、なかまにうらぎられたのです。


 せいのおおきな、おとこのこたちにこづきまわされて、いたそうにかおをゆがめています。


『そんななかま、いないほうがマシでしゅ』

「えっ?」


 くろいキャップぼうしのおとこのこは、これからはじまるいじめのよかんに、びくびくして、あたりをきょろきょろしましたが、コロンのすがたを、みつけることはできませんでした。


「ちっ、なんだよ。いぬか。おどかしやがって」


 くろいキャップぼうしのおとこのこは、ロンロンに、あしですなをかけていきました。


『じぶんだけがたすかりたいとおもうひとに、コロンはみつけられないでしゅ』 


 コロンは、ちょっぴりうえをむいたはなを、そらにむけました。



 そのころ、マンションのいっかいでは、さわぎになっていました。


 ケイスケが、さんかいのベランダから、おちたのをみかけたじゅうみんが、かけつけてきたのです。


 さいわい、けがはありませんでしたが、ケイスケはショックからか、おちたときのきおくを、うしなっていました。


 じゅうみんがよんだ、きゅうきゅうしゃが、サイレンをならして、マンションのまえにとまります。


「こんかいは、なんだか、コロンのきもちがわかる」

『しかえしは、ひつようなかったでしゅ。さっ、愛をさがしにいくでしゅ』


 ケイスケの、ちのなみだで、あかくそまった、シッポをゆらしながら、コロンはたびをつづけます。

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