第2話 しあわせのロンロン

 そのひは、ゆきのひでした。


 ロンロンは、ちいさなふわふわのシッポをもった、ようせいのコロンを、せなかにのせて、したをむいて、あるいていました。


 コロンは、みずいろのちいさなカサをだきしめて、ロンロンにかざして、こういいました。


『ロンロン、なにをおもいだしているのでしゅか?』


 コロンのしつもんは、こんきょのないものではありませんでした。


 ロンロンはむかしのことをかんがえるとき、どうやらしたをむくくせが、あるらしいのです。


「なんでもないな。ああ、たいしたことじゃない」


 ロンロンはせっかく仲良くなったコロンのことを、あまりしんぱいさせたくありませんでした。


 だから、なんにもいわず、トボトボとあるきつづけていました。


『ロンロン、愛がこぼれていくでしゅよ』


 ハッとして、ロンロンは、かおをあげました。


(もう、すぎたことでなやむのはやめよう。コロンについてゆけば、はくりゅうのさとへつくんだから)


 そしてぷるぷるっと、つよくからだをふりました。


 ぽいーん! カサをだきしめたままのコロンがころげおちました。


『あ! ロンロン、まって……』


 コロンが、うでをさしのばします。


 けれどそのとき、ロンロンのよくきくはなに、おはなのかおりが、とどきました。


「あれは、ひょっとして、星花ちゃんのにおい!」


 ロンロンはわれをわすれて、はしりだしました。



 くんくん、くんくん。


「あっちからだ!」


 けれど、それはおはなやさんの、みせさきのにおいでした。


「たしかに、このにおいのはずなのに」


 ロンロンは、とほうにくれてしまいました。


 きづくと、コロンのすがたが、みあたりません。


 どうやら、みちばたに、おっことしてきてしまったようです。


「たいへんだ! ワシ、コロンをおきざりにしてきてしもうた!」


 もときたみちを、かけもどりますが、それでもコロンはみつかりません。


「ああ、ああ! あんなちいさな、かわいいようせいが、たったひとりでどこへゆけるだろう。こまったぞ、こまったぞ」


 しきりとにおいをかいで、コロンをさがします。


「コロン、コローン!?」



 そうしているうち、よるがやってきました。


(あのよるも、こんなゆきだったのお……)


 ロンロンは星花ちゃんをおもいだします。


 そのきおくでは、まずしいアパートのいっしつで、おおきなものおとが、していました。


『でていけ――! おやのいうことをきけないこどもは、うちにはいらん!!!』


 たいへんけわしい、どなりごえとともに、とびらがなるおとがして、はだしのままの星花ちゃんがでてきました。


 ロンロンがみあげると、星花ちゃんはひびわれためをして、ロンロンのつながれたはしらのまえを、とおりすぎていきます。


(どこへいくの? 星花ちゃん!)


 ロンロンはわけもわからずシッポをふりましたが、星花ちゃんは、たったひとりでいってしまいました。


「わんわん、わんわん!」

『うるさいぞ! きんじょめいわくだ、だまれ!!』


 いえのなかからは、どなりごえがするばかり。


 星花ちゃんがゆくえふめいになったことも、ながいこときづかれませんでした。



 ゆきが、星花ちゃんのにおいを、おおいかくしてゆきました。


 きろくによれば、かんとうではさんじゅっセンチの、おおゆきがつもり、ちょっとした、いじょうきしょうでした。


(星花ちゃん! 星花ちゃん!)


 がるる! とロンロンは、つないであったヒモをくいちぎると、ゆきのなかへとびだしてゆきました。


(星花ちゃん、どこだい!?)


 ロンロンは、おかへのぼって、ゆきのうえをはねました。


 うれしかったわけでは、ありません。


 そこは、いつか星花ちゃんときた、さんぽみちでした。


 きっと星花ちゃんはここにいる! そうしんじたから、ちからづよくはねたのでした。


「わうー! わんわん!!」


 けれど、なかなか星花ちゃんは、みつかりません。


 おかのこうえんにたどりついたとき、ちいさなあかりが、チカチカとひかっていました。


(星花ちゃん!)


 星花ちゃんは、がいとうのあかりのしたの、タイヤのうえに、ぽつんとひとり、うずくまっていました。


「わんわん、わんわん!」

「……ロンロン」


 星花ちゃんは、はじめてロンロンのことにきがついて、こちらをみました。


 でも、たちあがりません。


 ゆきのなかをあるいてきて、すっかりかじかんでしまったのでした。


 ロンロンは、ゆきやまのきゅうじょけんのように、星花ちゃんのからだをあたためました。


「ロンロン……おとうさんは、星花のこといらないんだって。だから、もうここでねむるんだ……」


(だめ! 星花ちゃん、それはだめだよ。こおっちゃうよ!)


「あさになったら、がっこうへいくんだ……」

「ううーっ、わううわう!」

「ロンロンはあったかいね」


 そういうと、星花ちゃんは、いしきをうしなってしまいした。


 そのうち、そうさくたいがきて、星花ちゃんはたすかりました。


 まわりのおとなは、だまって星花ちゃんから、ロンロンをひきはなそうとします。


「ううーっ。がるがるっ」


 きばをむくと、そうさくたいの人たちは、よしよしといって、ロンロンにくちわをつけました。


 ロンロンはあばれようとして、つかまってしまいました。


『星花、もういいだろう。わがままはそれくらいにして、うちへはいりなさい』


 おとうさんが、いいました。


(星花ちゃんをおいだしたのは、おとうさんなのに! 星花ちゃんがわるいものか!)


 とんださわぎになってしまって、すこししゅんとしたようすのおとうさんは、ロンロンにあたらしいくさりを、かってきてつけると、またいつものにちじょうにかえっていきました。



(あのときとはちがう……? いいや! なにもちがってはいない!!)


 ロンロンは、いかりとくやしさになきます。


 あのときの星花ちゃんを、すくえなかったじぶんのきもちをも、とおぼえにしてはいいろのそらへ、おしあげるのです。


『ロンロン……』


 そのとき、ききおぼえのあるこえが、しました。


 みると、みずいろのカサのほねが、どうろのざっそうにひっかかっており、そこから、コロンがでてきました。


「コロン! ここにいたのだね」

『ああ、かえってきてくれたのでしゅね。よかった……はくりゅうのさとは、まだまだとおいでしゅ。もう、ひとりで、どこかへいっちゃわないでくだしゃい』

「いくものか!」

『ロンロンはあったかいでしゅね……』


 コロンはぎゅっとロンロンにしがみつきました。

 

 ふたりきりのよるが、ふけてゆきます……。

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