第8話 穏やか(?)な日常
孤児院に来てから、一年経った。
私は今、目の前の少年と長めの棒を突き合わせて、身構えていた。
少年が1歩前に踏み出し、私の胸目掛けて、棒を突き出す。
それを悠々と私は躱し、腰を落として、相手の懐に潜り込む。
「遅い」
「・・・・────!!」
「あ」
相手の#鳩尾__みぞおち__#を少々手加減して突くと、少年は軽く吹っ飛んで、地面に倒れ込んだ。
やっば、強く突きすぎた……と思いながら、倒れた少年───ゼパール・ランブイエこと、ゼルの元に駆け寄り、治癒魔法をかけて彼の傍にしゃがみこむ。
「ゼル、ゼル……生きとる?」
抱えた膝に頬杖をつき、片手でゼルの頬をぺちぺちと叩く。
「……って死んでないわ!!」
「なんだ、生きてた。」
ガバッと上半身を起こしてそう言うゼルを私は半眼で眺める。
「また、1本とられた……」
「あれ、まだ足りん?もう一本行っとく??」
私がそう優しい微笑みを浮かべて言うと、ゼルは引きつった笑いを浮かべて、後ずさった。
「…なんかさ、お前、結構ドSってか………割と戦闘狂だよな」
その言葉に私が笑顔のまま青筋を浮かべて、地面に落ちていた棒を手繰り寄せて握り直そうとする前に、彼の父親が彼を呼ぶ声がした。
「あっ、やべ、帰らなきゃ。じゃあな、リベラ、また来週な!」
そそくさと向こうへ走り行く彼の背中を見ながら、私はこっそりと溜息をついた。
……どうしてこうなった??
彼、ゼパールと初めて会ったのは、私が孤児院に入ってから、1週間後ぐらい。
彼の顔を見た瞬間に分かった。
…そう、彼は、例の乙女ゲームの攻略対象者である。しかも、隠しキャラ。
もう一度言う。
隠しキャラである。
(……何で初っ端から、隠しキャラと会うわけ!?)
彼は、ゲームでは悪役令嬢の従僕で、悪役令嬢に顎でこき使われていて、そんな中で自分に優しく接してくれるヒロインに恋に落ちる、というものである。
ゲーム内での攻略では鉄板だが、攻略には、攻略対象の心の闇を癒すことが必須だ。が、
(全っぜん、ゼパールの背景知らないわ…)
確かに、前世の友人は、彼について語っていたとも。
しかし、隠しキャラなだけあって攻略に時間がかかっている。時間がかかった。すなわち、高3の頃。
つまり、バイトの忙しさがピーク時。
連日のバイトで疲れていた私は、
(ほとんど聞き流してた…!!)
ガックリと項垂れる。
ほとんど未知の攻略対象なんて地雷でしかない、と避ける気満々だったのだけれど。
普通に仲良くなっている今現在。
これは、ある2つのことをやらかしてしまった私が完璧に悪いのだ。
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