*閑話* とある少年の出会い
よく晴れた日の昼間。
俺は、週に一度の孤児院訪問のために、教会に向かう馬車に揺られながら、小窓から流れてゆく街の風景を眺めていた。
俺の家は、大きな商家が成り上がって爵位を買った、新興の準男爵家である。
成り上がりなのに、貴族という身分に舞い上がった両親は、すっかり平民を見下してしまっている。
自分たちをひけらかす、よく肥えた両親が恥ずかしく、せめて自分自身は、という思いで、こっそりと身体を鍛えて、経営学も学んでいた。
今回の孤児院訪問もそうだ。
その孤児院は、うちが出資している孤児院で、週に一度の現地視察に、
『お前も来て、孤児たちを見ることで、自分の身がいかに尊く、遥か上の身分なのか、知るといい。』
と、腹の肉を揺らしながら言う父親に、俺も毎週連れられている。
何が尊い身分だ、俺達もついこないだまで平民だっただろう、という反発心のもと、初めは行きたくなかったが、自分の将来のために必要なことか、とついて行くようになった。
今となっては、ただ単純に同年代の孤児たちと遊ぶのが楽しく、親の目を盗んで、子供達と仲良くしているので、週に一度のこの外出は、俺にとっても楽しみなものだった。
この日、父親の機嫌が、いつもに増してやたらと良かった。
理由を聞いても『お前にはまだ早い』、と詳しくは教えてくれないが、何やら『希少なもの』が手に入ったらしい。
そうこうしている内に、教会に着いた。
いつも通り、教会の神父が父親に媚びへつらいながら、中へと俺達を案内した。
教会のメインホールを抜けた後は、父親は神父と話をするためにさらに奥の部屋へ行くが、俺は父親をまつ間、子供達と遊ぶために、2人と別れる。
いつも別れるはずのところで、神父は足をとめた。
急にとまったことに俺は訝しげな顔をするが、父親は訳知り顔で、「どれだ」と神父に問いかけた。
神父は孤児たちが集まっている方向を手で示し、「あちらです」と言った。
神父が指し示す方向を見て、
俺は目を見開き、息を呑んだ。
そこには、筆舌に尽くし難い、美しい少女がいた。
透き通るような、白い肌。
薄い桃色がかった輝くような、でも優しいふんわりとした
長い金色の睫毛に縁取られた瞳は、蜂蜜を溶かしこんだような、金色で。
その少し目尻の下がった大きな垂れ目は、彫刻のように整った顔つきを、柔らかいものへとしていた。
「ほう、これはこれは……」
「人目につかぬよう、あまり外へは出さぬようにしております。」
感嘆の言葉を漏らす父親に、神父が何やらヒソヒソと囁く声で、漸く俺は我に返った。
満足気に神父と話しながら奥へと向かう父親を見送り、再び少女に視線を戻そうとすると、よく俺に懐いている、小さな3歳の男の子のサムが、大人がいなくなったのを確認して、俺に飛びついてきた。
「兄ちゃん!!久しぶり~!!」
サムの小さな頭を撫でながら、まだ呆然としていた俺は、サムに聞いてみた。
「サム、あの女の子は誰なんだ??新しい子か?」
「 あの子はねぇ、リベラっていうんだよ!!僕らの新しい家族!天使さまみたいでしょ~?」
そう得意気に話すサムの頭を再び撫でて、リベラ、という名前を頭の中で反芻させる。
早く行こう、とみんなのいる所に向かうサムの小さな手に引かれて、かの少女と距離を縮める。
歩きながらも少女を見ていると、少女を囲む子供達に何かを話しかけられた拍子に、少女は楽しそうに笑う。
そのキラキラと弾ける笑顔に釘付けになった。
あの笑顔を俺にも向けてほしい。
友達になりたい。
醜い両親ばかりを見てきて、冷え切っていた俺に、強い渇望が広がる。
そんな俺の視線に漸く気づいた少女は俺を見たあと、驚いたように僅かに目を見開いた。
それがどういうことなのかは、よく分からないけれど。
やっと彼女の元に辿り着いた俺の頭は、彼女に話しかけることでいっぱいになっていた。
「—————ねぇ、君は___、」
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