十三、報告は慎重に

 そうして俺とザブロンは、その日のうちに村に帰った。


 俺たちが村に着いたのは、ちょうど夕食が終わり、皆が中庭で集会を始めた時だった。


「ああっ! あの二人、帰ってきたわ!」


 真っ先に俺たちを見つけたアリーチェが嬉しそうに叫んだ。


 俺たちが予想外に早く戻ったので、皆驚きとともに大喜びで迎えてくれた。


「早かったな、まずは無事に帰ってきてくれて本当に良かった」


 カルロ長老が白いあごひげに埋もれた顔でニコニコ微笑む。


「はい、軽く見てきただけですが——とりあえず初めての調査には、十分だと思いまして。な、ザブロン」


「ああ」


 興味深々という皆の視線が俺に集まる。


「で? どうだった?」


「誰かいた?」


「どんなだった?」


 俺たちは、見てきたことをかいつまんで話した。



 英語を話す夫婦ものがいたこと。


 領主が村をまとめているらしいこと。


 鶏がいて、リンゴの木があって、物資には恵まれているらしいこと。



「これだけしか見てきませんでしたが、一刻も早くお知らせしたくて戻ってきました」



 皆、それぞれ違った面持ちで俺たちの報告を聞いていた。


 押し黙ったまま誰も何も言わないので、カルロ長老が声をかけてくれた。



「ま、二人とも疲れただろう。何か食べて、今日は早くおやすみ」


 長老の言葉に甘え、俺たちは夕食をしに母屋に行った。



 中庭ではまだ集会が続いていたが、俺とザブロンは納屋にしつらえた寝室で早々に寝床に入った。


「おい、チェスワフ」


「何だ」


「お前……あの村、どう思った」


「どう思ったって?」


「いろんな物があってさあ……ここよりいい暮らしだったろ」


「……そうだな」


 ザブロンが何を言わんとしているか、何となく判った。


「……みんなで移住しようとか、そういう話になると思うか?」


「まあ、いきなりそういう話にはならないかもな。まずは交流が必要だろう。領主が仕切ってるっていうなら、カルロがその領主とやらに会う話にもなるかもしれないし。ま、移住とかはそのあとだろうな」 


 やはり、ザブロンはあちらに行きたいのだ。


 無理もない。


 前回の冬はなんとか生き延びたが、食料にも事欠いた。


 雪が降るほどではないにしろ、十三人の人間が生きていくためには、食料の蓄えも少なかった。

 秋のうちに、手に入るものは何でも乾燥させたり、燻製にしたりして頑張ったのだが——。


 今は、俺たちも総勢二十人。


 食料も頑張って貯めているが、どうなることか。


 ザブロンは前の冬を経験していないが、皆から話を聞いて不安がっていた。

 彼ら、ザブロンとハミシがここにきたのは、まだ肌寒い三月の事だった。


 その時でさえ、相当寒がっていたのだから。


「心配するなって、ザブロン。何とかなるさ」


 暗闇でザブロンのため息が聞こえた。


「冬までは、まだ何ヶ月もあるんだから」


 俺は自分の励ましの言葉が虚しく空回りしているのを感じた。 

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