十、出発は薄明に
そう、俺チェスワフは、ユキさんや長老たちと同じ時にここに来た。
ここに来る前、俺は友人グループと故郷ポーランドからイタリア旅行に来ていたのだ。
何ヶ月も前から計画を立て、いろいろな観光名所を回る予定だったのだが、楽しみにしていたイタリアについた矢先に、地震に遭ってしまった。
イタリアも割と地震が起きるとは聞いていたけれど、まさか自分が巻き込まれるなんて——
そして——
気がつくと、こんなところにいた。
一緒にいたはずの友人たちは、誰もいない。
その後いろいろ皆と話したが、地震との因果関係もはっきりとはわからない。
わからないが、一緒にここに来た十三人が十三人とも、あの地震にあったそうだ。
ただ、ザブロンたちは違うし、日本人たちも日本で海難事故にあった後ということらしいし——
結局のところ、何なんだろう?……
まあ、今しなければならないのは、とりあえず生きていくこと。
元いたところに戻る方法を探すのは、とりあえず後回しにするしかないのだ。
出発は、よく晴れた日の早朝だった。夜明け前に起きだして、薄暮の中持ち物を確認する。
「気をつけてね」
気がつくと、ユキさんが心配そうな顔で立っている。
「一応、たくさん持って行ったほうがいいと思うから」
と、かなりたくさんの携帯食を渡してくれる。
よく見ると、この朝も早いのに、みんなが見送りに起きだしてくれていた。
「危ないことするんじゃないぞ」
「本当、気をつけてね」
皆、口々に言ってくれる。
「チェスワフ、ザブロン、あ、アテンション・プリーズ」
普段あまり口を開かない日本人の若者たちも、拙い英語で心配そうに言ってくれる。
「大丈夫大丈夫! みんなの代わりにいくんだし、気をつけて行ってきます。いろいろ情報集めてくるよ」
「そうそう、大丈夫!」
ザブロンも笑いながら言う。
「世界を見てくるぜ」
「さあさあ、早く行かないと陽が昇ってしまうぞ。気をつけて、無茶はしないようにな。軽く様子を見てくるだけでいいのだから、早く帰っておいで」
カルロ長老が微笑んで、握手をしてきた。
その握手した手の中に、何か固いものを感じたので、そっと見てみると……
カルロ老人がいつも身につけている、聖母マリア像が彫られたメダルのついたペンダントだった。
そしてザブロンにも一つ。
ザブロンはそれを見て泣き出した。俺が初めて見た彼の涙だった。
「ありがとう、カルロ」
ザブロンの涙に打たれた皆も、俺たちを取り囲んで暖かい抱擁をしてくれた。
そして、俺たちは皆に見送られ、うっすら白んでくる空の下、元気に出発した。
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