第12話 声

ヴォルカン火山。それはグエリア王国北東に位置する、幅七百五十メートル、標高一千メートルの活火山だ。


そこの入口に僕はついたのだが、すっかり日が暮れてしまっていたので入口付近で野営することにした。


集めてきた手頃な石を円形に並べ、真ん中に枝を置いていく。夜なので魔物も寝ていて作業はすぐに終わった。


火打石で火をつけながら、ぼんやりと思いふけっていると、突然、どこからともなく不思議な声が聞こえた。


「……たちが……を……」


「だ、誰!?」


女性の声だった。僕は慌てて剣を手に取り、周りを見渡した。しかし誰もいなかった。


「……た。だが……まだ……とき……い」


次に聞こえたのは老人の声だった。また周りを見渡すが、やはり誰もいない。頭の中に直接声が流れて来るようで、初めての経験で少し気持ち悪くなった。


途切れ途切れで何を言っているのかわからなかったので、声に意識を向けた。しかしその瞬間、声は聞こえなくなってしまった。


「一体なんなんだこれ……」


僕は心底不思議に思って、暫く声が聞こえないか待ってみたがやはり聞こえない。


「ふぁあ…。もう眠いし、いっか」


僕は焚き火に火をつけて、傍で横になり、重くなった瞼をゆっくりと閉じた。







ぼんやりと光景が見えてくる。


とても美しい女性が、椅子に座っている老人に膝まづいていた。


絶世の美女と言っても過言ではないくらい美しいが、明らかにおかしい点がある。


翼が生えているのだ。


背中から一対の真っ白な翼が生えている。彼女が人間ではないと直ぐにわかった。


「人間に知らせるべきでしょうか?」


膝まづいている女性の声には聞き覚えががあった。そう、さっき頭の中に聞こえてきた声と同じだ。


「いや、まだいいじゃろう」


座っている老人にも翼が生えている。そして、その老人の声もさっき聞こえた老人の声のものだった。


「では、いかが致しましょうか、ホティ様?」


ホティ。聞いたことの無い名前だが、老人の名前らしい。


「ふむ……。ではこの一件をフィクロスに伝えておいてくれ」


「かしこまりました」







声がだんだん遠くなっていって、目が覚めた。


目を開けると眩しい太陽の光が目に入った。眩しかったので慌てて腕で目を隠す。横を見ると焚き火が燃え尽きて消えていた。


「ふぁああ〜」


大きく伸びをして体を起こす。体の関節がパキポキ鳴っているのが分かった。


「なんの夢見てたんだっけ……?」


昨日の夢を思い出せない。たしかに何かを見たはずなのだが。


「とりあえず朝ごはん食べるか」


僕は持ってきた朝ごはんを素早く取り、出発の準備を整えた。


ヴォルカン火山の入口に立って、覚悟を決めた。


「よし、行くぞ!」

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