2章 グエリア王国編
第6話 ギルド、そして出会い
「ここが王都ヘクトか……!」
三日かけてようやく到着した。高さ二十メートルの硬い石製の外壁で王都がぐるっと囲われているヘクト。
前にそびえ立つ高さ八メートルくらいの大きな門は閉ざされており、その横の、一般的な家に使用される程度の大きさの木製扉が開いていた。
一応ノックして誰かいないか確認する。
「すみません、入っていいですか?」
「はい、どうぞ」
中に入ると、門番を任されている兵士だろうか、鎧を着た三十代くらいの男性がこちらを向いて椅子に座っていた。机の上には紙が一枚置かれており、男の隣には剣立てがあり、一本の立派な剣が立てかけられていた。
「こっちに座ってくれ」
男が指さしたのは向かいの椅子だった。
「し、失礼します」
椅子に腰をかける。
部屋には異様な緊張感が漂っていた。
初めて、いや、人生で二度目の村の外の人との会話だ。緊張してしまう。
色々なことを考えていると、質問と検閲が始まった。
「君、名前は?」
「ベラ・バールです!」
すると紙になにか書き始めた。僕の情報だろう。
「では次の質問。君はどこから来たんだ?」
「ペティット村です」
「ペティット村……。あぁ、あそこか」
また書き始めた。男の反応に少し引っかかったが、無視しておく。
「では次。君はここに何しにきた?」
僕がここに来た目的、それはただ一つ。冒険者になるためだ。
「えっと、僕、冒険者になりたくてきました!」
男が僕の返答を聞くと、鼻で笑った。
「冒険者ねぇ。君みたいなのが?」
完全に僕を見下している。だがここでイラついてしまうと、空気に飲まれてしまうようで、心を落ち着かせる。
「は、はい。僕の命を助けてくれた人が冒険者で、その人に憧れてなりたいと思ったんです」
「なるほどねぇ。まぁ頑張ればいいんじゃない? 無理だと思うけど」
「無理って、どういうことですか?」
「冒険者になるためにはギルドに行って試験を受けないといけないんだよ。まぁ君みたいなひよっこは受からないだろうけどな」
初めて知った。冒険者ギルドの存在は知っていたが、試験があるなんて知らなかった。申請をすればすぐなれるものだと思っていた。
「そ、そうなんですね。教えてくださってありがとうございます」
「あぁ。まぁいいが」
男が紙に情報を書き終わると、立ち上がった。
「では検閲を始める。カバンの中のものを出してくれ」
「は、はい」
僕は慌ててカバンを机の上に置き、中のものを全て出した。
そして、取り出したウィールドベアの腕を見て男は少し驚いたような顔をしていた。
「これは……。ウィールドベアの腕か。これを君が?」
「はい、そうです!」
自信満々に言ってやった。しかし、反応はイマイチだった。
「ふーん。なるほど」
それから持ってきたものを全て検閲され、無事に終わった。
「ではこれで検閲は終わりだ。通っていいぞ」
「はい。ありがとうございました」
僕は扉を開け、街に入った。
僕の目に広がったのは、ワクワクするような光景だった。中世ヨーロッパのような立派な家が森のようにたくさん生えており、向こうには大きな城が見えていた。
村しか知らない僕にとって、王都はとても興奮する光景だった。
「すごい、これが王都ヘクト……!」
しばらく浮かれていたが、やるべきことを思い出し、はっと我に返る。
「いけないいけない。ギルドに行かないと」
歩き出そうとしたが、道がわからない。そこで、ウィーンさんに渡された紙を思い出した。
取り出してみると、地図が書かれていた。
「すごい。ここからギルドまでの地図が書かれてる」
僕はこれを頼りに歩き出した。
「いやぁ、それにしても王都ってすごいんだなぁ。人がいっばいだ」
外の風景を見ながら歩いて行く。人は多かったが割とスムーズに進め、十分程度でギルドにつくことが出来た。
「ここが冒険者ギルドかぁ」
二階建ての大きな建物で、[ギルドヘクト]と書かれていた。
意気揚々と扉を開けると、高鳴る気持ちが一気に冷めた。殺気だ。
「ひっ」
扉を開けた瞬間、みんなが僕を殺気立って見ていた。鎧を着たもの、ローブを身にまとったもの、格闘家のようなものなど様々な冒険者がいた。
しかしすぐにその殺気は消え、また各々で酒を飲みながら会話を始めた。
「こ、こわい……」
怯えながらも受け付けに行った。
カウンターには綺麗な受付嬢が居た。
「あ、あの、冒険者になりたいんですけど。」
「冒険者になりたいんだが」
被った。隣を見ると、僕の同じくらいの歳の男の子だった。ちょうどタイミングが被ってしまったのだ。
「ご、ごめん、先どうぞ!」
慌てて僕が譲ると、男の子は礼もなしに受付嬢と話し始めた。
(なんだよ、礼くらい言えばいいのに……)
心の中でそう愚痴をこぼし、順番を待つことにした。
僕の順番が来た。
「すみません、僕も冒険者になりたいんですけど」
「かしこまりました。では、申請料として銅貨五枚をいただきます」
この世界には銅貨、銀貨、金貨、聖貨という通貨がある。銅貨が一番価値が低く、聖貨が一番価値が高い。
しかし今の僕は銅貨五枚も持っておらず、一文無しだった。
「え、お金がいるんですか?」
「はい。申請料が必要になります。」
「そんな……」
ここにきてつまづいてしまった。お金が無い。まさかお金がいるとは思わなかった。
どうしようかと思っていたが、一つ解決策を思いついた。
「そうだ!」
僕はカバンからウィールドベアの腕を取り出した。
「これを申請料としてお願いできますか?」
魔物の素材はギルドで売れると知っていたので、あの時取っておいたが、ここで役に立つとは思わなかった。
「えっと、ウィールドベアの腕ですね。この状態ですとちょうど銅貨五枚です」
その言葉を聞き、心底ほっとした。足りなかったらどうしようと思っていたので、本当に良かった。
「では、試験を行いますのでこちらにどうぞ」
受付嬢についていくと部屋に案内された。
「ここでお待ちください」
ついに試験が始まる。
僕は緊張と不安に押しつぶされそうになったが、冒険者になるという夢を叶えられると思うと、平気だった。
「次の冒険者志願者、入って来い!」
扉の向こうから大きな声が聞こえた。
「行かなきゃ」
僕は心を落ち着かせ、扉を開けた。
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