第7話 試験

扉を開けると、そこはそこそこ広い部屋だった。壁にはランプがあり、割と明るかった。


そこに一人の男がいた。


「やぁ、次は君か。若い子が多いなぁ」


二十代後半の男性で、腰には高そうな立派な剣を付けており、鎧も素人目でもわかる、一級品だ。


「あなたが試験監督ですか?」


「あぁそうだ。名前はトリアル。ランクは金帯きんたいの赤だ。」


「き、金帯!?」


冒険者にはランク帯があり、下から銅、青銅、銀、金、白金、金剛た。また、それぞれのランク帯の中にも色で順位付けされていて、下から緑、赤、黒の三段階だ。トリアルさんの場合、金帯の赤だが、これはかなりの上位に位置している。


まぁ、待ち時間に暇だったので壁紙の説明書きを少し呼んだだけの知識だが。


「もし君が俺に勝てたら、冒険者として認めてあげよう」


「む、無理です! 僕が金帯に勝てるわけがありません!」


「じゃあ諦めるか?」


「それは……」


絶対に勝てない。金帯は才能の域の言われていて、王都でも指で数えられるほどしかいないという。いや、僕なら青銅帯でも勝てないだろうが。


しかしここで諦めてはいけない。やるしかない。


「や、やります……! あなたに勝って、冒険者になります!」


その答えを聞いてトリアルさんはニヤついた。


「分かった。よく言った! 戦う前に君の名前を教えてくれないか?」


「ベラ・バールです」


「ベラ君か……。君はフルネームで答えるんだね。」


「え?」


「さっき君と同じ歳の子が試験を受けたんだけど、その子は名前しか言わなかったからね」


あいつだ。まさかあいつも試験を受けていたとは。さすが冒険者を志願していただけはある。


「そうなんですね。ではお願いします!」


「あぁ、始めようか!」


トリアルさんは剣を抜き、構えた。剣は光り輝いていて、見とれてしまうほどだった。そして綺麗なのは剣だけではなく、その構えもとても美しかった。


さすが金帯の冒険者だ。構えた瞬間に僕でも分かる。魔物とはまた違った威圧感に押されそうになるが、耐える。


僕も剣を抜き、構える。トリアルさんに比べてかなり見劣りする構えだが、仕方がない、とつばと一緒に飲み込む。


「いきますよ!!!」


僕は足で地面を蹴り、一直線に間合いを詰めて切りかかる。


「うおおおお!!!」


思いっきり剣を振ったが、容易く受け止められてしまった。


「くっ」


「なるほど、一気に間合いを詰めてきたか。でも、それじゃ甘いっ!」


トリアルさんが振りかぶった。金帯一撃、食らったら即死だろう。僕は剣を地面と平行にして受け止めようとした。しかしトリエルさんがそれを見てニヤリと笑った。


僕はそれを見た瞬間お腹に激痛が走り、五メートルほど吹き飛ばされた。


「がはっ! な、なんだ今の……?」


何が起こったかわからなかったが、トリアルさんが答えてくれた。


「剣を振り下ろすと見せかけての蹴りだよ。こういうふうにフェイントも入れないと、人と戦う時に死んでしまうよ」


なるほど、さすが金帯だ。今までどれだけの猛者たちと戦ってきたのだろう。圧倒的に経験の差がある。


「ぐ……」


しかしまだお腹が痛い。蹴り一つでやられるなんて、なんて惨めなんだろう。


しかし僕は痛みを堪え、立ち上がった。


「ふーっ。ふーっ」


痛みで息が荒くなっている。ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせる。


「おぉ、俺の蹴りを食らって立ち上がるなんて君はタフだなぁ。でも、これはどうかな?」


またニヤリと笑った。なにかしてくる。僕が慌てて構え直すと、それを見たトリアルさんが呟いた。


「身体能力強化」


これは、強化スキルだ。元から身体能力がずばぬけているのに、それに身体能力強化のスキルを上乗せするなんて、とんでもないことになる。


「さぁ、次は俺から行くぞ、ベラ君!」


トリアルさんは地面を蹴り、さっきの僕と同じように間合いを詰めた。しかし、速すぎる。全く見えない。


「くそ、はやっー」


言い終わるや否や、お腹に痛みが走った。剣でお腹を横一直線に切りつけられた。血が吹きで出る。


「うわあぁぁあああ!」


痛い。そして熱い。あの時と同じ、いやもしかしたらもっと痛いのかもしれない痛みがお腹に広がった。


「ぐうぅぅうう!」


あまりの痛みに剣を落とし、うずくまる。


「はっ!はっ!」


必死に肺に酸素を入れようとする。しかしそれ以上に痛みが襲ってくる。汗も大量にかき、意識が遠くなりそうになる。




「君の負けだね」


その言葉を聞いた瞬間、トリアルさんの言葉を思い出した。


「もし君が俺に勝てたら、冒険者として認めてあげよう」




そうだ、負けたら終わりだ。ここで立ち上がらなくてどうする。


ここで諦めるな、と言うかのように全身に力がみなぎる。


僕の中の熱い意思が燃えあがる。


足はがくがくと震え、血もまだぽたぽた出ているが、痛みを必死にこらえ、剣を杖代わりにして立ち上がった。


「おいおい、まじかよ。立ち上がるのかそれ」


トリアルさんはびっくりして、構え直した。


「君は一体なんなんだ? 本当に人間か……?」


人間だ。しかし不思議と痛みが消え、体が軽くなった。


「僕……昔に両親を……魔物に殺されたんです……はぁはぁ。でも……冒険者の人が助けてくれて…それで冒険者に憧れたんです……!!」


ビリッと空気が変わったような気がした。


「そ、そうだったのか……」


驚いている。しかしそれを気にとめず、僕は剣を構えた。そして死にものぐるいで斬りかかった。


「うぉぉおおおおおおおぉぉおおお!!!」




[ガキンッ]




しかしそれも受け止められてしまった。




そして、彼は右足を上げ、僕を蹴り飛ばした。




「ぐっ!」


吹き飛ばされた僕は何も出来なかった。今までの痛みが蓄積されて、徐々に増してきた。


痛い。


痛……い。


い……た……。




薄れゆく意識の中、トリアルさんが最後にかけた言葉が聞こえた。


「とんでもないやつだよ、君は」




そして僕は意識を手放した。

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