第4話 負けん気

「うおおおおおおおおおお!」


勢いよく家を飛び出すと、ウィールドボアが僕に気づいた。そして僕に続いて村長が家を飛び出し、大人たちを呼びに行った。


目の前にいるウィールドボアが僕に気づき、二、三歩下がった。


突進がくる!


そう思った瞬間、凄まじいスピードで突進してきた。


「プギイイイイイイイイイイイ!」


怒り狂ったように咆哮し、どんどん近づいてくる。


[ドドドドド]


凄まじいスピードだ。僕は突進を剣で受けきれないと判断し、避けることに専念する。


「っぶない!」


なんとかギリギリ避けることが出来た。


[ドォン!]


ウィールドボアはそのまま勢いよく村長の…僕の家に激突した。


見てみると壁が崩れ、ウィールドボアの顔が半分埋まっていた。木でできた家だが丈夫に作られているはず。しかしこうも簡単に壁を壊してしまうとは、凄まじい威力である事には間違いない。


「ど、どうしたらいいんだろう……」


ウィールドボアの突進は剣では受け止められない。ならば正面からの戦闘は確実に負ける。ならば横から斬りかかれば、と思ったがいい案が思いつかない。やはりここは村長たちが来るまで持ちこたえなければいけない。


そんなことを考えているうちにウィールドボアが立ち上がり、首を左右に振り、毛に付いた埃を払った。


そして僕の方を向いて、また突進しようと二、三歩下がった。


「ま、また来る。次も避けるしかない。とにかく耐えるしかない……!」


「プギイイイイ!」


また咆哮し、突進してくる。


[ドドドドド]


さっきと同じくらいの……いや、もしかするともう少し速いスピードで向かってくる。


「まずいっ!」


避けたかと思った瞬間、左腕に激しい痛みが走った。


「!」


見てみると左肩の皮膚ががずるむけており、筋肉の繊維が薄く見えていた。


そして痛みの次に、まるでそこを中心にマグマに触れたかのような熱さが広がった。


「いったあああぁぁあい!!!」


人生で初めての激痛。昔転んで足を擦りむいた時とは比にならない痛みに、僕は倒れてしまった。


[ドサッ]


「〜〜〜っ!」


僕は左腕を抑え、必死に痛みを堪えようとする。


抑えていた手を見ると、掌が真っ赤に染っていた。


涙が溢れてくる。痛みと恐怖によって。


ウィールドボアがこちらを向き、トドメを刺そうと突進しようと助走をつけている。


あぁ……死んだ。


痛みでもう動けない。


せめて最後に村長にありがとうと伝えたかった……。


死を覚悟し、目を閉じた。




「ベラ!!! 大丈夫か!!??」


遠くの方から村長の声がした。

開けた目は涙で滲んでいるがハッキリとわかる。村長だ。それに、他にも大人五人程が剣を持って駆けつけてくる。その中にはウィーンさんとショーンさんの姿があった。



さらによく見てみると、ウィーンさんは右手に緑の液体が入った瓶、ポーションを持っている。


「た、助かった……」


そう思った瞬間、ウィールドボアが村長たちの方を向いた。


「まさか……」


嫌な予感は的中し、ウィールドボアが一気に村長たちに突進した。


「プギイイイイイイイイ!!!!!!」


荒れ狂うウィールドボアはそのままショーンさん目がけて突っ込んで行き…。


「ショーン、危ねぇ!!!」


ウィーンさんがショーンさんをはじき飛ばした。なんとかギリギリで避けれたみたいだ。


良かった。そう安堵した瞬間だった。


[パリンッ]


え?


もっと嫌な予感がする。当たって欲しくない。恐る恐る倒れたショーンさんを見ると、すぐ近くの地面に割れたポーションが落ちていた。




頭の中が真っ白になった。頼みの綱のポーションが……。唯一の回復手段が……今、無くなった。


どうしたらいい?

回復できない。

ポーションは割れてしまった。

この左腕を癒す手段は無い。

僕を助けようとする皆の声が聞こえてくる。

このまま皆に任せて倒してくれるのを待つしかないのか……。






いや、違う。


ここで諦めたら冒険者になれない。


ここで立ち上がらなければいけない。


今までの訓練を思い出せ。


あの日、両親が魔物にやられた日を思い出せ。




思い出した瞬間力がわいてきた。


心はマグマより熱くなり、全身に力がみなぎってくる。


気力が、意識が、戻ってくる。


「うおぉおおおぉおおおおお!!!」


今一度剣を握り締め、痛みを堪え、精一杯の力で立ち上がった。


それを見ていた皆がびっくりした顔をしている。


「ベラ! 無理をするな! 今助ける!!」


しかし僕はそれを否定する。


「皆、手を出さないでください!!!!」


さっきよりもびっくりした顔をしている。まるで、別人を見るかのような。


「何を言っておるんじゃ!! そんな腕で、しかもポーションももう無いんじゃ!! ベラ、お前さんはよく頑張った!!! あとはワシらに任せなさい!!」


「ダメなんです!!!!」


ビリビリと、電流が流れたような不思議な感覚に陥った。みんな呆然としている。


そして僕は心の底から声を出して訴えた。





「立ち上がらないと……。僕が……ここで立ち上がらないと、冒険者に……なれないんです!!!!!!!」





まさに魂の叫びだった。




結果は、納得してくれた。


僕の叫びが届いたんだ。


「わ、分かった。そんなにお前さんが冒険者になりたいとは思わなんだ……。ワシらはここで見守っておるから、助けて欲しかったらすぐ言うんじゃぞ!!!! ベラ!!!! 死んだら承知せんからな!!!!」


「は、はい……!!!」


ウィールドボアがUターンをして、僕に突進してくる。


皆は後ろに下がり、僕のことを陰で見守ってくれている。




不思議と左腕の痛みは消え、信じられないほどに集中できる。




そして僕は全身全霊で、今持てる全ての力をこの剣に込め、振りかぶった。




「プギイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


「うおぉぉぉぉおおおぉぉおおおぉおおお!!!!!!」


今までにないスピードで突進してくる。しかし今の僕には恐怖は感じなかった。




「これが、僕の本気だあああああああああああ!!!!!」




そして思いっきり剣を振りかざした。


[ザンッ]


剣がウィールドボアの頭に当たった瞬間、体がまっぷたつに切れた。


半分になった体はそのままの勢いで後方へ飛んでいった。








勝った。


勝ったのだ。ウィールドボアに。


にわかに信じられないが、僕がやったのだ。僕一人の力で。


「か、勝ったあぁぁぁあああぁあ!!!!」


そう叫んだ瞬間、腕に激痛が走り、意識は途絶え、僕は地面に倒れた。


薄れゆく意識の中、皆が僕を必死に助けようとしているのが見えた。


そして僕は気を失った。

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