日々の風やさしなつかし
病院は、しばらく忙しい時間が続き、土曜になってようやくミルはギルドに帰った。
「長い間ご苦労さまだったな。疲れただろう。」
「ええ、慣れない仕事だったものですから。……まぁデューをなだめるほうが大変でしたけど……」
「ハハハ。お前たち2人がいてくれたら、と思うことは何度もあった。でも我がギルド、皆よく頑張ってくれたよ。シュカのことは聞いたか?」
「はい、もう目を覚ましたみたいです。今頃デューが見舞いに行ってます。」
シュカは金曜の夕方目覚めた。火傷やその他の傷が治るまで、1ヵ月ほど見る予定だが、おそらくもっと早く回復するだろう。デューはもう、再来週には復帰するそうだ。
「失礼します。」
「あ……デューさん……?」
「目醒めた?カンドの噴火、大変だったみたいだね……」
「はい……でも、黙って見ていられなくて……デューさんだったらどうするかなって考えたんです。きっと行くだろうなって。僕は魔法も体力もまだまだだけど、出来ることはあるんじゃないかって思ったから……結局こんなになっちゃいましたけど。」
「いや、運が悪かったんだろう……そんなこともあるさ。1回大ケガするくらいじゃないと僕のようにはなれないかも……なんていうとミルに怒られるな。でもそうやって経験を積むんだよ。次はもっとうまくやれる。お前の力、信じてるからさ。」
デューはそう言って部屋に戻っていった。シュカにとって、何よりも嬉しい言葉だった。
隣の病室には、リアと母が来ていた。父は顔や身体を綺麗に整えられ、しずかに眠っていた。
「お母さんが部屋に行った時には、もう……?」
「うん……。」
「お父さん、会いたがってたよ、お母さんに。」
「そう……そりゃ、私だって、お父さんのこと忘れてはいなかったし、いつ帰って来るのか、心のどこかで待っていたわよ。リアにとっても、ただお金を送るとか、そういう存在にはなってほしくなかったし……」
「最後の最後まで、私のこと心配してた……もっとも、あれが最後になるとは、どっちも思ってなかったけど。」
「でも、最後にリアに会えたんだったら、お父さんは幸せだったんじゃないかしらね……たまに電話しても、ずっとリアのことを気にかけてたんだから……」
「私、ちょくちょく家に戻るようにするよ、これから。ね、お母さん。」
父の死から初めて、リアが微笑んだ。
ヒオは、月曜から稽古に復帰した。やむを得ず劇の開演は延期となってしまったが、劇場自体は無事再建され、団員も揃っていた。
「シアさん……私、魔法を隠すのやめます。」
「そう……。でも、どうして急に?」
「魔法が悪い呪いの為だけにあるんじゃないってこと、伝えたいんです。確かに危険な魔法もあるけど……魔法で人を救えるって、わかったから……私の魔法じゃ、まだまだなんですけど……でもいつか、魔法の素晴らしさをみんなに知ってもらえるようになりたくて。団員のみんなに、言っていいですか?」
「ヒオがいいなら、もちろん。時間はかかるかもしれないけど、きっと伝わるよ。よかったら、今度、魔法パフォーマンスを取り入れた劇やってみようか?綺麗にやれば、もっと魔法を好きになってもらえると思う!」
「いいんですか!?そ、それなら……その時までに、もっと魔法練習します!あ、劇の練習ももちろんですけど、両立させて頑張ります……!」
話してすっきりしたのか、ヒオは前よりも稽古に熱が入るようになった。
アズの仕立て屋も、壊れた個所を直してもらい、翌週から営業を再開した。店長のケガも軽く、初日から2人ともバリバリ働いた。ある朝、フィナがやって来た。
「おはようございまーす。お店、始まったんですね!」
「おー!フィナちゃん!そう、今週からなんだ!学校は?」
「明日からだって!それよりアズちゃん、あの時はほんっとうにありがとう……時間がなくてよく話せなかったからさ……」
「ううん、私こそ、フィナちゃんのことがなかったら一生エンジェルの力から逃げてたし。怖がってただけで、コントロールがきかないわけじゃなかったみたい。ともかく、フィナちゃんが無事助かったから……それがなにより。」
「私、フローリストの自信無くしてたけど……もう少し頑張ってみるね。この前は手伝うって言っても何も出来なかったし。もっと勉強して、困った人を助けられるようになる。アズちゃんみたいに!」
「私はそんな……でも、またやる気になってくれたようでよかった。」奥で店長が優しく笑っていた。
リトラディスカに、再び安寧秩序がもたらされた。
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