二次絶望
再び悪しき夢の轟く
<木曜昼、リトラディスカ>
各地でこの日の作業が再開されると、状況はぐんぐんと好転していった。
チックでは、クーたちが源流にたどり着き、崩れた崖が元通りになった。噴き出していた水は抑えられ、そのうち元の水位に戻るだろう。あとは、国境までの道を片付け、ぬかるみを固めるだけだ。
トロアでは、ルイと少女を含むグループが北の境までやって来た。メンバー皆で魔法を合わせ、海水をせき止める。崩れた泉の岸を整えれば、人が通れるくらいの道が完成する予定だ。液状化した大地も、だいぶ固まってきた。
クスモでは、リアたち3部隊がぐんぐんと進み、国境への道が見えてきた。あと数キロ。雪とその他の障害物さえ片付けてしまえば、とりあえず歩くことが出来る。リペイラ(直れ)部隊の活躍で、なぎ倒された建物も再建されてきた。
カンドでは、多くの建物に「リペイラ」がかかり、元の街の状態を取り戻しつつあった。ヒオ、シュカたちは、ひたすら噴石を片付けていたが、幸いにも大きな火山活動はなく、この日の昼にはようやく岩石の下から道が見えた。
「あ、シュカくん、そこの噴石ってまだ熱い?」
「いや、冷やしたよ。左はまだ熱々だから、気を付けて!」
他の地域よりも作業が大変な分、メンバーの結束力もより強くなる。初対面のメンバーでも打ち解けて、協力し合っていた。
ニッタナー辺に向かった部隊は、「アセンディス(上昇せよ)」を使って、裂けて沈んでしまった地面を少しずつ持ち上げ、均していた。道路中に亀裂が走っているため、簡単に終わる作業ではなかったが、裂け目に落ちないように気を付けながら、なんとか整えていった。だが、真ん中に大きな亀裂がまだ残っている。それを塞げば、作業は終わったも同然だった。
王家は相変わらず慌ただしく、各地と連絡を取ったり、物資を各避難所に運んだりしていた。朝会に代わる中継が終わると、シェラがメイドに声をかけた。
「あの……どこか、復旧作業をしているところで、お手伝いできるところはありましたか?」
「そうね……今、本部に聞いてみるわ。ちょっと待っててね。」
その結果、カンド手前の地域の救助が比較的遅れているので、被災者の救助活動を手伝ってほしいということだった。現場の看護師や医師に薬を運んだり、ギルドメンバーが必要とする道具を馬車から降ろして届けたり、そういったことならシェラにも出来る。支度をすると、家来1人と共に、早速カンド方面に向かった。
リアの父は、水曜の夕方にはチック地域に到着していた。だが、まだ道が完全に整備されていないため、自宅にたどり着くにはさらに時間がかかった。ようやく、傾きかけた自宅を見つけた時には、もう日が沈み、一般の人が作業するには危険な暗さだった。仕方なく近くの避難所で夜を明かし、翌朝、再び家まで行った。
床や柱が少し傾いてはいるが、潰れてはいない。十数年ぶりに、自宅のドアを開けた。中はしんとしていて、人気はない。きしむ床に気を付けながら、居間、キッチン、ダイニング、浴室を見たが、母の姿はなかった。今度は、慎重に階段を上がり、二階の寝室までのぞいたが、やはり誰もいない。何度か母の名前を呼びかけたが、返事もなかった。しかし、久しぶりに帰ってきた我が家は、幸い大きな傷もなく、当時のままである。父は通信機のスイッチを入れたが、リアは忙しいのか、返事をしなかった。少なくとも、母が家に閉じ込められているということはなさそうだ。安心して、寝室の窓からチック川の様子を眺めていた。
シアは中央部を過ぎて、ニッタナーへと続く大通りに出た。まだ、フィナに関する手がかりはない。すると、見覚えのある女性が、心配そうにうろうろしていた。
「あのー、アズちゃんのお店の店長さんですよね?」
「あら!えっと、シアさんでしたっけ?お久しぶりですー。いやぁ、大変なことになっちゃったわね……」
「ええ……ところで、どうかされましたか?」
「ちょっとお店の様子を見に行こうと思ったんですよ。慌てて飛び出したもんですから、何も持っていなくて……商売道具が無事かどうか、ね。」
「アズちゃんはどうしました?」
「私がちょっと遅れたけど、同じ避難所に行きました。ご家族の方も無事そうで。でも、昨日の夕方には私、自分の家族がいる避難所に移動したので……まぁ、大きな体育館ですから、大丈夫でしょうけどね。」
「そうですか……あの、実はフィナちゃんを探しているんです。さっきラジオで行方不明という情報があって……何かご存知ですか?」
「ええ!?さっき私そこで見かけましたよ!すぐそこ、大通りの裏道です。行方不明……?ご家族が探されてるってことかしら……声をかけておけばよかったわ。てっきり、避難所かどこかに向かってるのかと。」
店長の話によると、店の様子を見に大通りに出て来た時、フィナが疲れた様子で裏道を歩いていたという。時折一人で何かを呟きながら、ニッタナー辺の方に向かっていたそうだ。これで、少なくともチック地域には行っていないだろうということがわかった。
「向こうの国境も断層がひどいって聞きましたよ。フィナちゃん、無事であるといいんだけど……シアさんも、もし向かわれるならお気をつけてくださいね。」
「ありがとうございます!!」
アズは、まだ避難所で、毛布を被り、うずくまっていた。姉のメアが配られたおにぎりを差し出したが、食べたくないという。何の話をしても、まともに返事をせず、塞ぎこんでいる。何度も、フィナちゃんはきっと大丈夫だよ、自分を責めちゃだめだよ、そう声をかけ続けたが、アズが頷くことはなかった。
チック川の下流には、ユンが到着していた。下流からでも、だいぶ復興している様子がよくわかる。近くにいるメンバーに声をかけようと思った時、上流から声がした。
「あ!!ユンさーーん!ケガ大丈夫でしたかーーー??」
クーが彼女を見つけて、山から駆け足で降りてきた。丁度作業がいったん落ち着き、麓に帰るところだったのだ。大きく手を振って、にこやかに向かってくるクーを見て、ユンはホッとした。今なら、少し時間を取って、いい取材が出来そうである。
大地が呻り出した。
震えが地中深くから沸き起こり、轟音が地表を覆い尽くすのに、やはり時間はかからなった。
余震だ。本震ほど強い揺れではなかったが、弱っているリトラディスカへのダメージは決して少なくない。
避難所の国民は、次々に悲鳴を上げ、毛布などを被ってその場に伏せた。2日前の怖さを思い出し、泣き出す子供たちもたくさんいた。
この余震により、本震では倒壊することのなかった建物が、いくつも崩れた。だいぶ救助も進んできたと思っていたが、また新たな被害が生まれてしまった。本震からしばらく二次災害が起こっていなかったため、自宅の様子などを見に避難所から外に出ていた国民もいる。
特別編成ギルドは、微動の時点で作業を中断し、出来るだけ安全なところに身を潜めた。しかし、残念なことに、各地から王家の災害対策本部宛てに悪い知らせが入ってきた。
「応答願います、応答願います、先ほどの余震の影響で、えー、チック川側面の崖が再び崩れました!現在急ピッチで対応に当たっています!」
「聞こえますか、聞こえますか、トロアからです、泉の周辺を固めていたのですが、えっと、再び数キロ壊れました、流水による被害を現在食い止めているところです!」
「こちらクスモ、えー、先ほどの地震で、雪山から雪が落ちましたが、大きな被害には至っていません、引き続き注意して雪を片付けていきます。そろそろ国境が開通しそうです、以上です。」
「もしもし、東部から報告いたします、ひときわ大きな断層が、ちょっとなかなか手を付けられなくて、今の揺れで広がったのち収縮しました。巻き込まれた人がいないか現在確認中です。」
「あー、本部の方、こちらカンド地域ですが、揺れによる直接の被害は少ないものの、カンド火山が刺激された模様です……噴火がまた起こるかもしれません、現場からは以上。」
王家は、救急馬車の便を再び増やし、さらにビルテンにも伝えた。せっかく正気を取り戻したジラは、また膝から崩れ落ち、立てなくなってしまった。ジグが近くのベッドに運び、寝かせた。
「プリンセス・ジラ……すこしやすんでください。国のこと、聞かないのがいいです。わたしたち、このこと、やります。安心して、やすんで。ぶじになってから、おしえます。」つまり、これ以上、逐一ジラに悪い状況を報告しても、彼女が具合を悪くするだけなので、リトラディスカに関しては王様やジグたちが協力して何とかするから、良い知らせが来た時だけ伝える、ということだ。今のジラには、休養が第一だった。
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