徒に過ぐる時悲し
<火曜14時、ビルテン>
ジラたちはお別れのセレモニーの最中だった。予定では、夕方にはビルテンを離れ、大陸の港で一晩過ごしてから、馬車でリトラディスカに戻るつもりだった。
「本日は本当にありがとうございました。おかげさまでたいへん楽しい時間を過ごすことが出来ましたわ。」
「こちらこそ、遠い所からお越しいただいてありがとうございます。僕も機会があれば、ぜひリトラディスカを訪れたいと思っております。」
「素晴らしいですね、ぜひ……」
「王様、ジラ様、王家からお電話です。緊急です。」
周辺がざわついた。おそるおそるジラが立ち上がり、事務室に向かって電話を取った。
「もしもし、こちらリトラディスカのジラでございます。」
「あの、もしもし、クーだけど……」
「あら、どうしたの?」
「リトラディスカが、た、大変なことになってるんだ。地震が起きて、こっ、国境が、ぐ、ぐちゃぐちゃになっちゃって、て、あの、」
「ええ?クー、落ち着きなさい。地震があったのね?国境がどうしたの?」
「全ての国境が、雪とか火山岩とか液状化とかで、塞がれてる。完全に孤立しちゃったんだ。東西南北、どこも。」
クーはなんとか時間をかけながら、今の状況を説明した。ジラも真っ青な顔で受話器を握りしめている。ビルテンの電話では、話の内容がスピーカーで王様たちにも分かるようになっていた。さらに、通訳がそれをビルテン王家に伝える。
「じゃあ、今すぐには、私たちも帰れないってこと?」
「うん……どの道も塞がれてるから……。」
「あのね、クー。国境は後でもいいから、国内の避難とか救助を優先してちょうだい。物資はすぐには尽きないから。病院やギルドの活動を優先するのよ。それから、国境付近を片付ける時は、今ある重機じゃ無理でしょうから……特別編成ギルドね。王様、よろしいですか?」
「もちろん。総力あげて取り組みなさい。」
「……っていうわけだから、魔法や何かが使える方をラジオで集いなさい。出来る限り王家に集まってもらって。あとの作業は状況に任せるから。でも国内優先よ、わかった?ええ、クロナも使ってみるわ。じゃあ、また何かあったら連絡……というか、そちらからも随時報告ちょうだい、誰でもいいから。じゃあね、落ち着いてやるのよ!」
電話を切ると、ジラも息を切らして真っ白な顔をしていた。近くの家来が何とかジラを宥める。ビルテン国王も、ジグ王子も、心配そうな顔をしていた。
「王様、あの……」
「うむ。大丈夫。クーたちを信じよう。それに、何度も困難を乗り越えた我が国のこと、国民たちも心を強く持ち、めげずに事に当たるはずだ。」
「ええ、ですが……
王様、今クロナを使うことは?一粒でも、ひとつでも道が開ければ、我々も帰国できます。この星に力を与えるクロナなら、天変地異を解決できるかもしれません!」
「そうか……どれ、瓶を持ってきてみなさい。」
家来が大急ぎで瓶を運んできた。ジラがその一粒を慎重に取り出し、天にかざして強く祈った。
「クロナよ、どうか、国を救い給え……!」
本来なら、クロナが強い光を放ち、不思議な救いが起こるはずだった。しかし今は、弱い光すら帯びていない。1分以上目を瞑って念じたが、輝かなかった。
「ジラ、どうやら、駄目そうだな……」王様が残念そうに視線を落とした。ジラも徐々に目を開き、事実を受け入れるようにゆっくりと手を降ろし、俯いた。
「もしかしたら……」ビルテンの国王が口を開いた。
「その宝石の力には、場が深く関係しているのかもしれませんぞ。」
「場……とは?」
「そういう宝石は、生まれた地とか、発揮する場というのが決められている。リトラディスカで掘り出されたものだから、その国に『属している』状態でしか働かないのか、あるいは、持ち出した者が今現在『属する』場にしか、つまり今はビルテンの地にしか、力を発揮できないのかもしれん。もし何とかして本国に持ち帰れば、例え離れた地でも効果があるだろうが、国も陸も違うとなると……難しいのかもしれんな……残念だが……。」
ビルテンには蓄積された知識があった。ファントムの宝石と同じように、クロナは属する人と場所を選ぶのだ。
「では本当に……私たちは帰れないのですね……ああ、なぜクーが一人の時に……!」ジラは顔を真っ青にして涙を流した。
「大丈夫、大丈夫だ。あいつを信じなさい。ルイもいる。力はもうわしと劣らぬほど優秀だ。それに国民たちも……みな強い。こんなことには負けん。皆を信じなさい。」
王様は力強く、優しく、嘆くジラの肩を抱きしめた。
<火曜夕方、リトラディスカ>
とはいえ、火曜日のうちはギルドを収集するどころではない。当初の指示通り、王家にある救援物資を各避難所に運び、ある程度食料と毛布などを揃える。さらに傷病者を大きな病院に搬送した。その作業が終わった時には、もう19時を回っていた。幸い、噴火や土砂崩れは一旦収まっている。壊れた建物や道路は後回しにしたため、国民は避難所や病院で一夜を過ごすことになった。
チック近くの体育館には、アズとフィナ、その家族が集まっていた。
「フィナちゃん、寒くない?毛布貸そうか?」
「ううん、大丈夫。……どうなっちゃうんだろう、この国……国境がみんなボロボロになっちゃってるんだって、友達が言っていたけど……。」
「うーん……今はとりあえず、私たちが一日でも生きることを考えないとね……。家族とかと避難所で会えたから良かったけど、もし一人だったらとても心細いし、建物に取り残されて帰れない人もたくさんいるだろうから……。」
「今こうしていられることに感謝だね……。あ、おにぎりが届いたよ、食べよう。」
渡されたのはひと家族につき一つの小さなおにぎりだった。冷たく、決しておいしいとは言えないが、家族と一口ずつ分け合って食べた。
一方、ヒオはなぜか劇場に残っていた。中には2人だけだ。他の全員が外へ出た後、カーテンの下敷きになっているシアの元へ駆け寄り、必死で重たい布を持ち上げた。急がないと窒息してしまう。
しかし、ヒオの力も限界だった。怪我しているかもしれないシアの手を引っ張るのは危険である。ヒオは大急ぎで自分の荷物から杖を取り出した。そして、布に向かって唱えた。
「ウィンダス・マキシア(強い風よ)。」
強い突風が放たれ、幕をふわりと持ち上げた。そして運よく、シアの上半身が全て見えるところまでめくれ上がった。ヒオは杖をポケットに隠し、声をかけた。
「シアさん……!大丈夫ですか!?」
シアは目を瞑っていたが、しばらくしてゆっくりと顔を上げた。意識はある。ヒオの姿を認めると、目を丸くした。
「ヒオ……?あなた、どうして逃げなかったの?!何してるの!?」
「あっ、あの……シアさんが、倒れてるから……」
ハッと気づいて、シアは足元を見た。分厚い布がのしかかっている。そして、その瞬間のことを思い出した。
「私……そっか、そうだった……助けてくれたんだね。ありがとう……。」
ヒオの手を借りながら、カーテンから這い出した。倒れた際に打撲や擦り傷は負ったが、幸い骨折などはなかった。
「問い詰めてごめんね……助けてくれなかったら、窒息していたかもしれない。本当にありがとう。他のみんなは?」
「たぶん避難所に向かったと思います。監督さんも、ラジオの人たちも。」
シアは立ち上がり、周りを見渡した。不気味なほどに、しんとしている。
「大きな地震があったんだね……みんな無事かな。ここにいても仕方ないから、私たちも避難しようか。そう遠くないところに体育館があったよね。」
ヒオに支えられながら、ステージから降り、正面玄関へと向かった。だが、傾いた屋根で半分以上潰れてしまい、通れそうにない。諦めて、もう一つの非常口へと向かったが、外に積み重なったがれきが邪魔をして動かなかった。出口は全て閉ざされている。
「ダメか……どうしようね……。確か、倉庫にお水と非常缶詰があったとは思うけど……、救助の人が来てくれるまで、待っていようか?」
ヒオはすぐに頷けなかった。まだリアからシアに話が伝わっていない。つまり、自分が魔法を使えることを知らないのだ。もし魔法を使えば、扉を壊し、外に出ることが出来る。だが、シアとはいえ、打ち明けるのには勇気がいる。そのはざまで葛藤していた。
結局、今日一日は劇場で過ごすことになった。
ギルドには、リアを含め、その場にいたメンバーが全て集まった。彼らでさえも、ただ事ではないことを感じ、落ち着かずにざわついていた。マスターが大声で指示を出す。
「ほら、集まれ!喋るんじゃない!話をよく聞くんだ!ここにいるやつだけでいい、朝会の順に整列!!」
厳しく訓練されているメンバーは、即座に所定の列に並んだ。そのはじっこにリアが並ぶ。彼女のような専属魔法使いは、そこには一人しかいなかった。
「えー、聞こえるか。指示を出すぞ。
ただいま、地震が発生した。おそらく、各地で被害が出ているだろう。多くの人が避難所に向かっている。そこで、まず、寮生は、中央部の倒壊した建物へ救助に向かえ。傷病者を見つけ次第、病院へ連れて行くか、救助隊に報告しなさい。自分の持ち場が済んだら、17時までは、積極的に他の地域へ向かって、地元の警察や消防団を手伝うんだぞ。担当は後で振り分ける。それから自宅生は、家族が心配するだろうから、今日は家へ戻るか、家族に会えそうな避難所に行きなさい。もちろん自主的にこちらに参加したいなら許可するので、ここに残れ。わかったか?ではまずその2つに分かれてくれ。避難する者は十分気を付けて、困っている人に出会ったら助けろよ。」
その後、何人かが集団を離れ、避難所に向かった。だが、自宅生の一部は気丈に参加を志している。マスターが全体の人数を数え、2~3人ずつのグループに分けた。そして、中央部を細かく分け、割り当てが決まったメンバーから早速指定の場所に向かった。
「何か……私にお手伝いできることはありませんか?」
「ん?ああ、魔法ギルドのリア君か。そうだね、その内専属魔法使いにも手伝ってもらうことになるだろうが……今日ここにきているのは君だけか。他の魔法使いはおそらく各自の避難所に向かっているだろうから、とりあえず今は君も避難しなさい。あとで招集するかもしれんから、その時は頼むよ。」
確かに、リア一人ではできることも限られる。今の段階ではマスターの言う通り、避難所に行ったほうが良さそうだ。リアは軽く会釈をして、ギルドを離れた。
メンバーが散り散りになった数分後、シュカたちが帰ってきた。怪我などはなく、無事のようだ。
「すみません、遅くなりましたが、調査完了いたしました。」
「無事で何よりだ。……カンドの方で噴火があったと聞いたが。」
「ええ、そうなんです。噴石が降り注いで、つぶれてしまった建物もありました。救助をしようとしたんですが、いかんせん噴火が激しく、近寄れなくて……」
「カンドでも自警の消防団がある程度は救助活動をしてくれているだろう。今は他に優先すべきことがある。」マスターは先程の活動の説明をして、2人を行かせた。その後も任務・依頼から帰ってきたメンバーに対して、同じように救助を手助けに向かわせた。
その中でミルだけは担当が違った。デューのいる国立病院へと向かったのだ。中央部だけではなく、各地からも、それぞれ地方で受け入れきれなかった傷病者が大量に搬送され、ごった返していた。ナースと医師が総出で病室を行ったり来たりし、事務室では婦長が血相を変えて慌ただしく指示を出していた。幸い、病院の建物に大きな損傷はなく、医療機器やコンピュータもすべて正常通りに動いているため、呼吸器や透析など、常に動いていなければならない機器に異常はなかった。だが、新たに運ばれてきた患者には、その都度薬の投与や傷の手当てをしなければならない。備品はまだ尽きていないが、ベッドの数と共に、受け入れには限りがある。もしそれでも追加で患者がやってきてしまう場合は、入院患者の中で比較的症状が落ち着いている人々の薬や医療品、そして担当のナースを一時的に回すこともやむを得ない。
手助けが必要だ、ということを、マスターは婦長から電話で聞いていた。
ミルは走り回るナースたちの間を縫い、デューの病室へ向かった。
デューは肺の病気にかかっているため、まだ呼吸器が手放せない。咳が出始まると止まらなくなってしまう。また、あまり食事が出来ないため、点滴も必須だ。
「デュー!大丈夫か?ここ揺れただろう?」
「うん……高層だからね……でも、僕よりもっと大変な人がいるから……ギルドでは何の仕事をしてるの?」
「みんな救助の手助けに行ったよ。各地に分かれてね。でも俺は病院の仕事を手伝えって……ナースがデューの事構っていられなくなるんだよ。だからお前の見張り。」
「ずっといるの……?逃げやしないよ……本当につきっきりじゃなくていいから……。」
「わかってるよ。医者の仕事は出来ないけど、荷物を運んだり、ベッド動かしたりは出来るからさ。お前が大丈夫そうなら、他の仕事手伝うよ。……しかし本当に大変なことになっちゃったな……。」
「くっそ……何でこんな時に限って僕は病院で寝てるんだ……」そこまで言いきったところで激しく咳き込んだ。長く話していると、呼吸器を付けていても苦しくなる。
「あんまり喋るなっつったろ。そういう状況だから仕方ないじゃないか。ほら、大丈夫か?ナース呼ぶ?」
デューは首を振った。深呼吸をするように心がけると、咳は自然と止まった。
王家では引き続き、各地と連絡を取り続けた。ジラたちの帰国は延期になり、向こうにも随時連絡を入れているが、各地からの情報を待って、整理してから伝えるので、どうしても遅れてしまう。お互いに、その時差にやきもきしていた。
シェラはルイたちの部屋でメイドと共に待っていたが、どうにも落ち着かなかった。こんな大変な時に、見学を申し込んでしまったことを後悔した。何もせず生活させてもらうのはあまりにも申し訳ないが、かといってセグナに帰ることは出来ない。思い立って、メイドに聞いてみた。
「あの……、何か私にお手伝いできることはありますか?」
「あ、うーん、ちょっと待ってね……シェラちゃんはお客様だから、大変なことに巻き込むのは申し訳ないのよ……」
「ですが、何もしないでここにいるのは……」
「……そうね、クー様かルイ様が帰ってくるのを、待っていてくれるかな?危険なことには送り出せないけれど、小さな仕事なら、お手伝いしてもらうこともあるかもしれないから。」
災害が発生してから、各地のラジオは全て緊急放送に切り替わり、噴火や雪崩などの情報を地域ごとのレポーターが伝えていた。国営放送では、王家から与えられた情報を元に、アナウンサーが代わる代わる、最新のニュースを伝えていた。どの避難所にどのくらい空きがあるのかという情報や、支援物資の状況などを知らせてくれるため、多くの国民にとって欠かせない情報源になっていた。
その放送局では、様々な錯綜する情報を取りまとめるのに大忙しだった。書類を持ったキャスターたちが局内を駆けずり回っている。
「ユン!これ二課に持って行って!あと、あなた、明日代わりに取材行ってくれる?私、避難所に急遽行かなくちゃならなくて。」
緊急時には、ベテランも若手も関係ない。その時できる仕事を見つけてこなすので精一杯なのだ。だが、どうしても、予定外のことが生じると、長く勤めている先輩が、後輩により手間のかかる仕事を任せることが多い。
「はい、ただいま……、え、あしたですか?」
「うん、王家がどう復興に向けて動き出すか調べてきてくれる。もし王様代理のクー様にお話伺えれば一番なんだけど。出来るよね?お願いね。」
「了解、いたしました。」了解せざるをえなかった。彼女はたった今、前のキャスターと交替で原稿を読む直前だったのだが、大急ぎで書類を二課に運び、明日の取材の準備をしようとした。しかし、交替のキャスターはそう長く待ってくれない。準備を後回しにして、ニュース用の原稿に切り替え、何事もなかったように避難の状況を伝え始めた。
「14時36分ごろ、リトラディスカで強い地震が発生しました。現在開設されている避難所をお伝えします。中央部、○○小学校体育館。××高校グラウンド。国民運動センター。カンド地区、……。カンド火山の噴火、クスモ地域の雪崩など、各地で甚大な二次災害が発生しています。現在はいずれも沈静化していますが、再び活性化する可能性もありますので、封鎖された国境付近には決して近寄らないでください。また、避難に向かう際は、落ち着いて行動してください。特に、倒壊した建物には十分注意してください。現在、建物、家屋内で救助を待っている皆様は、決してあきらめず、可能な限り、目立つものを高く掲げてください。消防馬車が到着したら、声を出して存在を知らせてください。緊急時こそ、国民が協力し合って、互いに助け合いましょう。」
<火曜夜、リトラディスカ>
避難所の夜は寒い。ただでさえ、秋めいてきて朝晩は冷え込むのだ。その上、配られた毛布には限りがあり、一家族に一枚、あるいは隣り合ったグループ同士で一枚を分け合うこともある。アズ、フィナのところにも、大きい毛布が一枚やってきただけだった。寒さに弱いフィナを一番真ん中にし、端っこのアズはほとんど被れなかったが、2つの家族が身を寄せ合って眠った。
シアは倉庫の奥から非常用の缶詰の入った箱を引っ張り出した。しかし、3つを残して他はすべて賞味期限が切れてしまっている。1つを分け合って食べ、落ちたカーテンにくるまって眠った。だが、これでは明日の夜までしかもたない。救助されなければ、閉じ込められたまま2人とも飢えてしまう。何とかして扉を破らない限り……
救助活動に向かったギルドメンバーの多くが、本来の門限である17時を過ぎても本部に戻らなかった。シュカは先輩と一緒に、潰れた家屋からケガ人を助け出し、救急馬車に乗せた。リアも、避難所に向かう道すがら、助けを求める声を聞いては、魔法でがれきを吹き飛ばし、時には病院まで連れて行った。最寄りの避難所についたのは20時過ぎだ。
王家では、夕食の時間をとうに過ぎていたが、クーもルイも事務室や倉庫から戻らなかった。馬車はひっきりなしに往復し、その度に事務室から行先の指示を出し、王家にある備蓄品を載せて送り出す。官長がいるとはいえ、それらの全てを取り仕切るのはクーの役目なのだ。この日の夕方の集会は中止。夜も更け、大体の避難所に今送れる分の物資を運びきったところで、本日の業務は終了となった。シェラに手伝わせる仕事はまだ決まっていなかったが、メイドたちと共に夕飯を食べ、慌ただしすぎる王家見学の2日目を終えた。
地方の消防団や警察部隊は、夜通し救助を行っていた。おかげで、がれきに取り残されていた国民は、大半が病院や避難所へ送られた。国立病院は夜も休みなしだ。デューもとりあえず眠りについたので、ミルはベッドを運んだりシーツを片付けたりといった仕事を手伝った。
ラジオは再びキャスターを交替して、引き続き情報を発信し続けた。
<火曜夜、ビルテン>
二次災害がいったん落ち着いた、ということが伝えられると、王様はホッと胸をなでおろした。一方で、ジラは憔悴しきっていた。いったんこの日の王家からの連絡は中断し、ビルテン王家の宿舎を借りて休むことになったが、心配で寝付けない。夜中に起きて水を飲みに来た談話室で、真っ青な顔をしたまま、いつの間にか眠ってしまった。ジグが優しく毛布をかけ、そばに座っていた。
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