解放
Why Are You Here?
「で、ここがCで……」「違うよ、ここがAになるから……」「えっ、でもこっちにBが。」「じゃあここがDになればいいんじゃないですか?」「余計な口出さないでよ!」「いや、ここは確かにDだろ。」「……じゃあここは?」
「出来ました!!」
その声が聞こえたのか、男はふっと扉を見やった。何者かがドアの前で話をしている。すると、暗号と共に頑丈な鍵がかかっているはずのドアが、軋むような甲高い音を上げてゆっくりと開いた。
ディアも手を拘束されたまま、扉の方に顔を向けた。
デュー、ユノ、クー、タウ、ミル。開け放たれた扉の向こうに、並んで立っていた。
「え……?」
「ディアさん、大丈夫ですか!?」
「遅くなってごめんなさい。」
「助けに……来ました。」
何が何だか分からないのは、相手も一緒だった。
「何だお前たちは!どこから来た!」
「リトラディスカだけど、何か。」
「よくもあの鍵を破ったな!!」
「は?破られたくなかったらもっと難しくしておくんだね。」
「やれ!!」
同じく、男たちが5人に襲いかかった。しかし、今度は話が違う。デューは銃を、ミルは剣を持ち、男たちを次々と打ち倒していった。先ほどのディアのようなありさまで、今度はヴァジーレ組が抵抗もほとんどできないまま倒れていった。そのうち数人が拳銃を取り出したが、攻撃をする前に気絶するか、あるいは傷を負って力なくくずおれた。
その間に、タウとクーがディアの元に駆け寄り、手錠を壊し、魔法や薬で回復してくれた。さらに、シェラの存在に気づいたユノが、その縄を解き、同じく怪我の手当てをした。それがすべて済む頃には、ヴァジーレの仲間たちはあのリーダー1人になっていた。そいつも、ケガひとつしていないデューとミルを前に、銃を構えたまま後ずさりした。
「ネックレスを返してくれたら麻酔銃で済ませてあげる。返さないんならこれをあなたの中心にぶち込む。どっちがいい?」デューが不敵な笑みで問い詰めた。
「あの……、殺す前にシェラちゃんのことを聞いてくださ……」
「ん?何かあるの?……じゃあどっちにしても全部話してから、だね。」
デューが手を下げた瞬間に、男が銃を放った。しかし、ミルが一瞬でそれを切り捨てた。
男はすっかり腰を抜かし、震える手でネックレスをこちらに投げ返した。ディアがそれを受け取ったが、その時ちょうど結晶部分を握ってしまった。みるみるうちに手から光があふれ、その場に倒れていた向こうの仲間たちを瞬間冷凍した。シェラが目をまんまるくしてそれを見ている。
「あ……やば……」
「別にいいですよ、手間が省けましたから。」
「さあ、これで僕が殺さなくても彼にやられるからね。どうする?」男はついに屈した。
デューが倉庫の後ろのドアを開けると、男性と女性がそれぞれ縄で縛られ、口をテープでふさがれて倒れていた。
「大丈夫ですか?……エネルーガ(気つけ)。」2人が目を覚ましたところで、テープをはがし、縄を解き、支えながら歩いた。ディアは、残りの4人に今までの経緯を説明していた。
「……!おとう……おかあ……さん?」
シェラが2人の姿を認め、勢いよく走りだす。しかし、傷ついた足が疼き、すぐに転んでしまった。両親もシェラに気づき、母親がゆっくりと歩み寄る。
「シェラ……!あなた……無事だったのね……良かった……。」
母がシェラを抱きしめ、父親も2人の肩を優しくなでた。幸い、両親に大きな怪我はないようだが、ずっと閉じ込められていたためか、疲弊している。しかし、わが子を抱きしめるその腕は強かった。シェラは、最初は涙を堪えていたが、今まで我慢していたものが一気に解放され、大粒の涙を流して体を震わせた。
両親にも、ディアから説明をした。彼らは一昨日、買い物をしていたが、そこで両親だけがヴァジーレに拘束され、シェラはそれを知らず置いて行かれてしまったのだ。ヴァジーレの目的は金銭と、父親のビジネス情報を盗むことだったらしい。どちらの要求も断ったところ、先ほどのように身体を縛られ、昨日から1日半、倉庫に閉じ込められていた。要求にこたえるまで、食事も水も与えず監禁するつもりだったようだ。しかし、シェラがどこで何をしているのかは、ヴァジーレも両親も知らなかった。
「とにかく、無事にご両親に会えてよかった……!」
「本当にありがとうございました。ディアさんがいらっしゃらなかったら、シェラはどうなっていたことか……」
「いえいえ、とんでもないです。それより、危険なことにつき合わせてしまって申し訳なかったです。シェラちゃんに、何度も救われましたし……」
ようやく泣き止んだシェラが、何度もディアに礼を言った。
「ディアさんがいてくれて本当に嬉しかったです……。とっても心強かったし、大丈夫だって思えました。ディアさんも、無事に宝物を取り返せて、本当に良かったですね!」
「僕だけの力じゃないよ。信頼できる仲間たちが、助けに来てくれたから……最後はどうなることかと思った。」
そういうと、シェラは5人の顔を見渡した。そして、小さくお辞儀をした。
「しかし……どうしてヴァジーレに、このネックレスの事がばれたんだろう……。」タウが怪訝そうな表情を浮かべた。
「あ、そういえばもう一つのアジトに……」
「え?アジトがもう一つあるの?なら早く言ってよ!こうしている間に逃げられちゃう。」デューが声を上げた。
「いや、あいつらはこちらの様子を知らない、だから勝手に逃げはしない……私が捉えられれば、ヴァジーレは終わりだ……。」
「あっそう。じゃあ帰りに寄って行こう。で、ごめん、話遮って。」
「そっちに教授らしき人がいたんですけど。タウさんとも面識があるみたいです。痩せてて、背は中くらい、眼鏡をかけていて、髪は薄くて、リトラディスカ人みたいな顔つきです。」
そういうと、タウは卒倒しかけた。
「嘘だ……懇ろにしていたのに……信じていたのに……あの人にだけは、僕が今興味を持っているレポートについて相談していたんです。だからファントムの研究にもよく助言をもらいましたし、完成品は見せていませんが、経過のレポートは……おそらく目にしていると思います。まさか彼が……」
「ファントムがリトラディスカにいて、タウさんもリトラディスカ人、ディアさんの顔も名前も割れてて、しかも2人が友達となれば……目を付けていたのかもしれませんね。でも、まあ、無事に済みましたし。」クーが慰めた。
「でもギルドは確か、僕の事件に手を出せないといっていましたよね……?なぜみなさんそろってここに来たんですか?」
すると、5人が口々に説明を始めた。
ディアとシェラが、古い倉庫の扉を開けて歩き始めたころ。
王家警察庁からギルドに、一通の依頼が届いた。緊急性や重要性を表す黄色い紙だ。差出人は詳しく書かれていなかった。しかし、依頼を担当するメンバーは、デューとミルの2人が指名されていた。
朝、ギルドの集会が始まってすぐ、マスターは2人を招集し、この旨を伝えた。
「警察庁より。えー、先日発生した強盗殺人に展開があり、犯人はニッタナーに拠点を置くヴァジーレの一員であるという疑いが高まった。ヴァジーレとは世界的犯罪組織であるため、早々に芽を摘み取りたいと願う。そこで、今回は特別に国外任務許可を出す。ヴァジーレを突き詰め、罪を暴いてほしい、だそうだ。お願いできるか?」
「もちろんお受けいたします!」
そして、この事実はすぐに放送局にも伝えられた。そのニュースが流れたのは、王家が朝会を開いているころだった。
「速報です。先日発生した強盗殺人事件に動きがありました。警察は今まで、中央部在住のディア・ヘイルブリッド氏を容疑者として指名手配していましたが、昨夜の新たな証言により、犯行は世界的犯罪組織・ヴァジーレによるものであるとの疑いが高まりました。警察ではギルドに特別任務を発令し、現在追跡の準備を依頼しているとのことです。」
デューとミルが準備を終えて外に出ると、ユノ、タウ、そしてクーがギルド前に集まっていた。
「あれ?どうして……」
「ラジオを聞いたんです。ギルドで向かうなら、きっとお2人しかいないと思って……」
「ディアさんの事なので、いてもたってもいられなくなってしまいました。」
「お手伝いさせていただけませんか?」
「ええ……でも危険は承知ですよね?」
3人が一様に頷いた。クロナ探索を乗り越えた5人に、恐れるものなどなかった。
「じゃ……行きますか。」
「ここに来れば、ヴァジーレのアジトなんてすぐにわかったからね。ディアさんがいるとは思わなかったけど。」
「そうですか……いや、本当にありがとうございます。僕一人では、とてもやりきれませんでしたから……。」
「うん、わかってる。ただ、よく一日持ちこたえたね。運がよかった。」
「それはもちろん……それに、シェラちゃんがいてくれたからです。お互いに支えあえたから、今までやってこられたんです。だから、本当に感謝しています。」
「とにかく、ディアさんが無事でよかったです~!!もうほんっとに心配だったんで~!!」ユノが泣きながらディアの手を取った。
「ええ、まあ体はやられましたが……死なないでよかったです。それにネックレスも取り返せたし、シェラちゃんのご両親も見つかりましたし……、何より、国に帰っても、僕はもう犯罪者として生きなくて良さそうですから。」
「きっと警察もディアさんに感謝していると思いますよ。僕らが助けはしましたが、アジトに飛び込んでいって、最初に暴こうとしたのはディアさんですからね。」
この後、ファントムの魔法によって息絶えた手下を片付け、ヴァジーレのリーダーと、アジトにいた残りのメンバー全員を捕らえた。ディアは無事にファントムのネックレスを取り戻し、あらためて大切そうに身に着けた。ディアもシェラも傷を負い、両親も衰弱しているため、リトラディスカの国立病院へ向かうことになった。ヴァジーレ組員は地元の警察に引き渡し、リーダーと殺人事件の実行犯(2人いたが、うち1人は先程の倉庫で死亡した)はリトラディスカの警察に連行するため、デューたちがしっかりと捕まえたまま歩いていた。
道中、シェラの母が6人にあることを打ち明けた。
「あの……リトラディスカに着いたら、お話ししたいことがあるんですが……」
「なんでしょう?」
「王家に立ち寄っていただく事って可能ですか?」
「王家?」
「ええ……実は私たち、王家にいらっしゃるネリさんの本当の父母なんです。」
「……!?」クーが目を見開いて足を止めた。
「……彼女には、本当に申し訳ないことをしてしまったと、今でも後悔しています。ですが、なかなか顔を合わせる機会も、会う勇気もありませんでした。しかし国立病院に行くとなれば、婦長様にお会いすることにもなります。もう立派な大人になられた今、ほんの少しでも直接お話が出来ればと思いまして……。」
「そうですか……。実は僕も、ネリが本当の――ルイと双子ではないと聞いたのはつい最近の事でした。……会ってあげてください。心から話をすれば、きっと伝わると思いますから。」
「ありがとうござ……」
「ねえ、どういうこと……?」驚いたのはシェラだった。
「ああ……シェラには何も言っていなかったね……。母さんの言う通りなんだ。実は我々には、もう1人娘がいた。だが当時、会社が経済的に大変落ち込んでいてね、娘が生まれたものの、決して簡単に育てられるような状況じゃなかったんだ。赤ん坊のネリに苦しい思いをさせて、我慢を強いながら育てるより、もっと立派な家庭で暖かく育ってほしかった……。ギルドなら、きっといい当てがあるだろうと思ったが、すぐにでも国を発たなければならなくなって、やむなく道に置き去りにするしかなかったんだ。王家の方々に預かっていただけて安心してはいるが、とても顔を合わせられなくて……申し訳なくてね。」
シェラは真剣なまなざしで話を聞いていた。
国境辺りに、中央部までの馬車がちょうど停まっていた。ヴァジーレはギルドの2人と共に馬車に乗せられ、ディアたちがもう1つの馬車に乗り込んで、片方は中央地方警察署に、もう片方は国立病院へと向かった。馬車内でも、シェラの両親は、ネリへの気持ちや当時の事実を真剣に語っていた。一方、ギルドの二人は、事件についてヴァジーレからあれこれと厳しく問い詰め続けた。
1時間程で中央部についた。デューたちは警察署前で降り、警官に事情を話した後、犯人たちを引き渡した。警官はディアが犯人だと信じて疑わなかったので、正式にヴァジーレの仕業だとわかると大変驚いた様子だった。
「……そうですか。了解いたしました。たいへんご苦労様でございます。で、ヘイルブリッド氏は……」
「あ、彼は負傷していますので、今病院へ向かっています。まあ意識もありますし自分で歩けますから、すぐに戻ってくるでしょうけど。……彼に謝ってくださいね。件の警官は偽物でしたが、結局は彼を追いつめていましたから。」
「はい。回復し次第、すぐにご連絡申し上げます。」
ディアたちは国立病院前で馬車を降り、救急科で手当てを受けた。魔法で回復しておいた甲斐もあって、比較的簡単な手当だけで済みそうだ。しかし、4人とも衰弱した体力を回復させるために一晩点滴を打ってもらうことにした。その間にクー・タウ・ユノの三人は王家に戻り、合流したデュー・ミルと一緒に今回のことをジラに報告した。
「皆さまご苦労様です。また一つ悪を暴いていただき、本当に感謝しております。」
「……で、もう一つ報告があるんだけど……」
「何かしら?」
「そのシェラちゃんのご両親はね……、ネリの本当の両親なんだって。」
ジラも驚きを隠せない様子で、目を丸くして口を手で押さえた。
「本当に……?」
「うん……明日退院したら、ぜひお話したいっておっしゃってるんだけど。」
「そう……、明日は2人の公務は入っていないから、大丈夫だと思うわ。王様にも一応話をしておきましょうね。」
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