What is Your Purpose?

 建物の中は案の定薄暗く、近づいても中の様子はうかがえない。助走をつけて網をひらりと飛び越え、足音をできるだけ立てずに扉に近づいた。

 ここから先は、ビビっていたら相手の良いように取られる。自分は何も悪くないのだから、正義感で感覚を麻痺させ、堂々と乗り込んだ方がいい。

 ドアを思いっきり開け放し、中に向かって叫んだ。

「ギブミーバックマイネックレス!!!」

 中の電気がともり、3人の男がハッと振り向いた。そして、端の二人が手に拳銃を構えたが、真ん中の男がそれを制した。

「Who are…Uh-huh.」

 こちらの姿を認めると、男は謎のヘッドホンを装着した。隣の男もそれに倣う。どうやら真ん中のあいつがこの中では立場が上らしい。ヘッドホンにはマイクがついていた。

「アー、ア……、よろしい。」機械交じりの声だ。

「よくここがわかったものだ。守衛の男は何をしているのか、全く。」

「……ジュプニッシュ……??」

「アッハッハ。これは自動翻訳機である。お前がアングリアを話せないことを私は知っている。どうだ、これなら理解できるだろう。お前がジュプニッシュを話すことを許可する。」

「なら……、お前たちが俺のネックレスを盗んだのか?」

「そうだ。」

「返してもらおうか。それから、リトラディスカで起こった殺人事件もお前たちの仕業だろう?真犯人として名乗り出てもらうぞ。」

「はは、何を。お前の言うことは正しい。だが私はお前に従わない。だがお前を殺すことはしない、すぐには。ネックレスは私たちがもらう。そしてお前は警察に捕まるだろう。我々の綿密な計画により、お前は無罪の死刑囚となる。だから私たちはお前を殺さないのだ。」

「そんなに上手く行かない。第一、ネックレスは持っているだけじゃ使えないんだぞ。所有者となれるのは素質がある者のみ。それに、どこでそのことを知ったんだ?」

「私の右にいる男、彼はスウェドの大学教授だ。ある生徒が調べていた情報を彼は見た、なぜなら担任だから。レポートを読んだ。ネックレス自体は手に入らなかったが、その存在を知った。」

「日ごろから懇ろにしておいたのだ。その生徒はタウ・トーネルフィー。クロナ探索のメンバーであるということを知っている。だから目を付けていた。ある日、お前と彼は友達だといっていた。そしてお前がファントムだ、とも。私はそれを本部に知らせた。我々は前からお前を知っている。お前は我々の仲間、ケル族のロモを、その力によって殺した。だからこそ、私たちの目的はファントムの力だけではない。お前からその力を奪い、命も奪うのだ。」

「絶対に思い通りにはいかせない。お前たちは悪だ、裁かれろ!警察に通報するぞ!」

「無能な警察が何の……」

 男が言葉を止めた。後ろのドアに目をやる。ディアも振り向いた。そこには――

 毅然とした表情でシェラが立っていた。

「シェラちゃん!!」

「Do you know where my mother and father are?」

「お前は?ああ、彼らの娘か。よくここまでたどり着いた。この男と一緒に来たのか?」

 シェラは一切返事をしない。これで、彼女の両親も何らかの形でヴァジーレとかかわっていることが明らかになった。

「それは面白い。それではついてきなさい。私たちにはお前たちに見せたいものを持つ。今すぐに殺されたくなければ、命令に従う事だ。」

 ここで水掛け論を繰り広げていても仕方がないので、2人で男の後をついて行くことにした。


 男はある倉庫までディアたちを連れて行った。3人が中に入るとすぐ、後ろの扉が閉まり、鍵のかかる音がした。

 男はおもむろに右手を挙げ、フィンガースナップを鳴らした。すると、倉庫の奥から、十人の屈強な男たちがぞろぞろと現れた。ディアは思わず後ずさりをしたが、シェラは一歩も引かない。そして、リーダーが胸元のポケットから、ファントムのネックレスを取り出した。

「それを返せ!!」

 ディアが男に走り寄ったが、後ろの男が飛び出して、腹部に一発蹴りを入れた。力なく飛び退く。

「ディアさん!」

「おい、手荒い真似をするな。なぜならまだ死んでもらっては困るから。まあ、お前はここから出られないから、結局生きて帰ることはないのかもしれない。でも、一つだけ方法がある。」

 ディアは息を整え、男を睨みつけた。男は冷たい目でこちらを見下ろしている。その目を、今度はシェラの方に向けた。

「この女を置いて行け。それはお前の命と引き替えだ。」

「なっ……」

「どうせ途中で偶然会った仲だろう?所詮、他人である。これを置いて行けば、ネックレスを返してやってもよい。警察の事もなかったことにしてやろう。お前は、何事もなかったかのように、本国へ帰れる。」

 ディアは怒りで小刻みに震えていた。何の罪もない少女を物のように扱うのが許せなかった。立ち上がり、シェラの元に駆け寄る。

「何を考えているんだ?シェラちゃんは絶対に渡さない。自分の勝手な都合でこうなったんだ、巻き込むのはおかしい!」

「なぜそこまで情を入れ込む?ただのガキではないか。そいつに情けをかけてどうなるのだ。何も返って来ない。何の得にもならない。そいつのために自分が死んでもいいのか?」

「情けも損得もあった話じゃない、人として当たり前のことだ!無実な彼女を傷つけさせて、俺だけが逃げ帰るわけがない。大人だろうが、子供だろうが、関係ない。俺は絶対にシェラちゃんの両親を見つけるって、約束したんだ。それを遂行するのが当たり前だろう!」

「っはっはっはっはっはっは!!!キレイゴトだ!とてもおめでたい人間だ!お前、本当にファントムなのか?全く相応しくない!そんなに命がいらないなら、よろしい、絶望を見せてやろう!!」

 男はネックレスを握りしめた。そして、祈るように目を瞑り、紐がちぎれそうなほど思いっきり拳を振った。

 だが、何も起こらなかった。

「……!?なぜだ!!昨日は部屋中を凍り付かせたというのに!」

 笑ったのはディアの方だった。

「残念、素質がないんだよ。俺に貸してごらん、使い方を教えてあげるから。」

 その一言が男を狂わせた。

「Kill ’em!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 手下たちが一斉に飛び出し、そのうちの数人は鉄の棒を手にした。そして、ディアとシェラに襲い掛かった。ディアは攻撃を避けるのに必死だったが、シェラは小さな拳を何度も突き出し、抵抗しようとしていた。だが、到底敵うわけもなく、徐々に打撃を食らい始めた。

「シェラちゃん!!!逃げてっ……!とりあえず逃げるんだ!!!」

 シェラは何とか男たちの攻撃をかいくぐり、閉ざされた扉へ走って行った。しかし、押しても引いても、扉はびくともしない。

「無駄だ、無駄だ!!とびきり難しい暗号をかけてある。絶対に中からは開かない。」

 聞こえたのか聞こえていないのか、シェラは扉にしがみついて力を振り絞っていた。すると、集団の1人がシェラをひょいっと持ち上げた。

「いやっ……放して!!!」

「シェラちゃん!!!!」

 ディアが慌てて男からシェラを引き離そうとしたが、さらにやってきた男に投げ飛ばされた。シェラは手足を必死でばたつかせて抵抗しているが、後から来た男の持つロープで縛られ、倉庫の柱に括り付けられた。

「きゃあああああ!!!!!!!」

 ディアも何とかシェラを助けようとしたが、その度にほかの男に取り押さえられるか、反撃されてしまった。奴らは身動きの取れないシェラにさらに攻撃を加えようとしている。ディアが前に立ち、代わりに攻撃を受け続けた。体力が徐々に限界に近づいていく。

 シェラは泣きそうになりながらも、傷だらけの顔を上げ、男たちを睨み続けた。こんな程度かと察したのか、相手も少しずつ攻撃の手を弱める。ディアはシェラの前で降り注ぐ打撃に耐えていたが、やがてがっくりと膝を折ってその場に倒れ伏した。


「やめろ、そこまでが十分である。とどめはやはり、一思いに行った方がいい。司法に任せようじゃないか。」

 男たちが引き下がり、全く手を出さなかったリーダーが一歩歩み出た。

「本当に、ファントムの素質があるとは思えない。なんと弱弱しく、情けない姿だ。お前が死んだとき、確かに力の所有権は私に移る。世界を我が力で変えてやろう。」

 ボロボロになったディアは地面に突っ伏し、辛うじて顔を男の方に向けていたが、もはや言い争いをする体力は残っていなかった。

「さてここで、真実を教えてあげようか。」

 そういうと男は倉庫の後ろに入り、何かを持ち出してきた。警官の制服だ。男は服を脱ぎ、その服に一瞬で着替えた。

 暴漢に襲われた時に事情聴取をした、あの警官そのものだった。

「思い出したか?」

 思い出さないわけがない。すべて計画通りだったのだ。ディアを襲い、わざと近くに立ち、本部から無線も盗み、事件を報告し、仲間の元に帰る。奴らの力なら、これぐらい難なく出来るのだろう。

「さあ、来るんだ。法の下で君を裁こう。」

 男は手錠を取り出し、ディアの手にはめた。抵抗する力はなかったが、何とか声を振り絞った。

「や……めろ……!!」

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