エピローグ~What is the Truth?~

 翌日。朝一番のラジオで、事件の詳細が伝えられた。

「先日発生した強盗殺人事件について、新たな情報が入ってきました。昨日のギルドへの特別任務が遂行され、警察は犯罪組織ヴァジーレのリーダーと組員2人を、強盗殺人と犯罪偽証などの疑いで逮捕しました。これにより、ディア・ヘイルブリッド氏への容疑を解除し、指名手配が取り消されます。また、ヴァジーレのニッタナー本部の組員がニッタナーで検挙され、メンバーの数人はギルド等の戦闘により死亡したという事です。」

 この報道はディアたち6人も、シェラ家族も聞いていた。その後、ディアの病室を誰かが訪ねてきた。

「はい、どうぞ。」

「失礼します。警視庁中央地方警察署の者です。ヘイルブリッドさんですか?」

「そうですけど……」

「お体の具合はいかがでしょうか?」

「ああ、まあ……今日には退院できるようなので、そんなにひどくはないです。一晩ゆっくり寝て疲れも取れましたし……」

「そうですか。あの、この度は、大変ご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げます。それから、真犯人逮捕、さらにはヴァジーレの摘発にまでご協力くださって、本当にありがとうございました。」

「はい。協力したというより、僕自身にかけられた疑いを晴らしたかっただけなんですけど。僕も大切なものを盗まれてしまいましたし、それを取り戻すのと事件を暴くのは同じことだったので……とにかく無事に解決してよかったです。」

 ディアは警官から差し出された見舞いの花と果物を受け取り、事情を簡単に説明した。


 その頃、シェラの両親の話が、王家から婦長に伝わった。そしてその日の夕方、婦長は王家へ向かい、退院したシェラ家族が来るのを、ルイ・ネリと共に待っていた。そして夕食前、全員が王家に集合した。

 シェラたちが応接間から談話室へと迎えられた。そこでは、王様、ジラ、クー、双子、そして婦長と、デューたちからの報告を聞いたギルドマスターが、今回の事件について話していた。しかし、双子にはまだ何も知らされていなかった。

「失礼いたします、お客様でございます。」

「ああ、入りなさい。」

 シェラ家族がおそるおそるドアを開けて入ってきた。

「お邪魔いたします……王様、王妃様、ラノフィーダと申します。」

「よく来てくださいましたね。どうぞこちらへいらしてください。」

 3人とも恐縮して、差し出された長椅子に腰かけた。

「この度は、このような機会をいただけたこと本当に感謝しております。心よりお礼を申し上げます。」

「いや、とんでもない。あなた方も、事件に巻き込まれて、さぞ大変だったことでしょう。ご無事で何よりですな。」

 一通り挨拶を済まして、いよいよ本題を切り出した。

「ルイ、ネリ、この方々のお話をよくお聞きなさい。」

 いきなり名指しされて、2人ともきょとんとした。

「実は……ネリさん、私たちは、あなたの本当の両親なのです。」

 双子の表情が凍り付いた。そして、ネリはゆっくりと目線を落とした。

 両親が立ち上がって、ネリの前にしゃがみ込んだ。

「22年前、あなたは私たちのもとにお生まれになりました。しかし、当時我が家は経済的に大変苦しく、あなたをお育てすることが出来ませんでした。そのため、断腸の思いで、あなたを手放すことといたしました。辛い思いをさせてしまった事……本当に、申し訳ありませんでした。」2人が深く頭を下げた。

 ネリは、しばらく黙ったまま2人を見つめていた。喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか――どちらも適切ではないような気がした。

 誰も口をきかないまま時間が流れた。だが、それを断ち切ったのも、ネリだった。目に涙を浮かべ、それを堪えながら言った。

「どうぞ、顔を上げてください。申し訳ないなんて……まさか、会えるとは思っていませんでした。だから、今日こうして来てくださって、本当に嬉しいです。ありがとうございました……。」

 ネリの目から涙がこぼれた。両親も目を潤ませて顔を上げた。

「王家の皆様、私たちの子供を引き取って、このような素晴らしい家庭で育ててくださり、本当にありがとうございました。また、申し訳ありませんでした。娘……とお呼びしてもいいか分かりませんが、王家で幸せに暮らしていることを聞いた時は本当に安心しました。」

「私たちも、2人に本当の事を伝えたのはつい最近でした。心の整理は、まだついていないかもしれませんが、ひとまず事実を受け入れてくれたようなので……それでも、私たちが家族であること、ルイくんとネリちゃんが双子の兄妹であることは、これからも変わらない、ということもお話ししました。そしてもちろん、2人とも、婦長様、ギルドマスター様の、大切なお子様であることも、まぎれもない事実です。」

「今日お会いすべきかどうか、最初は迷っていました。捨ててしまった娘に、顔を合わせる権利はないとも思いました。しかし、シェラの事をリトラディスカのディアさんが助けてくださったことで、何か運命というか、ご縁のようなものを強く感じました。もしこの機会を逃したら、きっと一生会えないと思いまして……お会いできて、本当に嬉しく思っております。」

「会わないでいたら、きっと後悔したのではないでしょうか?僕たちも、心残りになっていたと思いますから。」ルイがネリの顔を見ていった。

「ええ、本当に……ルイさん、娘が王家で暮らしていけるのも、お兄様のおかげでございます。」

 しばらく彼らの会話を聞いていた婦長が口を開いた。

「なんだか、とってもよさそうな方で、正直安心しましたわ。捨てられているネリを見た時は、本当に衰弱していて、赤ちゃんをこんな状態で放っておくなんて、いったいどんなひどい人だろう、と考えたこともございました。その後は、私たちが彼女の両親として、実際のお父様お母様の事は考えないようにしてきましたが、いざ事実を話すとき、ふと思い出しました。ほんとうは、この子の両親は、どんな人たちなんだろうと……きっと、やむをえない事情があったのかもしれない、と。だってネリは、こんなにいい子なんですもの、きっとご両親も善良な方に違いないと考えました。ですから、こうしてお会いすることが出来ましたので、心から安心いたしました。大変な状況だったとはいえ、お母様が身体を痛めて産んでくださった宝物を私たち夫婦が預かることが出来たのは奇跡と思います。」

 婦長も母親も、涙をこらえることは出来なかった。

「あの……あなた、なんてお名前でしたっけ?」ネリがシェラに話しかけた。

「あ……、シェラです……。」

 ネリがパッと笑顔を見せた。いつもの無邪気な笑顔だ。

「本当なら、私の妹なんだよね。今は、セグナに住んでいるの?」

「はい。でもちょっと前までこの国にいました。」

「そっか……いや、自分に妹がいるなんて思ってなかったからさ。私も最近海外に行くことがあるから……もしお互い、近くに来たときは、また会いたいな。」

「はい……私も、仲良くできたら嬉しいです。」こっくりと頷いた。

 物静かで人見知りなシェラが、初対面ですぐ心を開いた。両親はシェラの成長を嬉しく思うのと同時に、やはり同じ血が流れている「姉妹」なのだ、としみじみ感じていた。

 帰り際、互いに何度も感謝を述べていた。そして名残惜しそうに、家族は王家を後にした――シェラとネリが次に会う約束を交わして。


 翌日、ディアは王家警察庁に出向いていた。そこにはデューとミルもいた。そして改めて、警察から今回の事件のお詫びと協力の感謝を申し出られた。

「僕たちがいなかったらどうなってたことか……」

「こら、デュー。大人しくしてろ。」ミルが父親のように諭した。それを横目で見てディアが苦笑いを浮かべる。

「まあ、ともあれ、僕も助かりましたし、真犯人も見つかったことですから。よかったです。」

 ディアさんは典型的な平和主義者だね、とデューが小さく呟いた。

 次の日には、ディアは市場に出て、いつものように商売をしていた。

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