What should We Do?

 一方デューは、任務を終えたためギルドに戻っていた。訓練所から出てきたミルに、先ほどまでの事を話す。

「やばいね……。ディアさん、一人で大丈夫かな。」

「って言っても僕たちが手助けするわけにはいかないでしょ。一応お尋ね者だし。」

「まあね。俺らは警察の捜査には関わらないってことになってるからね。犯人を預けることはあっても。」

「あ~あ。なんてリトラディスカの警察ってバカなんだろう。」

「おい、デュー。誰が聞いてるか分かんないだろ!」

「だって本当の事なんだも~ん。……何か、手立てないかね?」

 2人はしばらく考え込んだ。共に戦った仲間のピンチを見逃すことは出来ないのだ。

「あっ!」ミルが声を上げた。

「警察って確か、王家の警察庁に最高決定権があるんだよね。」

「……そうじゃん!何でそれ早く言わないの!!」

「いや、すっかり頭から抜けてた……。」

 ミルの父は、ギルドを引退した後、その手腕を生かして警察庁の役員を務めている。しかも、現在はかなり権力の強い立場にいるのだ。

「じゃあ、何とかなる?」

「いやそんな簡単に言うなよ……。でも事情が事情だろ。親父もディアさんのことはよく知ってるし。俺、明日王家に行く用事があるから、クーさんに頼んでちょっと通してもらうよ。親父に会えれば話をしてくれると思うんだ。もちろん俺の要求が通るかどうかわからないけど、とりあえずそれなりのところに話せば……何とかなるんじゃないかな。何とかするよ。」

「うん……じゃあ、お願い。」


 次の日の朝、ディアは早起きし、簡単な朝食を済ませた。

「ディアさん、もっと食べなくて大丈夫なんですか?これから先、いつご飯を食べられるかわからないでしょう。」

「ええ、でも今はあまり食べたくないんです……緊張してしまって。」

「あ、じゃああれが残っているので……例の缶詰です。2つあるので、よかったら持って行ってください。」

「何から何まで、本当にすみません……。でも、絶対見つけますから!」

「ええ、ディアさんなら絶対大丈夫です!ですが本当に気を付けてくださいね。何があるか分からないので。危なかったら逃げてください。どうしても無理なら……命を優先してください。」ユノが心配そうな顔で訴えた。

「はい。……じゃあ、そろそろ行きます。本当にありがとうございました。行ってきます!」

「いってらっしゃい!!」


 ユノと別れた後、ディアはアズの仕立て屋にたどり着いた。もう開店している。

「いらっしゃいませ~。あ、ディアさん!」

「おはようございます。例の洋服は……」

「はい、じゃあちょっと取ってきますね……

 こちらです。」

「ええ、ありがとうございます。料金は……」

「ディアさんが無事に帰って来てからで大丈夫ですよ。こちらで着替えていきますか?」

「……あ、じゃあお願いします。」

 試着室を借り、服を着替えた。昨日から着ていた服はアズの店に担保として預かってもらうことにした。

「サイズ大丈夫でしょうか?」

「はい、ちょうどいいです。本当にありがとうございます!もし、どうしても帰って来られなかったら……その服、汚れてますが、お店で使っちゃってください。」

「ええ、でも……どうか無事で帰ってきてくださいね。十分気を付けてください。」

 アズにも重ねて礼を言い、店を後にした。あとは、国境を越えるだけだ。


 中央部からニッタナーの国境までは徒歩で2時間程かかる。そこに至る道は一本だけ。もし見つかったら、越境以前に即御用だ。ディアは早足かつ周囲を警戒しながら歩いた。幸い、交番はなく、警官の姿もない。

 その道中に、タウの家がある。出かける前に一声かけていこう、と家に近寄ると、ちょうどタウがドアを開けて出てきた。

「あっ……ディアさん!どうしたんですか、こんなところで。」

 ディアは手早く今までの経緯を説明した。

「ニッタナーですか……正直治安があまりよくないのですが……。」

「そうなんですか……。外国には一度も行ったことがないのですが、どんな国なんですか?」

「リトラディスカとはだいぶ雰囲気が違います。言語はアングリアですが、いろんな民族がいますので必ずしも全員がそれを話すとは限りません。まあ、アングリアを全く理解しない人はさすがにいないと思いますが。犯人もアングリアを話していたんでしょう?」

「僕の曖昧な記憶だと、そうでした。」

「じゃあ、ニッタナーに何かしらのアジトを構えている可能性は高いですね。で、さっきも言ったように、治安が決していいとは言えないので、犯人の一味はもちろん、適当に絡んでくる悪漢にも気を付けてくださいね。全く関係ないやつに捕まったらもったいないですから。」

「それは注意します。向こうの警察も僕の事を追うでしょうか?」

「いえ、ディアさんはまだ国際手配はされていないので、この国から安全に出られさえすれば警察の事は考えなくても大丈夫です。おそらく、すぐには捜査が隣国にまで及びませんし、ディアさんがニッタナーにいるなんて誰も知りませんから。」

「そこなんですが……問題は税関なんです。証明書を持ってはいますが、僕の正体がばれてしまうのではないかと……。」

「あ~、たぶんよっぽどじゃないと、身分の証明は求められませんよ。」

「そうなんですか!?」

「ええ。もちろん質問はしてきますが、受け答えがしっかりしていて、金属検査でひっかからなければ問題なく通れます。僕もスウェドに行ったとき、身分証明書は提出しませんでしたから。」

「どんな質問ですか?」

 タウが予想される質問と受け答えを教えてくれた。言語はアングリアなので簡単ではないが、とにかく頭に詰め込み、また手帳にメモを取った。

「これさえちゃんと、必要以上に挙動不審にならずに答えられれば、きっと大丈夫です。」

「ありがとうございます!……ではそろそろ……行きますね。」

「はい……。どうか十分気を付けてください。ディアさんがファントムの力を取り戻し、何よりも無事に帰ってきてくれることを祈っています。あ、そうだ、ちょっと待ってください。」

 タウが家に戻り、何かを持ってきた。

「ささやかですがお守りです。スウェドで見つけたもの。不安な時、心の支えになりますように……。」ディアの右手にしっかりと握らせた。

「大切にします!」

 しっかりと握手を交わし、ディアは国境へ向かった。


 その頃、ミルは予定の時間よりも早くギルドを出て、王家へと向かった。今日は正午からクーの護衛につく予定だったが、王家に到着したのは10時ごろだった。

「あの、本日護衛を務めさせていただきます、ミルという者ですが……」

「はい、お世話になります。」

「ちょっとお話があるのですが、クーさんはいらっしゃいますか?」

「はい、少々お待ちください。」

 少々待ったあと、奥からクーが現れた。

「あれ?今日はお昼からじゃなかったですか?」

「はい、ですが……、ちょっとお話がありまして……。

 今、ディアさんが警察に追われている件ってご存知ですか?」

「え!?いや、知らなかったですけど……なぜ?」

「僕も直接本人から聞いた話ではないので……デューから聞いたんですが、この前強盗殺人事件があったらしく、その本当の犯人から罪をかぶせられちゃったらしいんです。本人の話がどうも嘘には聞こえないそうで……捜査が間違っているんじゃないかと思いまして。」

「それは大変ですね。冤罪の証明ってやっぱり難しいですから。特にもう逮捕状が出ちゃっているものはね。」

「で、やっぱり僕らも何とかしてあげたいと思ったんですが、下手に口を出すとほう助の疑いがかけられるじゃないですか。一応ギルドの身なので、迂闊なことは出来なくて。そこで、ちょっとお願いがあるんですけど、時間は間に合わせますので……。」

「出来ることならお手伝いしますよ。」

「あの、僕の父が警察庁の役員として働いているんですよ。今、通してもらう事ってできますか?父に話せば、もしかしたら警察に連絡を取ってくれるんじゃないかと思いまして……」

「あ~、会議とかが入ってなければ大丈夫だと思います。ちょっと確認するんで待っててもらっていいですか?」

 数分後、クーが戻ってきた。

「長い時間じゃなければ大丈夫だそうなので……、じゃあ、こちらです。」

 王家内部に入るのはクロナ探索の会議以来だ。今回はその会議室を過ぎ、さらに奥の重要な部署が集まるオフィスへと案内された。「警察庁」とかかれたドアをノックする。

「どうぞ~。」

「失礼します。」

 クーがドアを開けると、何人かの社員がデスクで事務作業をしていた。だが、残念ながらミルの父の姿はない。社員によると、現在ちょっとした用事で離れているという。

「あの、よかったら電話お繋ぎしましょうか?まだ向こうのオフィスにいれば応答なさるかもしれません。」

「あ、じゃあお願いします。」

 幸い、出先の電話に応答した。

「はい、警察庁捜査本部役員のノッティージュですが。」

「もしもし……俺。ミル。」

「ん?ああ、どうしたんだ、急に。」

「実はちょっとお願いがあって。ディアさんの話知ってる?」

「ああ、何か厄介なことになってるな、あの人。」

「それなんだけど……本当は、ディアさんが犯人じゃないんだよ。本当の犯人に罪を擦り付けられたんだって。でも今はあの人が犯人だと思って捜査がどんどん進んじゃってるから、どうにもならなくなって。捜査をもう一度やり直すっていうか、考え直すってこと、出来る?」

「実はその事件はまだ小さなものだから、私の方の直接の管轄ではないんだよ。たぶん中央の地方警察だろう。でもまあ警察庁として指示は出来るからね……うん、わかった。ディアさんを信じよう。もう一度証拠をよく洗いなおしたり、ディアさんを逮捕の目的では追跡しないようにとか、何とか言ってみるよ。」

「お願いできる?うん、ありがとう。じゃあ、また。」

「話、まとまりました?」

「ええ、何とか協力してくれるみたいです。」


 ミルたちが任務のために王家を出た後、ノッティージュ氏が警察庁本部に帰ってきて、中央地方警察署に連絡を取った。

「現在捜査中の事件の中で、先日起こった強盗殺人の罪でディア・ヘイルブリッド氏を追跡中だと思うんですが……」

「ええ、まだ犯人は逃走中です。」

「そうではなくて……、本当にヘイルブリッド氏が犯人だという証拠はきちんと上がっていますか?」

「いや、実はですね……殺害の現場では犯人の姿は目撃されていなくて、昨日怪しい人物を見かけたので声をかけたのですが、その担当の警官と昨日の午後から連絡がつかなくて、無線にも反応がないんですよ。証拠品としてナイフと市場の商品、容疑者の自宅の物は上がっているんですが、具体的にどんな様子だったかを詳しく聞くことが出来なくてですね。ただ証拠品と容疑者の指紋が一致しているのでそれを元に逮捕状を請求し、現在追跡中なのですが。何か新しい情報が入りました?」

「さっき警察庁の方に直接情報提供があったのですが、何やら容疑者が真犯人ではないらしいんですよ。ちょっと捜査を切り替えてもらえますか?真犯人を探すという方向で。ヘイルブリッド氏を追跡するというよりも、もう一度証拠と現場の状況を洗いなおしてみてください。」

「そうですか……、わかりました、貴重な情報をありがとうございます。各駐在所にも、もう一度事件の手掛かりを探すようにとの指示を送っておきますので。はい、お世話になります、失礼します。」

 その後、各駐在所にこの情報が伝えられた。これで、無条件にディアが容疑者であるというわけではなくなる。

 だが、情報が伝わる前に、もうディアは国境を越えていた。

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