小話集Ⅰ
スピンオフ①:王家の日常
「王様。王妃様。朝でございます。お目覚めになってくださいませ!」
王家のメイドが毎朝、ジラたちを起こしに来る。
「はい……。お父様、朝ですわ。お起きになって。」
リトラディスカの王様は、ジラとクーの父。2人の母は、クーが生まれた後すぐに亡くなってしまった。そのため、ジラが成人するまで王妃の位は存在せず、ジラの成人式と共に戴冠式が行われた。
メイドはその後、クーと一級家来の寝室へと向かった。とたんに憂鬱な表情を浮かべる。
「クー様、お目覚めくださいませ~!あら、ルイ様とネリ様はもうお目覚めですね。」
ルイとネリは双子。兄のルイと妹のネリだ。王様の弟の子供、つまり、ジラとクーのいとこにあたる。だが実際は、ネリは赤ん坊のころギルドの前に捨てられており、それを王家で引き取って、ルイの双子のきょうだいとして育てていた(二人は大人になってからこの事実を知らされた)。
一級家来という役職に任命され、家来の中で唯一、王様と生活を共にしている。
そのため、クーやジラにも敬語なしで話すほど仲が良い。
彼らの父親、つまりの弟は、例のギルドマスターである。そして彼らの母親は、国立病院の院長を務めている。2人は王家に属せず、職場に住み込みで働いているので、王家に会うことはほとんどない。
その影響もあって、2人はジラたちを本当の兄弟、王様を本当の父のように慕っている。
「もう起きてるよ。クーじゃないもん。ねぇ、ルイ……は、まだ眠そう。」
「……うん……おはよう。クーは……相変わらずか。メイドさん、頑張って。」
「どうかお二方もお手伝いください。私一人ではとても……」
メイドが憂鬱な顔でこの部屋に入る理由。それは――クーの寝起きはとびっきり悪い。公務である朝の集会に遅れることもしょっちゅうで、メイドが毎度手を焼いている。時には、双子とメイド3人がかりで起こしても目覚めないので、結局クーは起きるまで放っておかれることもある。
「クー様~!朝でございますよ!!」
「ほら、もう起きなよ!」
しっかりと寝息を立てている。メイドが布団をはがしても効果がない。仕方なくネリが、枕でクーを何度も叩いた
さすがに驚いたのか、クーはいやいや目を覚ました。
「……ん~……。何~?」
「何じゃないよ!もう朝だよ!」
「あ~……はいはい……。」ようやく体を起こした。
「さあ皆様、お仕度ください。もう7時でございますよ。」
「今日は、まだマシだったね。」とルイが呟いた。
全員が支度を終え、朝の集会の場についた。
ここでは、王様が玉座に座り、ジラがその横に座る。当時は、クーと双子は壇上におらず、壇の下の椅子に座っていた。(ちなみにクロナ探索後はクーも壇上にあげてもらえた。)
始めに、王様が朝の挨拶を述べる。その様子は毎朝ラジオで生放送され、さらに下級家来たちが壇の前に集まり、ずらりと列を作ってその挨拶を聞いている。
王様の言葉が終わると、ジラが続けて挨拶を述べる。重要な勅令がある時には、ここで発表される。その後クー、ルイ、ネリの順に、今日の予定を述べる。
集会が終わると、朝食の時間だ。5人そろって食べることが決まりとなっている。メイドが料理を支給してくれるのだが、世話好きなジラは、自ら王様の分を用意している。
「今日の糧を与えしこと、感謝いたします。」ジラが食前の祈りを唱える。
「いただきま~す!」大抵、ネリの声が一番大きい。
「今日はまず何をするんだっけ?」
「2人は魔法の講義。僕は書類の整理……。」
「講義のがまだ良いね。ジラ様は?」
「私はお昼まで何もないの。メイドさんを手伝おうと思ったけど……クー、手伝おうか?」
「ありがとう。さすが僕のシスター!」ネリが失笑した。
「さて、私は昼まで、ギルドにでも行ってこようかな。」
「では、警護をお供させますわ。」
「王様、ギルドに行かれましたら、お父様に私たちのことをよろしくお伝えくださいませ。」
「ああ。きっと喜ぶだろう。」
魔法の講義は双子だけに限ったことではなく、王様でなければクーも、ジラさえも受講する。講義と言っても半分は実習で、護身の腕を衰えさせないために、ベテランの家来も退役するまでやっている。ただ、貴族の中には体質によって魔法を使えない人もいるため、必要最低限の魔法技術や魔法器具の使用法、基本知識などを学ぶ。もちろん魔法が得意な貴族はどんどん上達して、専門家顔負けの技術を手に入れることもある。彼らは通常の講義のあと、自らギルドの魔法支部に出向いて腕を磨いている。
王家に生まれた人間は学校に行かないため、こういった講義が彼らにとっての勉学の場になる。
「今日は魔法生物について。テキストの83ページをご覧ください。
現代では、湿地に生息する生物も数を増しています。気温の降下に伴い、乾燥地が減少したこともその一因ですね。そして湿地性生物に共通する特徴は、有毒性だということ。その対処法についても勉強していきましょう。それでは……」
テキスト学習が一通り終わると、実技訓練に入る。
内容は魔法ギルドの大会でも採用されている、杖を取り合う実戦形式の訓練だ。今日はルイとネリの対戦だった。
「絶対負けない。」
始まる前から、ネリはルイを視線で威圧していた。
「それでは、開始!」
「ウィンダス(風よ)!」
「タングレッタ(足よ、もつれよ)!」
同時に魔法を放ったため、空中で相殺された。次にひるまず一手を打ったのはルイ。
「ウィンダス!」
ネリが防御の魔法を唱える直前に、杖が宙に舞った。
「そこまで!」
「あ~~~っ、悔しい!!!」
その頃、クーとジラは書類の整理に取り掛かっていた。一か月に2度ほど行う仕事で、外部から王家に集められた様々な文書を、種別・日付・重要度順に並べ替える。何しろ膨大な数の文書が届くため、1人でやっていると半日はかかる。
「今日は……まず、どこから、で分けよう。」
「そうね。このリストを見ると……学会から研究大会の報告、ギルドから調査完了のまとめ、魔法学会から新術のお知らせ。あら、その3種だけ?」
「なのに、こんなにあるの!?」
「……あら、ごめん。裏面から読んでたわ……ええと……さっきのと合わせて11種類ね。」
「ちょっと……!」
結局2手に分かれて分別し、日付順に並べ、さらに重要なもの(王家で会議をしたり王様に届け出たりする必要があるもの)をピックアップして整理した。そうでないものは所定のファイルに収納し、参考文献として保管する。
その作業を終えるまでに2時間以上かかった。もうお昼の時間だ。
「あ~、疲れた~!」
「結構手ごたえがあったわね。さあ、お昼よ。」
昼食も、夕食も、朝食と同じように全員がそろって食べる。昼間は都合上集合がバラバラになるが、原則は全員が揃うまで待っている。もっとも、王様を待たせることだけは気が引けるので極力避けてはいるが。
午後、ルイとネリは自由時間となったため、外に散歩に出かけた。王様は外出せず、書斎でのんびり書類を読んでいる。クーは中央劇場の創立100年祭へ、ジラは国際放送局の会議へ、それぞれ公務のために出向いた。
夕方まで各自の時間を過ごした後、全員が王家に集合し、夜の定例会を行う。朝の集会と同じ要領で、王様が挨拶を述べ、ジラが続き、クーと双子から明日の予定や連絡などが伝えられる。
夕食を終えたら、各自自由時間となる。住み込みのメイド以外はこの後帰宅し、貴族たちは談話室でゆったりと過ごす。
そして各々寝室へ戻り、次の朝を迎えるまで眠る。こうして、王家の一日は流れていく。
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