スピンオフ②:ファントムの秘密

 ある日、ディアがデューに頼み込んで、ファントムの秘密が書かれているという書物を探しに、カンドより西の寂れた図書館へとやって来た。すると、埃の積もった棚の一番下に、ファントムと題されたボロボロの分厚い本が見つかった。

 手に取り、ディアがページをめくる。海外の文献などを挟みながら、ファントム伝説についてあらゆる論述が掲載されていた。外国語の部分もよどみなく読みながら訳すデューにディアが目を丸くする。

「ファントムというのは仮の名前。男の本当の名前は誰にもわからない。人々は彼を、『幻想的な(Fantasy)』『戦う(Fighting)』『男(Man)』といった言葉から、通称ファントムとして呼んでいる……

 ……また、彼は決して不死身ではない。彼はその奇特により多くの人を救い、また多くの悪を滅ぼした後、その人間としての天寿を全うした。だがその力は未だ天に還らず、世に数多潜む悪を滅するため、さらにあらゆる困窮を無くすために、現世で眠っている。時が来れば、しかるべき人間にその霊力が乗り移り、彼の思いをその肉体を通して遂行させるという……」

「……てことは、僕がその『しかるべき人間』ってことになるんですかね……。」

「まあ、そうだろうね。」

「なるほど……でも、なんで僕なんでしょう。僕がファントムに選ばれたのは……」

「書いてあるよ。

 ファントムは元来争い事を好まなかった。気性は穏やかで、怒りに狂うことはめったにない。だが、悲しむ人を救うためには一生懸命だった。その悲しみをおのれの事のように感じ、情けが深かった。そして、その苦しみを取り払うためには努力を惜しまず、自らの奇特をいかんなく発揮した。おそらく、未だ遺る力が選ぶ人間も、彼と同じような性格であることだろう……

 ディアさんって、クロナ探索の時も、国民の誰よりも熱意を持っていたし。この国が好きで、何としてでも救いたいって言ってたでしょ。」

「確かに……それが答えなのかな……

 まだ謎は多いですが、自分の中で納得できました。デューさん、ご協力してくださって本当にありがとうございました!」

「いいえ。せっかく霊力が乗り移ってるんだし……一度乗り移ったら肉体が滅びるまで乖離することはないって書かれてるしさ……その力、無駄にするもんじゃないよ。何で自分がって思うだろうけど、選ばれている以上、誇りを持たなきゃ。」

「ええ。力が尽きるまで、大切にしたいと思います!」

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