対峙、終結
終着
「女子の皆さん!無事でしたか?」
「はい、大丈夫です。男子の皆さんは、ケガなどありませんか?」
「大きな損傷は今のところないです。で、クロナのほうは……」
「特に手がかりはありませんね……。ですが、この秘境も終わりが近づいているようです。とりあえず、先に行ってみましょう。」
「あれ?その女の子は?」
「洞窟の入り口でケル族に虐げられていたところを助けたんです。お家も何もわからないというので、とりあえず連れてきました。」
全員が無事にそろっている姿を確認して、誰もがホッとした。12人で、再び歩き出す。
「あれ。行き止まり……?」
先に道はなかった。
「クロナどころか、宝箱っぽいものもないですね……。」
「どうしたことでしょう……。」
「あなたがたが探しているのって、これでしょ?」
振り向くと、後ろから1人の女性が箱を抱えてやって来た。
「……エネ……」
「アズ、久しぶりね。
せっかくここまで来られたのに、この箱、鍵がないと開かないみたい。」
「鍵?」
「その鍵は、必要とされたときに神がくれるんだって。バカみたい。きっと、神は良いことばっかりしているお利口さんが好きなのね。てことは、普段から正義だの平和だの叫んでる人が、結局おいしいとこ持ってくのよ。
つまり……あんたたちがいないとこの箱は開かないわけ。どう?手を結んでくれる?」
「嫌だ。」デューがエネを睨んだ。
「何……?」
「あんたがその箱を抱えてる必要はない。鍵は僕らが貰う。クロナを手に入れるのも、僕ら。とっとと箱を渡して、帰ってよ。そのままじゃ、どうせ使えないんでしょ?だったら、然るべき人が……」
その言葉を遮り、銃声が響いた。
「デュー!!!!!!!!」
エネは銃を片手に、不敵な笑みを浮かべていた。
魔法が使える者たちが必死に治癒魔法を唱える。だが、弾丸はすでにデューの中心を貫いていた。もう、打つ手はない。
「なぜ……エネ、どうして……?どうしてなの……?」
「は?だって邪魔だから。うるさいし。」
泣き崩れる余裕さえ残っていなかった。
「よくも……大切な仲間を!!」
「仲間なんて面倒なだけ。傷ついたら看病しなきゃならないし、失ったら泣くし。元からいなけりゃ、そんな手間もかからないのにさ。」
「お前には……仲間がいないのか?」ディアの声は怒りに震えていた。
「いらない。余計な苦しみを味わわないで済むでしょ。
さあ、一番正義感にあふれている人。神様に媚びてちょうだい。どうか、私たちのために鍵をくださ~い、って言うのよ。神様を欺かなきゃ。」
「そんなことで、神様、許すこと、しないじゃん。悪いものがいると、怒るんだよ。やっぱり、あなたにクロナは……」
「ウィラちゃん危ない!!!」
とっさにフィナが前に出た。同時に引き金が引かれた。
中心を射抜きはしなかったものの、やはりどの魔法も効かず、徒に時間だけが過ぎていった。
「もうやめろ!!たくさんだ!これ以上俺たちの仲間を奪うんじゃない!!」
「ディアさん、危ないですよ!!」
タウの忠告は耳に届いていない。ディアはエネに掴みかかり、銃を払い落とし、投げ飛ばされた。
エネは剣を取り出し、ディアを斬ろうとした。ミルの盾が間一髪で阻止する。その隙にディアは飛び退いた。しかし、エネが剣を叩きつけると、鋼鉄の盾が真っ二つに裂けてしまった。慌ててミルもエネから離れた。
「鍵を……渡せ。」
「もうやめてよ!!!!」
アズが金切り声で叫び、エネのもとに歩み寄った。剣が振り下ろされる。パーティー全員が息を呑み、悲鳴を上げた。アズの体に大きな傷が刻まれる。
だが、アズは一歩も引かなかった。鋭い目つきでエネを見つめている。制止の言葉も、アズには届かなかった。
「エネ……。どうして、変わっちゃったの……。誰が、あなたを……そんなに、変えちゃったの……?」
「紛れもない、あたし自身だけど。」
「それなら、もう一度、変われるよね……?あのころのエネに、戻れるよね?」
「戻る気なんかないよ、おあいにくさま。」
「お願いだから、強がらないで。
私、あなたが族長になってからは、顔を見るのも嫌だった。でも、ラジオからケル族のニュースが聞こえてくるたびに、自然とあなたの声が耳に入ってきた。きっと、本当は……こんなことしたくないんじゃないかな。エネはいつも成績もよかったし、先生に怒られることだって一回もなかった。でも、いっつも、周りの顔色を窺ってた。要領よかったんだよね。私はドジだから、タイミング悪く見つかったりするし。エネは、誰かに逆らったり、自分で自由に決めたりっていうことを、知らずに生きてきたんじゃない?いつもお利口さんで……」
「殺すぞ。」
「その前に話聞いて!どうか、本当のエネに戻ってよ。もしかしたら、今は、これが本当の自分だって思い込んでるのかもしれない。だけど……!どうか、人を憎まないで。これ以上、人を殺したり、泣かせたりしないで。それに……私は政治のこととか知らないから、なんでケル族の皆が私たちを殺そうとしてるのかわからない。でも、もう一度、仲良くなれないかな?……ジラさん、どうでしょうか?」
「我々は平和を最も尊重しています。力でケル族を制圧することは、本当は主義に反するのです。今まで数々のケル族を捕らえ、抑圧してきましたが、それはすべて国民を守るため。我々の根底には、ケル族を憎む意識などないのです。もともと同じ国民ですし、何より、この世界に存在する人間同士ですから。ですから、もしケル族が我々と共に暮らしたいと願えば、それは受け入れられるべきなのです。」
「だが……当時はそうではなかった!この国の人間どもは、どこかで、ケルを異端のものとして偏見していた。我々は他とは違うんだって、そんな意識が知らぬ間に染みついていた。どうせ、上っ面は仲良くしていても、心のどこかで、あたしたちを別世界のものと考えていたんでしょう?本心から仲良くしようなんて奴は、一人もいなかったんだから。」
「エネ。私はエネがケル族なんてこと、どうでもよかったよ。同じクラスの、席が近い、女の子。そして、初めての親友……。ジラさんもこう言ってくださってるわけだし、当時と王様も変わったでしょ。その時の王様は、ケル族の言い分を聞いてくださらなかったのかもしれない。でも、ジラさんや、今の王様は、心の底から、本当は仲良くしたいって思ってらっしゃるのよ!だから、ね……、もう一度初めからやり直そうよ!」
「じゃあ、クロナはどうなるのよ。あんたたちの物になっちゃうわけ?そうやって良いように言っといて、結局丸め込むんでしょ。」
「クロナはみんなが仲良く生きるために使うのよ。まずはチック川の水を戻して、カンドの噴火を止める。」
「きれいごとばっかり!まぁ、おめでたいわねぇ!」
「きれいごとかもしれないけど嘘じゃない!絶対にケル族やエネを元に戻してあげるんだから!」
「じゃあ、鍵を授ける代わりに、生贄としてもう1人死んでって言われたら?それでもあたしたちを何とかしたいって言えるの?」
アズは口を真一文字に結んでパーティーを見渡した。誰もが、アズを信じ、祈るような目で見つめている。
「それでも……いい!もしそうなったら、私が死ぬ。その代わりに、この世界とエネが元に戻ってくれるなら、それでいいの!」
「そこまで言うんだ……。じゃあ試すから。」
突然、洞窟の天井が光りだした。ディアの手に、小さな鍵が落ちる。それを見た瞬間、エネはもう一度剣を振るい、アズを斬りつけた。だが、それでも倒れずにしっかりと立っている。
「もう……訳わからない!!なんで?なんでここまで自分を犠牲にできるの!?バカじゃないの!?なんで……あたしのために……」
エネはしゃがみこみ、涙を流した。アズがそっと肩に手を置く。
「……あたしだって!ホントは……みんなと一緒にいたかった。ケルだけ独立するなんて、考えてもいなかった!でも……そうするって族の中で決めたとき、逆らえなかった。しかも次期族長だなんて、自分の意思じゃない!!それから……あんたたちを苦しめ続けた。それでもなお……あんたはあたしを憎んでないって言うの!?あたしを助けるために、命まで本気でいらないって言えるの!?どうして!?」
「エネが、一番の親友だから……だったから……。もう一度、ね……やり直そう……」
アズの命は限界だった。膝を折り、仰向けに倒れた。
「アズ……アズ!!!」
「もう……戻ってこないよ。エネ……お前がアズさんを殺したんだ……。誰よりも自分のことを考えてくれる親友を……。後悔しても……遅い……」ディアの目にも涙が溢れた。
「クロナの力で……なんとかなりませんか!?」ユノが涙声で叫ぶ。
「やってみましょう……失われた命のために……。」
両目を真っ赤に腫らしたシアが、ディアから鍵をもらい、宝箱に差し込んだ。リアがその蓋を開ける。現れたのは――
「瓶だ……ジュエルのようなものがぎっしり詰まってる。」クーは恐る恐るその瓶の蓋を開け、ジュエルを1つ取り出した。まばゆい光を放つ。
すると、全員が異次元空間に包まれ、数秒後には、王家の門前に戻ってきていた。
「王家だ……!クロナが、僕たちをチュソから連れて帰ってきてくれたんですね。」ディアの表情が少しだけ晴れた。
もう1つのジュエルを、デューやアズの上にかざしてみた。だが、何も起こらない。
「もしかしたら……クロナの力では、亡くなった命をもう一度呼び戻すことはできないのかもしれません。ですが、きっと、チック川やカンド火山の活動を正常化することはできるはずです。今すぐ使者を遣わします!」ジラが大慌てで王家の城に飛び込んだ。数分後、屈強な戦士が数人現れ、ジュエルを丁重に包んで駆けていった。
ジラは一冊の書物を手にしている。
「倉庫の奥の方から引っ張り出してきました。これによると、リンキー・クロナは、惑星全体に及ぶ変化さえ起こすことが出来るが、命の輪廻など、神の規律に背くようなことは出来ない。無論、クロナを悪用することも、不可能であろう。」
「……て、ことは、もし、ケル族が、クロナ、使おうとしても、無理だったってこと?なんで、そのこと、言わなかったの?」
「この本、私たちが旅立った後に、城の者が掃除をしていたら、偶然出てきたんですって。もっと早く気付けば、焦ることもなかったでしょうに……」
「いずれにせよ、チック川の流れが途絶えたことは、僕らがクロナを見つけないと、どうにも出来なかったんだよ。遅かれ早かれ……、僕たちは干からびて死んじゃうところだった。」
「それはそうね。とにかく、私たちがクロナを手に入れてよかったです。あの、エネ族長……」
「もうその呼び方やめて。あたし、族長辞めるわ。ケルの皆は何でも言うこと聞くし……何しようと勝手でしょ?」
「じゃあ、これからケル族はどうするつもり?」
「……また憎しみのない、今までの世界に戻ってって言おうと思う。どうせ、あの時、分裂した時に、先頭に立ってリトラディスカに文句垂れてた奴らはみんな、何の力もないから。当時のことを知らないような、若い世代もたくさんいるし……でも、我々の要求を受け入れてくれるんでしょうね?」
「それは絶対に約束します。もちろん、今の私たちにできる精一杯に限られますが……ケルの皆さんも、私たちも、共に生きる世界をめざし、もう一度頑張ってみます。」
「あの……思い出したんですけど……」
ディアがそう言いかけた時に、先ほど出かけた使者がもう帰ってきた。
「カンド火山の噴火活動が停止しました。現在火山は静止状態です。また、チック川にジュエルを投下したところ、見る見るうちに水量が回復しました。あと1日も経てば、水が行き渡る見込みです。」
「ありがとう。で……ディアさん、何でしたっけ?」
「前に勅令を出されたとき、見つけた者には何でも願いをかなえる指輪をお贈りすると仰いましたよね。その指輪が叶えられる願いって……例えば火山を止めるとか、チック川を復活させるとかは、できないんですよね?」
「もちろん、それが出来れば……ですので。あの指輪の力では、地形など、スケールの大きなことに対する変化を起こすことは出来ません。ですが、例えばお金とか、職業とか、個人的な願いであれば、比較的大きなものでも叶える力がございます。」
「で、それ、誰にあげるの?」
「本当はここにいる皆さんにお渡ししたいのですが、何せ指輪は1つ、叶えられる願いも1種類ですので……代表の方にお渡しします。異論はありませんか?」全員が頷いた。
そして、顔を見合わせた後、全ての視線はディアに向けられた。
「えっ……?僕ですか……??」
「だって、ディアさんがいなかったら、あの男たちにやられてましたし。それに、このプロジェクトを一番熱意をもってやってくれたのは、ディアさんです!」
誰もがユノの意見に賛成だった。
「では……僕が勝手に願いを決めさせていただきます。」
使者が指輪を持ってきた。
「では、どうぞ。」
「はい。僕の願いは……今ここにいるみんなが、健康に戻ってくれることです。傷を癒し……そして……デューさん、アズさん、そして瀕死のフィナさんに、もう一度チャンスをあげてください。……可能ですか?」
「今ディアさんが仰ったお願いは、すべて叶います。……私も、それを望んでおります。一度唱えると取り消しが出来ませんが、よろしいですか?」
「ええ。みんながまたいつものように笑顔の生活を送れること、そしてデューさんたちが再び戻ってきてくれることが、僕の一番の願いですから。」
ディアは目を瞑り、必死で祈った。指輪がまばゆく輝く。
メンバー全員のあらゆる傷がほとんど回復した。
さらに、息を失う寸前だったフィナと、デュー、アズの頬に、ほんのりと血の気が戻った。徐々に呼吸が回復し、傷は消え、やがてゆっくりと目を開いた。
「あれ……?ここは……どこ?」
「ここは王家の前。チュソから、クロナの力でワープして戻ってきたのよ。具合はどう?」
「傷が痛くない……なんで?」
「ディアさんが、願いを叶える指輪で、傷を回復してくれたんだよ。3人はもう生きられないと思っていたけど……よかった……」リアは声を詰まらせた。
「クロナ……?族長は?チックやカンドは??」
混乱するデューに、今まで起こったことを全て説明した。
3人は自力で起き上れるくらいにまで回復したが、念の為、パーティー全員が病院の診察を受けることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます