作戦会議

 いよいよ会議の日がやってきた。

 王家はクロナ探索への協力を申し出る人々でにぎわっている……とディアは考えていた。しかし、その予想は大きく裏切られた。

 係員に導かれて、王家内部の会議室へと足を進めた。そして、その部屋の中を見まわして、愕然とした。

 部屋にいたのは……ディア、デュー、ユノ、クー、タウ、ミル。たったそれだけだった。他に、クロナ探索への参加を申し出る人は、誰一人としていないということか。

 この状況に戸惑ったのはディアだけではない。会議の時間が迫り、王家への入場が締め切られると、デューはがっくりと項垂れ、大きく机を叩いた。そして、クーとミルはため息をつく。

 その時、再び部屋に誰かが入ってきた。

 アズ、フィナ、シア、リア。そして、彼女たちを引き連れてジラ王妃も入ってきた。

 一度は期待をもって顔を上げたデューだったが、再び視線を落とした。


「申し上げるのも心苦しいのですが、クロナ探索を引き受けてくれる方々は、ここにいる皆さんで全てです。どうやら、皆さんだけで、パーティーを組み、出かけなければなりません。」

 ジラの声も曇っている。

「こうなると、男子と女子それぞれで行くことになるのかな?と、とりあえず、皆さん、自己紹介しましょうか!」重い空気をクーがとりなす。

「はい。僕はディア。行商で生計を立てています。……と言っても、男性の皆さんはもう僕の事をご存じだと思いますが……」

「そうですね。僕はユノです!大道芸をやって暮らしています!」

「僕はタウです。学者として、いろいろ研究などを行っています。」

「僕はミル。ギルドから戦士として、魔物やケル族の駆逐を任されました。」

 そこまで一通り終えたところで、デューがやっと重い顔を上げた。全員を睨むような目つきだ。

「デューです。僕には仲間は必要ありません。以上。」

「僕はクーです。ジラの弟。で……では、女子の皆さん。」

 アズがゆっくりと立ち上がった。

「初めまして。アズです。すぐそこの仕立て屋で働いてます。」

「私は、フィナです!フローリスト目指して勉強中です!」

「私はシアです。一応、女優として公演させてもらってます。」

「リアといいます。まだ見習いですが、魔法が使えます。」

 リアが腰かけたところで、再び空気が止まった。

「では、女性の皆さんと、男性の皆さんで、それぞれパーティーを組みましょう。役割を分担したいと思います。まずは」

「ちょっと待ってください。」デューが立ち上がり、ジラの言葉を遮る。

「何度も言いますが僕にパーティーはいりません。1人で十分です。ですから、作戦会議からは外していただきますよう。」

「申し訳ありませんが、それは出来ません。」ジラが強い語調で首を振る。

「なぜですか!だって王妃様もお分かりでしょう?!こんな弱いメンバーじゃ何もできませんよ。いるだけ無駄だ。それどころか、足手まとい。1人の方が身軽だし、効率もいいのです。」

「いえ、そうではありません。申し上げますが、あなたにも欠けているところがあります。」

 ジラは一歩も引かなかった。デューはたじろいだ。

「かっ……欠けているって……?何がです?」

「言葉を慎みなさったらどうですか。」クーがたしなめる。

「それは全く構いませんわ、クー。でも、少し落ち着く必要はあるようです。デューさんが勇敢な冒険者であることは、私どももよく存じております。しかし、今度ばかりは、あなたに普段から依頼している事案とは大きく異なるのです。今までは確かに、あなた1人でも充分、冒険と探査を遂行することは可能だったかもしれません。でもクロナ探索は違う。まだ誰も見たことが無い、形すら不確かな宝物を、あらゆるものが恐れ、足を踏み入れなかったチュソの秘境へ探しに行くのですよ。」

「そ……、それはそうですけど。」

「なら、もうお分かりでしょう。はっきり申し上げますが、この探索は絶対に失敗が許されません。何が何でも成功させなければ。それを、もし、あなた1人で行って、見知らぬ秘境の中で行き倒れてしまったらどうでしょう。『僕はそんなことにはならない』とおっしゃるかもしれませんね。でも、あなただって行ったことが無いのです。無論、ギルドマスターも、そして私も。何が起こるかは誰にも予想がつかないのです。

 そんな時、仲間がそばにいてくれることを想像してください。私たちはみな人間です。持っている力に、そう大差はないはずです。しかし、誰かが誰かのために行動するとき、その力は何十倍にもなりえるのです。私たちも、デューさんの力を必要としています。どうか、この現実を受け入れ、仲間と共に協力して、クロナ探索を成功させてください。」

 その場にいる誰もが、ジラの言葉に聞き入り、深く頷いた。デューも一応は飲みこんだのか、軽く頭を下げて、静かに座った。


 その後の作戦会議の結果、女性組はジラを含む5人で、チュソ洞窟の西側から探索することになった。そして、男性組はクーを含む6人で、東側から攻める。さらに、探索に必要な道具等々は、分担して準備することとした。

 ディアは寝具など生活に必要なもの、デューは冒険に必要な諸道具、クーは王家にある魔法道具、ユノは食糧、タウはありったけの情報や本、ミルは武器類。

 アズが生活品、フィナが冒険の道具と情報、シアが食糧、リアが魔法道具、ジラが武器類。

 それぞれ抜かりなく準備をし、出発はさらに1週間後、この王家に集合してからということになった。


 いよいよ出発の期日がやってきた。みんな、それぞれリュックなどを背負って、王家の前に集まっている。

 各々が担当した道具類を分け与え、冒険の成功を誓い合った。

「いよいよですね。どうか、命だけは大事になさってください。十分に気を付けて。」

「絶対にクロナを見付けましょう。リトラディスカを、そして私たちを守るために。」

 見送りの国民も、声援を送る貴族たちもいなかった。それどころか、今、外で活動しているのはこの11人だけらしい。誓いの声も虚しく響いた。

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