3-1

 翌日、学校にて。

「……!」

 放課後、教室を出たところにしなが立っていた。

「ちょっといい?」


 二科の後をついていくと、ひとのない体育館倉庫の裏側までやってきた。

「まず、今一度ちゃんと確認したいんだけど……私、本当にあんたの家に住んでいいの?」

 二科は少し不安げに俺の顔を見てたずねた。

 昨日二科の両親に告げたように、今俺の家は部屋が余っているし、少なくとも二年間は家族が帰ってくる予定もないから、住んでもらっても問題はない。

 だが……我ながらどうていこじらせているこの俺が、ガチオタで好みのタイプと真逆とはいえ、同い年の美少女と一つ屋根の下に住むなんて……果たしてやっていけるのだろうか? という不安は大いにある。

 それに、二科だって……。

「お、お前はいいのか? ……か、彼氏でも、好きでもない男と二人で暮らすなんて……」

 た、例えばおそわれるかもしれないとか、そういうけいかいしんはないのだろうか。

「え、別に? っていうか、今まで必死でかくしてたのに、これからはオタク隠さないで暮らしていけるなんてむしろちよう快適!」

 全くそんな心配はしていないという様子で、二科は明るく答えた。

「それに、オタクの彼氏彼女ができるために協力し合うにも、いつしよに住んだ方が何かと都合いいし! 私ぶっちゃけ男子と話すのあんま得意じゃないんだけど、あんたとは一切きんちようしないでペラペラしやべれるんだよね~! オタクだからっていうのもあると思うけど、なんか男子って意識してないのかも!」

「……っ!?」

 それってつまり、男として見てないってことじゃねえか! 俺、どんだけこいつになめられてんだよ……!?

「ってかあんたは、どうなわけ? いまさらやっぱりいやだとか言われても困るけど……」

「……ああ、言わねえよ」

 正直、昨日はなんてけいそつな提案をしてしまったんだとは思ったが、こうかいはしていない。

 二科の気持ちは、同じじようきようおちいった俺が一番よく分かる。

 だからこそ、俺にできるなら、助けてやりたいと思った。色々腹が立つ奴だが、その気持ちは、今でも変わらない。

「そっか……ありがと。ぶっちゃけ、ほんとに助かる」

 二科は、初めてしんけんな様子になって、俺に礼を言った。

「まあ、お礼ってわけじゃないけど……約束通り、あんたにオタクの彼女ができるよう全力で協力するから! じゃあこれから改めて、おたがいオタクのこいびとができるようがんろ!」

「あ、ああ……そうだな!」


 それから約一週間後に、二科と二科の両親と俺とで、二科の引っ越し作業を行った。

 二科の荷物を、俺の家の空いている部屋へと運び込んだ。服やらおそらくオタクグッズと思われる段ボールやらで荷物が多く、大変だった。

 この部屋は、空き部屋を俺の物置にしていたので、引っ越しの前にあわてて片付けた。幸いにもこの部屋にはかぎがついているから、長期休みに家族がもどってきた際には、二科にはどこかへ行ってもらい、家族には『見られたくないオタクグッズがあるから』と言って部屋に鍵をかけっぱなしにしておけばだいじようなんじゃないか……と思う。

 荷物を運び込みながら、ああ、俺は家族に内緒で勝手になんて大変なことをしてしまっているのだろう、と今更ながら改めて思った。


    * * *


 それから更に数日後の土曜日。ついに二科が俺の家に住み始める日がやってきた。

 二科は両親を空港まで送った後、俺の家にやってきた。

「おじやしまーす」

 二科がリビングまでやってきたので、一応お茶を出してやる。

 こうして改めてこの家に二科と二人きりになると、すでに緊張が走る。

「あ~、今日からはいつ親が部屋に来るかビビらなくて済むって思うと、めっちゃ気が楽~!」

「お前なあ……親とはなれてさびしいとかないのかよ」

 俺が言うのもなんだけど……。

「そりゃあそれもあるけどさ……。あ、そういえば……日本をつ前、パパがなんかすごいこと言ってたな……」

「すごいこと?」

「パパとママが日本に戻ってきたら、その後私とあんたが高校卒業するじゃん? そしたら、けつこんだな、って」

「けっ!?」

 驚きのあまり声をあららげる。

「な、なな、なんだそりゃ!? 聞いてねえぞ! どうすんだよ!?」

 そこまできたら、もうしようがないじゃないか。

「まー、どうにかなるでしょ」

「どうにかって……んな、脳天気な……」

「一年半後、パパとママが戻ってきたタイミングで、あんたと別れたことにして、私が別の人と結婚したいって言えば、大丈夫だと思うんだよね」

「え!? いや、そんなことしたら、俺お前の親父おやじさんに殺されないか!?」

「あんたが私をった~とかならやばいけど、私にほかに好きな人ができてそっちの人と付き合うために別れたって言えば、私はおこられるかもしれないけど、最終的には認めてくれると思う」

「そ、そういうもんか……?」

「だってうちのパパだって、高校のとき他に彼女がいたのに、ママにれて付き合ってた彼女振っちゃったんだもん。お父さんは基本的にれんあい脳で恋愛至上主義だから、それなら仕方ないってなると思うんだよね」

「な、なるほど……」

 自分の親をそんな風に言うのもどうかと思うが、むすめの二科が言うならそうなのだろうか。

「だからそのためにも、おそくとも二年後までには結婚したいほど好きな彼氏と付き合ってなきゃいけないってわけ!」

「そうか……」

 俺も二科の親父さんに殺されたくないし、一刻も早くオタクの彼女がしい気持ちは変わっていない。

 二科と協力し合えることになったわけだし、ますます、これから本気でがんらなくてはという気持ちになる。

「うん。でさ、あれから色々考えたんだけど……まずは出会いの場探しの前に、お互いに勉強した方がいいかな、って思うんだけど」

「勉強?」

「そう。あんたも、私も……この間話した感じだと、オタクの異性の理想のタイプからはかけ離れてるわけでしょ? だからまず、オタクの女子、男子の理想のタイプを勉強してから、出会いの場に行った方がいいのかな、って」

 パーティーに行った日、二科に今の俺のままじゃダメだとめちゃくちゃにディスられたことを思い出す。色々バタバタしていて落ち込んでいるひますらなかったが、あれは結構ショックだった。

「それにさ、いざ出会いの場に行っても、話が盛り上がらなかったらダメじゃない? そうならないためにも、オタク男子、女子に人気のあるジャンルをお互い教え合って、勉強してから出会いに行った方がいいと思うのよね!」

「! あ、ああ……」

 オタク女子に人気のあるジャンル、か……。確かに俺はそっち方面にかなりうとい。しかし……。

「あーでも、あんたこの間、女子人気のあるジャンルが好きな子はちょっと……って言ってたっけ? 彼女にするなら自分とオタクしゆが同じ、美少女系コンテンツが好きな子がいいとかなんとか」

「ああ……」

 いくら同じオタクでも、話が合わなきゃ意味がない、とどうしても思ってしまうのだ。

「そういう子って、いるとは思うけど相当少ないと思う。女子人気ある作品と男子人気ある作品、どっちも好きって子なら結構いるけど、美少女系作品だけが好きなオタク女子って、なんかあやしいっていうか……」

「怪しい……?」

「ネットのまとめとかツイッターでバズってるツイートで見た情報だけど……そういう子って大体、美少女キャラのコスプレやってるコスプレイヤーか、あるいは……所謂いわゆるオタサーのひめ志望の、オタク男子にモテたくてそういう作品を勉強してるあざとい女子、ってパターンが多そうだなって」

「な……!? い、いや……さすがにそれはへんけん入ってるだろ!」

 二科のかたよった意見に思わず反論する。

「実際にはそういう子に会ったことないけど、ネットのまとめでオタサーの姫系を好きになってひどい目にった、みたいな話見てると、まさにそういうタイプでさ。あんたみたいなのはもろにそういう子にだまされそう」

「な……!?」

 美少女系作品だけが好きなオタク女子は、オタサーの姫志望? オタク男子にモテたくてそういう作品を勉強してるあざとい女子?

 そんな夢のない話、信じたくない……。

 だが、そういう話がネットで飛びっているというのなら、まんざら二科の偏見というわけではないのだろうか……?

「とにかく、理想のオタク彼女を作りたいなら、そんな存在するのかも分からない、いたとしてもらいしゆうはんないげんそうの女の子を追うよりも、まずは色んなオタク女子と仲良くなること、好感を持たれることが大事なんじゃないの?」

「……!」

「ぶっちゃけ、見た目があんたの理想で、性格もいいオタクの女の子だったら、どんなオタク趣味かってそんなに気にならなくない? 私も色々考えたんだけど、見た目と性格が好みだったら好きなジャンルってそんなに気にならないかなって思って」

「まあ、確かに……」

「オタクだったら、仲良くなってからこっちが好きなコンテンツについて教えて、それで一緒に好きになってくれたら、それはそれでめっちゃうれしいしさ」

「な、なるほど……それは、確かにアリだな」

 見た目と性格が俺の理想のタイプの女の子だったら……確かに、じよだろうが乙女おとめ系コンテンツ好きだろうが、全然アリだ。

「だからまずは、オタク女子と仲良くなれるように、オタク女子に人気があるコンテンツについて私がくわしく教えてあげるわ!」

「二科……!」

「だからあんたも、私にオタク男子に人気があるコンテンツを教えてよね! まずはそういう話でオタク男子と仲良くなれば、理想のオタク彼氏が作れるはず……!」

「ああ、分かった!」

 二科の提案は確かになつとくできるものだった。

 オタク女子に人気があるコンテンツを勉強して、理想のオタク彼女が作れるのなら、そんな努力くらい苦ではない。

 そんなわけで、俺たちは出会いの場に行く前にまず、互いにオタクの異性に人気のあるコンテンツを教え合うことになった。

「とりあえず今日は、オタク男子人気が高いコンテンツを俺がお前に教える、ってことでいいんだな?」

「うん! でもその前に……おなかかない?」

 気付けば、十九時を回っていた。

「ああ、そうだな。昨日いた米で良ければれいとう庫に保存してあるから、コンビニでおかずでも買ってくるか」

「今家に何もないの? 冷蔵庫見ていい?」

「ああ……これから住むんだから、許可なく勝手に開けていいけど」

 俺の言葉に、二科は冷蔵庫を開けて中を見る。

「大したもんないだろ」

「卵があるし、野菜もちょっと残ってる……あんた、料理するんだ。意外」

「まあ、ちょいちょい簡単なもの作る程度だけど……」

「これだけあればチャーハン作れるじゃん。作っていい?」

「……! あ、ああ……」

 おどろく俺を気にも留めず、二科はぎわよく料理を始めた。作り方を見もせずに、手慣れた手つきで野菜室に残っていた青ネギや玉ねぎを切る。

 こいつ、マジで料理すんのか……俺からしたらそっちの方が意外すぎる。こんな見た目のギャルが料理するなんて、だれも想像できないと思う。

「えっと……俺も何かやるか?」

「いや、いい。適当にやってて」

「あ、ああ……」

 二科がそう言うので、とりあえずソファーに座ってスマホをいじる。

 うちのキッチンで、あのド派手なギャル、二科こころが料理しているなんて、なんとも不思議な光景である。

 やがてチャーハンをいためる美味おいしそうなにおいがただよってきて、自分以外の、それも女子が料理してくれるって、なんてらしいんだろうなんて思った。


 料理を、二科がテーブルへとはいぜんする。

「はい、できた」

「……!」

 残り物で作ったとは思えない、美味うまそうなチャーハンが出てきた。

「お母さんに、食事はできるだけ出来合いのもの買ってくるんじゃなくて料理作りなさい、って言われたからさ。はなよめしゆぎようねて、って……」

 それでわざわざ料理を……。

「じゃ、いただきまーす」

「……!」

「何、どうしたの?」

「あ、いや……いただきます!」

 誰かが作ってくれた夕飯を食べるのって、いただきます、って言葉を口にするのって……一体どのくらいぶりだろう。

 家族が海外に行ってから、特にさびしいとか思ったことはなかった。

 だけど、久しぶりにこうして誰かと食事すると、こういうのもいいもんだなあなんて、改めて思う。

「……! う、美味い!」

 一口食べて、自然と声が出た。俺がだん作っている料理の、何倍も美味い。

 基本的に、買ってきた弁当や総菜か、作ったとしてもおおざっぱな男の手料理ばかりだったので、久しぶりの美味い手料理に不覚にも感動する。

「あ、そう? めっちゃ適当だけど……」

「いや、マジで美味いって! お前、料理上手うまいんだな!?」

「い、いやいや、こんなんできるうちに入んないから……」

 二科がそっけなく返すので、たんずかしくなってくる。

 俺、いくら初めての女子の手料理に感動したからって、恥ずかしげもなくおおめすぎたか……。

 二科に引かれてると思って、ふと正面の二科の顔を見ると……。

 二科は少しほおを赤くして、俺から目をらしていた。

 ん? もしやこの反応って、俺が褒めたことに対して、照れてるのか? こいつ、そういう可愛かわいいところも少しはあるんだな……。

「あ……え、えっと、とりあえず話をもどすけど、今オタク男子に流行はやってる作品教えて! 私、男子人気高い作品は『アイステ』しか知らないから」

 チャーハンを食べながら、二科が話を本題に戻す。

『アイステ』──アニメ化もした人気女子アイドルソシャゲだ。

 俺もとても好きなコンテンツで、女子人気があるとは聞いていたが、まさか二科も好きだとは。

「ああ。えっと、今一番オタク男子にアツいコンテンツは……やっぱり『エフジーゼロ』だな」

「あぁ~、流行ってるよね! フォロワーさんでもハマってる人いる! 私はやったことないけど……」

『FG0』……『ファイナルゴッド0』が正式めいしようであり、スマホのバトルファンタジーソーシャルゲームだ。

 俺自身も今一番ハマッているソシャゲであり、ツイッター上でもフォロワーがよく話題にしている。まあ、ガチャばく報告のツイートが一番多いが……。

「ああ。ゲームとしてもおもしろいし、何よりキャラ人気がすごくて、周りの友達も俺自身も今一番課金してるソシャゲだな」

「へー、じゃあとりあえずインストールしとこっと。今日から始めてみるわ」

 二科は自分のスマホに『FG0』をインストした。ずいぶん素直だなと感心する。

「それからあとは……これは俺が個人的にハマってて、今盛り上がってるのが、『バーチャルYouユーTuberチユーバー』だな」

「あ~、なんか最近よく聞く! なんだっけ……えっと、『ユメノ☆サキ』でしょ?」

「ああ、それだ!」

『バーチャルYouTuber』とは、YouTubeで動画を公開してるバーチャルキャラクターのことだ。中の人がキャラになりきって動いてしやべり、それが3Dモデルとして映像になる。

 要は、『YouTuber』の二次元バージョン、といったところだろうか。

「YouTuberは結構見てんだけどねー、けみをさんとか、友達がめっちゃ話してるから。でもバーチャルの方は全然実際見たことないや」

「そしたら見た方が早いな。夕飯食べ終わったら、俺の部屋にPCあるから……」

 そこまで言って、ハッとする。

 待てよ、そんなこと言ったら、俺の部屋に二科を招き入れることになるな……?

「ふーん。もう食べ終わったから早く見せてよ」

「……! え、あ、えっと……あ、ああ……」

 二科が何のていこうもなくそう言い出したので、俺はさらあせる。

 二科はいやじゃないのかよ。俺と二人っきりで、俺の部屋に入るなんて……。

 言いかけてしまったからには今更後には引けないので、仕方なく俺の部屋へと移動する。内心心臓はバクバクだが、なるべく顔に出ないよう注意した。

 二科は全く俺の好みではないとはいえ、同い年の見た目だけは可愛い女であることには変わりない。そんな二科と、俺の部屋に二人きりだなんて……。

 こんなことで意識してどうする。今日からずっと二科と二人きりでこの家で暮らさなければならないのに。

「ちょ、ちょっとここで待って」

「え? う、うん」

 二科を部屋の前で待たせて、あわてて部屋を片付ける。とりあえず机の上やベッドの上に散らばっていたエロ系のまん、同人誌を引き出しの中にった。

 いくら二科がオタク女子でも、見られたらまずい。

「もういいぞ」

「はーい。うわっ、すごいオタク部屋……」

 二科は俺の部屋をキョロキョロとわたす。俺の部屋はポスターもフィギュアもグッズもかざり放題の典型的なオタク部屋だ。

 二科が部屋のとびらを閉めたことで密室に二人きりの空間になってしまったが、なるべく意識しないようにしてPCの電源を入れた。

「えーっと……あ、こ、これだ」

 YouTubeに飛び、一番人気のあるバーチャルYouTuber『ユメノ☆サキ』の動画を再生した。

「やっほー、ユメノ☆サキだよ! 今日は今人気のこちらのゲームをやっていきたいと思います! ……」

『ユメノ☆サキ』がゲームを始める。二科はしんけんに見入っていた。

「へー、すごーい! これ、人間が動いてるのがこうなってるの!?」

「ああ。『ユメノ☆サキ』の中の人は非公開だけど、新人声優って言われてるな」

「今こういうのがオタク男子に流行ってるんだ~。確かにめっちゃ可愛い! ビジュアルはもちろん、声も可愛いーっ!」

 二科は意外にも夢中になって見ていた。そのまま何本か『ユメノ☆サキ』の動画を続ける。

「なるほどねー。動画も面白いし何よりサキちゃん可愛い! 今後もちょっとずつ見ていこっかな~。……」

 ある程度動画を見終えた二科が、不意に俺のほんだなの方を見る。

「っていうかさ、この部屋に入ったときから気になってたんだけど……あそこに並んでるのって、同人誌?」

「!」

 まずい、本棚はノータッチだった。本棚に並んでいる状態じゃ背表紙しか見えず、オタク以外にはそれが同人誌だなんて分からないので、特に気にしていなかった。

「だ、だったら何だよ……」

「私、女性向け同人誌はよく買ってるけど、男性向け同人誌って見たことないんだよねー。見ていい?」

「は、はあっ!?」

 まさか同人誌を見せて欲しいなんて言われるとは思わず、声をあららげる。

「だって今日は、オタク男子に人気が高いコンテンツを教えてくれるんでしょ? 同人だって人気コンテンツの一つじゃん!」

「ま、まあそうだけど……い、い、言っとくけど、俺が持ってるのじゅ、十八禁ばっかなんだけど……」

「あー、まーそうだよね。同人って基本そっちのが多いじゃん」

「!?」

 つまり、エロだって分かって見たいって言ってんのかよ!? こいつ……男キャラのエロいフィギュア持ってたし、どんだけエロにきようしんしんなんだよ!?

「何よ、恥ずかしいってわけ? 私だってフィギュアとか見せたんだからいいじゃん!」

「あれは別に見たくないのにお前が勝手に見せてきたんだろ! あーもう、分かったよ!」

 仕方なく、俺は本棚から、かくてき初心者向け(絵が可愛い、れい、純愛系でソフトなもの)のエロ同人誌を取り出して、二科に渡した。

「ほらよ」

「あっこれ、『アイステ』の本じゃん! めっちゃ可愛い!」

 二科は興奮気味に『アイステ』の同人誌を開く。あの本は確か……マネージャーである主人公と担当アイドルが関係を持つという純愛本で、比較的絵も可愛く見やすいのだが……純愛とはいえ当然そういうシーンはガッツリある。

 ああ、やっぱり見せるべきではなかっただろうか? というこうかいが今更押し寄せてくる。

「うわー……やっぱり男性向け同人誌って、色々しっかりえがかれてるんだ……」

 二科は顔を赤らめながらブツブツとつぶやきつつ本を読み進めている。どんだけじっくり見てるんだとみたくなるくらい、次のページをめくるまでの時間が長い。座ったまま読みながらもじもじしている。

「エ、エッロ……!」

 中学生男子レベルに興奮している二科に、はや何も突っ込めない。

 ちゆうまで読んだところで、とつぜんパラパラと捲る手が速くなった。きたのか? と思いきや、勢いよく本を閉じると、

「続きは部屋で見るわ!」

「へ、部屋!? 持ち帰る気かよ!」

ほかにも数冊持ってっていい?」

「お、お前なあ……! まあ、いいけど……」

「じゃあ、これとこれとー、あとこれ……。あ、これ、さっきの『ユメノ☆サキ』ちゃんの本じゃん! これも持ってく!」

 二科は計六冊もの同人誌を本棚から取り出した。とんだむっつりスケベろうである。

 こいつ、自分の部屋にこれを持ち帰って、一体どうするというのだろうか……? い、いや、変なことをじやすいするわけじゃないが……。

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