1話 それぞれの場所 side:愁

【side 河上 愁かわかみ しゅう

 目の前で彼女がいなくなってから、既に2日経った。

 その間、色々と情報を得ようと検索や図書館に行き書物を探していた。

 ただ、何処にもその【異形なモノ】の詳細は記されていなかった。

 あんなことが現実で起きるのは、普通に考えておかしい 何が起きてるんだ?

 ただ、ゲームだと恐らくワープや転移といった移動手段の筈だ。


 何処か別の場所や別の世界に移動してても、有り得なくない。

 ただ、一番恐れているのは【飛ばされたその先】で何が起きてるかだ。

 何を目的に何をする上で、鏡の世界に飛ばされたか...


 何を考えるにもここ数日何も喉に通していない。

 流石に腹が減りすぎて、思考回路がまとまらない。

 そこで、なけなしの金を握り帰り道、コンビニに寄りおにぎりを買った。

 どうすれば良い...何をすれば奈那の元に...

 俺は一人で空しく自分の家までおにぎりを片手に歩いて帰った。



 帰り道俺がまだ仕事をしていた時のことをふと思い出した。

 俺は奈那が仕事終わったら、迎えに行ってここを歩いて帰っていた。

 そしてコンビニから少し歩いたらいつも帰り道にある消防署の前を過ぎた。

 その時思い出が一気に込み上げてきた。


 よく二人でコンビニでご飯や飲み物買っていたなぁ

 二人で肉まんを一個ずつ買って、二人とも猫舌なのに熱々なまま食べて

 熱い熱い言いながら、笑って食べてたっけ

 そして、家に帰って二人でお酒を深夜まで飲んで

 一緒のテレビを見て、一緒にトランプして、罰ゲームで飲んで

 一緒の布団に入って、一緒に寝てたっけ。


 そんな事を思っていると家の近くにある薬局が見えた。


 奈那は凄く身体が悪かったよな。

 一か月に高熱を二回も出したり、生理が重かったり

 俺がまだ病院もやっていない早朝にここまで走ったっけ

 まだ店が閉まっていて、

 どうしても薬が欲しくて荷物を運んでる従業員に土下座して

 薬下さいって全力でお願いして、薬剤師の人呼んでもらって

 そして買って、家に帰って奈那に飲ませたなぁ

 一気に楽になったよって弱弱しい声で...言ってくれたよな。


 そんな儚い思い出を思い出してると知らぬ間に赤信号を渡ってしまっていた。


 ブーーーー 


「危ねぇだろ!」


 俺は目の前が涙ぐみ周りが見づらくなっている時

 車に引かれそうになった。


 俺は目を右腕の裾で拭い、家まで帰った。


「ただいま...」


 自分の声だけが響く部屋

 いつも明るい声で迎える奈那の姿はもうそこにはない

 買ってきたコンビニの袋をソファに投げ

 俺はまた泣きそうになったが涙をこらえた。


 その日はいつもしていたゲームをする事無く服のままベッドに入った


「...やべ。シャワー入るの忘れてた。奈那に怒られるな。」


 俺は奈那に言われた事を思い出し、ベッドから出た。

 そして、着ていた服を脱ぎシャワー室に入った。


 シャンプーを手に取り、プッシュするといつもの奈那の匂い

 お湯で洗い流し、リンスをプッシュするといつもの奈那の匂い

 お湯で洗い流し、ボディソープをプッシュするといつもの...


「奈那の匂いだ。」


 俺は我慢出来ず、嗚咽が出る程の涙を流した。

 ただ、その涙は誰かに見られる訳でもなく、儚くお湯と一緒に流れた


 そしてシャワーから上がり、下着を着け髪を乾かしベッドに入り

 さっき充電していたスマホの画面をつけた。

 いつもは動画を見たり、ゲームをしたりSNSを見ていた

 ただ、今は何か一つでも情報が欲しい。

 その欲求を満たす為、俺はスマホでニュースを細かく見ていた。

 ただ、俺は少し時間過ぎた後そのまま寝落ちしてしまった。


 最後に時計を見たときは既に02:17


 俺はここ数日ろくに寝ることができなかった。

 ただ今日は何故か途中で起きる事無く、静かに眠った。


 朝になったのか、淡い光の元少々眩しくなり、目をこすり起きようとした。

 そこには、見た事のない光景が広がっていた。

 寝ていた箇所は冷たくひんやりしている。


 あれ...俺自分のベッドで...寝ていた筈だけど...。


 俺は状況を把握する上で重たい瞼を擦り無理やり身体を起こした。

 周りを見渡すと遺跡のような石碑?に烙印が刻まれている。

 これどこの国の文字だ?

 異様な文字が色々な石碑に刻まれているが、如何せん俺は馬鹿だ。

 勉強していないし、してたところでこんな義務教育で習わないだろ。

 俺はそのまま石碑を指でなぞり本当に実物かを確認した。


 そして俺は違和感を感じながら、頭の中で整理をした。

 窓が無い遺跡のような空間 もしかして俺...


「転移された?」


 思考がまとまらない中人の歩く音がした。

 音のする方へ目をやるとそこには...

 黒いローブを着用し、フードを被る人がいた。

 ただ、胸の膨らみを見る限り女性だとわかる。


「お...まえは...だ..れだ?」


 俺は今からどういう目に遭うんだ?ここは一体何処なんだ?

 俺...この人に何かしたっけ。

 恐怖と驚愕と戸惑いで声が思うように出ない。


 分からない。

 顔も見えない。

 俺は過去のトラウマで恐怖を覚え、ガタガタ身体が震えた。


 その時目の前にいる女性が言葉を発した。


「જાગવું મારો નોકર」

(目覚めよ。我が僕)


 気の強い華やかなお姉さんのような声で聞きなれない言語を話している。


「કૃપા કરીને તે જલ્દી મારા માટે પાવર બતાવો」

(我にその力をすぐ見せてみろ)


 聞き取ろうにもまったくわからない。

 その時、疲れとストレスからか目の前がグラつき、激しい頭痛がした。

 俺はそのまま、後ろに倒れまた眠ってしまった。


「શું ખોટું છે? શું થયું?」

(何故だ。何があった?)


 舌打ちと共に、黒いローブの女性はそのまま愁を置いてその場を後にした。

 フードの裾からかすかに見えたその顔は哀愁を漂っている。


 俺は目を覚ました どれくらい経ったのだろう

 ただ、少し暖かいと思い自分の身体を見た。

 すると毛布のような薄い生地の布が被さっていた。

 そして石碑の中心の石の上で横になっていた。


「ん...?いっつ...」


 頭痛は収まることなく、まだ痛い

 ただ、このままではまずいと思い重たい身体を起こした。

 そして被さっていた布を身体に巻き歩き始めた

 ストーンヘッジのような石碑の間に大柄の男性一人が通れる程の扉があった

 その上人の気配がまったくない。



 ギィィーーギギ...


 俺は重たい扉を片手で開け、前に足を進める。

 目の前には、螺旋状の階段があり何も考えずに歩いていく。

 何故足が進むのかはわからない。

 好奇心からなのか、今は怯える事無く足が軽い。

 情報を少しでも手に入れる為に、俺は色々試した。


 壁をなぞると湿っているのが伝わってくる 上と下で温度の差でもあるのか?

 次に、ジャンプをしてみたが札幌と同じ重力なのがわかる。

 そして、頬を抓り夢か確認したが痛さはあった為夢じゃないと思った。


 そんな事をして、約5分程歩いたら扉があった。

 たださっきの扉と何かが違うな...


 右に左翼が折れた悪魔の絵、左に右翼が折れた天使のような絵が描かれている。

 恐る恐るその扉をあけようと手に触れようとした瞬間

 扉はひとりでに開いた。


 眩しい...。 ものすごく眩しい

 強い光を感じ手で、目の前を覆い前に進もうとした瞬間


「તમે ઉઠ્યા છો? કીમોનો ઢીંગલી」

(起きたのか?木偶人形よ。)


 また聞きなれない言語で話されてる。

 声は前からする 眩い光の中目を細くし見ていると

 フードを被っている女性がたっていた。

 ただ俺はまったく言葉を理解できず、首を横に傾けながら考えた。


「હું જોઉં છું. શું આ ભાષણ વાંચી શકાય તેવું નથી?」

(そうか。こちらの言語が通じないのか?)


 ...何を言ってるんだ。まっっっったくわからん。


「ચાલો તેને સ્પષ્ટ કરીએ.」

(では、わかるようにしよう。)


 目の前にいるフードを被っている女性は、杖を出した。 いや召還?した。

 光が一点に集まり、半透明な杖の形になっていった。

 そして...


「ચપળ ભાવના. શ્રી ઓન્કી સ્પીડ રીડિંગને તાકાત આપો」

(慈愛なる精霊よ。恩方様の力を授けよ スピーリーディング)


 杖からあの時奈那を連れて行った時に見た光と同じの、青白い光が放った。

 その光は俺の耳と喉を包み込むように、覆いかぶり、耳と喉に何か入ってくる感覚があった。


「な、なんだ!?何をしたんだ!?」


 俺は驚きそのまま女性の方を向き、後ずさり

 俺は持っていた布を落としてしまった。


「ようやく、会話ができるな。木偶人形。」


 フードを被っていた女性はフードを脱ぎ、俺に笑顔を見せた。

 雪のような真っ白な肌 髪は光にあたり、黄金に輝く金色の髪

 それに、長い耳 この世の人とは思えない。

 俺はその女性に言葉を無くしそのまま立っていた。







 そして一言だけ

「....綺麗だ。」

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