現役キャバ嬢と現役クズ男の転移生活

工作員

0話 君がいなくなった日 side:愁&奈那

 俺は本当にあいつのことを大事に思っていた。

 ただ甘えていた。 何もかも

 お金も言葉も行動も全て全て

 繋がりが無くなった時に全て尊く、空しく思える。

 俺は何をやっていたんだ...と


 全て台無しにしたのは、俺だ。

 俺が裏切ってしまい、俺が傷つけ、俺が悲しませ、俺が泣かせてしまった。


 怒りと悲しさと静けさが俺の心を掻き乱し、思考を止まらす。

 何をしていいか、何をしたら正解なのか

 どうしたら元に戻るのか 全て元に戻す為には何をすれば…。


 この世界に来る前から運命は決まっていたのかもしれない。

 ただ、もう一度もう一度だけでもいい。


 変わったこの俺を見てほしい もう一度君に触れたい...。








 場所は北海道札幌市のとあるアパート。

 そこには同棲をしているしがないカップルがいた。

 片方は現役キャバクラ嬢。

 片方は現役ニートのクズ男。


 元々は仕事をしていた男だった。

 転職を繰り返していく事に、気がついたらこの様だ。

 新しい事に挑戦したがるチャレンジ精神は、賞賛に値すると思う。

 ただ自分に合わない、自分では続かない。

 といった悲観的な気持ちを元に仕事をしていたことから、結果長続きせずいた。

 そんな中で男を支えていたのは彼女だった。


 何をしても、何を言っても許してくれる

 ただ、その限界ももう頂点に達していた。


「行ってくるね。今日は面接とかあるの?」


 この酒やけもしていなく、可愛らしい高すぎない声の

 低すぎくもない、丁度良く正に美を象徴する声!

 その声で起こしてくれたのは、彼女の古美長 奈那こみなが なな


「ん、今日は何もないよ。

 仕事?頑張ってね。

 外寒いし、気を付けて」


 この眠気マックスのいかにも、クズ人生真っ最中のダミ声が俺河上 愁かわかみ しゅう

 眠たい目をこするわけでもなく、また枕に自分の右頬を埋めるように眠る。

 だがその刹那眠ろうとしたら...


「ねぇ。愁 もうさ、こんな生活いつまで続けるの?最後に面接行ったのいつ?

 私が覚えてる限りもうちょっとで2週間たつよ?

 本当に職探ししてるの? 【また】嘘じゃないよね?」


 ベッドに横たわっている俺の方を見ているのか、声がこちらに向けて放れている。


「んあ?あぁ、探してるよ? いやぁでも...」


 むくっと体をあげようとした時、俺の言葉を遮り胸倉を掴んできた。

 そのまま俺の身体を無理やり起こしてきた。

 そして吐息がかかるぐらい顔を近づけ来た。


「あのさ、もうお前の嘘には懲り懲りなんだわ。 また?証拠わ?ねぇ?

 スマホとお得意のPC見せろよ。」


 いつもと違う怒った声で俺の胸倉を掴んでる。

 疑心の眼差しで、俺の方を見て怒りの顔つきに変わってるのもわかる。


「.........。」


 俺はこういった怒られるのに対してトラウマのようなものがあった。

 過去にいじめられていた経験や、親に暴力をされていた経験

 それらからいつも逃げいていた。

 真正面からぶつかることなく、黙りつづけて、悲壮感のある顔をすれば...。


 いつも逃げている...。

 いつも逃げていた...。

 そう今も。 黙りこくっていれば時間が解決してくれると思った...。


「もういいわ。またそれね。 

 お前の家かもしれないけど、光熱費払ってるの誰?家賃払ってるの誰?

 私だよね?なのに、その恩は言葉だけ。

 ただ、ありがとうって、それだけ。

 そのクセ毎日ゲームや、タダ飯食って、寝て、酒のんでタバコ吸って

 お前にどんだけお金使えば気が済むの?マジでおかしいだろ?」


 胸倉を掴んでた手を自分で離して、俺を突き飛ばした。


 ドンッ ズズ..ズゥー...


 壁にあたり、壁から地面に落ちるように体が重力に負けていく

 そして奈那の方を向くことすらなく、そのまま俯いた。


「....ごめん..なさい。」


 涙は出ないが、肉食動物に狙われている時の子羊のような声で謝る。


「聞き飽きたんだって。誠意と行動で示せや。マジで何回目よ。

 本当に学習しねぇな。そしてそのまま蹲って地面を掴もうとするんだろ?

 何がしてぇんだよ!ふざけんな!!頭弱すぎな。」


 そのまま奈那は俺とは逆の方向に足を進め、バッグを持ち玄関に向かった。

 そしてそのままの勢いで玄関にあるヒールを履き始めた。

 俺はおぼついた足を奮い立たせ、重くなった体をお越し奈那の元へ歩き始めた。


「ご...ごめん。本当にど...どうしていいか」


 言葉が詰まりどもりがちになった。

 伝えたい事を伝えれない。

 いつもこんな風だ。


「うるさい。もういいから。いつも通りにしてれば?

 今日はアフターあると思うから、遅くなるから勝手にあるもの食べて寝てれば?」


 俺の顔をみることなく、強く扉を閉め、仕事に行った。

 最近はずっとこんな感じだ。

 なんでこうなったんだろ。

 どうしてだろう。

 悔しさと苦しさと怒りでどうしていいかわからない。

 そして感情が限界にきて、その場にあった空き缶の袋を蹴った。


 ガシャン ビリッ ガシャーン


 その袋は破けてしまい、中身が出てしまった。

 俺はそれらを蔑んだ目で見おろし、呟いた。


「あぁ、また怒られる。 片付けよう」


 俺はため息をつきながら、感情をぶつけてしまった物を片づけた。

 そして考える振りや、悩む振りだけ毎回するだけ。


 今日も何もせず、ただボーっとしてるだけ。

 ゲームをしているだけ。

 カップ麺にお湯を入れ、食べる。

 そして奈那の帰りを待つだけ。


 こんな生活を選んだのは結果俺だ。

 そんなの誰だって見ればわかるし、考えればわかること。

 ただ、頭が働かない。

 言い訳しか出てこない。

 こんなクズ人間...死んだ方が。


 そんな事を考えていると時間は既に18:45

 日も落ち始め、雪が降り始めた。

 

 今は12月半ばの札幌

 外はクリスマスシーズン真っ只中。

 俺は家でぽつりとだらけているだけ。


 このままの関係が続くのかな...。


 そして更に時間が経ち...深夜1:51

 俺は、現実逃避をしていた。


「エリアス高原のレイドって余裕じゃね?

 いけるだろ!天才悪魔召還師の俺がいくか?」


 俺はPCで出来るオンラインゲームMMORPGのゲームをしていた。

 その時、扉が開き、冷たい空気と一緒に酔っぱらった奈那が入ってきた。


「愁~~ご飯食べた~?食べに行こう~?」


 夕方の事が無かったかのように思える。

 仕事はキャバ嬢だから、ほぼ毎日酔っぱらって帰ってくる。

 俺も元々黒服で働いていたからわかる。

 それが仕事だ。

 そして酔っぱらってる時はいつもそうだ。

 

 今日のことを忘れてくれる。


「わ、わかったよ。

 ごめん 彼女が来たから落ちるね」


 俺はそんな奈那に甘えているのもわかっている。

 ただ、またそれに甘える。


 俺は同じギルド同士でボイスチャットを使い通話をしていた。

 そして奈那が帰って来たので、

 挨拶をしボイスチャットとゲームを即座に落とした。

 その後PCも一緒に落そうとしたその時だった。


「なに?またゲーム?バイトは?探したの?」


 急に酔いがさめた様に、怒りの顔に変わっていた。

 そして右肩に背負っていたバッグを俺に投げてきた。


「何も反省してないじゃん。マジで有りえない。

 本当にクズじゃん。私になにがしたいの?

 何?私もっと稼げばいいの?私も遊びたいんだけど

 ねえ?」


 怒りの声色になっているのも聞けばわかる。

 そのまま奈那の方を向き、顔を覗いた。

 怒っている時の顔つきなっている。

 再度こちらに歩き始め、にらみ始め右手を上にあげた。


「ご...ごめん。俺もうどうしていいか...」


 痛い イタイ いたい


 素振りを見た後すぐに反応し、顔を手で覆うようにした。

 鈍い音と共に俺の手に打撃があたった。

 不意にとった行動でガードをするように自分を守る。


「もういいよ。いいから死ねよ。ゴミが!!」


 怒り声と共に罵声を浴びせられ、殴られ続ける


「ほ、ほんと...やめt...」


 殴られる 殴られる 殴られる

 怖い コワイ こわい

 何も言えない

 俺が...

 悪い ワルイ わるい


 俺は昔の同級生の女子にいじめを受けてる時の

 トラウマをフラッシュバックした。

 そして、少し目を開け、自分の腕を見てみた。

 

 俺の腕が赤くなっている。

 ただそれだけじゃなく、尋常じゃない血が服についたのが見えた。

 少し手を開けると 奈那の右手薬指のネイルをしていた爪が割れ

 血がかなり出ている。


「もう...どんだけ苦しめば気が済むんだよ! どう...して私ばっか

 何がしたいんだよ!!!」


 泣きながら弱まる打撃を受け続けた。

 その時緩くなった奈那の手を反射的に掴んでしまった。


「私が...私があんたに何をしたって...いうんだよ...。」


 涙がポロポロ床に落ちるのが見える。

 俺はどうしていいかわからず、そのまま立ち竦んでしまった。

 無言のまま

 いつもと同じ表情で。

 いつもと同じく黙りこくって。

 すると奈那がその静寂を小さい声で破った。




「別れよ...」




 俺は絶句し、言葉が出ずに顔だけを見ていた。

 目頭が熱くなっているのもわかる。

 俺が口を開こうとしたその時だった。


 奈那がいつも使う鏡台の丸鏡が青白く光り白い手が出てきた。

 その【異形なモノ】は奈那めがけ、伸びていく。

 スピードが早く、圧倒言う間に引きずられてしまう奈那


 俺は最初この世のモノではない、その【異形なモノ】に恐怖を覚え

 脚が震え固まってしまっていた。


 ただ、心は高鳴っているのがわかる。

 現実では有りえない、常識はずれの存在に。

 俺は少し笑みが零れてしまっていたと思う。


 ただ、このままだと今後一生自分に対して嫌悪感が付きまとう。

 そんな気がした。

 俺は勇気を振り絞り、奈那の右手を力強く引っ張った。


「奈那ァァ!!

 くそ..くそ...くそ!なんだコイツ!奈那から...

 俺の奈那から離れろオオオォォォ!!!」


 俺はあまり出さないぐらい大きな声を家中に響かせた。


 だが、俺は力に自信があった。

 ただ、それだけだった。

 そうそれだけ。

 結果無残にも儚く奈那は鏡の中に半分ほど吸い込まれてしまった。

 力が足りなかった。


「しゅ...う...しゅ....愁!!!!!たすけ...愁!!!!!」


 泣きながら俺の名前を呼ぶ奈那

 俺は力強く【異形のモノ】から奈那を引き離そうとしている。

 

 くそ!くそ!くそ!どんだけ吸い込む力つえぇんだよ!!

 俺は近くにあったベッドに足をかけるように奈那を引っ張っていた。

 ただ、その力は計り知れないぐらい強い。

 だが、先程流してしまった右薬指の血が俺の手の平に着き

 するりと手を放してしまった。


 キュィィィィィィィン


 甲高い音と共に鏡の中に奈那が連れて行かれた。

 その刹那光は青白かったものが徐々に消えかかっている。

 俺はどうしていいかわからず、鏡の中に無理やり入ろうとした...

 だがソレはただの鏡になっていた。


 その出来事は本当に、一瞬の出来事だった。

 

 俺は今目の当りにした光景が現実と受け切れていなかった。

 そのまま蹲り、奈那の名前を叫ぶだけ。

 それぐらいしかできなかった。



 今目の前にいた奈那がいなくなった。

 俺は泣き崩れ、奈那がいなくなった実感を誰もいない部屋で感じた。


 今は12月半ばの札幌

 外はクリスマスシーズン真っ只中。

 俺は家でぽつりとだらけているだけ。





 独りになった

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