第10話 銀狼との戦い:序章

 動物国家の地形は特殊であり、王都全体を囲うように聳える山々が連なる。山脈地帯に広がる大森林には村や集落が開拓され、都心から外れた場所に関わらず生活を営む獣人は数多いる。しかし昨今、治安の悪化が問題視されている。


大森林深部の洞穴、太陽も十分に差し込まない暗く冷たい張り詰めた空間に汗まみれの男は地を這い頭を垂れる。


 「私の持つ情報は全て教えました!ですから...、今月分の徴収は見逃してください!!」


羊の獣人はその緊迫した面持ちで何度も地面に頭を擦りつけ、その様子に向かう先で座る大男は不機嫌さを際立たせる。それを代弁するかのように大男の後ろに待機していた少年が現れた。


「情報なんかどーでもいいけどよ、自分が助かるために仲間を売るのは気に入らねぇ。俺らが一番嫌いなタイプ。だよな?"シルバー"」


 少年からシルバーと呼ばれるその大男は狼の獣人であり、少年もまた狼の獣人である。シルバーは徐に立ち上がると羊の獣人へと言葉を続ける。


「もう目障りだ、早々に失せろ。さもなくば...」


「お願いしますぅぅぅ!金欠なんです!...え。」


 シルバーの話を遮るような大声と共に泣き崩れる羊の獣人。次の瞬間、洞穴の周囲を盗賊に包囲されていたことに気がつく。逃げ場を失った羊の獣人に盗賊達はぞろぞろと押し寄せる。


「ギャァァァァァァァァ!!!」


 洞窟の水滴に混じりその悲鳴はどこまでも響き渡った。狼が群がるに連れ、羊の姿は闇へと消えてゆく。

 悲鳴が止む頃には空は暗く、洞穴の暗闇もまた一段と増す。


「ねぇ、シルバー。勇者って強いの?」


 少年の輝かせる目を見たシルバーは、呆れたようなため息をついた。


「情報にあった勇者か。やることは変わらない。金品を差し出せば生かす、持たねば喰い殺す。」


 シルバーの返答は盗賊の流儀そのものであり、それが最強最悪の盗賊たらしめる由縁といえる。


「いくぞ、小宵は鹿の村を襲う。"飢えたる銀狼"の狩りの時間だ」



 夜の静けさの中、狼の遠吠えは大森林を震わせる。

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