第9話 王都の異変
俺が羊の村へと到着したその頃、王都では不審な動きがあったみたいだ。
〜 動物国家レオ 〜
「国王レオ様、おはようございます。」
早朝。王室とは名ばかりの煌びやかさの欠片も感じさせない程に薄暗く閉ざされた扉を開いたのは、見張りの兵士であった。
「国王様、勇者一行が羊村へと到着したようです。それにしても部屋が暗いですね。灯りお点けしましょうか?」
国王と慕う人物へ敬礼と共に兵士は心配を投げかける。国王と慕われる人物はその問いかけに対し、微笑を浮かべると振り向くことなく応えた。
「ふふっ。おかしな話ですね。獅子は夜行性でしょう?暗闇に生きる野獣に灯りなど必要ありませんよね。」
王室から聞こえてくる声は、飄々とした青少年のようでありとても威厳ある国王を彷彿とさせない。
「だ、誰だ貴様は!国王陛下はご無事ですか!」
見張りの兵士は急ぎ駆けつける。しかし、そこに残された物は変わり果てた国王と犯人の残した一通の犯行状のみ確認される。
「
拝啓、この世界に生きる罪人共へ
私の目的はただ一つ、人間の解放。
私はこの世界に放たれた使者ーー
ーー 私は人間の、勇者である。
」
一連の国王暗殺事件は、瞬く間に王国中へ広まることとなる。政府はあくまで国王殺害の容疑者を公開せずに伏せる決断をした。人間が獣人に刃向かうこと自体、この国の禁忌に触れる事態である。勇者が獣人の王を殺害した状況はまさに、人間側の革命といえる。政府は隠蔽をせざるを得なかった。
だが隠蔽は叶わず、国王の悪政に不満を持つ対象は自ずと人間に絞られるため獣人の中で勇者の犯行を疑う者が多く現れた。
ーー国王暗殺から1週間後ーー
「えー、勇者の処分についてですが全会一致で処刑ということに決定しました。」
隠蔽を無理と判断した政府は、容疑の段階で勇者の処刑を決定した。国王亡き現在、人間の反乱を抑止するために勇者を晒し首にし見せしめとする狙いがある。
「判決を待ちなさい。まだ彼らが犯人とは決まっていません。」
厳格に佇む議員の中、女性の獣人の姿は一際目立つものがある。まして、猫の少女であるなら...
「王女様、貴女があの勇者を召喚したことは把握しています。それを不問としたのは、貴女様の父上である国王の遺言のためです。」
議員は遺言という言葉を口にすると、顔をしかめ納得のいかないと言わんばかりの素振りを見せる。
「遺言とはちょっと違うわ。これは法的効力を有するもの。私が勇者に関与することを罪に問えない法律を父は死ぬ間際に完成してました。父はきっと、心の底では人間に対する仕打ちを悔いていた。だから私に勇者という希望を託した。」
王女の発言は真実であり、遺言と呼ばれるそれはいわば法律である。元国王レオの独断で定めた法律は議員達にも死の直前まで伝わっていなかった。
「うむ。王女様の行動に対しては介入することは確かにできない。だが、処刑を行使する判決を覆すことは認められない。」
議員からの返答は至って冷静な判断によるものである。獣人からすれば誤りは王女の選択なのかもしれない。それでも王女は止まらない。
「私が勇者様の無実を証明します!」
王都での異変は俺も後に知ることとなる。まさか俺の他にも勇者がいるなんて思ってもみなかった。これから獣人には命を狙われることになるし、本当に俺は勇者なのか自信が持てない。
ーーー時は遡り現在、勇者はハナ・ラビ・レイナ・と共に羊の村を訪れた。突如として獣人の国へと召喚されてしまった自称動物好きだがケモナーじゃない俺、今井俊介は"飢えたる銀狼"という盗賊から村を守るべく村の外壁を強化する!!
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