第8話 羊の村を救え‼︎

宿屋を出発した俺ら四人は、いよいよ次の村へと到着しようとしていた。



「村が見えてきましたよ‼︎ご主人様‼︎」


「やっとか...ここまで長かったな」



ハナが指さしたその村は、王都からはだいぶ離れたいわゆる辺境の土地だった。王都の騒がしい雰囲気とは違い、こっちの村には落ち着きのようなものがあり俺は好きだ。


だが、村に近づくにつれ俺はある異変に気づいた。レイナもどうやらその異変を感じたみたいで、俺に振り向く。



「お兄ちゃん、この村は...」


「レイナも気づいたか、最初はただ静かな村だなと思っていただけだったが...この村には襲撃された形跡がある!」



村の入り口の門や、周囲の外壁には壊された跡が残っており、襲撃された形跡が生々しく残っていた。



「ラビ‼︎この門、蹴破れるか?」


「まかせて‼︎ご主人様ー‼︎」



ラビは村の門を勢いよく突破した。ラビに続いて村の中へと入ると、俺らの前には目を疑うような光景が広がっていた。



「なんだよ...これ」



家や畑は荒らされていて、村の住人の姿も見当たらない。俺は村の住人へと大声で呼びかけた。



「あのー、この村では一体何が起こったんですか?俺は人間ですが、敵ではありません‼︎

約束します‼︎俺らはこの村には危害を加えません」



俺が大声で呼びかけると、辺りはガヤガヤと騒然とし始めた。



「人間だってよ!まさか長老が言っていた

この村を救ってくださる勇者様か‼︎」


「勇者様だ‼︎勇者様が来たぞ‼︎」


「お主ら、静かにせぇ‼︎」



そう言うと家から出てきたのは、白く長い髭が特徴的なヨボヨボとした羊の獣人だった。



「勇者様、お待ちしておりました。わしはこの村の長老をやっている者でございます。

さぁ、立ち話もなんですので続きはわしの家でお話しましょう」



長老に言われるがまま、俺らは家の中へと招かれた。てっきり俺は人間である俺を警戒するのだと思っていたが...

どうやら俺らは歓迎されている⁉︎



「あの...長老さん?でしたよね。自分で言うのもなんですが...何故、人間の俺を歓迎したんですか?」



俺はずっと気になっていた疑問をぶつけた。本来、この国での人間の印象は最悪なものだからだ。実際、王都でも人間というだけで捕まりそうになったし...レイナなんて人間というだけで奴隷扱いだったからな。


俺の表情で察したのか、長老は優しい笑みを浮かべて答えた。



「実はですね、勇者様の一行がこの村へ来てくださることは知っていたのですよ。数日前ですかな、王女様が自らこの村へ来て告げていったのです。

数日後、来たる日に勇者が現れると」



俺は長老の話に驚きを隠せない。王女様ってなんだよ⁉︎俺、多分面識ないぞ。それに俺が勇者だと知っている人物は...いや、まさかだと思うが...



「この国の王女様って猫の獣人だったりする?」



「いかにも、猫の獣人ですぞ」



俺の中で点と点が一本の線になった気がした。ずっと気になっていた、彼女が言い残した意味深な台詞。

影ながら援助をするってそういうことだったのか!たしかに、今思えば召喚なんて普通の獣人にできるはずがないからな。...いや待てよ、つまり王女様が自ら俺に勇者になってくれと言ったってこと⁉︎俺だいぶ失礼な態度だった気がするぞ...今思うとめっちゃ恥ずかしいんだけどぉぉぉぉぉ‼︎



「勇者様それでですね...」


「要するにこの村を救ってほしいって話だろ?俺に任せてくれ」


「本当ですかな‼︎ありがとうございます勇者様‼︎」



俺はこの村の依頼を引き受けた。どうやら困っているみたいだしな、見過ごす訳にはいかないだろ。


依頼を引き受けた俺は、早速作業に取り掛かるべく外へと出た。外にはさっきまで引きこもっていた住人達が大勢いて、俺らに気づくと駆け寄ってきた。



「この村を救ってくださるんですよね‼︎勇者様‼︎」


「お願いします‼︎勇者様‼︎」



歩くたびに向けられるその期待と尊敬の眼差しに俺は正直、感動していた。この国に召喚されて初めて自分が勇者だと実感できた気がする。めっちゃ慕われてる...これすごくいい‼︎


感動に浸っていると横から小声でハナが囁いた。



「よろしいんですか?ご主人様。依頼の内容はお聞きにならなくて」


「そういえば、具体的な内容は聞いてなかったな」



俺はハナに言われたとうりに長老に具体的な内容を聞いた。



「救うとは言ったが、具体的には何するんだ?この村はもう襲撃された後みたいだけど何が起こったのか聞いてなかったな」



長老は深いため息をつき、やがて何が起こったかを語りだした。



「やつらに...盗賊団"飢えたる銀狼"に襲われたのじゃ」


「飢えたる銀狼?」


「やつらはこの周辺を縄張りにしてる盗賊でな。度々、この村を襲撃しては金や食糧を奪っていくんじゃ...そして先日、一人の若者がその盗賊の一員に石を投げつけてしまってな、その結果がこの有り様じゃ...」



俺はこの村の大体の事情は理解した。

なるほどな、羊の天敵は狼か...捕食者と被食者の関係は俺のいた世界と変わらないな。狼は群れで行動する習性があるからな。"飢えたる銀狼"か、数にもよるけど総攻撃を仕掛けられたらたしかに脅威的だよな...



「勇者様にはその"飢えたる銀狼"のやつらを倒してもらいたいのです‼︎」


「俺に狼を倒せと?しかも組織ごと?」


「是非とも‼︎」



いやいや、無理無理。狼の強みはなんといっても集団行動だ。一匹でも強い狼が数匹、数十匹の群れを率いてるんだ。戦力差は圧倒的に不利だし、戦うなんて愚策だ。それに...



「悪いが、その依頼は引き受けられない」


「そんな...勇者様」


「倒すというのは無理だ、狼には退いてもらう」


「退いてもらうとは?」


「俺がその"飢えたる銀狼"のリーダーに直々に交渉してみる」



俺の予想外の発言に、長老を含めた村の住人は目を丸くした。隣にいたハナが驚いた様子で俺に顔を向けた。



「正気ですか⁉︎相手は盗賊、素直にこちらの交渉に応じるとは思えません‼︎」


「そうだよ‼︎ご主人様が危険すぎる‼︎」



ハナに便乗するようにラビも俺を止めた。わかっている。自分の考えがどれだけ無謀だということも、けれどこれしかない。狼に正面から戦いを挑む方がよっぽど愚かな行為だ。

失敗すれば最悪、俺は死ぬかもしれないけど...


俺がどうしようかと迷っていると、レイナが裾を引っ張った。



「私はお兄ちゃんを信じる」


「レイナ...」



そうだ、今まで何悩んでたんだ俺は!この娘に運命を変えると約束したのは俺だろ!やれるかやれないかじゃない、やってみせるんだよ‼︎



「ありがとうなレイナ、おかげでようやく決心がついたよ」



俺は長老に振り返り、指示をだした。



「今すぐ準備してくれ」


「交渉の準備ですかな?」


「違う、まずは襲撃されない為に外壁の強化からだ。こんなボロボロの外壁じゃ突破されても仕方ないからな。交渉しに行くのはその後だ」


「聞いたか‼︎皆の者、外壁強化じゃ〜‼︎」



こうして俺らはこの村の依頼を引き受けた。敵は狼、一筋縄ではいかないだろう...けれどまずは、



突破されない為の外壁強化からだ‼︎

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