転機
私は死んだ。
いやそれはおかしい。
なぜなら意識があるから。
なぜ意識があるのか?
病院?いや地獄にいるのか?
音も聞こえない。
私は…なぜ?
…そう、そうだ思い出した。
轟音と衝撃だ。
あの時なにかが私を、私の全身に目も眩む轟音を受けたのだ。
死んだと思った。
助かったのか?ここは?
いや考えずに行動しなければ…
目を開ければ悟る、私は棺のような物に入っていたらしい。
上半身を上げ周囲を見回してみた私は非常に困惑した。
これはおかしい。
私は病院か地獄かと思っていたのに周囲には
数年、いや数十年…放置されたと思われる何らかの施設。
埃が積もってるどころか、
コンクリートの壁はいたるところにヒビがはいり、いくつか崩壊した箇所からは植物が侵入してきていて今にも崩れそうだ。
なにがあったのか。
まるで人類が滅亡した世界の様だ。
なんにせよ外へ、人に会わなければならない。
棺に手をかけ這い出そうとし何気なく腕を見た時。
この時こそ私の人生の転機であるのだろう。
私の身体は機械となっていた。
私の体が機械になっていたという現実に数秒か数分か放心していた私は正気を取り戻した。
首から下は全てが白一色
身体は女性型のようだが谷間もない柔軟性の欠片もない硬い肌。
強化骨格を纏ったアニメキャラクターのようだった。
考えたいことは山程あるが倒壊の危険がある此処から出なければならない。
5本の指がなくなった足で私は日の差す朽ちた扉をくぐった。
見渡す景色は何処までも木が生えていて山にいることが分かる。
人に会わなければならない。
なにがあったのか、
なぜ木々生い茂る山中の施設にいたのか。
なぜ私は
山中の道無き道を私はひたすらに上を目指して歩いていた。
時間はどれほどたったのか?
人に会えるのか?
疲れを知らない体を頼りにただ歩いていた。
どこかで聞いた話だが山で迷った時は上を目指すらしい、下りれば迷うそうだ。
未だに登山道らしきものは見当たらないが大丈夫だろうか?
身体はいつまで保つのだろう?
私は…
嫌な想像を振り切るように私は歩く。
太陽が真上にくる頃に崖から川と滝を見つけた。
深い滝壺に流れの速そうな川だ、落ちては助からないと思う。
どこかで川を下れば人の住居に辿りつけると聞いたことはあるが不確かで不安が強い。
高い所へ行ってから周囲を確認した方が確実だろう。
少し試してみる。
川へ手をいれてみるが触覚はあっても温度は感じない、それに防水機能もあるみたいだ。
もしかしたら泳げるだろうか?
水を弄びながら考える。
この身体はおかしい。
まだ腕だけなら許容範囲かもしれないが
女性よりも細い脚は問題なく人の様に歩けるし、腰や首の動きも不自由なく動く。
それも人の手も入ってない山道を軽々と歩けるなどオーバーテクノロジーなのは間違いない。
いったい世はどうなってしまったのか
宇宙戦争でも起きたのか?
ナチスが墓から蘇ったのか?
などと夢想していると唐突に日が陰った
雲ではない、
背後に何かが、獣がいる
だが、それもまた違う、
獣ではない
振り返った私の眼前には獣を、
熊を模した機械の化け物が唸りを上げていた。
眼前の物は熊ではない何かだ。
その姿に生物的な要素などなく、
身体を覆う鈍い銀色の装甲と黄色に光る目は兵器を思わせた。
現代では目にかかれないファンタジー兵器に目を奪われてしまった後に
自身が非常な危機に陥っている事に気がついた。
背後は川、右手は崖、左手は急勾配の山肌、前方数歩で届く距離に明らかな敵性存在。
退がれないし勝てないし逃げられない。
熊への対処と同じように後ろへ下がるべきなのか…
そうだ、それしかない。
私は光る目を見ながらゆっくりと退がる。
ゆっくり…ゆっくり…
冷汗が流れた気がした
機械熊もまた距離をゆっくりと詰めてきている。
私は足を川に掬われないように足を擦るように動く早くとも静かに慎重に。
目的は何なのか対話は可能なのか操縦者はいるのか…
川の流れる音がやけに煩く感じる。
一歩、一歩と後ろへ…
緊張で十数秒が数十分にも感じる…
ようやく川の半ばに差し掛かる頃で、
もしかしたら無事に済むかもしれないなどと思った時、
機械熊の目が文字通り変わる。
黄色から赤へ
機械熊から聞きなれない異様な低いエンジン音が大きくなり排気孔から白い煙が噴き出した。
逃げなければ!逃げなければならない!
反転して走り出す
一歩目の左脚を踏み出して二歩目を上げたところで攻撃をもらった、
硬質な何かが切断される音ともに身体が凄まじい力で吹き飛ばされ川底に叩きつけられた。
必死の思いで上半身を起こすと
私にトドメを刺すためだろう
機械熊の口に当たる所から、鋭利なパイプが伸びようとしていた。
せっかく生まれ変わったというのに、
こんなに早く此処で終わるわけにはいけない。
だが勝てる方策など全く分からない、
いや逃げる方法なら一つだけ最初から…一つだけあった。
幸いにも吹き飛ばされた場所は最適で、まるで神様の思惑通りというか台本通りのようだ。
ならば演じなければ、こなしてみせよう。
意を決して私が後ろへ走りだした時
機械熊の足元が爆発し巨体に見合わぬ速さで突っ込んできた。
私は咄嗟に腕を上げて守る
パイプは腕を貫通し喉まで貫通し
両腕が衝撃でひしゃげて私はまたも空を舞う。
視界が明滅しもはや動けない。
だがこれで良い。
私は落下しながらそう思った。
滝壺に叩きつけられたと同時に私の意識は途絶えた。
……………………………応答なし
自動運転システム…起動
緊急浮上システム…起動
身体機能確認…
右脚……………………欠損
左腕……………………重傷
右腕……………………重傷
腹部……………………一部破損
頸部……………………重症
診断…自立運転不可能
救難信号発信…
救難信号発信…
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