第253話 やっぱり思い出せない
「なぁ、白石萌音って女知ってるか?」
慧は幼馴染みの元の店に同じく幼馴染みの琢磨を呼び出していた。
「白石? 同級生にはいないよな」
「いないんじゃね? 先輩とかはわかんねぇけど。なんで? 」
元は、カウンターで飲む慧達の前にビールを置き、ついでに自分もお相伴にあずかった。
「この女。高二の時に関係あったらしいんだけど」
慧は萌絵の持っていた写真をスマホで撮った画像琢磨達に見せる。
「あー、ここ、いっちゃん安いラブホな」
「そうそう、お年玉もらった時とか、本命落とす時とか使ったとこだ」
「琢磨んちのプレハブが使えなかった時とかな」
琢磨と元が女じゃなくて、写っている背景を見てゲラゲラ笑っている横で、慧は苛ついたように写真の女を指さした。
「ってか、女見ろよ。見覚えあるか?」
二人はマジマジと写真を見る。
「これ、年上じゃね? 先輩か……ナンパして知り合った女か。ってか、おまえ、自分がヤッた女忘れたのかよ。鬼畜だな」
元が呆れたように言ってビールを煽る。
「数回くらい寝た女覚えてられっかよ」
「慧は結婚しても慧だな」
「うっせーよ! 琢磨、この女に見覚えねーのかよ。一回くらいはおまえんとこのプレハブに連れ込んでんじゃねぇかなって思うんだけど」
「知らねぇよ。でも、なんで高二ん時のセフレが今更出てくんだよ」
「アッ、実はあなたの子供なの! とかガキ連れて襲来してきたとか」
元がわざとらしく甲高い女の声真似をしてからかうと、琢磨がハアッ?と声を上げる。
「まさか? 十年くらい前だぜ」
「……ガキだけ実家に来やがった」
「「へっ? 」」
琢磨と元が素っ頓狂な声を出した。
そりゃそんな反応だろう。ヤリチンだった慧の過去を知っている幼馴染の二人だからこそ、慧が避妊と性病予防にコンドームだけは欠かさなかったのを知っていたから。いくら相手にピルを飲んでいるからと言われてもだ。
「……まぁ、ゴムの避妊率は100%じゃないかもしれないけど」
「いやいやいや、アレは俺の子供じゃねぇよ」
「でも、それって母親しかわかんないじゃね? 母親が言うならそうかもしれないし」
「だから、母親探してんだよ」
親子関係なんか、DNA検査をやるまでもなく白だ。ナマでしてる麻衣子ですらまだ子供ができないのに、そんな高確率引き当ててたまるかよと、慧は心の中で悪態をつく。それにまぁ、一応検査はした。その検査結果は慧の尻ポケットに突っ込んである。
もし、万が一、億が一、兆が一慧の子供だったとして(実際は0.1%の確率だが)、当時高校生だった慧に言えなかったとはいえ、十年もシングルで萌絵を育てるような殊勝な女でもなさそうなのだ。萌絵の話と彼女の様子からして、ネグレクトだったんじゃないかとすら思えたし。
「孝介にも聞いてみっか」
もう一人の幼馴染である孝介にも写真をラインで送り、この女知らないか?と文章をつける。
「なぁ、そんで麻衣子ちゃんは大丈夫な訳? いきなり隠し子が現れて」
「だから、隠し子じゃねぇっつの。麻衣子はまぁ、萌絵と仲良くしてるぜ。一緒に買い物行ったり、料理作ったりして。萌絵も俺のことパパとか呼ぶわりには、俺にはあんま寄りつかねぇな。まぁ、寄りつかれてつかれても知らねぇけどよ」
「出来た嫁だな」
「んなことねぇよ。最近女でばっかつるみやがってベタベタベタベタ、萌絵の奴、最初は麻衣子さんとか距離おいて呼んでたのに、今じゃ麻衣ちゃん麻衣ちゃんうるせーっつの。風呂まで二人で入るしよ、しまいにゃ怖い夢見たから一緒に寝てとか甘ったれたこと言いやがって」
「えっ? 二人の寝室に入ってくるとか? 」
「高二ん時のだと……十歳くらいだろ? オッパイだって膨らんでんべ。そんで三人で? 」
何を想像したのかわからないが、元が「犯罪だろ?! 」とのたまいながら、飲み干したコップにグビグビとビールを注ぐ。
「あいつは真っ平らだ。っつか、あいつのオッパイなんかどうでもいいんだよ。萌絵の奴、麻衣子を自分の部屋に連れてくんだよ」
「えっ? 慧がその子の面倒見てるのか?」
「俺は見てない。麻衣子がな」
「いやいやいや、実家じゃなくておまえんちにいるの? 」
「あぁ。八重さんがギックリ腰やっちまって、昼はうちの病院の保育室にいるけど、夜は俺と帰る。夏休みん間は夜勤免除になったのはありがたいけどよ、もう十日もヤッてねぇ。あいつ、麻衣子の回りをチョロチョロと、マジでウザいんだっつうの」
そう。二人暮らしだった家に、今は常に萌絵もいる。
好きな時に麻衣子に触れられないだけじゃなく、教育上良くないからと、Hまでお預けをくらい、今じゃ一緒のベッドにすら寝ていない。浮気したって文句を言われる筋合いのない状態だ。
麻衣子と子供を作る気満々だったが、本物の子供が出来てしまった場合、こんなレスみたいな状態が続くのなら、ちょっと考え直した方がいいかもしれないなんて考えてしまったくらいだ。
「ヤキモチか? おまえ、小学生のガキにヤキモチ焼いてんのかよ」
「うっせ! とにかく、早く萌音とかいう女見つけて、あのガキ引き取らせないとなんだよ」
ヤキモチというか、確実に欲求不満の塊になっている。ヤれる女が同じ屋根の下にいるのに手を出せないとか、ただの拷問以外の何ものでもない。
「おい、スマホ、なんかバイブってるぞ」
見たら、孝介からラインが入ってる。
「孝介から……って、まじ? 」
「何々、どしたん? 」
三人で慧のスマホを覗き込んだ。
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