第二章
第250話 呼び出されてみたら……
久しぶりに慧と麻衣子の休みが重なった。もちろん二人で買い物に行く訳でも、デートに行く訳でもない。やることは一つ。セックスである。
慧と付き合って(身体の関係になって)から十年。最初の頃のようにバカみたいにヤることはなくなったけれど、休みが合えばけっこうな頻度で身体を重ねている。セックスは慧の肉体言語であるから、大事な夫婦間のコミュニケーションであった。
そして何より、ニヶ月前から積極的に
麻衣子的には、慧の仕事も落ち着き年齢もそこそこいい年になってきたので、真剣に子作りを考えるようになり、慧的には(ゴムが)ない方が具合がいいし、デキたらデキたでかまわないぐらいの軽い気持ちからだった。
「今日、一日中ヤッてたらデキっかな」
「そんな……簡単じゃ……な、いわよ」
ちょっと一日中とか意味がわからない。まだ昼前だというのに、すでに今日二回目だ。一週間ぶりだから溜まっているという慧に、寝起きにイタズラされてそのまま布団で一回。朝食後、洗い物をしていた麻衣子の後ろ姿にムラムラした慧に襲われ二回目。ただいまキッキンで夫婦のコミュニケーションをとっている最中だ。
「でも、今日おまえ危険日じゃん」
「そう……だっけ? 」
麻衣子の生理周期を麻衣子よりも理解している慧だ。キッチンからリビングダイニングのソファーに移動し、さあ今からラストスパートだという時に慧のスマホがなった。
「慧君……電話」
「ム…………リ」
麻衣子の上に崩れ落ちた慧が、手だけ伸ばしてテーブルの上のスマホを握った。
「……クソッ、ババァかよ」
慧が着信を見て唸っていると、再度スマホがなる。
「出なよ。急用かもよ」
「今日は休みだっての。……あー、何? 」
慧がスマホに出ると、テンション高めの紗栄子の声が聞こえてきた。
『ちょっと慧、何ですぐに出ないのよ! 』
「……寝てた」
『もう昼よ?! まいちゃんは? 』
「……寝てる」
ソファーで息も絶え絶えに横たわっているから、あながち間違えてはいない。
『疲れてるのね。あなた、まいちゃん起こさないようにしてすぐにうちに来なさい』
「やだよ、めんどい」
『いいから! 絶対にすぐに来て!!必ずよ。まいちゃんは起こさないようにね』
「あー、はいはい」
『こなかったら減給にするからね!わかった?! さ……』
慧は勝手に着信を切ると、やっと麻衣子の上からどいた。
「ソファーは駄目だって前に言ったよ」
「しゃあないだろ。こっちのが近かったんだから。なかなかシンドイんだぞ、したまま運ぶの」
「あんなとこで盛らなきゃいいでしょ。ほら、早く仕度して行きなよ」
「ウゼーし」
麻衣子は素早く起き上がり、乱れた衣服を整える。早く風呂に行かないととんでもないことになると、慧を置いて風呂場に直行した。
身体を洗いシャワーで流していたら慧も入ってきた。シャワーを慧に渡して脱衣所に出た麻衣子は、洗い物籠を見てため息を吐く。二人暮らしとは思えない洗濯物の量だ。とても昨日今日の量には思えない。
「慧君、シャワー終わったら洗濯機回してね。洗剤は入れてあるから」
「……あぁ」
洗剤を入れ、洗濯機の電源を入れて後はスタートを押すだけにしておく。ここまで準備をしてお願いしても、「洗濯機回してくれた? 」「忘れた」というやり取りが多々ある。松田家には家事分担という言葉は存在してなかった。
先に身支度を整えた麻衣子がソファーの掃除をしていたら、シャワーからあがった慧が床に直に座りスマホをいじりだした。
「行かないの? 行ってきたら」
話の内容を聞いていた麻衣子は、グダグダして行く気のない慧の背中を突っつく。
「めんどい」
「お義母さん待ってるよ」
「しゃーねぇな。じゃ、行くぞ」
「私も? 」
「じゃなきゃ行かね」
どうせ母親と話すのも面倒くさく、麻衣子に相手をさせようと考えているのだろう。しょうがないなと麻衣子は外出着に着替えて慧と家を出た。
慧の家につくと、慧はチャイムをピンポンピンポンピンポンと連打する。
「ちょっと慧君……」
慧が来るのを待ちかねていたのだろう。チャイムを鳴らした数秒後、八重ではなく紗栄子自ら玄関の扉を勢いよく開けて飛び出してきた。
「慧、遅いじゃない!! あんた、ちょっ……まいちゃん?! 」
紗栄子は慧が一人で来たと思っていたらしく、麻衣子を見てギョッとして顔色を変えた。麻衣子大好きないつもの紗栄子なら、笑顔で歓待してくれるのだが……。
「あ、慧さんだけにお話でした? 私、帰りましょうか」
「違うの、そうじゃないのよ。でもどうしましょ」
紗栄子がオロオロとしている後ろから、バタバタと走ってくる音がしたと思うと、十歳前くらいの女の子が飛び出してきて、裸足のまま玄関の外にいる慧に飛びついた。
「パパ!!!」
「……」
慧よりも頭一つぶん以上小さな女の子は、慧の胸に抱きつき顔をおもいっきりこすりつけていた。
「……パ……パ? 」
麻衣子は目の前の光景が理解できず、ただボカンと眺めるだけだった。慧も同様だったが、麻衣子よりも早く正気に戻ると、女の子の額に手を当てて力任せに引き離した。
「おまえ何?! 」
「
「は? 」
萌絵と名乗った女の子は、目を潤ませて慧を見上げた。
萌絵は、可愛いというより綺麗になるだろうなと思わせる顔立ちをしており、一重で切れ長の目は……慧に似てないこともなかった。
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