第241話 慧の真実
慧は大きな欠伸をして当直室で目をこすった。昨日は夜勤で、いつもなら当直室待機でさして呼び出されることもなく安眠できる筈だが、昨日の晩は容態の急変した患者が出たり、救急の受け入れがあたりで仮眠も満足にとれなかった。
本当なら、今日はこのまま自宅に帰って爆睡したいところだが、実家のBBQに呼ばれているから帰る訳にいかない。一人なら確実に家帰って寝る一択だが、麻衣子もくる予定になっているからそうもいかない。
慧は頭をガリガリかきながら、仮眠室についているシャワー室で眠気を覚ますことにした。
引き継ぎをすませて、実家へと怠い身体を引きずりながらチンタラ帰る。頭の中には面倒くさいしかない。
実家につくと、すでにBBQの準備は出来ていて、チラホラと客も来ていた。病院関係者(部長以上と取引先)の慰労会も兼ねているから、見知った顔ばかりだ。禿げ散らかしたオヤジかペコペコした営業ばかりでうんざりだ。
若者といえば佳乃とその友達くらいで、うるさくて寝不足の頭には耐えられたもんじゃない。ベタベタからんできたから、適当な若めの営業に押しつけといた。
麻衣子と杏里(杏里はおまけだな)を探していたら、脳外科部長と形成外科部長につかまってひたすら飲まされた。
こっちは徹夜明けだぞ! たて続けに飲めっか!!
って、学生の時なら言えたかもしれないが、さすがに社会人になったし、適当に杯を開けてやり過ごす。
通常なら、こんぐらいじゃ絶対に酔わない。今だって酔ってる訳じゃない。(と慧は思っている)ただ、爆裂に眠いだけだ。
実際慧は凄まじい眠気に襲われていた。
「あれ、慧君の奥さんだよね」
外科部長がニヤニヤと顎をしゃくる。
ねぇ顎をしゃくるな、人の嫁を顎で指すんじゃねぇ!
「そうっすね」
「美人さんじゃないか、それに凄いスタイルいいね。藤原紀香並みだよね」
ハアッ?
麻衣子のが断然いい身体してんだろ。うちの嫁はダイナマイトボディーだぜ!
オッパイはフワフワのポワンポワンだし、ウエストはキュッとしまって両手で掴めるレベルだ。尻は外人並みにプリンとしてて、そっから伸びた足は真っすぐで長い。
感度も無茶苦茶良くて、さらに名器!今までヤッたどの女より最高に良いッ!
慧は顔色も変えずにけっこう酔っぱらっていた。
「隣の子もかなりな美人ちゃんだけど、やっぱり慧君の奥さんのが色気がある。いやあ、慧君が羨ましいよ。僕ももう少し若かったらなぁ」
アホか。杏里なんかクソだろ。比べる意味がわかんね。あと、禿が若くなっても若禿だろが。若かろうが年寄りだろうが麻衣子とヤれると思うな、禿!
ブヨブヨした腹を叩きながら笑う外科部長に内心で毒づきながら、慧は注がれた酒をグビッと飲んだ。
さっきまではビールだが、今度は日本酒だったらしい。形成外科部長の手には日本酒の瓶が握られていた。
「奥さんに紹介してよ。今度飲みたいねぇ」
「まぁ、機会あったら。すんません、ちょっとトイレ」
「ああ、いっトイレ」
ゲラゲラ笑うオヤジ二人の親父ギャグはスルーし、慧は家の中に入った。トイレに行った後、ちょっと仮眠しようと二階の自分の部屋へ向かった。
ベッドの魅力には逆らえず、瞬殺でおちた。徹夜明けのチャンポン、スコーンと眠りにおちた慧は、今年一爆睡してしまった。
★★★
夢の中で、何かに股関をこすられなんか気持ちよかった。
麻衣子が上にのってんのか?
突っ込んでガツガツ腰を振りたかったが、まるで金縛りにあっているように身体が一ミリも動かない。
半勃ちになりながらも、決定的な刺激に欠ける動きで妙にもどかしい。
麻衣子ならもっとこう……。
麻衣子の騎乗位は、視覚的なエロさだけでもイケる。あの揺れる胸を鷲掴みにして……。目も開けられないから、妄想だけで本勃ちに近くなる。
硬く勃ち上がった慧のナニが擦れるのか、女の喘ぎ声が聞こえてきた。
ハアッ?
なんだよ、やっぱり夢かよ。ってか、麻衣子の声じゃないってだけで萎えかける俺って、どんだけだよ。
聞き慣れた麻衣子の声じゃないというだけで、慧のナニは半勃ち状態に戻ってしまう。
慧の手がつかまれ、何か柔らかい物体に押し付けられた。かろうじて指先がピクリと動き、フニ……フニと触ってみる。
弾力はあるのかもしれねぇけど、これじゃねぇ。昔ヤッた女の夢か? どうせなら夢でも麻衣子のオッパイのがいいな。
「……だから」
「慧君に聞いてるの。慧君! 」
麻衣子の大声でビクッとなった慧は一気に意識が覚醒した。それでも身体が重くて頭がガンガンしている。声をした方を見ると、開いたドアの向こうで表情の抜け落ちた麻衣子が仁王立ちで立っていた。
「慧君、言い訳はある? 」
いつもの柔らかい麻衣子の声じゃなく、何かを耐えているような、感情を抑えた声だった。
「は? 」
「言い訳もないんだ。……わかった」
「えっ? 」
麻衣子が大きな音をたててドアを閉め、階段を走り下りて行く音が響いた。
「おい、ちょっと……」
起あがろうとして、初めて俺の上に乗っている人物に気がついた。
「おまえ、何してんの?! 」
慧の股関を跨ぐように馬乗りになっていたのは佳乃だった。スカートは捲れ上がりパンツが見えている。明らかに慧の股関に秘所を擦り付けていたようだし、慧の手は佳乃の胸を鷲掴みにしていた。佳乃の手で押し付けられた形ではあったが。
「何してくれてんだよ……」
「私、慧兄ちゃんがずっと好きだったの! 今も大好きで、だから私を選んでよ! 私、慧兄ちゃんになら初めてあげてもいいよ」
「いらねぇよ。ってか下りろ」
「イヤッ!! ほら、慧兄ちゃんのだって私とヤりたがって……」
佳乃は腰をグイッと慧の股関に擦り付けて、そこでさっきまでの昂ぶりのない慧のナニに気がついた。
「あのな、若くてピッチピチの女が跨がってきても勃たねぇよ。おまえは対象外。好かれてたのはまぁ、ありがとうな。でも俺がおまえを好きになることはないし、抱きたいとも思わないから、すっぱり諦めろ」
「ヤダッ! 無理! 諦めない!!」
「そういうガキのとこ。何でも自分の思い通りになるって思ってるとこ。同族嫌悪っつうのかな。俺もやだ、無理」
ベッドの上だから怪我もしないだろうと、慧は少し力技で佳乃を引き剥がした。佳乃はパンツ丸出しでコロンと後ろに転がった。それを見ても何とも思わない。これが麻衣子だったら、確実に✕✕✕で✕✕✕だったな。
「どうすれば、慧兄ちゃんは無理じゃなくなる? 」
「……麻衣子に生まれ変わる? 似てるだけじゃ駄目だな。顔形だけじゃなくて、体型も触り心地もミリ単位の誤差なく同じなら……。もうそれって麻衣子だな」
けっこう酷いことを言っているのだが、慧には悪いという気は全く無い。
「なんでよ?! 私のが若いし可愛いのに! 」
「うざい、マジで勘弁。言葉が理解できない馬鹿なとことか、ションベン臭いガキなとことか、無茶苦茶面倒くさい」
ふられて泣くくらいなら、可愛げもあるだろうし、ふってしまった罪悪感から少しは優しくできたかもしれない。でも怒ってふてくされている姿を見ると、面倒くさいし関わりたくないという気持ちでいっぱいになる。
幼なじみと言えるか微妙だし、ただの母親の知り合いの娘で、ずうずうしく居候してるだけの奴だ。
慧はスマホをズボンから取り出すと、母親の紗栄子に電話して部屋に来いと伝えた。
「何よ、電話なんかして」
紗栄子は部屋にやってくると、ベッドの上で睨み合っている慧と佳乃を見て目を丸くする。
「どうしたの? 」
「この馬鹿が夜這いに来やがった」
「今、昼だけど? 」
慧はイラッとしてベッドを殴る。
「俺が寝てたら、上乗って腰ふってやがったんだよ! 」
「は? 」
「だから、俺のチ○コ使って自慰行為してやがったんだ」
「な、何てこと言うのよ! そんなことしてないでしょ!! 」
「してただろうが、ハァハァ喘いで、寝てる俺の手つかんでオッパイつかませてさ」
佳乃は顔を真っ赤にさせてブルブル震えていた。羞恥からというより、馬鹿にされた怒りかららしかった。
「佳乃ちゃん、どういうこと? 」
「私……私は昔から慧兄ちゃんのことが好きで……、だから……」
「それで慧の寝てるとこを襲ったの?」
「だって、その気になってくれたら、私のこと子供じゃなくて女として見てくれるようになるって思ったんだもん! 慧兄ちゃん、女性関係ユルユルだって聞いたから、すぐにその気になってくれるって思ったし」
紗栄子は大きなため息をついた。幼馴染みの娘だと思って昔から可愛がって甘やかしてきたが、その態度や性格ははっきり言って眉をひそめていたのだ。いくら好きだからといって、結婚している男性にせまるのはよろしくない。しかも、これが男女逆なら警察案件だ。
「あんた、ユルユルなの?! 」
「それは今問題にすることかよ? 」
「佳乃ちゃんにそう思われたあんたにも問題はあるってことね」
佳乃は、不機嫌全開だったのがパッと笑顔になる。まるで自分の行為が正当化されたと言わんばかりだ。朱里も頭が痛いことだろうと、紗栄子は幼馴染みの顔を思い浮かべた。
「佳乃ちゃん、このことは朱里に報告させてもらうわね。それとさすがに色仕掛けをしかける女の子を家にはおいておけない。慧は自業自得としても、まいちゃんに申し訳なさすぎるから」
「おばさま!! 」
紗栄子が麻衣子の名前わ出して、慧は麻衣子にさっきのを見られたのを思い出した。麻衣子のスマホに連絡を入れる。しかし、何回かけてもでない。
「クソッ! 」
慧はベッドから飛び出してドアを開けた。目の前に女子が二人いて、ぶつかりそうになった。
「どけ! 」
「あれ? 佳乃は? えっ、もう終わっちゃった? 」
「何が終わったって?! 」
「あれ? あれ? 佳乃とナニしたんじゃ……」
「ア"ァ"ッ?!!! 」
威嚇するように睨むと、保奈美がズササッと後退り、後ろにいた文香にぶつかる。
「あの、奥様の……麻衣子さん? さっきお帰りになられたみたいですけど。あの、駅の方へ歩いて行かれたのを見たんですが」
文香が恐恐言うと、慧はギロリと睨んだだけで「ああ」と横を通り越して行った。階段を二段抜かしで駆け下り、スニーカーをつっかけて玄関を出た。
「なに?! まいちゃんがどうしたの? 慧、慧ッッッ! 」
大声で呼ばれたが、慧は振り返ることなく駅まで全力疾走した。
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