第223話 番外編 恭子先生緊急会議
あれから一週間後、緊急会議が進の家で行われた。
美佐江は泣き腫らした目で、まだグズグズと泣いており、そんな美佐江の肩を恭子が抱き、雅子は中西を睨むようにそんな二人の前に仁王立ちに立っていた。
男性陣はみな戸惑ったような表情で、ソワソワと落ち着きがなかった。
「どう責任とるのよ」
雅子が低い声で中西に詰め寄る。中西はうつむいてしまい、小さな声でゴニョゴニョ言う。
「……責任たって……」
「はあ? 聞こえませんけど? とにかく、いつも規則正しく生理がくる美佐江が、今回は三日も遅れてるんだから! 」
「……三日くらい」
「何よ?! 責任とらないつもり?! 」
「そう言う話しじゃなくて、そんな三日くらいで大袈裟だな……って」
「何言ってんの?! もし赤ちゃんできてたら、そんな悠長なこと言ってられないんだよ」
「雅子ちゃん、ちょっと落ち着いて」
海江田が間に入る。噛みつかんばかりの勢いの雅子を座らせ、中西との間に距離をとらせた。
「あのさ、妊娠検査薬とかあるじゃん。あれ、試したの? 」
「そんな! 恥ずかしくてあんなの買えないよ」
美佐江は顔を覆って首を横に振りながら言う。中学生女子にしたら、確かに妊娠検査薬を薬局で購入するのはかなりハードルが高いことだろう。
「わかった。僕、買ってくる。とりあえず、できたかできてないかわからないで話す話しじゃないよ」
松枝が検査薬の話しをした自分が買ってくると、ポケットに財布だけ突っ込んで部屋を出ようとする。
「僕も行く! 」
中西がいたたまれなかったのか、松枝の後を追って部屋を出た。一人女性陣の中に取り残された海江田は、居心地悪そうに部屋の中をうろうろした。
「でもさ、三日きてないってことは、生理がくるだろう四日前に……した訳だよね? 」
「やだ! そんな計算しないでよ」
「ごめん……。でもさ、それって重要じゃない? 排卵した卵子って、そんなに生きてるもの? 精子は一週間くらい生きてるって聞いたことあるけど」
「そう……ですね。確か保健体育で習ったのでは、卵子は一日、精子は三日くらいって聞きました。美佐江、あなた生理周期はどれくらい? 」
美佐江は、海江田を気にしながら恭子に目を向ける。
「だいたい、二十八日くらい。前後一日でだいたいいつもはくるのよ」
「なら、今は三十一日目ね。多分排卵日は半分くらいの十四日目だろうから、排卵して一週間くらいしてから……そのあれよ……してる計算になるわ」
「そんなこと言ったって、排卵日が本当にそのあたりかなんてわかんないじゃない」
「いつも規則正しくくるんだろ? なら、排卵日だってそうなんじゃないの? 」
「でも!! 」
「雅子ちゃんは美佐江ちゃんが妊娠しててほしいの? 」
海江田に言われて、雅子は一瞬息を飲む。言い返そうとして、大きく息を吐いた。
「そんな訳ないでしょ。最悪を考えておかないと、いざって時に対応できないからよ。みんなで泣いてたってどうにもならないから」
「そうだね。でもさ、こればっかりは言い合っててもしょうがないし、たいっちゃん達を待とうよ」
中西と松枝はすぐに戻ってきた。
「買ってきたの? 」
「ああ、これ。二回分のやつにした。なんかさ、どれ見ても生理予定日の一週間後以降のしかなくて。今日使っても反応でないかもだから、一週間後にまた検査できるようにさ」
松枝はしっかり吟味して購入してきたらしく、中西は興奮気味にこいつすげえよ! と言っていた。
「じゃあ、やってくる」
美佐江は、妊娠検査薬を受けとると、説明書とともに一本取り出してトイレに向かう。恭子と雅子だけはトイレの前までついていった。
「とにかく、せっかく買ってきてくれたんだから、説明書しっかり読んで使うんだよ」
「うん……。雅子、読んで説明してよ。私、冷静に読めそうにない」
「私も無理よ。恭子……」
恭子は説明書を受けとると、しっかりと何度も読み返した。
「この蓋を外して、先に尿をかけるだけみたい。かけたらまた蓋をして、この真ん中の窓にラインが一本なら陰性、二本なら陽性、妊娠してるってことみたい」
「簡単なんだね」
「そうね、美佐江」
「すぐにオシッコ出そうにないよ」
「頑張れ! 」
「お茶持ってくる? 飲めば出るかもしれないわ」
恭子はお茶をとりにリビングに戻り、美佐江が飲んでいた紅茶を持って戻った。お茶を渡し、美佐江をトイレへ促す。
それから十分ほど待っただろうか。トイレを流す音がして、美佐江が情けない半ベソ半笑いの表情で出てきた。
「どうだった? 」
「ラインは? 」
「……やってない」
「どうして?! 」
未使用の検査薬を美佐江は握りしめていた。
「生理……きたみたい」
「まじで?! 」
「良かったわ、良かったじゃない」
二人して美佐江に抱きつき、美佐江も二人にしがみついた。
「どうだった? 」
待ちきれなかったのか、海江田がリビングから顔をだした。
「妊娠……してなかったって! 」
雅子が皆に聞こえるようにしてなかったの部分を大きな声で言った。
「本当に?! 」
中西と松枝もリビングから出てきた。中西などは激しい緊張から解き放たれたせいか、満面の笑顔を浮かべている。
リビングに戻ると、美佐江が深く頭を下げた。
「お騒がせしました! 今さっき生理がきたから、妊娠はしてないです」
「いや、良かったよ。なあ、進」
「ああ、本当に! ほら、やっぱり大丈夫だって言ったろ? 」
松枝は中西の頭をひっぱたく。
「無責任なこと言うな。おまえも皆に頭を下げとけ。これからは、彼女に心配させるような行動は慎めよ」
「ああ、うん……。皆、迷惑かけてごめん」
松枝に言われて中西も頭を下げる。何気に三人の中で一番男らしいのは松枝だったのかもしれない。
「あ! 」
いきなり大声を出した美佐江に、皆の視線が集中する。
「どうした? 」
「妊娠騒ぎで、クリスマスをすっかり忘れてた! 」
「ああ、そうだな。そう言われると」
わざとらしく同意したが、海江田は決して忘れていた訳ではなかった。クリスマスプレゼントも用意していたし、クリスマスに会えないか恭子に連絡を取っていたが、恭子は美佐江のことでクリスマスどころではなかったのだ。
中西はお気楽に家族でスキーに行っていたし、松枝と雅子はクリスマスを一緒に過ごすような関係ではなかった為、家族とクリスマスを過ごしていた。
「初彼と初めてのクリスマスだったのに! 」
「あんたね、それどころじゃなかったでしょ」
「進は東京にすらいなかったしな」
「そうよ! 初めてのクリスマスだっていうのに、なんで家族旅行に行っちゃうのよ?! 」
美佐江は、すっかり妊娠で悩んでいたことなど忘れて中西に詰め寄る。
「いや、だって、毎年恒例の行事だし……」
「あれ、進君て家族仲悪かったんじゃないの? 」
雅子が、話しが違うじゃんと首を傾げる。
「悪くないよ。何で? 」
「だって、ほら、独り暮らししてるしそうなのかなって……」
寂しそうに見えて……というのは一体どこへ? と恭子と雅子は美佐江を見る。
どうやら、勝手に美佐江が勘違いして盛り上がり、初Hに至ってしまったらしい。
「じゃあさ、せっかく集まったし、ちょっと遅くなったけどクリスマス会でもする? 」
海江田は、今日会えるのなら渡そうと思ってポケットに忍ばせてきたクリスマスプレゼントに触れながら、クリスマスネタに便乗する。
「もう年末のが近いぞ」
「じゃあ、忘年会か? 」
「いや、ここはやっぱり美佐江ちゃんの為にもクリスマス会だって」
忘年会じゃ、プレゼントを渡す口実にならない。
「まあ、クリスマス会だろうが忘年会だろうが、どっちでもいいんじゃない? じゃあさ、お菓子とか買い出しに行こうよ」
雅子が美佐江と恭子の腕に手をからませて引っ張った。
「クリスマス会なら、やっぱりケーキっしょ」
「たいっちゃん、何気に甘党だもんね」
ぞろぞろと家を出ていき、近所のスーパーへ向かう。
これから数年間、この時期外れのクリスマス会が恒例となり、毎年徐々にグレードアップしていくことになる。
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