第222話 番外編 恭子先生のお泊まり会 パート2

「エエッ?!!! 」


 美佐江は雅子の口を塞いだ。


「シーッ! 聞こえちゃうでしょ」


 雅子の家お泊まり二日目だ。夕方まで進の家で勉強会をしていた恭子達は、雅子の家に帰ってきて夕飯をご馳走になり、パジャマパーティー二日目の夜を迎えた。


「C?! 」

「シーッ! 」

「だから、本当にCしたの? 」

「だから、シーッてば! 」


 美佐江は真っ赤になって布団をかぶってしまう。

 二人っきりで勉強した時、キスくらいはしたんでしょと雅子がからかい半分聞いたところ、美佐江は最後までしてしまったと白状したのだ。


 あのガタガタいっていた音はそうだったのかと、恭子は生々しい物を感じる。


「ちょっと、寝てる場合じゃないでしょ! 何だってそんな流れになったのよ」


 雅子と美佐江的には、海江田(ひいては恭子)を応援する為に今日の勉強会にのったのであって、美佐江に至っては初キスくらいはありかも……くらいに考えていたのが。


「……なんとなく」

「「なんとなく?! 」」


 雅子と恭子の声がハモり、呆れ顔の雅子もが美佐江の布団をひっぺがす。


「そりゃ付き合ってるんだからいつかはそういうこともアリなんだろうけど、ちょっと早くない?!」

「何よ、雅子もできるって言ってたじゃない」

「そりゃ、将来の話しよ。うちらまだ中学生だし」

「来年は高校生よ」

「でも! まだ付き合ってちょっとじゃない。昨日までは手を繋いだくらいなのに、いきなりヤっちゃう? 」

「雅子、声が大きいし直接的過ぎる! 」

「……で、どうだったのよ? 」

「どうって……」


 結局、早いだ何だ言っても、雅子も興味はあるのだ。


「すぐにできた? 」

「ちょっと時間かかった……かな」

「痛かった? 血は出た? 」

「す➰ごく痛かった。もう、股が裂けると思った。あんなだってわかってたら、絶対しなかったよ」


 恭子は口を手で覆い、そんなに……とつぶやく。

 恭子の中ではよりSEXに対する恐怖が植え付けられた。


「あれは無理。もう二度と嫌! 」


 雅子も恭子も、半泣きの美佐江を何とも言えない表情で見つめた。恭子は二度としたくないという美佐江に同意し、雅子はそこまでじゃないでしょうと疑っていた。


「もう、美佐江は流されやすいからな。どうせ、雰囲気だされてあんまり考えなかったんでしょ」

「そうだけどさ……。だって、独り暮らしとかって、ご両親とうまくいってないからなのかなとか思ったら、なんか寂しそうに見えて……。進君は何も言わなかったけど、親御さんの愛情も薄い感じがしたし……」


 ポロポロと涙を溢す美佐江の肩を抱いて、雅子はよしよしと頭を撫でる。


「まあ、美佐江がいいなら別にいいんだけどさ。でも、初めてはもっと大切にした方がいいんじゃないかって思っただけ。ちゃんと進君のこと好きなんでしょ? 」


 美佐江はコクリとうなづく。


「……美佐江……あの、こんなことあれなんだけど……」


 恭子が言いにくそうに言い淀む。


「どうしたの? 」

「ちゃんと……避妊……してもらえたか気になって」


 恭子は赤くなり、モジモジしながら何とか言いきる。


「恭子、なんか、生々しいよ」

「だって、絶対に必要なことよ」


 あの雑誌を読んでいなかったら、こんなこと気にならなかったかもしれない。でも、いろんな特集を読んでいたら、避妊に失敗して……なんて恐ろしい投稿まであって、恭子はそれを心配していた。


「痛すぎて、それどころじゃなくて。コンドーム……つけてたかな? でも、最後は中ではしなかったよ」

「それじゃダメよ! 最初からコンドームはきちんとつけないといけないんですって。先走り汁っていうの? その中にも精子がいるらしいわ」

「恭子、エロ……。ってか、その知識はどこから? 」


 恭子は鞄からエ○ティーンを取り出す。


「これで勉強したの」

「勉強って……。ああ、前にお姉ちゃんの部屋から持ってきた雑誌じゃん」

「これに書いてあったの」


 三人で頭を寄せて一冊の雑誌を読む。


「嘘……。多分、つけてないわ」


 美佐江が真っ青になる。

 自分の経験と照らし合わせる部分があったのかもしれない。


「私……どうしよう? 」

「病院……病院に行く? 」

「嫌よ! ママにばれちゃう 」

「そうよ。第一、うちら保険証持ってない。親が持ってるでしょ?そうすると、自費になっちゃうから、いくらかかるか……。お小遣いじゃ足りないよ」

「私、貯金がいくらかあるわ。親に言わなくてもおろせる」

「おろす……」


 美佐江の顔が蒼白になる。


「美佐江、お金よ! お金をおろすの。まだ子供ができてるかわからないんだから」

「でも、もしできてたら? やだ、怖い! 」


 この時代、知識を得る手段が限られていたせいか、他に調べる手段もなく、雑誌の投稿記事から美佐江の状態を推測して、三人が三人とも悪い方向へ思い込んでしまう。


「とにかく……、美佐江の次の生理はいつ? 」

「くれば多分三~四日後くらい。私、遅れたことないから」


 この時、面白おかしく脚色してある雑誌ではなく、保健体育の教科書を開けば良かったのかもしれない。不安は残るかもしれないが、受精可能な排卵日は過ぎていることに気がついた筈だ。


「大丈夫、私達は美佐江の味方だからね! 」

「そうよ、美佐江がどんな状況になっても、どんなことでも協力するから。一人で悩んじゃダメよ!」


 三人は抱き合って涙を流し、美佐江の恐怖を共有した。

 中学生らしい思い込みというか、大人になった時に思い返すとバカだよなと思うんだろうが、この時はこれが精一杯で、三人共真剣だった。


 ★★★


「エエッ?!!! まじで? 」

「おう! 」


 進を囲むように座り、中心にいる進は何やら自慢気に表情が明るい。恭子達ではないが、海江田達も久しぶりに中西の家にみんなで泊まることにしていた。


「おまえ、みんないるのに何やってんだよ……」


 海江田は呆れ顔だが、太一は興味津々といったところだ。


「何? たいっちゃんも興味あんの? おまえ、女よりゲームってノリじゃねぇの? 」

「いや、別に、興味ない奴はいないだろ。ってか、この間手握れたとか喜んでなかった? 」


 進は得意気な顔を崩さず手を振る。


「やだなぁ、いつの話しだよ。そんな前のこと覚えてねぇよ」

「おまえね……。でもさ、おまえまだキス止まりじゃなかった? 前の彼女とかと」

「そうだけど」

「脱童貞かよ?! 」

「まあね」

「うわあ、一番のりは信也だと思ってたけどな」

「僕はまだまだ先かな」


 普通ならすぐにでもできそうな流れはある筈が、相手が恭子であるからできる気がしない。まずは恭子をふった家庭教師ではなく自分を好きになってもらわないことには……。

 あれだけイヤらしいキスをしておいて、それ以上はダメ! というのは、かなり拷問に近いのであるが、きっと恭子はそんなことには気がついていないだろう。


「恭子ちゃんとは……? 」

「キス止まりだな」

「そうか……、まぁ頑張れよ」

「ウワッ、進が上から目線! 」

「そりゃ経験済みですから」


 海江田と松枝に小突かれながら、進は一人ニヤケていた。

 まさか同じ時刻、美佐江は後悔の涙に明け暮れ、恭子達まで巻き込んで妊娠の恐怖に怯えていたなど、考えもしなかったことだろう。


「それにしても、よく避妊具があったな。まだ、そこまでするなんて予想してなかっただろ」

「ゴムなんてなかったよ。でも、ちゃんと最後は外に出したし、大丈夫だろ」


 海江田は唖然として進を見つめる。海江田が、なぜそこを気にするか? それはさっき恭子のあの雑誌を読んでいたからである。


「おまえ、それヤバくない? 」

「大丈夫、大丈夫! そんなに簡単に子供なんかできないよ」


 進はかなり呑気に構えていた。

 今回は、進はセーフですんだのだが、この初めての経験が後々まで進に意味のない自信(中出ししなきゃOK)を与えてしまい、痛い目に合うことになるのだが……まあ、それは数年後の話しである。






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