第219話 番外編 恭子先生のお泊まり会
「ところで美佐江は進君とどこまでいったの? 」
赤いパジャマを着た雅子が、興味津々美佐江を突っつく。
今日は久しぶりのお泊まり会で、三人色違いのパジャマを持って雅子の家に集合していた。
「どこって……映画館とか図書館とか、公園が一番多いけど」
恭子は素直にそういう場所でデートをするをんだと思って聞いていたが、雅子はクスクス笑ってちょっと強めに美佐江をどつく。
「バッカねえ、そんなこと聞いてないでしょ。カップルにどこまでって聞いたら、ずばりABCじゃない」
最近、ちょっとエッチなティーンズ誌を購読した恭子は、ABCと聞いてすぐに雅子が聞きたいことを理解した。
美佐江も最初はキョトンとしていたものの、すぐに意味を理解したのか真っ赤になって枕を抱き抱えた。
「いやあね! まだうちらは付き合ったばっかだし。その……、手を繋いだくらいで……」
美佐江は語尾を小さくしながら、恥ずかしそうに枕に顔を埋める。
「そういう雅子はどうなのよ! 太一君とお付き合いすることになったの?! 」
美佐江が雅子に枕を投げつけると、雅子は器用に枕をキャッチした。
「うち? まさか! 何かねぇ、親友みたいな感じになっちゃって、ちょくちょく遊ぶんだけど、そういう雰囲気にはならないんだよね」
「雅子的には、太一君のことどう思ってるの? 」
「うーん……。どっちでもいいかなって感じ。彼氏彼女でも、友達でも。何か変わる気もしないし」
「変わるでしょ?! それこそAとかBとかCとか。ねえ、恭子」
「あぁ、うん……。でも友達だって手も繋ぐし、そこそこスキンシップ(キス)したりあるかもしれないし」
「はあ? 」
美佐江と雅子が恭子ににじり寄る。
「あのさ、あんたと信也君は友達? 恋人? 」
「友達よ。私が男の人に早く馴れるように、色々尽力してくれているの。凄くいい人ね」
「恭子には……恋愛感情はない?」
「やだ! 私には修平先生がいるじゃない」
雅子と美佐江が顔を見合わす。恭子と海江田が何をしているかまでは知らなかったが、海江田の気持ちは進や太一から聞いていた二人だったから、海江田が不憫に思われた。
「修平先生とやらとは、もう会ってないんだよね? 」
恭子はうなずいてシュンと項垂れる。あのキス未遂事件( 勘違い )から、一度として修平に会えていなかった。ただ、いつか会える日がくる! と、何故か変な自信だけはあったが。
「信也君のことは好きじゃないの? 」
「好きよ。師匠みたいなものね」
「「師匠?! 」」
美佐江と雅子の声がハモる。
「えぇ、手を繋いだり、ハグしたり、色々と恋愛のことを教えてくれて、いざって時に失敗しないように、練習してくれているから」
「色々って……それって、Aとかも? 」
恭子は自分も枕を抱いてうなずく。
「えっ? じゃあそれ以上は? 」
「やだ、いくらなんでもそれ以上はダメでしょ。あんなこと誰とだってできる筈ないわ」
キスのことを調べていたら、それよりもSEXについての記事の方が多かった。今では知識のみいっぱいになり、前よりさらにSEX恐怖症のようになってしまっていた。
第一、男性の股関を触るとか、あまつさえ口に含むとか、絶対に無理だし、胸を見られるくらいならギリギリ許容できるかもしれないが、パンティを下ろして足を開くなど、絶対に絶対に無理だった。そんなとこを触られたり舐められたりとかあり得なさ過ぎる。
「誰とだってって、いつかはするでしょ」
「美佐江や雅子はできるの? 」
「できるんじゃない? 」
「多分……」
「だって、最初は凄い痛いのよ?血だってでるんですって」
「みたいだね。でも、数回してたら気持ち良くなるって言うし。第一、いつかうちらだって子供生むんだろうし、それよりも男性のあそこが大きいこともないでしょ」
「やだ、雅子ったら」
雅子は、特に恐怖心はないのか平然とした顔で言う。
「私は無理だわ」
「じゃあ子供は? 結婚して子供作らないの? Cしないと子供だってできないんだよ」
「さっきから雅子声大きいよ。Cとか恥ずいじゃん。お母さん達に聞かれるよ」
美佐江が雅子の口を枕で塞ぐ。
「大丈夫だって。うちの親、そういう面ではフランクだし。じゃあ恭子は信也君とは友達だけどAまでしてて、誰ともCはしないってことね? 美佐江はAもまだと」
「そんなこと確認しないでよ」
美佐江が顔を赤くして抗議する。
「そういう雅子は友達としてどこまでしたのよ」
「だから、うちらは本当に友達。師匠と弟子の関係でもないから。手も繋いでないよ。あ、肩は組まれたか? いや、あれはちょっと押されたくらいだし、ノーカンかな」
「うわ、じゃあ恋人でもない恭子が一番進んでるんだ」
「美佐江、頑張らないとだね」
「何をよ?! ああ、でも、最近の進君、人のいない方いない方に行きたがるんだよね」
「ああ、じゃあもうすぐじゃん。初A」
恭子の話しからそれて、美佐江の初キスはどこで、どんなふうに? という話しで盛り上がりだし、キスの先輩である恭子にも、二人の質問が飛び交う。
年頃の中学生のガールズトークは、多少はしたないというか、興味心が先行してエロいネタ満載になりつつ、夜が更けていった。
★★★
「ところでさ、恭子と信也君のことどう思う? 」
「うーん、進君から聞く限り、信也君は恭子に本気みたいだよ。多分、軽い気持ちで手を出しているんじゃないみたい。ほら、信也君ってモテるじゃん」
「ああ、美佐江、最初信也君狙いだったもんね」
「そんな昔の話ししない! 」
「シッ! 恭子が起きちゃう」
美佐江と雅子は、布団をかぶってボソボソと会話をしていた。そこ横では、自分のことを話されているとも思わず、恭子が静かな寝息をたてている。
「でね、あんなにモテるけど、女の子と二人で会ったりとかはなかったんだって。数人でコンパみたいなのはしたことあるみたいなんだけど、カップルになったことはなかったって」
「へぇ、意外。遊んでそうだけどね」
「見た目に反して硬派なんだって言ってた」
「信也君が硬派なら、進君は? 」
「軟派じゃないとは思うけど、三人目の彼女って言ってた」
「あらら」
「うちらのことはいいの! 私、信也君のこと応援したいな」
「まあ、そうだね。恭子はニブチンだからな。信也君は物凄く可哀想なことになりそうだけど」
「それでも、次の勉強会の時とか、なるべく邪魔しないで二人共ににしてあげようよ」
「それはいいけどね。そういう意味なら、あんたらの邪魔もしないからさ」
「うちらはまだ……。もう、雅子の意地悪」
美佐江はゴソゴソと布団に潜ってしまい、気がついたらすでに爆睡状態だった。
「全くこの子は……」
昔から、気がついたら二人共寝落ちしており、いつも最後まで起きている雅子だった。
枕元のスタンドの電気を自分の方へ向け、最近お気に入りのティーンズ小説を読み始める。
小さい時から一緒にいる二人だったが、どうやら恋愛経験においては二人に置いていかれたらしい。明日の勉強会で、進は美佐江とある程度進みたいらしいと太一からは聞いていたし、さっき美佐江の初キスのシチュエーション話しで盛り上がっていたが、実際はその日は明日くるだろうということは知っていた。
恭子もすでに海江田と経験済みで、美佐江とは明日……。自分は彼氏もいないからいつになるかわからない。焦る訳ではないが、置いてきぼりをくらったようで寂しさを感じる。
だからって、恭子みたいに友達である太一と……とはならない雅子は、しごくまっとうな感覚の持ち主である。いや、それが普通で、恭子のようなのが変わっているのだろう。
読んでいるのだが、一向に頭に内容が入って少しこない小説を枕元に置くと、雅子はスタンドの明かりを消して布団に潜り込んだ。
明日は健全に太一と勉強しようと思いながら眠りについた。
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