第189話 盗聴器発見!

 緊張したショーも、なんとか転ぶことなく終わりを迎え、関係者オンリーのパーティーが始まっていた。

 麻衣子は地味目な濃い紫色の細身のパンツスーツを着て、フリルレースのシャツと慧の義姉の美玲から借りたゴールドの派手なアクセサリーで、甘辛にきめていた。狙った訳ではないのだが、ドレス系の女性が多い中、パンツスーツの麻衣子は逆に目立って、そのスタイルの良さを強調していた。


 忠太郎の横にいた愛理が、麻衣子を見つけるて忠太郎の袖をひいた。忠太郎は屈んで愛理に耳を寄せると、穏やかに頷いて愛理の背中を押す。

 途中、シャンパングラスをウェイターから二つ受け取った愛理が、小走りに麻衣子の元に来た。


 麻衣子が施した化粧はドレスに似合っており、予想以上に可憐な少女に仕上がっていた。


「麻衣子さん、今朝はありがとうございました」


 愛理の髪をセットし、化粧を施した麻衣子は、化粧直しの仕方も伝授していたから、夜になった今でも化粧が崩れることなく、朝の状態がキープされていた。


「どうです? 社長の反応は? 」

「凄く可愛いって褒めてもらいました」


 頬を赤らめて照れる愛理は、女の麻衣子が見ても守ってあげたくなる程可憐だ。


「それは良かったです」


 大学の友達も、仕事場の同僚もアクの強い人間が多いせいか、ごく普通の愛理に安心感のようなものを感じる。


「彼氏さんはやはりこなかったんですね」

「うん。今日は会社のレセプションパーティーって伝えてあるし、多分家にいるんじゃないかしら」

「確かに、家にいらっしゃったみたいですね。私が家を出た時、模様替えでもしていらしたのかしら? ドタバタ聞こえましたから」

「やだ、何してたのかしら? 」


 模様替えなどをするという話しは聞いていないし、第一慧がそんな面倒なことを一人でやるとも思えないが。


 その時、慧のいるマンションでは……。


 ★★★

 レセプションパーティーとやらで、夜まで麻衣子が帰ってこないと聞き、慧は家捜しを決行することにした。


「さてと、ベッドでも動かして、模様替えでもするかな! 」


 慧はわざと大きな声で言い、ガタガタ音をさせるということをアピールした。

 もちろん、寝室にいるのは慧だけで、麻衣子はすでにパーティーの準備とやらで出掛けてしまっている。盗聴器とやらがどんな物か見当がつかないが、テレビとかではコンセントとか、見覚えのない三個口のコンセントタップなどが怪しいらしい。

 家に電池を替えに入れないのだから、コンセントタップが怪しいとふんでいた。何より、コンセントを外すには工具が必要だろうし、そんなことを目の前でやっていたら、明らかに怪しいし、一緒に寝室の片付けをしていた凛花が気がつく筈だ。

 ならば差すだけのコンセントタップが怪しい。しかし、見覚えがある物かどうかと聞かれると、そんなもん記憶にあるか!! という訳で、念には念を入れて全ての部屋のタップを回収した。

 寝室だけは、家具の裏やベッドの下にコンセントがあるので、家具を動かさなくてならず、大きな音が鳴る可能性があるので、わざとらしい演技をしてみたのだ。


 洋服箪笥の裏にはコンセントのみで、タップはついていなかった。

 ベッド脇には二人のスマホを充電するのと、読書灯ブックライトのために三口のタップがついていた。ベッドをずらすと、足元の方にコンセントがあり、無意味なタップが一つついていた。


 しかも、口が一つ。何の意味があるのか……って、怪しすぎるだろ。


 ほぼこれで決定と思いながらも、慧にはこれが盗聴器かどうか判別する術がないので(分解してみても、どれが盗聴器なのかも分からないだろう)、とりあえずリビングに集めてみた。

 寝室にあった物も含めて、全てで五つ。多いのか少ないのかわからないが、そのうちに記憶にあるのは慧の勉強部屋にあった多口のタップの物だけ。それだけは自分で買ったし、引っ越した後だったから除外するとして、残り四つ。寝室意外のは違うだろうが……、とりあえず寝室にあった二つと、それ以外と盗聴器を確定しないといけない。


 慧はまず違うだろう二つをトイレに持ち込むと、その二つに顔を寄せた。


「麻衣子がいないし、暇だから大学の図書館にでも行くか! 」


 佳奈は運命だ何だとほざいていたが、かなりの高確率で出かける場所でかち合っていた。

 よくよく思い返すと、麻衣子との会話で出かける場所を話していたかもしれない。これを聞いていれば、図書館に佳奈が現れる筈だ。


 次に、寝室にあった三口タップの方には大学目の前の喫茶店、一口タップの方には大学の並びにあるゲオに行くことを同じようにして吹き込んだ。

 喫茶店にいれば、大学の入り口も、ゲオに入る人間もチェックできる。一番怪しいのは一口タップのやつだから、たぶん佳奈はゲオに現れる筈だ……とふんでいた。


 全部まとめて袋に突っ込んで勉強部屋に投げ入れると、慧は大学近くの喫茶店へ向かう。外からパッと見てもばれないように、黒のキャップを目深にかぶり、軽い変装のつもりでメガネをコンタクトにかえていた。


 喫茶店はそこそこ人は入っていたが、混んでいるということもなく、窓際の席をゲットできた。

 スマホゲームをして見逃す訳にもいかず、イライラしながら窓の外に目を向ける。

 ゲオと大学校門ばかり見ていたせいか、久しぶりにつけたコンタクトが目の中でゴロゴロして違和感が半端ない。


「さ・と・し」


 いきなり声をかけられて、慧は本当に驚いて椅子からずり落ちそうになった。


 本命はゲオの筈だったのに……。


 慧を見下ろすように佳奈が立っており、ギトギトに光ったグロスのたっぷりついた唇が、ニマーッと横に広がる。


「やっぱり私達って運命の相手なのよ。こんな偶然、そうないわよね」


 偶然な訳ねぇよな。ってか、あのわざとらしくついていた一つ口のタップは、トラップだったのかよ?!


 まさかの本命があんなに目立つ場所に付けられていようとは、佳奈の図太さが表れているようで、呆れるより感心してしまう。


「勝手に運命感じんな! っつうか、何で横に座るんだよ。そこはせめて対面だろうが」

「私達の間に距離なんかいらないんじゃないかしら」

「百メートル以上必要だよ」


 四人がけ席で真横に座られてしまったため、帰ろうにも帰れず、そうしている間にも佳奈の頼んだロイヤルミルクティーが運ばれてくる。

 横並びに座る慧と佳奈を見て、店員が呆れ顔でカップを置き、伝票を足していく。


 いや、こいつとは別会計だから、一緒にすんなよ! ってか、バカップルみたいな目で見るな! とんだ勘違いだかんな!


 慧は心の中で叫びつつ、苦々しげにコーヒーに口をつけた。この際、早く飲みきって帰るのが得策だろう。長居は無用だ。


 少し時間がたったとはいえ、まだ熱いコーヒーを無理やり喉に流し込み、伝票を持って立ち上がった。


「俺、帰るから」

「やだ、私のも払ってくれるの?なんか、デートみたい」

「うるせーよ! 伝票が一緒になってんだからしょうがないだろ」

「うん、もう! せっかちさんなんだから。私が飲み終わるまで待ってよぉ」

「無理! 」

「まったくぅッ! しょうがないなあ」


 佳奈は湯気のたったミルクティーをいっきに飲み干すと、慧の腕をとって歩きだした。


 どんな喉してやがる?!


「今日は私がおごるね。次は慧におごってもらうから」

「次はねえよ! 」

「ウフフ、慧ってば照れて可愛い! 」


 店員の目には、本当にカップルに見えているようで、こんなとこでイチャイチャすんなよ的な視線が、慧のイライラを爆発的に増大させていた。


 慧が佳奈の腕を振り切って店から出ると、会計をすませた佳奈が走って追いかけてきた。慧も思わず走りだし、大学構内を爆走する羽目になる。


 あの女!

 マジ怖すぎ!!


 佳奈と慧の追いかけっこはしばらく続き、慧はあの盗聴器を使ってうまいこと佳奈を遠ざけることができないか、ひたすら頭を悩ませた。


 この際、あれを証拠に警察につきだしてやろうか?!


 などと、穏やかでないことを考えつつ慧は爆走する。


「慧~! 待ってえ! お話しがあるのよ~! 」

「俺はない!!! 」


 この追いかけっこは、後々語り草になるほど白熱したものとなり、麻衣子との関係が周知の事実になるまで、痴話喧嘩扱いされることになった。大学が休みの土曜日だというのに、何気に大学に入り浸っているやつは多かったようだ。


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