4thシーズン

第一章

第159話 薬学部

 薬学部薬学科に入学した慧は、女子の多さに驚いた。

 中途入学は慧だけではなかったが、そのほとんどが女子で、全体の三分の二は女子だった。


「松田君……だよね? 」


 いかにも自分に自信があります! みたいな女子が、取り巻きのような女子を数人引き連れてやってきた。


「そうだけど、何? 」

「私、工藤凛花くどうりんか


 まあ、名前は知っていた。

 昔なら声をかけていたタイプだ。付き合えはしないが、気楽にHできるタイプの女。一目見ればわかる。


「で? 」


 この手の女は、チヤホヤされ慣れているから、逆にそっけなくすれば、勝手に近づいてくる。しかも色気を武器に、向こうから誘ってくるんだ。ヤッてしまえば、相手から付き合うつもりはないけど身体だけなら……とかなんとか言い出して、セフレ成立だ。


 もちろん、セフレを量産する気のさらさらない慧は、いつものように素っ気なく対応したにすぎない。しかし、相手が自分に興味を持っても困ると思い直し、わずかばかり雰囲気を軟化させた。


「わりい、で、何のよう? 」


 自分の美貌に気がついたから、慧が態度を変えたと思い込んだのか、凛花はまんざらでもない笑顔を浮かべる。


「松田君は、部活とか決めた? 」

「いや、入る気ないっていうか、三年からなんて今更だろ」

「そんなことないよ。確かに現役は四年までだけど、うちは普通の大学と違って、縦のつながりが大事なの。レポートやテストなんかもそうだけど、専門になると、学科に残ってる先輩が多い部活の方が断然有利。実習なんかも、顔見知りの先生がいるかいないで、全然違うんだから! 」

「そうなん? 」


 まだ授業も始まったばっかだし、あまり実感がわかない。


「うちのテニス部は、とにかく部員の多さナンバーワンだから。」


 なるほど、勧誘を理由に声をかけてきたわけだ。


「テニス部かあ」

「何? 運動苦手? いい筋肉ついてるのに」


 持久力のありそうなアスリート系の筋肉は、もちろんH筋である。


「まあ、普通」

「松田君って、一般出てるんだよね? 部活とかサークルとか入ってなかったの? 」


 会話をするのもうっとおしくなってきた慧は、ちゃっちゃと部活に入ることに決めた。TSCに入ったのも、他の部活の勧誘がうざかったからで、特に入りたかったわけではないが、結果、麻衣子と付き合うきっかけになったのだから、良かったと言えるかもしれない。


 慧は一瞬で凛花の身体をチェックする。


 出るとこが出たスレンダーな身体はそこそこ魅力的だが、今はそこではなく、力を入れた時の上腕二頭筋の膨らみや、引き締まって瞬発力のありそうな腓腹筋、見える範囲の筋肉の発達から、お遊びの部活ではなさそうだと判断する。

 文系のサークルと、理系の……とくに運動系の部活では、イメージが全く違うというのを、兄の彬から聞いていた。

 入るなら文化系、そう決めていた慧は、凛花の後ろにいた地味系の女子に目をやった。


「あんたもテニス部? 」


 黒髪眼鏡で化粧はしているがいまいち似合っていないこの子は、確か凛花の取り巻きの西条佳奈さいじょうかな。地味系から大変身を遂げた麻衣子と違って、例え化粧を変えてもあまり変化はなさそうだ。体型も中肉中背、デブではないが、全体的にだらしない贅肉がついていて、魅力的とは言い難かった。いかにも文化系の佳奈なら、暇で面倒くさくない文化系を知っていそうだと思い声をかけたのだ。


「私? 私ですか? 」


 凛花を差し置いて、まさか自分が声をかけられるとは思っていなかった佳奈は、真っ赤になってしまう。


「うん、あんた。文化系の部活? 」

「はい! 茶道部に所属しています」

「茶道……部かあ」


 正座してお茶というのも性に合わない。


「あの、うちの部活はそんなにきっちりやってませんし、年に一回の文化祭でのお茶会の時だけはみっちり練習しますが、それ以外は集まってお菓子食べたり、飲み会したりって、そんなにハードじゃないです。それに合宿もありませんし」


 凛花は、何勧誘してんのよ?! 的なきつい視線を佳奈に向けていたが、舞い上がってしまった佳奈は気がつかない。


「ふーん、じゃあ見学に行こうかな」

「ぜひぜひ! ちなみに、明日活動日です」

「えー、じゃあテニス部も見に来てよ。今日だから。ね? 」


 凛花は、慧の腕をとって上目遣いに「ね? 」と胸を押しつける。


「わーったから、離れろ」

「うふ、じゃあ放課後迎えにくるから」


 腕に残る凛花の胸の感触は、麻衣子のそれとは比べるまでもなく、無性に麻衣子に触れたくなる。


 今までは同じ大学で、同じサークル。麻衣子はバイト三昧だったとはいえ、一日のほとんどを一緒に過ごしてきた。午前休講とか、午後休講とかざらで、空いた時間はSEXしまくりだったわけで、文系の大学ってのは、楽々だったんだと痛感する。

 今は高校の時以上に朝から夕方までみっちり授業だし、空いた時間などない。しかも、実習のレポートやら毎時間の小テストなど、やることが山のように、覚えることも半端ない。


 すでに後悔しかない慧であったが、麻衣子との将来のために手に職を……などと言ってしまった手前、辞めるわけにもいかない。


 慧以上に大変なのは、新入社員になった麻衣子で、毎日慧よりも早く家を出て、帰りは終電近い。休日出勤もざらで、バイト三昧だった学生時代以上に忙しそうだった。


 つまり、以前よりも一緒にいる時間も減った上、SEXの回数も激減し、誰を見ても麻衣子と比べてしまう。麻衣子ロス状態……毎日一緒のベッドで寝ているのだが……で、浮気に走らないのは、以前の浮気で懲りたからであり、麻衣子と別れてもいい! と思える女がいないからだ。


 そんな訳で、回りは女ばかりという状況ではあるが、より麻衣子ロスを痛感するだけ……という、彼氏的には花丸で、慧らしくない慧に成長していた。

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