第126話 佑実家
「どうしようか? 」
「何が? 」
まさか、慧は本当に佑の家に泊まるつもりなんだろうか?
麻衣子の問いに、無頓着に答える慧は、全く何も考えていなさそうに見える。だいたいにして、朝の気分でついてきた時点で、計画性も何もない。
年末年始に他人の……行ったこともない家に泊まろうとする気が知れなかった。小さい時に行ったことのある麻衣子だって、挨拶くらいならともかく、泊まらせてくれというのは図々し過ぎると思う。
「だって、この人数で行ったら絶対迷惑だよ。杏里は彼女だからいいとして、うちらまで佑君ちに泊まるのはちょっと……。出費的には痛いけど、ラブホでも捜す? 」
「俺はどっちでもいいぜ」
「うちは大丈夫ですよ。それに、杏里ちゃん一人泊めるよりは、みんなに来てもらった方がハードル低いです」
「ハードルって? 」
慧と杏里は意味がわからないという顔つきだ。
「ああ、そうだよね。確かに人数いた方が紹介しやすいかも」
「ですよ」
「なによー! あたしだって、やるときゃやるよ! これでも演技は得意なんだから。親の前でくらい優等生のフリできるし」
「杏里ちゃんがどうのっていうんじゃないんだよ。やっぱり初めての彼女だしさ、親に紹介なんてしたことないから恥ずかしいっていうか……」
「初めて?! マジかよ? 」
大袈裟に驚いているが、自分も麻衣子が初カノだということを忘れている。
「とりあえず、いきなり行くのはあれだから、家に電話してみてくれる? 」
「ですね。じゃあ」
さっそく電話をかけ、友達を三人泊めていいか聞く。すぐさまOKの返事があり、佑は指でOKマークを作る。
佑の家は、麻衣子の家から歩いて十分ほどの場所にある。しかし、裏道を歩くと除雪がしっかり行われていないため、バス通りまで戻って、歩きやすい道を行った。
佑の家は、東京にしたら大きめ、この辺りの昔からある家にしたら普通の、ごくごく一般家庭の家だった。所々改築してあるのは、子供が大きくなった際に、一人部屋として増築したからだ。
「ただいまー! 」
玄関から佑が声をかけると、佑に似て小柄で可愛らしいまるで少女のような女性が出てきた。
麻衣子が覚えている、十年以上前の佑の母親そのもの……いや、逆に若くなっているような。
「母さん、またそんな格好して……」
佑の母親の
「だって、佑君がお友達連れてくるって言うから」
頬を膨らませる様子は、ザ・少女! だ。杏里と横に並んでも、友達で通りそうで、老化がでやすい手や首を見ても、十代そのものとなんら遜色ない。
「すげえな……」
確かに、凄いとしか言いようがない。どんなお手入れをすればこうなるのか……。
「母さん、まいちゃん。ほら、姉さんと小学生の時に仲良かった」
「ああ、まいちゃん! 面影あるわ。ずいぶんお姉さんらしくなって」
「で、その彼氏の松田先輩。うちのサークルの部長。で、こっちはまいちゃんの妹の杏里ちゃん」
「初めまして。佑君とはお付き合いさせていただいてます」
「まあ、まあ! こんな可愛い子が佑の? やだ、お父さんに連絡しなきゃ」
穂香は、キャーキャー騒ぎながら家の中に入って行く。
どうやら、本当に電話をしに行ったようだ。
見る限り反対はされてないみたいだし、とりあえずは合格 ? ということらしい。
佑に促されてリビングに行くと、穂香が杏里のことを報告しており、女子中学生か?! という盛り上がり方だ。
「父さん、年末なのに仕事なの?」
「うん。でもすぐ帰ってくるって。そうだ! お姉ちゃんにも連絡しなきゃ」
「母さん、その前にお茶とかないの? 」
「そうよね! そうだわ! 今温かい飲み物持ってくるからね」
麻衣子が杏里の腕をつつく。
声を出さずに、「手伝いなさい」と口パクで伝える。
ああ!と気がつくと、杏里は穂香の後についてキッチンに向かう。
「それにしても、おまえの母親何歳だよ? 」
「……四十三? 四? そのぐらいだと」
「なんか、十代でも通りそうなんだけど」
佑は恥ずかしそうに頭をかく。
「若作り過ぎるんだよな」
「羨ましいよ! 肌とかプルプルじゃん。昔から若々しかったけど、全然変わってない」
「それが困るんだよ。中学の時とか、同級生が母親にマジ惚れしちゃったり、高校の時なんかは、僕の彼女だと思われてて、女の子がかってに勘違いして、好きだけど彼女いるから諦めましたとか言って、なんか知らない間に僕フラれてるし……」
佑の女友達が多いのは、この辺りに原因があるようで、恋愛に発展する前に勝手に彼女持ちと判断されて、友達のポジションから浮上できなかったようだ。
口が軽いのも、軽く見られる原因だったかもしれないが。
「若くて可愛い母親なんて、自慢できていいじゃない? 」
「若くて可愛い母親より、可愛い彼女を自慢したいです」
「そりゃそうだ」
慧はゲラゲラ笑う。
小学生の時なんかは、若くて綺麗な母親が参観日にくると、みな自慢気だったものだ。麻衣子の母親が洒落っ気もなく、ノーメイクでくるものだから、特に羨ましかったのを覚えている。
まあ、その母親も忠直の前でだけはお洒落も化粧もしようと思うらしいのには驚いたが。
しばらく待つと、杏里と穂香は親友のように仲良く話しながら紅茶とクッキーを運んでやってきた。
「佑、いい子見つけたじゃない。まだ若いのにしっかりしてるし、なにより美人ちゃんだわ。ママ、可愛い子大好き! 」
「もう、いいからあっち行っててよ! 」
「ええ! ママ、杏里ちゃんと着せ替えごっこする約束したもん。ほら、お姉ちゃんはママと趣味違うし、ママの好きな格好してくれないから。あんたも、小学校に上がったら、スカートはいてくれなくなったし」
「当たり前だろ! ってか、杏里ちゃんで遊ぼうとするなよ」
「なんでよ? 喧嘩するより、仲良くなった方がいいでしょ」
「そりゃ……」
「あたし、ママさんと遊びたい!可愛いかっこも興味あるし。何より、ママさんのお肌のお手入れ方法も知りたいし」
「あら、杏里ちゃんはまだ若いから必要ないわよ」
「そんなことないし。これを維持するための努力は必要だし」
「それ、あたしも気になる」
麻衣子と杏里は、ねえ! と顔を合わせる。
「じゃあ、三人で遊びましょう。お化粧品とか、お手入れの仕方も教えてあげるし、可愛いお洋服もいっぱいあるのよ」
穂香は、杏里と麻衣子の手を引っ張って二階に上がってしまった。
「なんか、すみません……」
男二人っきりになった佑は、微妙に居心地が悪そうに頭を下げた。
「まあ、いいんじゃない? 彼女が家族に気に入られるのは。うちも、あそこまでじゃないけど女の子に夢持ってて、母親は麻衣子にベッタリだぜ。一緒に買い物したり、とにかく連れ回したいみたいで、今回だって麻衣子連れてこないなら帰ってこなくていいって言われたぐらいだかんな」
「そうなんですか? 」
「ああ。なんか、すっかり嫁扱いだし」
「うちは、母親があんなだからか、姉さんが真逆にいっちゃって……。女女してないから、まあそのうち帰ってくるだろうから、見ればわかりますけど。そうだ、姉さんの小学校の卒アル見ます?まいちゃんものってますよ」
大して興味はなかったが、男二人で何をすればいいのかもわからず、佑が持ってきた卒業アルバムや、小学校の時の麻衣子が写っているアルバムなどを見る。
結構一緒に写っている写真が多く、麻衣子と佑の姉のあかりが仲が良かったことが伺えた。
「うち、僕も姉も、中学からは中高一貫で寮のあるとこにいったから、小学校までしか一緒じゃなかったんですけどね、まいちゃんは姉の友達の中では一番優しかったなあ。よく手を引いてくれて。姉はすぐに僕ほったらかしでどっか行っちゃうから」
小さい時の麻衣子は、優等生のような身なりで、好きで着ているというより、着せられている感が漂っていた。
白いブラウスに、紺色のスカートかズボン。スカートも膝丈ちょい下のおばさん丈で、子供らしさはあまりなかった。
それに反して佑の姉のあかりは、常に短パンかジーパン、あの母親のチョイスとは思えないほどボーイッシュな格好をしており、髪もショートで、佑の方が女の子に見えたくらいだ。
「まあ、姉は今もこんな感じなんです。父さん似で、背が高くてヒョロッとしてるから、あまりスカートとか似合わないみたいで」
「誰にスカートが似合わないって? 」
いきなり声がし、振り向くとボーイッシュな女性が立っていた。
「姉さん! 」
「何よー、佑のくせに彼女連れて帰ってきたって? 」
あかりは、佑の頭をグリグリと撫で回しながら慧に目を向ける。
「あんた、いくら可愛くたって彼氏作るのは問題じゃない? 」
「違うって! この人は松田先輩でまいちゃんの彼氏。僕の彼女は杏里ちゃん。まいちゃんの妹だよ」
「何? 麻衣子も来てるの? 母さんってば、あんたが彼女連れてきたってしか言わなかったわよ」
「来てるよ。ってか、みんな今日はうち泊まるし」
「で、麻衣子は? 」
「二階。二人して母さんのオモチャになってるよ」
「ああ……。泊まるんだよね? じゃあ、後でいいか」
あかりはニカッと笑うと、慧に手を差し出した。
「姉のあかりです。麻衣子とは小学校からの付き合い。メールで慧君だっけ? の話しは聞いてる。よろしくね」
あかりと握手をすると、あまり女らしくないゴツゴツした手に驚く。
見た目も、よく言えばボーイッシュ、どちらかというと無頓着なタイプに思えた。髪はショートが少し伸びたような感じで、着古したトレーナーにジーパン。化粧っ気のない頬にはソバカスがういている。
佑の姉というからには、かなりの美人を想像していたが、中の下でもお世辞が入るくらいだ。
「麻衣子に彼氏かあ……。話しには聞いてたけど、なんか変な感じだわぁ。ほら、小六から会ってないからさ」
まあ、小学生の時の写真に比べると、身長が伸びただけのように見えるあかりを見ても麻衣子は驚かないだろうが、小六の麻衣子しか知らないなら、あかりは麻衣子を見たら驚くに違いない。
佑が麻衣子達を呼びに行くまで、あかりと佑の思い出話しを聞いて過ごした。
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