第96話 ナニしちゃいまし

 佑は、布団の中で大きく伸びをした。

 若干二日酔いなのか頭がズキズキするが、気分は悪くなっていなかった。


 布団?


 佑の部屋はベッドで布団ではなかったはず。畳の固い感触を薄い布団越しに感じながら、モゾモゾと布団から這い出た。

 見覚えのない部屋。

 なんだってこんな部屋にいるのかわからない。


「あ、起きたんだ? 」


 襖が開いて、奥の部屋から素っぴんの杏里がロングTシャツ姿で出てきた。


「あ……れ? 」

「昨日、佑君酔っぱらい過ぎて、うちに連れて帰ったんだよ」

「マジ?! ヤバい、ごめん。迷惑かけたね」


 年下の杏里に世話になり、佑はひたすら恐縮しまくった。


「別に……」


 杏里は、佑の前にくると、目の前にポスンと座った。膝がつくというより、膝の間に入ってくるくらい距離が近い。


「あの……? 」


 佑が、顔を赤くしてさりげなく後ろに下がる。杏里は、気にせず前に膝を寄せた。


「どうする? 」

「どうするって? 」

「とりあえずヤっとく? 」

「イヤイヤイヤ……」


 佑は布団を抱き寄せ、首を横にブンブン振る。

 女友達と疑似恋愛は楽しんでみたりするが、身体の関係はない佑にとって、とりあえずヤっとくの意味がわからなかった。


「杏里ちゃんは、僕のこと好きなわけじゃないよね? 」

「別に、好きも嫌いもないけど…… ? そういうつもりで、あたしに親切にしたんじゃないの?」

「なわけないじゃん?! 」

「そうなの? 何か、嘘くさ」


 杏里からしたら、無償の好意は逆に嘘臭くて信用できない。そんな胡散臭そうな表情を嗅ぎとった佑は、頭をかきながら恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。


「いや、まあ、下心がないわけじゃないよ。でも、そういうんじゃなくて……」

「なくて? 」

「僕、まいちゃんが初恋でさ。だから、いいとこ見せたいみたいな」

「彼氏いるじゃん? 」

「うん、そうだね。でもさ、絶対なんてないじゃん? いつか入り込めたらなって思うし、それまでは弟キャラでもいいかなって」

「ふーん、そんな一途なん? 」


 一途なのか? と聞かれると、何とも答えにくい。身体の関係はないにしろ、数人の女の子と疑似恋愛を楽しんでいたから。


「いや、そう……いうわけでも……。女の子はみんな可愛いかなあ? まいちゃんが一番だけど、みんな好きだし……。」

「ああ、なんかわかった。あんた忠直タイプだ。ってか、ホストにむいてる」


 それはなんとなく、自分もそうかなとは思っていた。女の子大好きだし、誰とでもその場は恋愛みたいな雰囲気を楽しめる。ただ、いざ付き合うとなると、やっぱり違くて、そこはどうしても麻衣子のことが諦められない。


「ならさ、あんまりフラフラしない方がいいんじゃない? 」

「えっ? 」

「忠直ってさ、本命は麻衣子お姉ちゃんのお母さんだったんだよ。でも、いろんな女とも恋愛もどきを楽しんじゃって、結局流されてあたしができちゃって……。本命いるなら、色んなとこに手を出してたら、後で後悔するんだから」


 確かに正論だった。

 でも、女の子達と親しくするのは習慣のようになっているし、大好きと言うのはすでに挨拶というか……。


 杏里は、困った顔をして布団の上にあぐらをかいた佑の肩をトンと押した。

 バランスを崩した佑は、コロンと後ろに倒れる。その上にマウントをとった杏里は、佑の胸に両手を置いた。


「佑君さ、お酒弱すぎ。佑君落とそうとしたら、ちょっと飲ましてラブホに連れ込んじゃえば、既成事実はすぐ作れそう」

「あの……ちょっと? 」


 それ、女の子が言うことだろうか? 女の子に言うことでは?


「ちょっと、そんなとこに乗ったらヤバいでしょ? 」

「なんで? お兄さんに乗った時は無反応だったよ」

「お兄さんって……慧先輩? いや、君達何してるの? 」

「あたしの誘惑にのるくらいじゃあ、お姉ちゃんを任せられないじゃん? だから、試練を与えてみたの」


 杏里の手が、佑の胸を撫で回す。


「こんなことしたわけ? 」

「もうちょい過激かな? でもムクリともしなかったけど……、佑君は修行が足りないかな? 」


 杏里は、わざと腰を動かして微かに反応している佑の下半身を刺激する。

 途端に、さらに素直に反応した。

 杏里は、満足そうに微笑む。これが正常な反応であり、慧が自分に欲情しなかったのが異常なんだと、自信を取り戻した。

 自信を取り戻した途端、調子にのってやりすぎてしまう。


「なんか、ヤバい……な。ちょっとその気になっちゃった」


 杏里はマウントをとったまま、洋服を脱ぎ出す。


「ちょっとちょっと? 」

「大丈夫、大丈夫。少しだけだから」

「少しだけって?! 」


この状態の少しだけって意味がわからなかったし、第一さたきからちょくちょく女の子が言うべきことじゃないことを聞いている気がする。


「ちょっとだけね」


とても十代とは思えない笑みを浮かべる杏里に、佑はどうしても腰が引けてしまう。


「な……何するつもりなのかな?」

「ナニするつもり。嫌なら逃げなよ」

「逃げるって……ウッ!」


 手慣れた様子の杏里に、なすすべもなくされるがままの佑だった。


 沢山の女の子と疑似恋愛をし、イチャついたり軽いキスくらいは挨拶代わりの佑だが、実際には恋人がいたことはない。つまりは……立派な童貞君であり、意図せず脱童貞を果たしてしまったわけだ。

 しかも、相手が初恋の相手であり、現在進行形で好きな相手の妹で……。


「大丈夫、大丈夫。お姉ちゃんには内緒にしとくから」


 佑の頭の中は真っ白になっており、予想以上の気持ち良さに、正常な分別はつかなくなっていた。

 ただ、自分の上で気持ち良さそうに動く杏里に目を奪われ、その表情や仕草が脳裏に焼き付く。


 綺麗だ……。




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