第80話 避妊は大事
「……」
どれくらい飲んだのか、珍しく顔中を赤くした慧が、ベッドに腰かけてブスッと黙り込んでいた。
慧が不機嫌そうなのも、黙っていることもいつも通りと言えばいつも通りなのだが、部屋で二人っきりなのに、麻衣子に触れてこようとしないことは、かなり珍しかった。
「もしかして、怒ってる? 」
やはり、いくら幼馴染とはいえ、夜中に男の子の部屋に上がったのがまずかったのだろうか?
「……別に」
麻衣子は慧の隣りに腰をかけた。
「……おまえさ、前にリーマンに襲われたことあったじゃん」
「うん」
「男に対して、危機感がなさすぎなんじゃね? 」
「そんなこと……」
ないとは言えないのかもしれない。
実際あの時は偶然慧が来てくれなかったら、サラリーマンにヤられていただろうし、佑だっていつまでも小学生のままではなく、中高の佑は知らないわけだから、もう少し考えないといけなかった。
「ごめんなさい」
麻衣子は素直に謝った。
慧がやっとモゾモゾと麻衣子の足を触りだす。
「触られたりしたか? 」
「まさか! 」
実際はキスされそうになっていたが、麻衣子の知らない話しである。
「本当に本当だな? 」
「ちょい、痛いよ」
何やらゴソゴソと麻衣子の身体をチェックする。
「確認してんの。ヤってはいないみたいだな」
「当たり前でしょ」
慧の常識ではあり得ないことだろうから、信用できないのだろう。
「慧君は、あたしがもし他の男子とヤったりしたらイヤだと思う?」
「そりゃ……、まあ……、普通に……ィャ……だろ」
やきもちをやいている自分が恥ずかしいのか、慧はゴニョゴニョと小さい声で言う。
麻衣子は、そんな慧の横顔をジッと眺め、その首もとに揺れるペンダントを見てクスリと笑った。
麻衣子が誕生日にあげたペンダント、慧にしては珍しく面倒くさがらずに毎日つけていた。
よりが戻った時、改めて慧に渡したのだが、慧はありがとうもなく受け取り、気がついたらいつでも首もとにあった。
麻衣子が返したペンダントも、いつの間にか(たぶん麻衣子が寝ている間につけたんだろう)麻衣子の首に戻っていた。
慧曰く、お互いに首輪をつけた状態なわけで、麻衣子の飼い主は慧だ。
「何笑ってんだよ」
ムッとした表情の慧に、麻衣子は自分から唇を寄せた。
「あたしも、慧君以外イヤだから。その、ほら、一応慧君が初めての彼氏っていうか、あんま経験値がないから、危なっかしいかもしれないけどさ。だから、イヤなことは言ってよね。できる限り気を付けるから」
「いや、まあ、別に、そんな気にしてねえけどよ! 」
やきもちやいて、あれヤダ、これヤダなんて言ってたら、束縛系彼氏みたいで痛過ぎる……と、慧はことさら何も気にしてないふりをした。
「ふーん、あたしは言うからね」
「言えば? 」
慧はベッドから立ち上がると、風呂場へ向かい、浴槽にお湯をはった。
「風呂、入るだろ? 」
「そうだね」
一緒に入ろうとかなく、当たり前のように二人で風呂に入り、お互いの身体を洗う。
さりげなく、慧は麻衣子の身体にキスマークなどついてないかチェックしていたようだが、いつもと変わっていない様子に慧は安堵しつつ、久しぶりに風呂場でHした。
「最近、生多くない? 」
「別に、かまわないだろ」
「あたしはかまう」
「何? 他の男にいきたいとか?」
「そうじゃなくて、堕ろすのとか絶対ヤだし」
「そりゃそうだろ」
「大学も辞めたくないよ」
「何で辞めるの? 」
「別に単位さえとれてれば卒業できるし、一年休学したっていいじゃん」
「ア……ウン……ッ!でも……、学費とか……余分に払わせられないし」
「いざとなれば、うちの母親だっているし、保育園ってのもあんだろ」
前にもそんな会話をした記憶はあるが、よりを戻したノリでなのかなと思っていた。
それに、結婚前に子供はイヤだと言ったはずだけど?
「子供はまだ早いよ? 」
「別に、俺だって今すぐ欲しいとかないし、別にできなきゃできないでかまわないし。だから中出しはしてないっつうの」
「もう少し積極的に避妊しようよ」
前から言おう言おうとは思っていたのだが、なんとなく始まってしまい、ついつい快楽に流されてなあなあになっていた。
「まあなあ、生は生で気持ちいいけど、中で出せないのが消化不良だよな。ゴムは気持ち良さは劣るけど、中に出せる……。やっぱ、結婚しとく? 中出し可ってことで」
「サイテーッ!」
結婚考える理由が最低過ぎる。
しかも、そんなプロポーズありえないし。
「あのさ、万が一子供できちゃったらよ、Hできない期間ってあると思うよ。しかも、子供生まれたら、好きなときにはできなくなるよ。子供に両親の性生活見せるのは虐待だからね」
「そうなの? 」
「そうなの! 」
慧はしばらく動かずに考えていたが、おもむろに麻衣子から離れた。
「続きは布団で」
シャワーでざっと流して風呂場から出ると、慧はいつも通り麻衣子の髪の毛にドライヤーをかける。
「慧君にドライヤーかけてもらうの好き」
「そう? おまえの髪渇かすようになってから、ブローができるようになったぞ」
「あたし? 他の子にはしてないの? 」
「そりゃそうだ。今まではやるだけだから、風呂になんか入らなかったし、髪洗わなきゃ、ドライヤーもかけないだろ」
そうか、みんなにやってたと思っていたけど、違うんだ……。
「じゃあ、一緒にお風呂入ったり、身体洗ってあげたりとかも?」
「……したことないな」
高校時代はラブホ代なんてなかったし、カラオケボックスや琢磨の家の小屋だったり、最悪青姦。風呂が存在しない。
唯一、清華の家だけは風呂はあったが、いつも清華は風呂は先に入ってて即Hだったし、終わったらすぐに帰っていたから、風呂に入った記憶はなかった。
「あたしとは、しょっぱなからお風呂にも入ったよね? 」
「だな」
ただのセフレとは、最初から違った……ってことだろうか?
違うかもしれないけど、そう思っておこう。
「ベッド行くぞ」
髪が渇いて、自然とベッドへ向かう。
長いキスの後、慧はゴソゴソとコンドームをつけた。
「つけるんだ」
「おまえがつけろって言ったろ」
「そうだけど……」
そんなにSEXがしたいわけね。
子供ができたらSEXができなくなるから、コンドームをつける気になったってことだ。
まだ子供とかは考えられなかったから、これが正解なんだけど、その理由がちょっと……。
まあ、なんにせよ、避妊は大事である。
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